<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


ダイスde訓練



「もう! こんなに暇だったら体が鈍っちゃう!!」
 突然大声を上げた晴々なる子は、紙とペンを取り出すと一心不乱に書き始めた。
「ど、どうしたのよ?」
 その姿に動揺しつつ声をかけたココだったが、なる子にはその言葉が聞こえていなかった――

 数分後、天使の広場の掲示板に一枚の張り紙が貼られた。
『募集! 一緒に訓練してくれる人を募集します。
 場所はエルザードから離れた草原。
 普通に訓練したら面白くないので、行動はダイスロールで決めます!
 希望者は一から六までの行動パターンを決めてください。』


 エルザードから少し離れた草原の上。張り紙を見たシグルマは案内役の晴々なる子に連れられ、ここへやってきた。
「俺が全員まとめて相手してやるよ。かかってきな」
 晴々なる子、ココ、ヴィンセント・フィネスの三人は、シグルマから数メートル離れた場所で固まりながら、こそこそと相談を始めた。
「なんだ? 噂じゃ、そこの布を巻いてる女なんかは、面白れぇ魔法を使うって聞いたが。怖気づいたか」
 体をほぐしつつ、相手の様子を探っていたシグルマだったが、ここまで案内してきた少女は特に特徴もなく、危険な香りもしない。しかし布を巻いてる女はルディアを攫ったりした前科がある――面白い。それにあの丸っこいやつも何をするだろうか。
 三人はこそこそ話が終わると、ココがシグルマに話しかけた。
「布を巻いてる女は失礼ねっ。私はココ。それから、この子はなる子、この丸いのはヴィンセントよ♪ヴィンって呼んでね」
 一人一人指差すと自己紹介を始めた。予想外の出来事でも隙は見せますまい、そう思ったシグルマだったが、答えなくてはいけないだろう。初対面なのだから。
「俺はシグルマだ」
「そう――貴方が」
 ニヤリと笑ったココは、叫んだ。
「それじゃあ、自己紹介も終わったし、始めるわよ!」


『一ターン目』

 ココは指を鳴らすと、空は曇天と化し、雷鳴が轟いた。
【ココは雷を起こした!】
 光った。
 そう思った瞬間、シグルマの頭上に雷が落とされた。しかし、間一髪のところで剣を抜くと、雷を吸収し、ココへ向かって剣を振り下ろした。
【シグルマは雷を跳ね返した!】
「威力はすげぇが、突然はじめるな」
 抜く気は無かったのだが。そう呟くように付け足したシグルマは剣をしまった。
「訓練だからな、あまり本気になるな。お互いに」
 雷を跳ね返され、さらに左腕に当たったココは頭にきたが、左腕に大した傷は無い。怒るのはもっと酷い事があってからにとっておこう。
「貴方も本気になると怖そうだわ〜。本当に」
 そう言って笑うココの様子にヴィンセントは驚き、戸惑った。
「むにゅー」
『訳:怖いよー』
 シュッと風の音がしたと思うと、シグルマの後ろから声が聞こえた。
「よそ見しないで!」
 いつの間にかシグルマの後ろに周ったなる子は篭手で殴りかかろうとした。しかし既に気づいていたシグルマは、向かってきた拳を払った。
「移動のスピードは速いが、攻撃のスピードは遅いな」
「もー! シグルマさんが速すぎるのよ」
 なる子は地団駄を踏んだ。
 顔だけ後ろに向け、なる子を見ていたシグルマだったが、腹に何か当たった感覚がした。
「むにゅっ。むにゅー!」
【ヴィンセントは体当たりした!】
 しかし鎧の飾りの角にでも当たったのだろうか、泣きながら転げまわっている。
「おいおい、大丈夫か?」
 ヴィンセントを抱き上げたシグルマは傷を見てみたが、ちょっと血が出ているだけだった。
「こんな傷でピーピー泣くなよなぁ」
 慣れない手つきで子供をあやすお父さんのようにしているシグルマの傍で、なる子は電電太鼓でヴィンセントをあやしている。
「もぉ、こんな時にまた泣かないで」
「お、おい。大人しくしろって」
 そんな二人のやり取りを、後ろで鬼が見ている事など知る由もなかった。
【ヴィンセントは泣き止まない!】


