<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


あったかスープめしあがれ☆

●訪問者たち【1】
「何だか親父な人ばっかりですにゃー」
 何気なく漏らしたマオのその言葉。直後、マオのこめかみ辺りに背後から大きなこぶしが当てられた。
「んー? 久々に顔合わせたと思えば、だいぶ口が悪くなってるなぁ、おい?」
 そして笑いながらこぶしをぐりぐりと動かすのは、身の丈2メートル以上あるマッチョな大男オーマ・シュヴァルツであった。
「にゃーっ! 痛いですにゃっ、痛いですのにゃーっ!! 口悪くなんかなってないですにゃーっ!!」
 じたばたじたばたじたばた。
 マオは暴れて逃れようとするが、オーマによってかっちりとこぶしで押さえられているのでそれも叶わず。もっとオーマにしてみれば、マオをからかってるだけなので本当に軽く力を入れただけなのだが。
「ああ……マオちゃんが……」
 カオルがそんな光景を見て右往左往、おろおろとしていた。けれど心配無用とばかりにもう1人の親父……もとい4本の腕を持つ多腕族の戦士・シグルマが言った。
「単にじゃれてるだけだろ。加減は十分してるようだしな」
 さすがは戦士、見る所を見ているようだ。とはいえ、カオルはまだ心配顔。そうは言われても……というやつだろう。
「きゃあっ!?」
 その時、ユウミの悲鳴が聞こえた。シグルマとカオルが振り向くと、草やら何やらにユウミがまとわりつかれている所であった。それはオーマが『俺のラブマッスルフレンズだ』などと言って、家から連れてきた人面草や霊魂といった魔物たちである。
 しかし何というか、その……ユウミへのまとわりつき方に下心が感じられるのは気のせいだろうか。気のせいでないとしたら、きっとこの魔物たちは強面系でなく色物系なのだろう……たぶん。
「ああっ……ユウミちゃんまで……」
 またまたおろおろとなるカオル。
「害意はないな、あれは。怪我する心配もないだろ」
 とシグルマは言うが、言ったそばから何かユウミのメイド服の中に入り込もうとしている奴が――。
「きゃああああっ!? やっ……くすぐった……ひゃぁっ!? ちょ……どこっ……!」
 必死に身をよじって何とか逃れようと試みるユウミ。その甲斐あってか、やがて抜け出すことに成功した。……だいぶメイド服がよれて、疲れの色も見えているが。
「……害意ないって……」
 カオルがじっとシグルマを見る。
「怪我はしてないぞ」
 そう答えるシグルマは微妙に視線を外していた。あれはシグルマの予想外だったのだろう。
「あぁ……悪い、少し調子のった奴が居たみたいだな。後でよく言っとくから、な?」
 オーマはくたびれたユウミの姿を見て、すまなさそうに言った。どんな世界にも、調子にのる輩は居るようだ。
「分かりました、けど……ここで待機ですからねっ!」
 ユウミは自分をいじくった人面草と霊魂軍団に対し、びしっと指差して命令したのだった。
「……だとさ」
 オーマが人面草と霊魂軍団にそうつぶやいてから苦笑した。
「にゃーっ! そろそろ放してくださいにゃーっ!!」
 おっといけない、マオはまだオーマにぐりぐりとされている所であった。ようやく解放されたのはこの直後のことだった。

