<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


■真白の書■



 綺麗な奥様とお嬢様。
 お二人がそれぞれに言葉を書かれた後に、一度お世話になった事もあるオーマ・シュヴァルツ様がその大柄な身体からは想像出来ない程に丁寧にペンを握るとすらすらと鼻歌混じりに走らせて――ちらりと見えた言葉は最初にお嬢様が書かれてから時間が経っていた所為ですぐに滲んでしまいますけれど、でもあの、オーマ様?ご機嫌なのは解るんですけれど、私と同じように言葉を見た御家族がとても冷たい空気をまとっていらっしゃいますよ?
「いい度胸じゃあないかオーマ」
「…………オーマ……」
「い、いや待てその、なんだアレだな?ほら――ぅおっ!がふ!」
 私に手があれば力一杯拍手したくなる見事な連携で女性陣がオーマ様を仕留めてしまわれました。奥様の大鎌が優雅に閃いたかと思えばお嬢様が背後に回り込み連打を決めて!素晴らしい!
 そうそう、奥様がシェラ・シュヴァルツ様、お嬢様がサモン・シュヴァルツ様。どちらも鮮やかな赤い髪のお美しい方ですよ。でもそろそろオーマ様に攻撃するのはお止めにならないと、物語が、ほら。
 皆様がそれぞれに言葉を記されましたから、一番最初にペンを走らせたサモン様の言葉なんてもう元の文字も判らないくらいになっていますよ。
 じわじわと頁に広がる言葉達。
 溶け合い、薄い黒だったインクが様々に色を作り出し世界を塗れば、さあ。


 白い白い頁に小さなお話が一つ、紡がれます。


** *** *





 ミニマッチョダンディ。
 そんな言葉がぽんと浮かぶ小人の訪問にサモンは目を瞬いた。
 自室、の筈だ。
 間違いなく自分の家の自分の部屋に居る、筈だ。
 でもこんなもの、招き入れた覚えは無い。
「不躾な訪問御容赦下されレディ」
 微妙に警戒はするがサイズといいその穏やかな紳士然とした物腰といい、どう対処すべきか定めかねるサモンに気付いているのかいないのか。
 帽子をかぶっていれば片手で摘んでみてくれそうな仕草でお辞儀をひとつ、その小人はしてみせた。外見はミニマッチョだが行動は糊のきいたスーツ姿な服装と合わせて紳士である。
「……オーマ、の…知り合い…じゃないみたい…だね」
「オーマ?ご家族ですかな?」
 ミニマッチョダンディの言葉にこっくりと頷いて、サモンは外を見た。
 遠く疾走する大きめの影と独特のシルエットの得物を翳してそれを追う細身の影。
 飽きない二人だとごく微かに息を洩らすと静かに指先で窓の向こうを指してやる。今見たばかりの影が近付いて追いつかれて、という状況なのが覗けば見える事だろう。
「ほう。あれがオーマ。どちらが?」
「……男……」
「ふむ。失礼ながら女性の方は?」
「……シェラ」
「成程成程。ご家族ですか」
 複雑な色を刷いたサモンの顔。
 影程度の大きさの筈の二人を見極めたミニマッチョダンディは、彼女の表情には特に何も言わずに「ふむ」とまた頷くとピチピチと窮屈そうなシャツの襟を正した。
「まあ深くは伺いますまい。本日は我輩、お願いがありましてこうしてお邪魔致した次第」
「……お願い……?」
「そう。強い力を感じまして来たのがこちらという訳で。よろしければお話など聞いて頂ければ、と」
 ちら、と再び窓の外を見る。
 完全に警戒を解いたりはしないが、あまり悪い気配も感じられずサモンはミニマッチョダンディがつらつらと語るのに任せた。
 ただ、語るのはいいのだが相手は自分でいいのだろうか。
 そんな気持ちもあって窓の向こう――今や明らかに一方的乱闘となっているだろう揉み合う影を目で追ったサモンである。ミニマッチョダンディも同様に窓の向こうを再度覗き見ると「いやいや」と今度は首を左右に振ってからシャツの襟を整えた。
「無論、あちらのお二人が戻ってからで結構。時間はまだ……ありますからな」
「……そう、言うなら…それで」
「どうも――いや、まったく我輩とした事がお嬢さんのお名前を」
「サモン」
「おお。不思議な響きな気が、いやいや、まこと失礼。我輩こそ名乗らねば」
 ミニマッチョダンディは紳士風味に一人あれこれと喋っていたが、そこで姿勢を正すとびしりと胸を張った。誇示される胸筋がやはりオーマと同じ何かを感じさせる。
 微妙にひやりとしたサモンの眼差しを軽やかにスルーなミニマッチョダンディ。
 その正した姿勢のまま誇らしげにこう名乗った。

