<PCクエストノベル(1人)>



盗賊二人のドタバタ都市探索〜落ちた空中都市〜

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【2787/ワグネル/冒険者】

【助力探求者】
【キャビィ・エグゼイン/盗賊】
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 『落ちた空中都市』と呼ばれる場所がある。
 古代人が自らの力を過信し、巨大な魔法の力で空に都市を築き上げた都市だ。だが、魔法の暴発で湖に沈んでしまったという。
 現在は湖の底――
 しかも、その湖には魔物がわんさかとわいていると言われている。

 その空中都市に。
 何でも純金の宝があると聞いて、ワグネルの盗賊的好奇心が思い切りくすぐられた。
ワグネル:「そりゃ確かめにいくしかねぇっつーの」
 わくわく旅の準備を始めてみるが、自分は盗賊だ。戦闘能力に乏しい自分が魔物に対抗できるだろうか。
ワグネル:「用心棒のひとりくらい雇っていくか……」
 そう思い、色んな人間に声をかけた。かけてかけてかけまくった。
 そして、
ワグネル:「……んで、なーんでてめーがついてくるんだかな」
 天を仰いでワグネルは嘆いた。
キャビィ:「うるさいなあ。あたしだって盗賊なんだから興味持って当然じゃん」
 キャビィ・エグゼイン。普段はエルザード国の王女エルファリアの別荘で働かされている娘である。
 何でも前に盗みに失敗して捕まって以来、働かされているとかなんとか……
ワグネル:「盗みに失敗するようなやつについてこられても困るんだがなあ」
キャビィ:「ひとりよりふたり、いないよりゃマシだろ」
 キャビィはワグネルの横を歩きながら、指をつきつけてきた。
キャビィ:「大体、色んな人間にナンパよろしく声かけまくって、フラれまくったあんたに言われたかないよ」
ワグネル:「ぐぐ……」
 ワグネルはうめいたが、事実である。
 仕方なくキャビィを連れて空中都市へ向かうことにした。

 魔術具店で水中でも息のできる魔法薬を買い、トラップ解除用の道具をあらかた揃えてから、ワグネルはキャビィに言った。
ワグネル:「おい。お前も半分持てっての」
キャビィ:「何でかよわい女の子のあたしが持つんだよ」
ワグネル:「こんなもんひとりで持ってたら俺が沈んで終わっちまうだろが!」
キャビィ:「問題ない。そんときゃあたしひとりで空中都市を探索して、見事成果を手にいれて、ひとりで帰ってきてやるから」
ワグネル:「こんの……っ」
 ワグネルの指先がわらわらと怒りでうごめく。
ワグネル:「てめぇが沈んでも助けてやらねえからな、絶対に!」
キャビィ:「おあいにくさま、あたしは泳ぎは得意なんだよ。少なくともあんたよりは身が軽いしね」
ワグネル:「だから荷物半分持てっつってんだろがーーー!」
 どれだけ怒鳴りつけても、キャビィはそ知らぬ顔。
 ――置いてったろかこいつ。ワグネルは真剣にそう考えたが、ひとりで空中都市に行く危険性を考え、ぐっと自制した。
 実際、今用意した荷物をひとりで持つと本当にワグネルが沈んでしまう。
 ワグネルは渋々、トラップ解除用道具をいくつか選び出して置いていくことにした。
 盗賊は身軽が鉄則だ。それもたしかではある。ただ問題はトラップに引っかかって魔物に出会ってしまったときのことで、ただのトラップしかないという保証があるなら身軽にでも何にでもなってやるのだが――魔物には出会いたくない。
ワグネル:「武器もあまり持ちたくねえしなあ……」
キャビィ:「何言ってんのさ。魔物なんか逃げりゃいいんだよ」
ワグネル:「ま、そりゃそーだ」
 あっさりとキャビィの意見に同意し、ワグネルはぽいぽいと道具を放り出して荷物をかなり軽くした。
 そしてそれを体に装備して、
ワグネル:「よし、行くぞ!」
 北東、落ちた空中都市のある方角を指差して号令をかけた。
 キャビィは隣で、大あくびをしていた。


 険しい山岳を登ったその上にたまった湖。そこに落ちた空中都市がある。
ワグネル:「ま、山登りなんざ俺たちにゃたいしたこたぁねえな」
 湖まであっさりたどりついた二人は、湖を見渡した。
 広大な湖だ。とにかく広い。この山は元々火山ででもあったのだろうか――その火口に雨が溜まった、かのような湖である。
キャビィ:「湖見学に来たんじゃないんだよ。早く行こうよ」
 キャビィがせかすので、ワグネルはぽいとキャビィ用の水中呼吸魔法薬を湖に放り込んだ。
 たぷん。
 キャビィが悲鳴だか怒声だか分からない声をあげた。
キャビィ:「沈んじゃうじゃないかっ!」
 慌ててキャビィはざぶんと湖に飛び込み、沈んでいこうとしていた薬を取り上げた。
 そして湖からあがってくると、
キャビィ:「お返しだい」
 げしっとワグネルを蹴っ飛ばした。
 ざぶん!
 派手に水しぶきがあがった。
ワグネル:「どわーーー!」
 湖に蹴り落とされたワグネルは、大慌てで首を水面に出し、ちょうど手に握っていた水中呼吸用の薬を飲んだ。
ワグネル:「てめっあとで殺す!」
キャビィ:「やれるもんならやってみな」
 キャビィも薬のコルク栓を抜き、こくこくと薬を飲み干していた。
 この薬の効き目は――一番高いものを、胃を引き絞るような思いで買ってきたので――まる一日。
 探索には充分だ。
 キャビィが再び湖に飛び込んでくる。
ワグネル:「さてもぐるかね」
 と、ワグネルがキャビィに言った瞬間――

 ざっぱーん!