●まずは準備から【2】
 結局お屋敷に現れたのはオーマとシグルマの2人のみ。さっそく台所に移動して、この5人で温かいスープを作ることとなったのだが――。
「寒い夜も燃え燃えマッチョで唸る大胸筋親父愛クッ筋グ祭り、ってかね?」
 オーマはほぼ一息でそう言い切ってから、見事なポージングを見せた。筋肉がいい具合に盛り上がる、というのはオーマにしてみればいつものこと。ここで注目なのは、その格好の方であった。
「……意外ですにゃー……」
 マオが口をぽかんと開けていた。オーマの格好はといえば、苺模様のふりふり桃色エプロンに三角巾といういわゆる主夫ルックであったからだ。
「ん、そうか?」
 マオのつぶやきをさらりとかわすオーマ。この様子ではオーマにとってはいつもの格好のようだ。
「それで、何を作るのですにゃー?」
「ソパカスティジャーナだ。旨いぜ?」
 マオの質問に、オーマがニヤリと笑みを浮かべ答える。自信あるメニューらしい。
「それは楽しみですのにゃー☆ お手伝いしますにゃー」
「お、そりゃ助かる。軍団は廊下で待機だからな」
 オーマが苦笑した。手伝い係の人手として連れてきた人面草と霊魂軍団だったが、外で待機させられていてはそれも出来ない。もっともこの人数だったら、人手は足りているといってもいいだろう。
「まず何をすればいいですにゃー?」
「そうだな、玉ねぎとにんにく刻んでくれ」
「了解ですにゃー☆」
 オーマに指示を与えられ、すぐさま動き始めるマオ。こちらがこの2人で動くのなら、自然と残り3人で動くこととなる。
「よっ……っと」
 ズシッと重そうな布袋をシグルマはテーブルの上に置いた。
「何でしょう、これは?」
 ユウミが尋ねるとシグルマは即座に答えた。
「ちょうど冒険中に入手した食材がある。それで作ろうぜ。全くいいタイミングだったな」
 シグルマは布袋の中から食材を取り出し、テーブルへ並べてゆく。目を引いたのは何かのあばら骨と、何かの肉の塊、それから何かの干物といった所だ。
「鳥……いいえ、この形状は違いますね。これは何の骨ですか?」
 またユウミが尋ねた。シグルマはこともなげに答える。
「バシリスクのあばら骨だ」
「バシ……?」
 カオルの動きが固まった。それはそうだ、バシリスクといえば一睨みで視線が合った者を石化してしまうと言われるモンスター。それがあばら骨とはいえ、ここにあるのだから。
「……となると、これもこれもモンスターですか?」
 ピンときたユウミが肉の塊と干物を指差して言った。大きく頷くシグルマ。
「よく分かったな。これがコカトリスの胸肉、向こうが干したスライムだ。これがまた、いい味が出る」
「……コカ……スラ……」
 カオルがじりじりとテーブルから離れようとする。ちなみにコカトリスは一見巨大な鶏にも思えるが、その尾が蛇のようになっているモンスター。そのくちばしで攻撃されると、やはり石化してしまうと言われている。
「カオルちゃん、大丈夫ですから。攻撃しませんから」
 ユウミがカオルに優しく声をかけた。
「で……でも……」
 けれどカオルは渋る。こうなっていてもモンスターというのは恐いらしい。
「じゃあこれは私が触りますから、カオルちゃんは普通の食材お願いしますね」
 そこまでユウミが言うと、ようやくカオルもこくんと頷いたのだった。

