<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


例えばこんな物語 第二章


「遊びに来てくれたの!?」
 キング=オセロットは、部屋中に散らばった本達をゆっくりと見回して、コールに向けて顔を上げる。
「ストックしてある物語読んでみる? それとも…」
 コールは突然のお客の訪れに、いそいそとオセロットが座れる場所を作りながらそう問いかけ、綺麗になった椅子を1つ促しながら言葉を続ける。
「新しい物語とか、どうかな?」
 用意された椅子に対してオセロットは短く礼を述べて腰を下ろすと、
「ふむ……そうだな、ストックしてあるものも興味はあるが」
 オセロットは散らばる本を手にとって見るが、
「今回は新しい物語を聞かせていただこう」
 その本をそっと机の上に置くと、今だせかせかと自分の居場所を作っているコールに顔を向ける。
「確か、最初の物語で、革命が起こったのだったか。その後の女王と私の話を聞かせてくれるかな?」
「うん、いいよ」
 コールはこれだったかな? と、オセロットが出ている本を二つ手に取り、そして最後に空白の本を持って椅子に座る。
「私自身については、何も変わっていない。行いというものは、地位の上にあるものではないからな。地位が変わったとしても、なすべきことに変わりはない」
 真剣なオセロットの眼差しをコールはただ見据え、静に言葉に聞き入る。
「悪しきを排し、人々を守り、国を守る。そういう行いの上に、人が名付けたものが地位や役職だと、私は思っている」
 オセロットはそこまで口にして、はっと顔を上げる。
「……余談が長くなってしまったか。では、聞かせていただこうかな」
「オセロットちゃんが本当に、この国の騎士さんだったら、街の人は幸せだっただろうね」
 そう一言口にすると、コールは物語の続きは語り始めた。


【サクシフラガ計画】

「お帰りなさい! オセロット様」
 そう口にした街人に対してオセロットはきっと睨み付け、街人はあっと口を押さえると、しまった! と笑って「オセロットさん」といい直す。
 その瞬間、オセロットはふっと微笑むと、
「ただいま」
 と、軽く手を上げる。
「そんな事くらいで目くじらを立てる事ないじゃない」
「…ん?」
 なぜか洗濯物の籠を持ったままの女性が、オセロットに向けてクスクスと笑っている。
 その後からは、息せき切ったおばさんが女性の行動をオロオロと眺め、「お手伝いはいいですから!」と、叫んでいる。
「あなたも、街の人を困らせるような事をするな」
 オセロットは女性に向けて苦笑すると、女性はこれ見よがしにぷうっと頬を膨らませてオセロットをにらみ返す。
 そう、この女性こそ、オセロットが仕えていたアフェランドラ王国の元女王。
 王政から民政へと移行したこのアフェランドラの街で、今は議員を務めている女性だ。
「私だって洗濯くらいできるわ!」
 昔はやっていたんだもの! と、主張しているが、そのわりに籠から滴る水は何だろうと、オセロットはつい視線を移動させる。
「…………」
 オセロットの視線に気が付いた元女王は、ゆっくりと視線を下へと移動させる。
「あら?」
 足元に出来上がっている水たまりに首を傾げるが、大仰に溜め息一回ついたおばさんは、横からひょいっと元女王が持っていた籠を取って、
「がんばりは認めますけどね」
 と、去っていった姿に、オセロットは思わず小さく声を出して笑ってしまった。
「わ、笑う事ないじゃない!」
 あのまま女王として生きていたら、もしかしたら一生見る事が無かったかもしれない程に、彼女の表情はコロコロと変わり意気揚々として見えた。
「よく、笑うようになったな」
 ふっと息が抜けるような穏やかな微笑を浮かべて、オセロットは元女王を一度見ると、街の騎士団の詰め所へ向けて歩き出す。
「何言ってるの、自分だって良く笑うようになったのに」
 元女王は歩き出したオセロットに向けて軽く駆け出すと、肩を並べるようにしてスピードをあわせながら歩き出す。そして、
「王権時代に逃げた貴族が、何か企んでるみたいなのよね」
 と、小さく口にして、一瞬驚くように瞳を大きくして自分を見たオセロットに、にこっと笑ってウィンクを返す。
「まったく、あなたは……」
 どこでそんな情報を仕入れてくるのやら―――



