<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


地下室の聖歌

「おうおう、ビバ親父アニキ浪漫聖筋界ソーンのカリスマ下僕主夫ゴッド親父が大胸筋参上乱舞★だってかね?」

教会の扉は力に従って勢いよく開かれた。風圧というより、その存在感に圧迫され、吹き飛びそうになるのを小さな身体で堪えつつ、来客した客人を見上げた。
長身も長身、ざっと2mを超えていると思われる男を、ロゼは唖然と見上げた。

ふと見ると、背後にはうごうごと何か動く気配が・・・。

「熱い視線ナンパ癖有ラブマッスルフレンズの人面草&霊魂軍団も引率だ!」

ロゼは何だか分からないまま力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


彼の名はオーマ・シュヴァルツ。
曰く、現在腹黒同盟勧誘の為に各地を回っているらしい。

「もっちろん、ロゼさんも同盟員になるよなぁ。」

決して脅迫ではない。
しかし、小学生の女の子にまで泣かされるロゼがオーマの説得に耐えられるはずもなく、細い尻尾をぴんと立ててガタガタしていた。
それから恐怖が一定に達すると、スイッチが入ったかのようにベラベラとしゃべりだす。
内容はもちろん、地下室の聖歌について。
話を逸らそう大作戦だ。


一通りの状況を知ったオーマは口に手をあて、うん、と少し考える。

「ビビリマッチョでは明日の聖筋界担うギラリマッチョ腹黒同盟員&下僕主夫になり番犬カカア天下ハニーに狩られナマ絞りライフを満喫出来ずだな。」

独り言のように呟くと、オーマはロゼのマントをむんずとつかんで、地下室の方へ進んでいく。

「よっしゃ、じゃあ俺等で事件を解決して明日の腹黒同盟を築こうじゃねぇか!」

ロゼ以外のものが皆沸き立ち、その中でロゼ一人顔を青くしていた。



◆◆◆◆



地下室は、上とは比べ物にならない程埃が積んでいた。もはやこれは雪と呼ぶに相応しい。
ざっと地下室全体を見渡すと、暗がりが何処までも続いているようで、果てがわからない。
とりあえず、壁にかかったランプに火を灯し、地下室へ数十年ぶりの光を与えた。

ある程度地下室を一望できるようになったが、やはり果てはわからない。
しかし、明らかに地下の方が地上よりも広いのは確かだ。あの小さな教会のどこにこんな地下があると想像できようか、埃の雪上の長い道のりを一行はゆったりと歩いていく。

靴を少しでも地面に擦り付けようものならば、一気に埃が舞い上がって目の先も見えなくなる。
オーマは脇にロゼを抱え、大股に進んでいく。

「あ、何か落ちてますよ。」

力を抜くと、顔面と地面までの距離がぐっと近づくロゼは、地面の事情を大分把握し始めていた。
ロゼの言うとおり、足元に錆びついた小さな部品らしきものが転がっていた。
何故この埃だらけの場所でそれが気になったのかしれないが、本人曰く大の綺麗好きらしいので、そういうちょっとした点が気に入らないという。仕方が無いので、オーマは軽くしゃがみ込み、その錆びた部品を拾って懐へしまった。
その時急な体制変動によって、ロゼが遂に地面と顔面を接触させた。
自業自得である。


