<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


奪われた指環

【オープニング】

 カウンターで、一番安い飲み物をちびちび飲みながら、ひどく意気消沈している青年がいた。
「どうしたの?」
 踊り子エスメラルダは声をかけた。
 青年は顔も青白く、もう何日も物を食べていないかのようにやせ細り、まるで病人のようだ。
 青年はうつろな目をあげてエスメラルダを見た。ためらった後、
「あの……」
 聞いて下さいますか、と彼はか細い声で言う。
 「もちろんよ」とエスメラルダはうなずいた。
「今……よく耳にする強盗団、いるでしょう……」
「ああ。今月に入ってからもう十件も被害があったそうね――って、まさか」
「はい……うちにも、入られました」
 兄が重傷なんです。青年はぼそぼそとつぶやいた。
「有り金もほとんど取られました……。ただ、お金はいいんですまた働けばなんとかなる」
 そこで、少しだけその瞳に光が走った。何か強いものを宿した光。
「でも!」
 青年はドンとテーブルを叩いた。
「僕と兄の宝、両親の形見の指環……! あれだけでも取り戻せればどんなにか……っ!」
「ああ、落ち着いて……」
 なだめながらエスメラルダは考えた。
 名にしおう強盗団。しかし、この酒場に集まる冒険者たちならば。
 エスメラルダは店内に顔を向けた――

【集った者たち】

 ちょうど、エスメラルダと青年――シェリクの話を聞いていた冒険者がいた。
「人は皆、心に星を持って生きている……希望という名の星を」
 わなわなと拳を震わせ言葉を紡ぐは、黒髪に黒目の正義感の強そうな青年。
「それを奪う奴らは許せない!」
 青年――世渡正和(よわたり・まさかず)はバンとシェリクのテーブルに手をついて熱弁した。
「それは依頼だな! 引き受けさせてもらうぜ」
「早速ひとり目ねえ」
 エスメラルダがほっとしたように微笑むと、
「おい、今依頼とか聞こえたが――」
「今度はどんな依頼が入ったんですか?」
「ぜひ、お聞かせ願いたいですね」
 エスメラルダの後ろからぞろぞろと顔をのぞかせたのは、黒山羊亭の常連――オーマ・シュヴァルツ、アイラス・サーリアス、ルイの腹黒同盟三人衆だった。
 話を聞き、大男オーマはシェリクの家族を想う心に感激し、号泣した。
「何てこった……許せねえやつらじゃねえかっ」
「Avarice……、己の其れだけでは飽き足らずが故の強欲ですか……。いけませんね、想いを奪い傷つける事は大罪に御座いますよ?」
 美しい青い髪を切なげに揺らし、ルイが嘆くように上を向く。
「形見の指環を……売り飛ばされていないとよいのですが」
 優しげな顔つきを少しくもらせて、アイラスが言った。
「しかし、許せませんね。すこしお仕置きが必要ですか」
「あら、一気に四人に増えたわね」
 彼らはかなり頼りになるわよ――? とエスメラルダがシェリクを励ますつもりでそう彼らを紹介していると、
「……私も、参加させてもらおう」
 静かな声が、どこからか聞こえてきた。
 全員は振り向いた。近いテーブルにひとりで腰かけて、酒を飲んでいるひとりの青年がいた。
 黒髪に、鋭い赤い瞳。腰にはくのは刀。
「……初顔ね。お名前は?」
「碇。碇天斬(いかり・てんざん)」
「おう、なかなか手練そうなにいちゃんだな」
 オーマがにやりと笑った。「面白え。じゃあこの五人で、強盗団退治に行くか?」
「一刻も早く……! 希望の星を取り戻す!」
 正和が、固く拳を握って吠えた。