●じっくりことこと【3】
「いい香りがしますにゃー……」
 くんくんと鼻を鳴らして鍋に近付くマオ。ちょうどオーマが生ハムとバゲットをちぎって、狐色まで炒められた玉ねぎとにんにくの入っている鍋に投入している所であった。
「だろ?」
 得意顔のオーマ。手際も非常に慣れていてよかった。何度も作っている料理なのだろう。
「焦がすとダメなんだ、こういうのはな。よし、そろそろ水用意してくれ」
「はいですにゃー☆」
 水を持ってくるためパタパタと小走りになるマオ。オーマ曰く、パンに油が染みた所で水を入れて煮込むのだそうだ。
 一方シグルマたちは、一足先にぐつぐつと鍋で煮込んでいた。先程の材料を鍋に入る大きさにし、ハーブや野菜などと一緒に水から煮ているのだ。
「……本当は、火竜の爪を入れると身体が暖まるスープになるのだがな」
 シグルマが鍋を見つめてつぶやいた。けれども、火竜の爪など滅多に手に入る物ではない。そもそも料理に使われる前に、マジックアイテムなどの素材に使われてしまうことだろう。
「これだけでも、十分ぽかぽかになると思いますよ」
 ユウミがにこっと微笑んで言った。
「ただ、持続時間がまるで違う。が、無理言っても仕方ないな」
 シグルマは自分で言いながら頷いた。目の前では、カオルが鍋に張り付いてせっせとアク取りをしていた。
「アクがいっぱいです……」
「しっかりアク取ると、いいスープになるぞ」
 シグルマはそう言ってアク取りを続けるカオルを励ました。
 両方とも煮込むことしばらく――そして仕上げに取りかかる。
 オーマの方は塩こしょう、パプリカその他で味付け後、壊さぬように卵を落として、最後に彩りとして水菜を生のまま散らして完成。
 シグルマの方も鍋のスープを1回こした後、塩で味を整えて完成となった。
「すごく綺麗ですね……」
 カオルが完成したシグルマのスープを見てつぶやいた。使用した食材こそあれだったが、出来上がってみれば何とも澄んだスープがそこにあったのだ。
「さあ、片付けをしてからみんなで食べましょう」
 ユウミが皆に言った。最低限の片付けをしてから、心置きなく食べようという訳だ。使った道具などを片付け始める一同。
 その最中、マオがオーマに尋ねた。
「ちょっといいですかにゃー?」
「何だ」
「さっき途中でお鍋に何か入れてましたけど、あれは何ですのにゃー?」
 マオは途中、オーマが鍋にすっと何か入れたのを見逃さなかった。
「……いい物だ」
 オーマがニヤッと笑った。

●試食しましょう【4】
 台所を出て、食事をする部屋へ移動する一同。スープの入った鍋も焼いた石を利用して保温しながら、同じ部屋へ運び込んでいた。
「鍋が1つ多くないか?」
 シグルマが鍋が3つあることに気付いた。確か作っていたのは、シグルマとオーマの2つだけだったはず。
「あ……私たちも、予め作っていたんです……」
 カオルがそう説明した。つまり多い1つの鍋は、メイドさん3人娘が作った物なのだ。
「ワイン持ってきましたにゃー☆」
 マオとユウミがワイン樽を2人で抱えてやってきた。それに酒に目がないシグルマが喜んだのは言うまでもない。
 という訳で、スープを飲む前にまずワインを飲むことに。
「いいワインだ。さすが元騎士の屋敷……かね」
 一口飲んでから、ちらっとユウミを見るオーマ。ユウミはふふっと笑っただけだった。
「いいワインだが、味が若いな」
 シグルマも一口……で全部飲み干していたが、感想を口にした。カオルが驚いてシグルマを見た。
「あの……それ、今年出来たワインなんです……」
 何も説明してないのにシグルマが分かったから、カオルが驚いたのだ。
「ま、旨けりゃ若くとも問題ないんだがな」
 と言ったシグルマの前に、マオがジョッキを置いた。ワインがたっぷり注がれていた。
「こっちの方がいっぱい飲めますにゃー☆」
「……よく分かってるもんだ」
 大酒飲みのシグルマのこと、普通のワイングラスでは物足りないだろうとマオが気を利かせたのだ。
 それではいよいよスープの試食へ。最初はシグルマの持参した食材で作ったスープである。目立った味付けは塩くらいだったのだが……。
「美味しいですにゃー♪」
「臭みがないですね。上品なスープですよね」
「飲みやすいです……」
 マオ、ユウミ、カオルが各々感想を口にすると、オーマも一口飲んで言った。
「食材から十分いい味が出てるんだな。だから塩だけでもいい具合になる」
 今オーマが言った通りだろう。バシリクスのあばら骨やコカトリスの胸肉、干したスライムが煮込むといい味が出るとは思いもよらなかった。料理というのは挑戦の連続で発展するのだと、改めて思わされるスープであった。
 続いてオーマのスープ。にんにくのいい香りが辺りに漂う。さあ食べようとしたその時、オーマが一旦制止した。
「はい、ちょっと待った。実はこのスープはだ、食べる時に想いを注ぐとその色に輝くって代物だ。さて、皆何色に輝くかねぇ?」
「にゃ? いい物って、このことですかにゃー?」
 マオが尋ねると、オーマはそうだと答えた。実は途中でオーマが投入したのは、人の想い映し見て輝く希少なルベリアの花のエキスであったのだ。自らの出身である異世界に咲く花の――。
 そして各々スープを食べてみる。
「わ、虹色ですのにゃー☆」
「私は青ですね」
「緑……色?」
 口々につぶやくマオ、ユウミ、カオル。どんな想いを注いだか分からないが、それぞれ違った色が出ていた。らしいと言えばらしいかもしれない。
「そうか、俺は赤だが……」
 残る1人、シグルマに皆の視線が集まった。
「俺か?」
「何色でしたにゃー?」
 シグルマにマオが尋ねた。
「そうだな……」
 シグルマは少し思案してから、飲みかけのジョッキの中を見せた。
「今はこの色だったな」
 ニヤッと笑うシグルマ。ジョッキに入っているのはワイン、つまりワインレッド。これまたらしい色であった。
 それで肝心の味の方だが、先のシグルマのスープと同様に美味しい物であった。さすが主夫だけある。
 ちなみにスープの中に『アニキ型パン』が入ってたら当たりなどとオーマは言っていたが、入っていたのはカオルの皿の中であった。賞品は『腹黒同盟美筋マニア観光ツアーチケット』、オーマからチケットを受け取ったカオルは、どうしたらいいのか明らかに困惑していた……。