そんなことをしながら直線に続く地下室を、しばらく歩いていくとふいに、鐘が鳴る音がした。
教会の鐘。
おそらく、深夜12時をまわったということなのだろう。



―――― 天使 唄え 眠る フェレット 我は 永久に 生きて・・・


細い、女性の声だ。突如聞こえ始めた聖歌。ロゼが言う通り、真夜中に始まった。
しかし、それは恐怖を与えるといっても脅威ではなく、どこか物悲しい心持がする声だ。

「ぎゃああ;ごめんなさい、すいません、勘弁してください!!」

ロゼが両手を合わせて念仏を唱える。
教会の神父が何故仏なのか気になるところだ。

「おうおう、しっかりしろよロゼさんよ。もっと奥から聞こえるみてぇだし、進んでいくぜ。」

オーマはロゼを脇に抱えなおして進んでいく。宙ぶらりん状態のロゼ25歳は、未だに念仏を唱える。聖歌と念仏のなんとも言えないハーモニーが、地下室を木霊した。

しかし、それも長くは続かない。
奥へ進めば進むほど、次第に聖歌が小さくなり、ついには消えてしまった。

「お・・・。」

辺りを見渡してみるが、聖歌は見つからない。

ただ、前方に不審な点が現れた。
まるで、聖歌の代わりといったように、地下室の中央へちょんと木箱が置かれていたのだ。

オーマが一旦ロゼをその場に落として、箱を開けてみる。
どうやらオルゴールのようだ。
ゼンマイを巻いてみたが、音は鳴らない。
中で歯車が壊れているのだろう。

「お、こりゃあソーンの紋様文字じゃねぇな。」

ぐるぐる回してみると、箱の表面にミミズが這ったような模様がつらつらと彫ってあるのを発見した。

「あ、それはフェレリアンの言語ですよ。掠れてる上薄暗いので、なんて書いてあるのかは上にいかないと読めないですけど・・・。」

落とされたことによって被った埃をぱたぱたと落としながら言った。
こんなミミズのような文字も、常日頃その文字の聖書を読んでいるロゼには、ソーンの文様より理解できるものなのだろう。



―――― 天使 唄え 眠る フェレット 我は 永久に 生きて・・・



再び聖歌が生まれた。
ロゼが文字通り尻尾を巻いて逃げようとするが、オーマの手がひょいと伸びてあっさりそれを止められる。
聖歌の音源は、どうやらこのオルゴールらしい。
ゼンマイを巻いても変化が無かったオルゴールが、今更回転し、音を刻む。
それもおかしな事に、ゼンマイの回転は普通のものとは逆の方向に回っている。
原理の法則に反したそれは、何の害をもたらすとも知れない。
オーマはオルゴールを手から離し、地面へ落とす。
埃の雪上に音をたてて落ちると、強い閃光を放って皆の視界を遮った。



次に瞳を開けた時には、何故か馴染んできたうす暗がりの地下室ではなく、サイリア教会の正面玄関に突っ立っていた。

「外にワープしたってことか?」

確かに、外の景色に可笑しな点は無く、時間帯にも適した月が空に浮かんでいた。
ただ、オーマは少し教会周辺の建造物事情と、教会自体の真新しさに不信感を覚えていた。

「ただ外に出たってわけじゃなさそうっすよぉー。」

ロゼも、どうやら同じように感じていたらしい。

「ほら、ドアの横にサイリア神様の銅像があるでしょう?あれは20年前盗賊に襲撃された時壊されたはずなんです。オーマさんが入って来た時も、なかったでしょう。」

記憶を手繰り寄せる。確かに。
そんな物はなかったはずだ。

何が何だかわからないままに、聖歌は無常にも流れ続ける。
教会の中からだ。

流石に覚悟を決め、オーマの後に続くロゼ。
何かに言って、オーマの服の端を掴んで、隠れる準備は怠らないのだけれども。


教会の中は、ステンドグラスの光が七色に光って神秘的な空間を醸し出していた。
そして、その光を一身に浴びる一人の女性。
彼女は、聖歌を歌っていた。そして、彼女の手にはあのオルゴールが。
教会と同じように、オルゴールも掠れは無く美しいものだった。

「おまえが地下室の聖歌の根源なのか?」

オーマが問いかける。
女性はふっと微笑んで、歌を止めた。

熱い視線ナンパ癖有な人面草&霊魂軍団は、それなりに美麗な彼女を放っておくはずもなく、アプローチにかかったが、彼女の身体は、それらをすいとすり抜けた。
よく見ると、彼女には色が無い。これは幻影なのだろう。

「壊れてしまったオルゴールに歌を吹き込めば、いつかは音の箱になるかと思ったのだけれど、やはりそうもいかないのね。」

女性は少し憂いを含んだ表情をして、手の平のオルゴールを眺めた。
どうやらこの女性はオルゴールに再び音を鳴らさせたくて聖歌を只管に歌っていたらしい。ここまでくれば感服ものである。