     ■□■□■

 何においても事前の情報収集というのは大切だ。
「犯行の時間帯、場所、手口、目撃情報」
 アイラスが真顔で必要な情報をあげていく。
「シェリクさんご自身から聞く以外にも、聞き込みをしたり、出来るだけの情報を集めましょう」
「賛成だな。情報収集くらいは行っておくべきだ」
 天斬が愛想なしの声で賛同する。
「ではですね、多くの情報をまとめ、正確な情報を割り出し……相手の行動範囲や規模を推測。アジトの場所も推測していきましょう。時間と場所を地図上に示していけば、あるていどはアジトの場所が割り出せるでしょうし」
「なるほど。それで、その範囲内にある建物や遺跡や洞窟……アジトになりそうな場所をさぐっていく、と?」
 正和が真剣な顔でアイラスに問う。その通りです、とアイラスはうなずいた。
「正義のヒーローにも地道な作業はもちろん必要だ……情報収集は、足でやるべきだなっ」
「僕も行きますよ、世渡さん。二人で――」
「……私も行こう」
 アイラスが言いかけたところで、意外にも天斬が口を出した。
 アイラスは彼を見て、にこりと笑った。
「歓迎します。では三人で――オーマさんとルイさんは、それぞれのツテで情報を集められますよね?」
「お任せを」
 優雅に――なぜかティーカップを手にしながら――体を折るルイに、
「こっちもな」
 オーマがにっと、自信ありげな笑みを浮かべた。
「それでは、集合時間は二時間後で――行きましょう」
 アイラスの号令で、五人は動き出した。

     ■□■□■

「親父愛し。聖筋界にワル筋の影在りし時。ソーンナウヤング筋桃色マッスルぷりぷり探偵団現る……!」
 オーマは聖筋ラブ魂を全開にしながら、ひとりぶつぶつヒーロー口上を口にしていた。
 黒山羊亭から出て裏路地に入り、周囲に誰もいないことをたしかめてから、ある集団に通信を試みる。
 聖筋界下僕主夫・隠密忍び筋親父集団へと――ビビビ親父愛キャッチ通信。強盗団やアジトについて情報収集を頼んだ。
 隠密忍び筋親父たちは、四方八方へ飛んだ。そして、今手に入るだけの情報を集めてきた。
 強盗団の人数はいまいちよく分からない、というのが短時間で分かった事実である。
 ――人数多すぎる、ということだ。
「事件ごとにメンバーが少しずつ違う……変わった強盗団だな」
 オーマはもたらされた情報に眉根を寄せた。
 多すぎる人数ゆえに、アジトの位置もこの短時間では特定できなかったようだ。それらしきメンバーたちが、あちこちにいるからである。
「ち……参ったな」
 オーマは舌打ちして、「強盗団なら密売ルートがあるはずだな?」
 肯定の通信が返ってきた。
「よし、そっちからさぐってみっか」
 オーマの赤い瞳が、きらりと光った。

     ■□■□■

 二時間後。約束どおりに全員が黒山羊亭に戻ってくる。
 シェリクはもう兄のいる家へと帰ってしまっていた。そのシェリクから聞き出した情報を、アイラスがまとめた。
 ●シェリクの家に入りこんだのは複数。
 ●シェリク自身は、目・耳・口をふさがれ手足を縛られる。ゆえに物音はほとんど聞いていない。
 ●シェリクの兄は抵抗したため、暴行を受けた。
 ●シェリクも兄も、頭がぼんやりとしたという症状あり。

 正和と天斬は、被害者やその周辺の住人に聞いて回った情報を並べていく。
 ●物音がしなかった。窓ガラスやドアは、一切壊されていない。
 ●何人かの人の気配はしていたが、暴れているような気配は近所の人間は感じなかった。
 ●どの被害者も、縛られて家から出られなかったため、様子を見に来た他人によって発見され、救われている。
 ●暴行によって死亡した者、また発見が遅れて死亡した者が数人。

 オーマは腹黒忍び筋親父たちが集めた情報を告げた。
 ●人数が多すぎて全体像がつかみにくい。
 ●それぞれの事件によって、参加しているメンバーが違う。
 ●行動範囲が広く、アジトも複数ある様子。
 ●密売ルート発見。