『二ターン目』

「え?」
 なる子の体は後ろから来た衝撃で前へ吹き飛ばされ、倒れたままピクリとも動かない。背中からは煙が上がっている。
【ココは炎を放った!】
【なる子は火傷を負った!】
「私のヴィンに馴れ馴れしくしてるんじゃないわよ。あんたが抱っこしている所為で、なる子に当たったじゃない」
 指を鳴らすと、なる子の体は光り輝き、火傷と焦げた服が治っていった。しかし、気絶をしているのか目を閉じたままである。
 シグルマは状況を把握しようと、ココとなる子の両者を交互に見たが、ココは本気になっているようだ。
 不意に腕に抱えたヴィンセントが震えているような気がした。


『三ターン目』

 数分の時が流れた。ココはずっと呪文を唱え続け、嫌な予感がする。邪魔をしようにもヴィンセントが泣き暴れ、とてもそれどころではない。
「さぁ、本番だよ」
 脳に突くような響きで言うと指を鳴らした。するとシグルマの腕にはヴィンセントはいなかった。ヴィンセントは目を丸くしてココの腕の中にいる。
「面白れぇ」
 ココはヴィンセントとなる子にシードルを張ると、数メートル離れた所へ運んだ。運び終わるとキリッとした目でシグルマを見、瞳を赤くした。
「言っておくけど、これは訓練よ。貴方の言ったようにお互い本気になってはいけない・・・。しかし、なる子もヴィンセントも貴方に敵うわけない。実際にそう、貴方の指摘した通り」
「何が言いたい」
 徐々に周りの雰囲気が変わっていっている事にシグルマは気づいたが、それでも負ける気は全くない。しかし、気になる――
「貴様、何者だ」
「うふふ。貴方の名声は酒場にいれば分かる・・・それに釣られた女ってところよ」
「本当の事を言え、貴様は何者だ」
 人間ではない気配がひしひしと伝わってくる。人間の皮を被った化け物か?
 ココは両手に集中しつつ、口だけ笑った。
「酷いわねぇ。女性に使う言葉じゃないわ」
 両手を合わせると、また術を唱え、指を鳴らし、なる子とヴィンセントを指差した。
「普通にしたら面白くない。だから、こんな技を使っちゃうわ♪頑張ってね」
 手をひらひらとしてから座り込み、お酒を取り出すと飲みだした。
【ココは一升瓶を一気飲みした!】
「美味しい〜♪やっぱりお金をかけると違うわねぇ」

 体に一瞬揺らぎを感じたが、問わねば気がおさまらない。
「おい、ココ! 一体何をした!」
 シグルマの頬に篭手の爪が襲い掛かった。寸前のところで腕を払ってかわせたが、襲ってきた相手はなる子であった。
「お前どうした?!」
 なる子はその髪の色のように真っ赤な目をし、獣の様に威嚇している。そしてシグルマの言葉に耳を傾けずに叫び声を上げながら襲い掛かってきた。さっきまでとは比べ物にならないくらい力強い拳が休みなく向かってくる。
「なる子、さっきのお前はどこへいった。お前はこんな攻撃をしない奴だ、目を覚ませ」
 拳をかわすと、なる子は地面に篭手の爪が突っ込み、抜けなくなってしまった。
「その勢いは褒めるが、何か言ったらどうだ」
 抜けずに困っているなる子に言ったが、先程の同じく、答えてはくれなかった。
「むだよ〜」
 頬を桃色に染め、早くも三本空けたココは、
「術かけっちゃったからね〜」
「何をかけた」
「操っちゃう魔法♪」
 これで分かった。事に理解したシグルマだったが、そうなると敵はもう一人いる。
「アイツか」
 なる子の隣でグルグル回り続けている丸っこいやつ。
「ヴィンセント・・・」
 なぜかなる子のように襲い掛からず、隣でずっと回り続けていた。
「キャー! かわいいー」
 その様子を見たココは興奮していた。酒も入っているので、顔が真っ赤だ。
 そのやり取りに疎外感を感じつつ、シグルマは不意に回り続けるヴィンセントの体が大きくなったような気がした。よく見ていると、形も違うような。
 ココはニヤリと笑うと、指を鳴らした――