 話を要約してまとめると、その逃げた貴族は隣の国の王に取り入りこの国を隣国の属国にさせ、リベートを払う事によって自分が統治者になろうとしている。らしい。
 特産品といえば、
「何かあったか?」
 つい、この国の出でありながら、この国にそこまで他国に売り込めるような強みも見出せずにオセロットは真剣に眉根を寄せる。
「この国の周りに生えまくってるコルクが売れるのよ」
 コルクはワインの栓に使われたり、ミツバチの巣や屋根材に使われたりと活躍は地味だが、縁の下の力持ちで活躍している自然素材。
 オセロットはこの言葉に、時々にでも文官達の仕事を見に行って置けばよかったと後悔しながら、それを牛耳って高い関税をかけてしまえば、ぼろ儲けできると言うわけか、と納得する。
「なるほど…しかし、一貴族の戯言で一国の王が軍を動かすとも思いにくいが、革命によって国の中が乱れているこの期に、と、考える事はできるな」
 元々根回しをしまくった上での革命だったのだから、その政権の移動は実にスマートなものだったのだが、逃げた貴族はそれを知らないだろう。
「隣の王様なんてどうでもいいけど、その逃げた貴族はどうにかしなくちゃ」
 元一国の主がそんな言葉言ってしまっていいのか…? と、ひくっと口元が引きつるが、彼女は一向にそんな事を気にする様子は微塵も無い。
「では、噂を立ててはどうだろう」
 国は今混乱真っ只中で、市民を導いた議長が居なくなれば、誰でも立ち代る事が出来ると。
 噂が広まったなら、あの貪欲な貴族の事、リベートを払う事無くこの国が手に入ると分かれば、議長に成り代わるため、のこのこ帰ってくるに違いない。
 オセロットと元女王はにっと笑いあうと、噂を流し罠を張り巡らせた。



 薄暗くなった夜道、議長は早足で自宅へと帰る道を走る。
 そこへ、黒装束をまとった何者かが議長の後をゆっくりと付け狙う。
 すっと構えたナイフは月明かりにさえも反射されず、ただ闇の色を映し出していた。
 黒装束は地面を蹴る。しかし―――
「………っ!」
 金属同士が打ち付けあう音が辺りに響き、黒装束の手から弾かれてたナイフが、振り返った議長の足元に刺さる。
「な…何だね、君たちは!?」
 議長のうろたえた声に、黒装束は舌打ちしナイフを弾き飛ばした人物に背を向けて走り出す。だが、
「捕まえろ!」
 の、声の元数人の男に簡単に取り押さえられてしまった。
「オ…オセロット様!?」
「すまない。議長」
 すっかり囮にされてしまった議長は、へなへなとその場に座り込み、「一言相談してください!」と、目くじらを立てる。
「奴が吐くとは思えないからな。皆捜索開始だ!」
「はい!」
 オセロットは縄で縛られた黒装束を見下ろして、騎士団の面々に命令を下す。
 その数時間後、なぜか顔を腫らしたあの貴族が騎士団に発見されるが、コレはまた別のお話し。
「後は彼女に任せるとしよう」
 捕まえるまでがオセロット達の仕事であり、この先の事を決めるのは議会の仕事。
 そう、あの貴族がこの先どうなるのかも、それはまた別の場所での、お話―――…


終わり。(※この話はフィクションです)






























「……これで3回目となるかな、あなたの話を聞かせてもらうのは」
 コールの前には、オセロットがアフェランドラの騎士として生きた本が3つ並んでいる。
「そのたびに思うのだ」
 オセロットはそこで一度言葉を止めると、こんな時どんな表情を浮かべれば良いのか迷い、少し眉を寄せるように微笑みながら、口を開く。
「私の話を私が聞くという、この感覚をどう表現していいものか」
「うーん、表現する必要はないと思うんだ」
 この“本”と言う媒体の中で、オセロットは確かに生きている。しかしそれは現実ではない、だから楽しいお遊びとして割り切って考えてしまってもいいのだけれど、
「この中はね、過去じゃないけれど、もしかしたら未来になるかもしれないね」
 幼馴染という存在をこれから作ることは困難だけれど、信頼できる親友ならばこの先できるかもしれないし、もう居るかもしれない。
 コールの何も考えていなさそうな言葉に対して、深く考えてしまっている自分に溜め息混じりに微笑むと、
「未だ物語りの中の私をどう受け止めればいいか、分かりかねているが……しかし」
 新しい物語が綴られた自分の本を手のとり、オセロットは軽くページをめくる。
「それでも、いつの間にか続きを楽しみに思う、私がいる」
 パタリと本を閉じて、顔を上げると、
「機会があれば、次も頼めるかな?」
 オセロットのこの言葉に、コールは「勿論!」と言葉を返して微笑んだ。







☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆


【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー


☆――――――――――ライター通信――――――――――☆


 例えばこんな物語 第二章にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。ちょっと物語りに尻切れ間が否めませんが、このまま行くと無血とは言いがたそうだったのでここで物語を止める事にしました。この先どうなったかはご想像にお任せという事でよろしくおねがいします。
 それではまた、オセロット様に出会える事を祈って……