 そしてルイが、最も正確な情報をもたらした。
 ●メンバーに、鍵開け、金品に鋭い者、催眠術者がいる。
「アジトも複数あるそうですが……頭のいる場所が、分かりましたよ」
 目にもとまらぬ速さで眼鏡の位置を数ミリ直しながら、ルイは重々しく言う。
 そのルイが告げた場所は、ちょうどオーマが「密売ルート」として見つけていた場所と同じだった。
「ということは……売りは、頭がやっている……ということでしょうね」
 アイラスが真顔でつぶやく。
 天斬が独り言のように言った。
「頭さえ潰してしまえば、あとはどうにでもなるかもしれんが……」
「ダメだ! こういうのは全員つかまえねえと……!」
 正和が勢いこんで言う。
「そうですね。下っ端だけでまた行動を開始する可能性もありますし……頭のいるところに、術者タイプがちゃんと揃っていてくれているとは限りません」
 術者は特に捕まえなくては。アイラスが言えば、
「とーぜんだなっ。ヒーローたるもの手抜きはいかん!」
「……ふん。好きにしろ」
 天斬はそう言って、黙りこんだ。
「俺は密売ルートからさぐってみるつもりだがね」
 オーマが地図上の、密売場所をこんこんと指で叩きながら言う。
 予測がついたアジトはこの他にふたつ。
「兵力が分散するが――分かれて一度に突撃すっか?」
「どのアジトにどの兵力がいるのか分かればよいのですが……」
「大抵は」
 少しまがったシルクハットの位置ををしゅびっと直しながら、ルイが「頭の元に能力者がいると考えるべきではないでしょうか?」
「それはそーだな……つっても、鍵開けだの金品ワンちゃん状態のヤツだのは戦闘能力的にどうでもいいしよ。要は催眠能力者……だよなあ」
「それが頭のところにいると思いますよ」
 ルイは静かに断言した。「従って、術者的にはもっとも力の強い――わたくしが我らが腹黒同盟の総帥殿の護衛を致しましょう」
 げっとオーマがうめいた。
「よりによってお前かよ!」
「ええ、わたくしです」
 眼鏡ぎらりんのにこにこ笑顔。常日頃から、総帥たるオーマの言動に容赦なく仕置きを加える同盟NO.3。
「あとふたつのアジトですが……」
 アイラスが、視線で火花を散らし始めた総帥とNO.3を無視して話を進めた。
「位置が近いのですよね。頭が捕まった――と情報が入ったら、このふたつのアジト内の者は逃げてしまう。となると……オーマさんたちが頭を捕まえる前に、ふたつをひとつずつ潰すのはどうでしょう? 残り三名ですから、ふたつに戦力を分散させるのはうまくありません」
「三人のほうが素早くひとつずつ潰せるかもしれねえな」
 正和は乗り気だ。
「んじゃあ、俺らもうまく時間差で頭ンとこ入りこめるようにしなきゃあなあ」
 オーマがルイと火花を散らしながら言った。
 反論は出ることがなく、結局それでまとまったようだった。

     ■□■□■

 まず最初に、ひとつめのアジトをアイラス、正和、天斬が襲う。
 オーマとルイにこちらの様子を報告する方法は、ルイが連れていた謎の霊魂軍団をこちらへ分けてもらうことで解決した。オーマたちが敵と接触する時間は、作戦上決まってしまっている。あちらの様子は霊魂軍団たちがしっかり教えてくれるだろう。
 霊魂軍団に慣れているアイラスは、霊魂たちにおじけづくこともなく冷静にアジト――典型的な人里はずれの廃墟の様子をうかがった。
「慎重にいかなくては……。最もオーマさんとルイさんならどんな事態でも切り抜けるとは思いますけれどね。あらゆる意味で」
「何だか、ヘンな連中だな……」
 つぶやいた正和は、慌てて「いやっ! ヒーローたるもの、どんな人間をも受け入れる!」
「それは素敵な決意です。神経がやられないていどに頑張ってくださいね」
 アイラスはにっこりと正和に言った。
 正和が、その笑顔の恐ろしさに引きつった。

