<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


ダイスde訓練



「もう! こんなに暇だったら体が鈍っちゃう!!」
 突然大声を上げた晴々なる子は、紙とペンを取り出すと一心不乱に書き始めた。
「ど、どうしたのよ?」
 その姿に動揺しつつ声をかけたココだったが、なる子にはその言葉が聞こえていなかった――

 数分後、天使の広場の掲示板に一枚の張り紙が貼られた。
『募集! 一緒に訓練してくれる人を募集します。
 場所はエルザードから離れた草原。
 普通に訓練したら面白くないので、行動はダイスロールで決めます!
 希望者は一から六までの行動パターンを決めてください。』


 エルザードから少し離れた草原の上。張り紙を見たオーマ・シュヴァルツはここへ訓練をするため訪れた。もちろん案内人などに頼らず、後ろには人面草軍隊&兄貴ウッフン♪隊を携え、ココのラヴ電波でここまで来た。
「おうおう。未来のカリスマカカア天下&下僕主夫にすべく、セクシー親父愛筋降臨アニキ☆すんのも、俺等下僕主夫の大胸筋の務めってやつよ!」
 ゴオオと風が吹き、双方の服と髪をなびかせた。
 顔を覆った布の隙間から漆黒の髪が流れている女性の正体はココ。
「うふふ、良い度胸じゃない。好きよ、そうゆうの。でもね、私に勝とうなんて百万年早くてよ」
 と言って笑った。
「むにゅー!」
『訳:僕も負けない!』
 ココの足元にいるヴィンセントもやる気満々な様子で何回も跳ねている。


 審判役の晴々なる子が今、ゴングを鳴らした。


『1ターン目』

 オーマは攻撃態勢に入ると、ニヤリと笑った。
【オーマはミニ獅子(装備:ゴスロリ服)に変身した!】
 雪のように白いふりふりレースをあしらったゴスロリ姿のミニ獅子は、まるでバレリーナのように舞い、不意打ちのウインクはココのハートを射った。その様子にヴィンセントは獅子を睨んだ。
「こんなに早くから可愛いもの見ちゃったら私、これを飲まなくちゃね♪」
【ココはお酒を取り出した!】
 どこからか取り出した一升瓶の蓋を開けると、それを一気に飲み干した。
「本当にオーマって可愛いんだから。うふふふ・・・。ご褒美よ」
 瓶を放り投げると、手をパパッと叩き、右腕を前へ突き出した。
【ココは酔っ払ってランダム攻撃。疾風を起こした!】
 疾風は今まで吹いていた向かい風をも逆風し、威力が二倍になった風はハリケーンのように渦を巻き、轟音と共にオーマへ襲い掛かった。
 オーマはハリケーンの進行を予測すると、回転ジャンプでハリケーンを回避したが、その軌跡にはアニキ乱舞祭り真っ最中の蜃気楼が繰り広げられていた。
 決して美しくないソレにココは目を輝かせ、片手で頬を触ると、アニキ乱舞祭りから目を離さないでいる。
【ココは見惚れている!】
「そんな表情されちゃ〜アレだ、今度紹介してやろブボッ!」
【ヴィンセントはオーマの脇腹に体当たりした!】
 ミニ獅子化したオーマの体はどんどん元に戻っていった。もちろん服も。
「やるなオメェ。しかも獅子化を解きやがってイテテッ」

【オーマはダメージを受けた!】


『2ターン目』

 ダメージを受けたオーマは次の策をと考えた――二対一は不利だが、ココは戦闘放棄と言っていいほどアニキ乱舞祭りに酔い痴れ、先程の酔いが回ったのであろう、コクリコクリと首を前後左右に動かしている。しかしヴィンセントは鼻息を荒くして此方を睨んでいる。
【ヴィンセントは燃えている!】
「そんなに見るなよ、照れるダロ☆」
 照れ隠しの具現銃器をヴィンセントに向けたオーマは、弾をこめて撃った。
 その弾はまるで流れ星のように飛んでいき、目標のヴィンセントにまで真っすぐ飛んでいったがヴィンセントは素早くジャンプして交わした。
 弾はそのまま地面に突っ込み、今までヴィンセントがいた地点にはキラリと光った白い歯が印象的なアニキスマイル柄が広がった。
「むにゅー」
『訳:当たらなくてよかった』
「そんなこと言って着たいんじゃねぇのかぁ?」
 ヴィンセントは目を逸らした――