「我輩は、メタル。鋼の肉体の守護者です」

 マッチョでも小人が?
 サモンはそんな風には突っ込まず、静かに「…そう」とだけ返すと心の中でミニマッチョダンディ改めメタルをこう認識した。

『紳士然。しかしオーマと根元は同じ』

 窓から影は見えなくなっている。
 もうしばらくすれば、シェラがオーマを引き摺って帰ってくることだろう。


* * *


 愛妻は恐妻であり強妻だ。
 思わずメタルが「大丈夫ですかな」と挨拶よりも先に問いかけた程にオーマは満身創痍であった。シェラの仕置きはお馴染みであるのだがメタルがそれを知る筈もなく、サモンもそれは説明しないのであれば不思議ではない反応である。
 そんなメタル氏のサイズはともかく肉体の鍛え具合にオーマが目を輝かせ、ついで氏の訪問ルートを聞いて危うく問答無用でウォズでもないのに封印を試みかけたりもしたがシェラに更なる仕置きをされて沈黙。
 そんな一幕の後にメタルから『お願い』を聞いたシュヴァルツ家の三名。
 揃って向かったのはいずことも知れぬ、遺跡だった。



「てのは、解るんだがよ、なんだってこんな」
「……オーマ」
「いや俺のせいじゃねぇ!俺のせいじゃねぇってシェラ!」
「オーマ…覚悟はいいかい?」
「だから俺はなにも――ぉぅ!?がふ!」
 仕置き再開。
 というか、何か許せない気持ちの捌け口とされたようにも思えるシェラの見事な大鎌捌き。
 彼女がそれ程に周囲の空気を下げ続けながら夫に仕置きする理由は、荘厳な遺跡の地下にメタルの案内で下りてからずっと白々とした眼差しを浮かべるサモンが見上げる代物にある。ちなみにメタルは紆余曲折――主にオーマの「ラブマッチョ」だの「同盟に是非!」だの果てはどこから道が外れたのか「娘に近付かせるかぁあ!」という父親らしい台詞まで迸った遣り取り――を経てサモンが優美な六枚羽の銀龍たる銀次郎に預ける事となった。ちょこんと銀次郎の上に座っているミニマッチョダンディ・メタルだ。
「いやいや、見事な」
「……毎日、だから」
「さながらアレですな。我輩が元の姿だった頃に若者の間で流行っていた『下僕主夫狩り』なるもののような」
「………………」
 むしろそれじゃないのかと思わないでもなかったが、賢明にもサモンは感想を述べずに無言のまま夫婦のデンジャラスコミュニケーション続行の原因となっている代物を観察する。見上げる、と表現するようにそれは巨大だ。明らかに特定の体型を連想させるシルエットは高さもオーマの倍以上あるだろう。
「まったく、女にとっちゃ大事な思い出になるってぇ服をあんな風にさ」
「……だから俺じゃ、いや、スイマセン……」
「おお。下僕主夫狩りは終了ですかな」
「愛のお仕置きは終わったよ」
「ヘヴィな愛だぜ……」
 相手が動かないからサモンも動かず見上げている間に、夫婦は流血コミュニケーションを完了させたらしい。ひょっこりと左右上方から顔を覗かせる父母にメタルが声をかけていた。
「ともかくあれは許しがたいねぇ」
 サモンを抱き寄せながら瞳を細めるシェラ。
 その唇には楽しそうな笑みが刷かれているけれど、けした機嫌が良いのではないと眼差しの剣呑さから悟るのは容易い。無論、夫も娘も観察する必要は無い程に彼女の情動は理解出来た。
「いつかはサモンだって着るだろうに、こんな風にしてくれて」
 サモンだって、の辺りで当然ながらオーマの抗議が入りかけたがそれは大鎌で再度沈めて言葉を続ける。
 サモンには母の言葉はあまり理解出来る訳でもなかった。あのひらひらと多分可憐と言うのだろう白いドレスが何故自分に繋がるのか。
「ここはひとつ――教育といこうじゃないか」
 銀次郎を従えてサモンがとりとめなく考え、オーマが巨躯を引き攣らせながら床に懐いている間にがつんと強く石床をシェラが打つ。愛用の大鎌はその程度で小さな擦過跡すらもつける事は無い。鮮やかな紅の唇がゆるりと弧を描き、今度のそれは間違いなく愉悦を含んでいた。
 おそらくは戦う事への。
 そして目指す相手は。