『四ターン目』

 爆音と共に、ヴィンセントは砂埃に飲まれた。何があったか分からないが、シグルマは念のために剣をぬいた。
 カキンッ
 金属がぶつかり合う音が木霊する。
「貴様、何者だ!」
 運良く向かってきた者の刃を防いだらしい。ジリジリと音を立てているが、相手が持っているのは短剣であったため折れてしまい、相手は素早く後ろへ下がると、なる子の隣へ立った。
「うふふ、代わりに私が説明してあげる。彼はヴィンセント。あの丸い子よ」
 よく見ると、似ているような、似ていないような。しかし丸っこい奴の姿が見えないが、ココが言っている事が本当なのかどうかは疑わしい。
「まぁ〜ね、今は術にかかって口を聞けなくしてるけど。元は人間だし、なる子も強化してるから。頑張ってね〜」
 スポンッと栓を抜くと、ココはお酒を再び楽しんでいる。その様子にシグルマも参加したかったが、今はそれどころではない。
「かかってこい。お前らなど、一分もいらぬは」
 なる子とヴィンセントは、一直線に駆け出した。シグルマは二人の攻撃を剣で防ぐと、少々力を入れてデコピンを喰らわせ、ココに向かって一太刀あびせた。
 どんなに強化しようが、それは本来の力ではない。そんな力でシグルマに勝とうなど、馬鹿げていた。
 倒れてゆく三人の姿を見つめ、やりすぎた感じはしたが、不思議と罪悪感は無かった。


■□■


「・・シ・」
「・・・シ・マ」
 体が大きく揺さぶられている。
「シグルマさん!」
「・・・あ?」
 起き上がると、そこは今まで戦っていた草原の上であった。
「いきなり倒れちゃって、心配したんだよ! どうしたの?」
「いや、それは俺が聞きたいのだが」
 確かココの術にハマッタなる子とヴィンが俺に向かってきて返り討ちにしたはずだったが。
「それは全部、私が見せた夢よ。だって、ありえないじゃない? この二人にそんな術をかけるなんて」
「え? ココ、一体何をしたの?」
「俺にしては心が読めること自体が、ありえない事だ」
「むにゅー!」
『訳:まぁ、気にすんな!』
 立ち上がったシグルマだったが、まるで長い訓練のあとのような疲労感を全身に感じ、今すぐにでも寝たい気分だ。しかし、
「俺はこれから酒場に行くつもりだ。皆で行くか?」
 三人の表情が一変に変わった。
 ココは満面の笑みを浮かべ、なる子は「未成年なので・・・」と言ったが、そこはジュースにすればいい。ヴィンは恐怖を感じているようであった。
「よし、じゃあ行くぞ!」
「オー!」

 この日、四人が訪れた酒場では食い逃げが相次いだという。犯人はまだ捕まってはいないが、果たして誰なのだろうか。
 シグルマとココは決して酔いつぶれずになる子とヴィンセントの二人は匂いだけで二日酔いになったらしい。
 晴々なんでも屋は暫く酒臭い臭いが消えなかったという。


『ゲームセット!
 勝者:ドロー』



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0812/シグルマ/男性/29歳(35歳)/戦士】


 NPC
 晴々なる子
 ココ
 ヴィンセント・フィネス


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■         ライター通信          ■
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 初めまして、今回ご参加頂き真にありがとう御座います。
 ライターの田村鈴楼です。納品が遅れて申し訳ございません。

 あまり指定がなかったので好き勝手やらせて頂きましたのですが、どうだったでしょうか?
 NPC達も好き勝手にした結果なのですが、お互い本気を出して、ココは夢を見させ、シグルマさんはその中を切り抜けた――
 個性を出そうと、私なりに奮闘してみたのですが、ご意見ご感想等ありましたら、送って頂けると、今後の参考にします。

 途中で勝敗について変更してしまったこと、申し訳御座いませんでした。変更前と結果は変わりません。
 何かありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。

 それでは、失礼致します。ありがとう御座いました!