『3ターン目』

【ココは眠りに入った】
「緊張感ねぇなー」
 しかしこれで勝てる兆しが見えてきた。だが、ヴィンセントにはちょっとやそっとじゃ攻撃が当たらない。
どうしたらいいものか――そう考えた時、ヴィンセントが少し動いたような気がした。
【腹筋腹黒リフレクト発動!】
「これ以上、脇腹に当てられんのか嫌だからな!」
【ヴィンセントの体当たり! しかしリフレクトで無効になった】
 リフレクトで跳ね返されたヴィンセントの体は宙を舞い、地面にぶつけ、跳ね返り・・・を繰り返した。それはゴム鞠の体質だからこそなせる業であるが、それが予測不可能の動きになるなど本人も気づいていなかったであろう、目をグルグルに回しながらヴィンセントは跳ね続けた。
「今だ! いくぞ、野郎ども!!」
「ウッフーン♪♪♪」
 後ろで控えていた人面草軍隊&兄貴ウッフン♪隊が一斉に砂埃を立てながら走り出し、ヴィンセントに突っ込んでいった。
「大人数だったら、絶対当たるだろう!」
「可愛い子好きよ〜♪むふふ〜〜んらびゅ〜〜〜ん♪♪♪」
 人面草は葉っぱの頭を前にして体当たりしようとし、兄貴ウッフン♪隊の面々はヴィンセントを抱擁しようと両手を大きく伸ばして抱きつきにいった。
【ヴィンセントは目を回しているために回避できない!】
 まるで上質のクッションのようにふわふわしているヴィンセントの体はたちまち隊員全員が奪い合い、その体は変形していた。
「お、おい! お前等その辺にしといてやれよぉ」
 オーマの声に一瞬も耳を貸さず、ヴィンセントを力いっぱい抱きしめる隊員。後ろで唖然とする人面草軍団――もしも人であったら死んでいたはずだ。

【ヴィンセントは気絶した!】


『4ターン目』
 気絶したヴィンセントは口を塞がれ息が出来なくなり、どんどん青ざめてくると、隊員達はオドオドしながらその様子を見ていたが、次の瞬間叫び始めた。
【ココは目を覚ました!】
 目覚め最悪。そう言いたげに睨みつけるココは瞬間移動し、ヴィンセントを救出した。
「私のヴィンセントに何をするのよ!」
 ぐったりするヴィンセントを大事に抱くと、安全な所へ置き、シールドをかけた。
 戻ってきたココは、
「こうなったら、一気に方を付けるわよ」

 オーマの後ろで人面草軍隊+兄貴ウッフン♪隊は固まりガクガク震えた。
「大丈夫だって、これは訓練だ。俺だって手加減くれぇしてる」
 ココは目を瞑り深呼吸すると、呪文を唱えた。
「炎よ! 今こそ我の力を持って、一喝を!!」
 鋭い目つきで睨みつけるココは、オーマ達を指差した。
 指先から放たれた炎は、オーマの背丈ほどの大きさで、轟音を立てて此方へ向かってくる。
「オーマの兄貴! あれは手加減してねぇよ! たーすけてくれーー」
「もちろんよ!」
 オーマは懐から何かを取り出した。
【親父愛☆フライパンを取り出した!】
 素早く構えると、向かってきた炎を打ち返した。
「きゃー! カッコイイー!!」
 人面草の歓声より兄貴ウッフン♪隊の声の方が大きくて、聞こえない。
「いやー、なんだか照れんなぁ」
 人面草軍団と兄貴ウッフン♪隊を喋り込むオーマに跳ね返された炎は、予想外のことで避けきれなかったココに見事命中していた。
 多少服が焦げただけであったが、「こんなもの、魔法で直せる」と言ったところで、もう既に直していた。


 ゲームセット! ゴングが鳴り響く。
【勝者:オーマ・シュヴァルツ】


 大の字で倒れているココは空を見た。
 夕焼け雲が浮かび、今までのことなど無かったように穏やかな太陽が沈みかけていた。
「大丈夫か? ココ。少々本気になっちまった」
 ココの様子が心配になったのか、オーマはすまなそうに喋りかけた。
「いいえ、私こそ・・・楽しかったわ。貴方は?」
「もちろん! 楽しかったぜェ♪♪ またやろうなっ!」
「ええ」
 なんでこんなに穏やかな気持ちになれるのだろう――負けたのに。
 いつの間にかココの隣にはオーマが座っていた。その横にあの団体もいる。
 お互い、沈む夕日を眺めた後、ココは体を起こした。
「私達って、会う時いつも戦ってばっかりね。こんなにゆっくり過ごすことなんて無かった」
「それでもいいんじゃねぇか」
「そうね」
 なる子とヴィンセントの存在を忘れて、二人とプラスその他は夕日が沈んでも、そこにいた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】


 NPC
晴々なる子
ココ
ヴィンセント・フィネス


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■         ライター通信          ■
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 今回ご参加頂き、真にありがとう御座います。
 ライターの田村鈴楼です。

 オーマ様の行動パターンはどれも面白そうで全部使いたかったのですが、サイコロの目が言う事を聞いてくれませんでした。
 しかしヴィンセントに立派な下僕主夫になれる未来はあるのか、という終わりでしたが、あれでも新婚さんみたいにラブラブです、一応。

 途中で勝敗について変更してしまったこと、申し訳御座いませんでした。詳細について共通個室・聖獣界ソーン個室にて載せています。

 それでは、失礼致します。ありがとう御座いました。