 アイラスが太陽の位置をたしかめる。
「時間です」
 今は真昼。――噂の強盗団の活動時間ではない。ほとんどが、アジトにいるはずだ。
「では――行きましょう……!」

     ■□■□■

 ルイの霊魂軍団の中のひとつが、オーマとルイにアイラスたちの行動の報告をしに飛んでくる。
「ひとつめへの突撃は成功? そうか」
 にやりと笑うオーマ。
 その傍らで――ルイが、顔を背け、必死に何かをこらえるかのように肩をふるわせていた。
「……てめーな、いつまで笑ってやがる?」
 この素晴らしくダンディ筋な姿を見て――! とオーマは精一杯抗議した。
「あっあはははっ、し、失礼致しました。あ、貴方様のスーツ姿など、滅多に見られるものでは御座いません故……」
 笑った拍子に数ミリずれた眼鏡とシルクハットをしぴぴぴっと素早く直し、ルイはぱっと真顔に戻った。
「ところで、なぜルベリアの花を?」
 と、オーマがスーツのポケットに挿している美しい花を見る。
「これにシェリク兄弟のよ、想いを映しとってきたんだよ。指環探し用に」
「ああ……なるほど」
 ルベリアの花は、オーマやルイの故郷ゼノビアに咲く特殊な花だ。人の想いを映し見て、それにともない偏光に輝く。
 霊魂がひとつ、ルイに何事かを告げる。
「さあ、時間のようです。わたくしたちは密売仲介人としてアジトに入りこみますよ」
 用意はいいですね――囁いた相手は、オーマ……というより、霊魂軍団。
 霊魂軍団が、こくりとうなずく。
「よっしゃ、じゃ、時間どおり」
 行くか。スーツ姿のオーマは、ルイをともなって立ち上がった。

 “密売仲介人”という役割は、あらかじめ忍び筋親父たちによって敵にすりこまれている。
 頭がいると思われるアジトは、洞窟内だった。とても分かりにくい場所にある洞窟だ。おそらくあちらこちらに逃げ道も掘られているのだろう。気を引きしめて入らなければ、雑魚どもを逃がしてしまう。
 堂々とアジト近くの約束の場所にふたりで立っていると、約束どおりの時間に、三人の男が――こちらもスーツ姿で――現れた。
 三人が三人、違う場所から現れたように見えたのも、アジトを見つけられないためのカモフラージュだろうか。
「仲介人のオーマル様でいらっしゃいますか」
 重々しい口調でスーツ姿のひとりが言う。
 こちらも重々しく、オーマは「オーマル・シュヴァルツネルだ」と名乗った。
 ルイが唇の端を引きつらせた。笑うのをこらえているらしい。
「では、こちらへどうぞ――」
 そして二人が案内された先は――
 予想どおり、頭がいるとされるアジトの中だった。

 おそらくごまかしているのだろう、中は質素で丁寧に整えられた洞窟だ。
 しかしオーマとルイの鋭い嗅覚はごまかせない。――酒の匂いがする。
(……酒宴でもやってたのかね)
 通された先に、少し開けた場所があり――
 これまた整えられた服装の、大柄な男がひとり、待っていた。
「お待ちしておりましたよ、シュヴァルツネル殿」
「こっちも待ちかねていた、バイヤー殿」
 オーマは重々しく握手に応え、ルイが優雅にシルクハットを取って体を折り、
「こちらで拝見できるものはどれも素晴らしいものと聞き及んで御座います。この日を楽しみにして参りました」
 大柄な男が、愛想のよさそうな笑みを見せた。
 ――大柄ではあるが、まわりにいる男どもの中でももっともまともそうだ。
(こいつだな)
 オーマは断定した。
 自ら密売に出る。しかも見かけはまとも。……なかなかの頭だ。
 ――胸に挿したルベリアの花が反応しない。
(ここにはないか……?)
 肝心の指環を見つけなくては意味がない。下手に戦闘をして、指環を壊してしまっても意味がない。だから戦闘する前に指環を見つけてしまいたかったのだが――
 赤い瞳の大男と、青い瞳の紳士は素早く目を見交わした。
 次の瞬間には、オーマは銀の獅子へと変貌した。――子犬ミニサイズの。
『あとは任せた、ルイ』
 オーマの変貌に立ちすくんだ盗賊たちの対処をルイに任せ、オーマは口にルベリアの花をくわえて走った。
 アジトの隅々まで走れば、アジト内にあるならルベリアの花が教えてくれるはずだ――