 ウェディングドレス来た巨大マッチョ型人形。

「あんなもの昔は居なかったのですがねえ」
「……そう……」
 普通に目の毒な外観の巨大な人形へ母が軽々と身を躍らせる姿を眺めながら、サモンはただ一言だけで返答とした。昔から居たらとんでもないと少し思う。
「しかしお強い」
「だろう!なんたって俺の紅色番……いやいやラブハニーだからな!」
 銀次郎に乗って感心したように頷くメタルの隣にひょっこり顔を出すのは無論オーマだ。
 誇らしげにシェラの強さやカリスマカカアぶりを半ば恍惚と語り始める下僕主夫。
 すでに慣れたものでサモンと銀次郎は右から左へ耳を素通りさせる。放っておけばじきに終わるのだからスルーだスルー。うんうんとにこやかに聞くのはメタルばかり。
 そんな愛情垂れ流しの惚気話をする間にもシェラは景気良くドレスマッチョをあしらっていたのだが、ややあって声を荒げた。
「いい加減にしなオーマ!」
 その鞭のような鋭い声にオーマの背がぴしりと伸びる。
 続けて呼ぶ妻に駆け寄ると、直前までの蕩けた顔が別人のように表情を引き締めてオーマもまた目の前の巨大マッチョを見た。けれどその筋肉具合に反応もしない。
「――こいつぁ」
「妙な感じがしたからこうして遊んでやってるんだ。やるならとっととやりな」
「おう、すまねぇなシェラ!」
 簡単な会話だけでオーマが人形の相手になる。
 シェラが距離を取る僅かな間に――倒すだけであれば彼女も軽く片付けられただろうが――オーマがその力でもってマッチョな巨大人形を、封印した。
 長身の夫婦の姿、一時揺らぐオーマの姿をを見遣りつつメタルから洩れるのは感嘆の声。
「たいしたものですな……あれに心当たりが?」
「……多分…同じ、世界…にいたヤツ……」
 成程ともしや癖だろうかと思わせるメタルの頷きがまた披露されるのを横目で窺うサモン。
 記憶の中ではウォズと呼ばれるそれはこんな妙な物になる事は無かったが、まあこういう場所なら有りかもしれない。ソーンは時に奇妙なウォズを育むらしいとはオーマの言だが多分それだろう。
「となると我輩がああなったのも――」
「うお!なんだこりゃ!」
「サモン!」
 メタルの言葉にふと意識が向いた。
 その瞬間に一息に重ねるようにして幾つかの音と声と一つの喪失。
 シェラが娘を呼ぶ頃には、その娘の足元は不自然に消え失せて――銀次郎が加速して落ちるサモンを追う時にメタルが転がり落ち、追い縋るシェラが足を止めたのは背後の夫の更に向こうに見えた大量の巨大マッチョの所為で、それから、それから直後にオーマが「大丈夫だ」と声をかけるのに頷いて娘を追って下の階層に飛び降りる。
 いちどきに起きた事柄で妻子と離れたけれど、大丈夫。
 すぐにまた会えると太く笑ってオーマは日常でごく普通の団体として見たなら笑って勧誘しただろう集団に構えてみせた。巨大な、大柄なオーマよりもなお大きな銃を携えて。
「申し訳ない。我輩のせいですな」
「気にすんな。流石は腹黒ナウ筋人の遺跡だと感心するぐらいだ」
「あー……その見慣れぬ人形ですかな」
「おうよ」
 サイズに見合った重量の銃を軽く扱うオーマの耳にメタル以外の声。
 微かなその妻の声が聞こえる中で娘の名を拾い上げて、安堵の息をついた。
「ナイスなイロモノ進化だが、声も届きそうにねぇ――悪いが、封印させて貰うぜ」



 夫の戦闘を教える音が時折天井から漏れてくる。
 倒される事は無い筈だ。
 愛する男の強さを疑うつもりは微塵も無い。けれど無事を願わずにはいられない、と小さく彼の名を呟いたシェラの手はサモンの体中を軽く叩き回していた。小さな傷も見落とすまいと、銀次郎の助けもあり元来が優れた身体能力を持つ娘であっても母親の手は忙しなく動く。
「……よし、顔だけじゃなくて身体のどこにも傷は無いね」
「……大丈夫…だから…」
「確かめなきゃ安心出来やしないよ」
 ぽん、と最後に軽く抱擁してシェラは身を起こした。
 天井は高い。上るよりも、進んでいた方向から合流を図るべきだろうか。
 だが見上げた面はすぐに進行方向へ鋭く向けられる。サモンも銀次郎も同様にその進行方向だろう先に見える広い扉を見据えている。
「サモン」
「……うん…ウォズ、が……」
 言葉に応じたといわんばかりに扉が開いて雪崩れ込むのは上のアレと同じもの。
 微妙なデザインの違いはあれど身にまとう乙女の夢なドレスにこめかみを引き攣らせつつもシェラは大鎌を構える。サモンと銀次郎も同様に戦闘態勢を取ればやれやれとシェラの言葉が合図になった。
「オーマの趣味に合いそうなヤツらだねぇ」
 サモンのすべき事は母の援護を受けてウォズ達を封印していく事。
 ひゅうと小さくも鋭い息を吐いて少女もまた駆けた。
 見えるのは、先を行く母が頼もしく大鎌を振るう姿。