そうまでして直したいものならば、なんとかしてやりたいのだが、手段が無い。
オーマは頭を抱えるばかりだが、悩みついでに懐へ手を入れた時はっとした。

「ちょっとそれ貸してみな。」

オーマは女性へ向けて手を出し、オルゴールを受け取る。
それさえもすり抜けるのではと心配されたが、幸いキチンとオーマの手にオルゴールが渡った。

オーマが懐から取り出したるは、先程ロゼがごねたので拾った汚らしい部品。錆の部分を軽く削ってやると、その下に美しい銀の表面が現れた。

中身を展開して、部品をはめてみれば・・・ビンゴ!
あの部品はこのオルゴールの破損した一部だったのだ。
ゼンマイを回すと、今度こそ暖かなメロディを流し始めた。

「・・・このメロディは。」

ロゼがぼそりと漏らしたが、それよりも大きく女性が飛び上がって喜んだ。

「有難う、良かった。ロゼが幼稚園から帰る前に直って、本当に良かった・・・。」

女性はオルゴールをぐっと抱きしめ、柔らかな微笑を浮かべると、教会と共に白い光に包まれ、消えていった。


◆◆◆◆


気が付くと元の地下室に戻っていた。

当初のようにオルゴールが地下室の中央に置いてあり、その口を開けている。
今は、美しい音色を奏でながら。



「盗賊が襲来したという日、僕は幼稚園に行ってたんですよ。それが帰ったら地獄絵図ですよ。」

地上に戻るなり、お礼の珈琲をご馳走するといってオーマを客人用の上等な椅子に座らせ、ミルクを暖めながら何と無く零した一言。

「その前日母が誤って僕のオルゴールを落っことしまして、子供ながらキレちゃったわけですよ。あれ意外に高かったですし、母がモノを落として壊すのは僕の知る限り145回目でしたからね。」

珈琲が運ばれてくる。ブラックのまま一口、口につけた。
賞味期限切れらしいが、妻の料理に比べれば腹を壊さず極上なものだ。

「母はフェレリアンの中でもまれに見る天然だったんです。だからきっと殺された事にも気付かずに僕の帰りを待っていたんでしょうね。僕がすでにそんなオルゴールの存在を忘れているとも知らないで、哀れな人です。」

ロゼも珈琲に口をつける。ずっと吸い込む音がした。
オーマは何を言うわけでもなく、持ち帰ったオルゴールを再び手に取った。

「おう、これは何て書いてあるんだ?」

思い出したように問いかけた。
ロゼはいつもの調子に戻っていて、「ああ、それは・・・」と言いかける。
開ければ暖かなメロディ。母の微笑を思い出させるそれは、

「子守唄か。」

「すごいですね!何で分かったんですか?」

感心するロゼが笑った顔が、あの女性に重なって見えた。


◆◆◆◆◆


それからしばらく取り留めの無い会話をして、おいとましようかというころ、オーマが再度腹黒同盟勧誘を行った。
ロゼは「今実印が無い」とか「保護者に聞かないとわからない」などと言ってうまく誤魔化す。

しかし、ネタも尽きた彼はきっと次会うときに、同盟参加を果たしていることだろう。
オーマは登場と同じく、盛大に去っていった。

数時間後、妻の料理によって素晴らしい胃袋をお持ちのオーマは何ともなかったのだが、調子に乗ってガブガブ珈琲を鱈腹飲んだロゼは、腹痛にのた打ち回ったとかいうのは、また別の話。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【1953/オーマ・シュヴァルツ(おーま・しゅう゛ぁるつ)/男/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

NPC

【ロゼ(ろぜ)/男/25歳/神父】


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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
この度は有難う御座いました。

オマカセということで、色々とロゼの身の上話を絡ませてしまったのですが
如何でしたでしょうか?
腹黒同盟さんにはロゼも是非仲間に入れて貰いたいものですが、へっぴり腰なのでちっともそれらしくならないんだろうなぁと思ってみたり^^;

有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