『まあルイならうまくやんだろーな』
 オーマはルベリアの花をくわえたまま走り続けていた。
 後ろから追っ手がやってくる。
『簡単につかまるかいっての』
 筋肉バラードトラップを設置しつつ駆ける。
『……見つかんねーな……』
 後ろでトラップが薔薇色を放ちながら発動するのを感じながら、オーマはうなっていた。
『まさか、このアジト内にはないってのか……?』
 ――売り飛ばされた?
 最悪の事態を想像し、オーマは花の茎を食いちぎりそうなほど体に力を入れた。
 怒りで銀色の獅子が、真っ赤に染まりそうなほどだった。

     ■□■□■

「ダメだあ〜ルイ、このアジトにはねえ……って、何だ、そいつぁ」
 オーマが嘆きながらルイの元へ戻ると、足を折られて気絶している盗賊たちの他に、霊魂軍団に取り付かれたまま気絶している男――そして、ルイの足元に、泡を吹いて失神している男がいた。
 その男の体中に、何だかおぞましいどす黒赤茶色の液体だか固体だか分からないものの破片がこびりついている。
「さあ。霊能力者だったようなのですが――バチが当たったようで御座いますね」
 すましてルイが言う。
 ならお前こそいっとうバチが当たるだろうよ、とつぶやいたオーマの尻を杖でぴしりと叩き、
「おお! いけない……わたくしの大切な杖をこのような下賤な事に用いてしまうとは」
 お前達、申し訳なかった――と杖に謝るルイ。
「俺は杖以下か……」
 オーマはもう力が出なかった。ルベリアの花を握った手がだらりと下がる。
「おや。本当に花が反応しておりませんね? これは困った事です」
「とにかく、他の連中と合流しようぜ」
 気絶している盗賊たちの見張りは人面草と霊魂たちに任せ、二人は洞窟から外へ出た。
 一刻も早いほうがいい。オーマは銀の獅子――今度は巨大バージョンに変貌し、ルイを乗せて仲間たちの元へと急ぐことにした。

     ■□■□■

「あれ……? あの獅子は」
 ふたつ目のアジト――こちらも廃墟である――からまぶしく輝く空翔る獣を見つけ、目を細めてアイラスがつぶやく。
「オーマさん……? 乗っているのはルイさんのようですね」
 正和が大きく目を見開いて獅子を見つめている。天斬もさすがに、目を離せずにいるようだ。
 とっ、と獅子はアジトの前で地面に降りた。
 アイラスが外へと駆けていく。
 オーマが変貌を解き、くわえていたルベリアの花を手に取って、
「駄目だあ、本アジトのほうにはねえ――」
 言いかけ、ふと、
「……ん?」
 手を見下ろした。
 その手に持っていた偏光を放つルベリアの花の……光の方角が、ふたつ目のアジトを指している。
「ここにあるのか……!?」
「え?」
 オーマとアイラス、ルイはアジトへと飛び込む。
 偏光の先は、縛り上げられた盗賊を指してはいなかった。少しずれて――
 その傍ら、正和が大切そうに抱えていた何かを指していたのだ。
「おい! そりゃまさか指環か!」
 オーマは正和に駆け寄る。
「盗賊のはめている指環の中にあるかもと、世渡さんがおっしゃったので」
 アイラスが説明する――その正和が抱えていた指環の山。
 天斬が無言で近寄ってくる。
 オーマはひとつひとつ指環を持ち上げ、ルベリアの花にかざした。花が強く反応するものをさがして。
 ひとつ、またひとつ――
 そして、半分以上たしかめたところで――
「これだ!」
 ルベリアの光がまっすぐ当たるひとつをようやく見つけ、オーマが歓喜の声をあげた。
「よかった……! 売り飛ばされていたのではないのですね……」
「ふむ。善行を積む者は善き事で返ってくるものです」
 ルイは正和に微笑みかける。正和は照れ笑って、
「ヒーローなら当然のことだけどなっ」
 と言った。
「……見事だな」
 天斬がつぶやいた。
 見つかった指輪は細身の金、至ってシンプルだったがとても美しい細工の一品だった。
 売り飛ばされるほどの価値もなく、頭が気に入って身につけるほどの価値もなかったのかもしれないが、それでも。
 家族の愛情を一身に受けた、この世に二つとない指環が、ルベリアの光を受けて嬉しそうにいっそう美しく輝いた――