「古代の神殿、なあ」
 銀次郎がサモンを追う際に振り落とされたメタルを肩に乗せてオーマは進む。
 シェラが下から見上げていた筈の石床の穴は消えており、オーマが二人を追う事は不可能だった。
 実のところ、手段は幾らでもあったけれど折角の古代都市跡だと先で合流出来るならよしとしたのである。
「この辺りはまあ、回廊、といいますかな」
「いやぁ腹黒ナウ筋人の遺跡とは素晴らしいじゃねぇか」
「ナウ筋人かどうかは存じませんが、当時の者達は身体を鍛える事を重く見ておりましたからなあ」
「おう。マッチョは一日にして成らず、日々の鍛錬にこそ見事なラブボディがついてくるってもんだ」
 数が多く、それでいささか時間を食った。
 足早に進むが最初の巨大マッチョを引き金に集まったというところだった様子だ。以降は特に大挙して出る事も無く、探ってみても見つからなかった。
「ともかくそういった訳で、階層を幾つか通す形で神殿を作っておりました」
「聖獣の、とかか?」
 サモンの認識通り、なかなか波長の合っている二人は時にマッチョな話題に脱線しつつ和やかに通路を行く。
「いえ。そこには鋼の肉体を目指す者達の守護者が祀られておりましてな」
「――てぇこたぁ」
「メタルゴッド、と呼ばれたものです」
「そうか」
 懐かしむ色を乗せて笑うメタルにオーマも静かに微笑を返してしばらく行けば、石床を叩く靴音と言葉ばかりが響く中でようやく階段が見えた。下方から大切な家族の気配がする。
「シェラ!サモン!無事だったかぁ!」
 姿を認めるなり両腕を広げてアピールしつつ抱き着くオーマを抱き締め返し、そっと頬にキスしたシェラがまとめて抱き締められて苦しそうなサモンに笑う。父親の腹に一発入れて逃れるのを躊躇ったおかげで苦しいサモンを心配そうに銀次郎が覗き込んでいた。
「俺は心臓が止まるかと思ったぜ!もう俺様の大胸筋の下でピタリと――ぅごふ!」
「いい加減にしなオーマ」
「……離して…」
 ひとしきり束の間の離別の無事を喜んでから今度は仲良く進む。
 さほどの距離を置かずに見えた神殿の扉。
「我輩が、この向こうにおりますが」
「この感じからするとアレか。混ざっちまった、てところか」
「さて……我輩、長く過ごしておりましたから象った像が残っていたかも解りません。そのウォズそのものが我輩の形になったのか、仰る通りに混ざったのかも」
「あんたの『お願い』はこれだね?」
「ええ。我輩の形を取られては気分もよろしくありませんし」
「じゃあいわゆるワル筋ウォズの親玉をこらしめてやるか!」
「そうだね」
 両親が頷き合う。
 その間で小柄なサモンもこっくりと頷くのをそれぞれが見た。
 押し開ける、広がる向こう側、見えてくる厳しく逞しい男性の像。
「うむ。あれですな」
 それぞれの得物を携えてシュヴァルツ家の三名が広間に入る。
 特に巨大な訳でもない、けれど特に強い力を感じさせるその像が侵入者を認めて――