●色々な意味であったかスープ【5】
 さて残る1つ、メイドさん3人娘が作ったスープはコーンがたっぷり入ったコーンクリームスープであった。
 さっそく一口食べてみるオーマとシグルマ。
「子供が喜びそうな味だな」
「甘めに作ったのか?」
 味は悪くない。けれども、どちらかといえば子供向けのような気がしないでもない味だった。それは単にコーンが多かったからかもしれないが。
 するとメイドさん3人娘は顔を見合わせた。
「どうした?」
 シグルマが声をかけた。するとカオルが口を開いた。
「あ、あの……ご主人様がお好きなスープ……なんです……」
 何と、メイドさん3人娘が作ったコーンクリームスープはこのお屋敷の主人が好きな物だったのだ。
「……なるほど、な」
 何か納得した様子のオーマ。
「愛情がこもってるってことだな。こりゃ一番のあったかスープだ」
 そう言ってオーマは豪快に笑った。料理は心のあるなしで違ってくる。このスープには確かに3人分の心がこもっていた。
「じゃあ、どんどん食べてくださいにゃー☆」
 マオがオーマとシグルマの顔を交互に見た。と、シグルマがジョッキを掲げ言う。
「スープもいいが、俺はやっぱり酒だな。これもかなりぽかぽかするぜ」
 それを聞いたユウミがくすっと笑う。つられてカオルもマオも笑う。そしてまたオーマあも豪快に笑い――部屋が笑い声に包まれた。
 暖かい時間がそこにあった。

【あったかスープめしあがれ☆ おしまい】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名 / 性別 
             / 種族 / 年齢 / クラス 】
【 0812 / シグルマ / 男
             / 多腕族 / 29 / 戦士 】◇
【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男
 / 詳細不明(腹黒イロモノ内蔵中) / 39 / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り 】◇


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■         ライター通信          ■
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・『聖獣界ソーン・PCゲームノベル』へのご参加ありがとうございます。担当ライターの高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・参加者一覧についているマークは、○がMT13、◇がソーンの各PCであることを意味します。
・なお、この冒険の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。今回は参加者全員同一文章となっております。
・お待たせいたしました、ぽかぽかスープ完成までの模様をお届けいたします。少人数でしたが、美味しいスープが出来上がりました。この人数ですので食べ切れたかどうかは不明ですが、たぶん残ったら持って帰ったり、白山羊亭に持ち込んだりしたのでしょうね。
・オーマ・シュヴァルツさん、3度目のご参加ありがとうございます。にんにくは身体を暖めてくれるんですよね。ほんと美味しそうだったので、機会があれば高原もちょっと作ってみたくなりました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の冒険でお会いできることを願って。