【エンディング】

 盗賊たちは、アイラスの提案で生かしたまま役人に突き出すこととなった。
 役人たちはたいそう驚いた。ほとんどの者が気絶し、骨折あるいは意味不明なグロテスク物体を体にくっつけていたり、またある者はなぜかキスマークだらけになっていたり――これは見張りにつけた人面草や霊魂がつけたものだが――と、とんでもない状態だったからだ。
「今までの報いが来たのですよ」
 アイラスはそう冷たく言い放った。

 指環は、たしかに形見のものに間違いないようだった。
 すっかり夜になってから、五人が持ち帰ったそれを見て、兄のベッドの傍にいたシェリクは目に涙をためた。
「あ……ありがとう……ございます……っ」
 シェリクはそれを受け取り、ベッドの上の兄ジェイクに渡す。
 ジェイクはベッドの傍らに用意されていた紙とペンで、文字を書いた。
『本当に、ありがとうございました』
 ジェイクは口の中を派手に切ったため、今はできるだけ筆談にしているらしい。
 心の底から喜んでいる様子の兄弟に、正和は満足そうにうなずき、天斬は少し顔をそらしていた。顔が緩もうとするのを隠そうとしているらしい。
 オーマは指環を指して真に輝いたルベリアの花を、具現で輝石化して、
「これが……お前さんたち兄弟の想いの形だ」
 と、二人に手渡した。
「ついでに酒もやるぜ♪ アニキが元気になったら兄弟水入らずで一杯やれや」
「はい」
 シェリクはうるんだ目でうなずいた。
「ほとんどのお金を失ってしまいましたが……大切な両親の形見が戻ってきてくれた今なら、二人でこの先も頑張れます。石はその決意の証として……ありがたく頂こうと思いま……す。あ、ありが――」
 最後は言葉にならず嗚咽へと変わる。
 「何でしたら御両親の魂を召喚致しましょうか?」と提案しようとしていたルイは、兄弟の様子を見て、それを口にするのをやめた。
 彼らには――おそらくそれは必要ない。
「ところで俺は医者なんだ」
 オーマが兄の様子をうかがって、「特別に処方はタダだ。俺にも診察させろや」
「あはは。見かけは怪しいですが、腕はたしかですよ、この先生は」
 とアイラスが笑った。
 オーマが「どういうフォローだー!」と叫び、部屋がにわかに騒がしくなる。
 兄弟が笑った。兄は痛そうにしながら、弟は涙をためたまま。幸せそうに笑った。
 もうこれ以上この二人に苦しみはない――そう思わせるような、優しい笑いに満ちた夜だった。


【END】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2085/ルイ/男性/26歳(実年齢999歳)/ソイルマスター&腹黒同盟ナンバー3(強制】
【3022/世渡・正和/男性/25歳/異界職】
【3134/碇・天斬/男性/25歳/異界職】

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■         ライター通信          ■
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オーマ・シュヴァルツ様
こんにちは。いつもお世話になっております、笠城夢斗です。
今回も依頼にご参加ありがとうございました!
ミニ獅子を書くのは初めてだったので嬉しかったですv楽しく書かせて頂きました。
ありがとうございました!
またお会いできる日を願って……