* * *


「ちなみにですな、あのドレスは」
「そうだね。あたしとしちゃあアレが一番許し難いねぇ」
「あー……あれはいつだったか賊が入った時にウォズでしたかな?あれに追い払われた際に」
「手に入れて着た……っていうのかい?」
「最初に来たのは我輩の形になっていたヤツのようですな。それから流行ったようでして」
 おかげで我輩助けを求める気になりました。
 しみじみと呟くミニマッチョダンディ・メタル。彼自身にウェディングドレスを着る趣味は無かった、と。
「お疲れ。助けになって良かったよ」
 ひょいとメタルを抱えあげて小さなマッチョの頭に優しく唇を寄せる。おや、とくすぐったそうに笑うメタルにシェラもまた笑い返した。
「ワル筋帝王もちゃんと封印した事だし、お前もこれで一安心だろ?」
「帝王ですか。そうですな。我輩これで気楽に過ごせます」
 ぺこりと頭を下げてみせたメタルがついで向かったのは無論サモンだ。
 銀次郎は還して彼女は一人、静かに出てきたばかりの遺跡を見ていたがメタルの小さな足音に視線を向けた。
「お嬢さんが我輩を信用して下さったおかげですな」
「……そんな、こと…ない…」
「いやいや。手土産にスウィーツなり持って正面からのご挨拶ならともかく――」
「……スウィーツ……?」
「おや、お好きでない?」
 年頃の少女なら、というお約束な認識でしたが。
 そんな風に言うメタルにどう答えるのがいいのか。
 習い始めたバレエ教室で知り合った少女達が気にする事といえば異性だとか体重だとか、お菓子の話題もあるけれど必ず体重の話も付随してきて、更にはダイエットにも言及して、最終的にはサモンの細く中性的かつ美しい線を描く体型を羨む話になるのである。それを思い出したのだけれど。
「んむ、まあともかくお陰でこうして我輩のんびり出来るようになった次第」
 やはり癖なのだろう。しきりと頷くメタルである。

 ――オーマ曰くのワル筋帝王なウォズを封印した後に地上に出ると、日は中天を過ぎてその勢いをいくらか弱めていた。
 思ったよりも時間は過ぎていなかったのか、と互いに言い合って崩れた遺跡に腰を下ろして語らっている。
 だが、それもずっと続ける訳にはいかない。
「なんだなアレだ。大事にしてやってくれ」
「ほう。美しい花ですな」
「ルベリアっていう、いい伝説のある花だよ」
「それは嬉しいですなぁ」
 マッチョであってもサイズは小人。
 メタルが掴むルベリアの花は彼を半ば以上隠してしまった。
「種も蒔いてみましょうかな」
「そりゃいいね。そうしておくれ」
 シェラがしゃがみこんでそう笑う間にオーマはせっせとルベリアの花を遺跡に広げるべく動き回っている。
 一緒には行かないというメタルが寂しくないように、と打ち合わせたでもないがそれぞれに思ったのだ。
 幾つかを手伝ってサモンも歩く。光を浴びるルベリアの花は眩しい。足を止めて見遣ったメタルが抱えるその花びらを見詰めて大きな目を少しだけ細めた。
 と、小さな、小さな音。
「……あ…」
 オーマも、シェラも、メタルもまだ気付かないその音。
 サモンだけが先に拾った音はどこからなのか。
 出所を見つけるよりも先に音は遺跡に溢れ返る。
「なんだ……?音楽か?」
「音楽というかこりゃあ歌、じゃないかい」
「花が歌っておりますかな」
「そりゃいいね」
 ざあと風が吹いてメタルの抱えたルベリアが揺れる。
 そこかしこにオーマが蒔いたばかりだったのにサモンの目に映るのは一面のルベリアの花。それが風に揺れて花びらを寄せ合い撫で合い歌う。まるで神に捧げる――聖歌のように。

 それはさほどの時間ではなかった。
 幻なのか、未来のこの場所だったのか、歌が途切れれば目に映る光景は崩れた遺跡だけ。
 けれどその鮮やかに歌う偏光色の花々はそこにいた誰の心にも強く沁み込んだ。





** *** *


 それは、真白の書が映した物語。
 望むものか、望まぬものか。
 有り得るものか、有り得たものか、あるいはけして有り得ぬものか。

 ――小さな世界が書の中にひとつ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2079/サモン・シュヴァルツ/女性/13歳(実年齢39歳)/ヴァンサーソサエティ所属ヴァンサー】
【2080/シェラ・シュヴァルツ/女性/29歳(実年齢439歳)/特務捜査官&地獄の番犬(オーマ談)】

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■         ライター通信          ■
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 ご家族揃ってのご参加ありがとうございます。ライター珠洲です。
 ……こ、こんなん出ましたけど、という感じですが如何なものでしょうか。
 スキンシップ激しそうだなぁと思いつつ単語見てました。言葉は大きく違っているものはそう無いと思われます。微妙に違っていたり、重要性が違ったりはしますけれども。
 書の設定から冒頭のみ個別でお話を進めさせて頂きました。お納め下さいませ。

・オーマ・シュヴァルツ様
 多分、読後奥様に力一杯仕置きされたんだろうなぁと思います。合掌。
 探せば書に出て来た遺跡やメタルも居るかもしれません。見かけたら挨拶してあげて下さいませ。