 高い高い水しぶきをあげて、巨大なサメのような魔物が襲ってきた。
ワグネル:「げっ!」
 その尾が水面をクジラのように叩き水を大きく揺らす。ワグネルもキャビィもうまく水中で体勢を整えられない。
 どうやらさっきから湖で騒いでいたのが原因で、魔物を呼び寄せてしまったらしい。
 キャビィが自分で宣言したとおりすいすいとした泳ぎでさっさと湖に潜って行ってしまう。
ワグネル:「待てやこらーー!」
 ワグネルは自分も水中にもぐり、必死でサメ型モンスターから逃げるように泳いだ。

 サメはしつこかった。
 ワグネルは仕方なく、魔物対策用のアイテムその一を取り出す。
 液体状のそれを水中にぶちまける。――魔法薬だ。
 紫の色の水がサメへと向かって流れていった。
 浮力の問題で、その魔法薬は下に沈んでくることがない。したがって下へと向かっているワグネルとキャビィには害がない。
キャビィ:「あれって、目潰しじゃなかったっけ」
ワグネル:「そうだな」
キャビィ:「……目だけつぶしても、余計に暴れるだけのよーな気がするんだけど」
ワグネル:「心配すんな」
 ワグネルは水の中を泳ぎながら、堂々と言った。
ワグネル:「今回の探索には賭けてんだ。高い薬ばかり揃えてきた――あれはただの目つぶしじゃねえ。痺れ薬も混じってる」
 へえ、とキャビィが感心したように声をあげた。
キャビィ:「あんた、なかなか漢じゃん。あるかどうかも分からないもんに賭けるなんて、盗賊としては珍しいほうだよな」
ワグネル:「バカ言え。お宝に賭けてこそ盗賊だ」
キャビィ:「これでお宝がなかったらただのバカだもんね。バカにもなれる! だからこそ漢だ」
ワグネル:「………」
 紫色の液体はサメ型モンスターに効き目があったらしい。水の乱れが収まった。
 そこからはすいすいと、目的地に向かって泳ぐことができた。

 落ちた空中都市――
 落ちてからもう何年も経ち、落ちたショックなのかあちこち破損してはいるが――不思議と苔生してはいない。
キャビィ:「綺麗な都市。ふうん……昔ここに、人が住んでたってわけか」
ワグネル:「神の怒りに触れて落とされたってか……ありがちな伝説だぁな」
キャビィ:「何言ってんのさ。この都市は魔法の暴発で落ちたんだよ」
ワグネル:「その暴発ってあたりがもう、神の意思っぽいじゃねえか」
キャビィ:「あんたなに有神論者になってんのさ?」
ワグネル:「あー……俺にもよく分からん」
 そう言えば自分は無神論者だった。それを思い出して、ワグネルは首をひねった。
 この不思議な『空中都市』に、どこか毒されたかもしれない。
ワグネル:「どうでもいい。さあ探索するぜ」
キャビィ:「いいけどさ。ところで、今回のお宝って何だっけ?」
ワグネル:「純金の何か」
キャビィ:「何かって何さ!」
ワグネル:「知らん」
キャビィ:「ありえないしその返事!」
 キャビィが、水中で上を仰いで嘆いた。
キャビィ:「あたしなんでついてきたんだろ……!」
ワグネル:「俺もお前についてこいなんて言った覚えはねーぞ」
キャビィ:「っかーー……あんたって、やっぱ漢じゃなくてただのバカじゃん」
ワグネル:「うるせえ!」
 しゃべるたびにごぼごぼと二人の口から泡が出る。
ワグネル:「来たからには手伝え。元々この都市には先人の残した財宝が盛りだくさんあるって噂があんだからな」
キャビィ:「それくらい知ってるさ。んじゃあたしあっち捜索してくる」
ワグネル:「待て待て待てー! 単独行動してどうすんだよこのバカ……! 何のためにお前を『一応』雇ってると思ってんだ!」
キャビィ:「今『一応』ってとこに力入れなかった?」
ワグネル:「文字通り『一応』だからだ! とにかく、お前だってひとりで魔物に出会ったら危険だろうが……! 一緒に来い!」
キャビィ:「仕方ないなあ……」
 キャビィはぽりぽりと首の後ろをかきながら、面倒くさそうについてきた。

 探索の基礎。ありそうな場所をさがすこと。
ワグネル:「しっかし……都市だからなあ……」
キャビィ:「あそことか怪しくない?」
 キャビィが指差した先。そこは、
 神殿――

 神殿の入り口には、なぜか門番よろしく骸骨のような魔物が立っていた。
 手には槍を持っている。下手に敵に回したくない。
ワグネル:「どう騙してやるかねえ」
キャビィ:「言葉通じそうじゃん? ここはいっちょすかしてみよっか?」
 キャビィはそう言って、堂々と骸骨の前まで泳いでいく。
 ワグネルも念のため後ろに続いた。
 キャビィはそばかすのあるその顔に、満面の笑みを浮かべてごますりの手をした。
キャビィ:「ねえねえそこ立つおにいさん♪」
骸骨:「……私女……」
キャビィ:「あっごめんなさい! 男に見まごうほどにたくましかったものだから!」
 後ろでワグネルはずっこけた。
骸骨:「たくましい……」
キャビィ:「うーん、あたしもおねーさんぐらいたくましくなりたかった! 今湖の上ではたくましい女の子がモテるんですよう! おねえさん、湖の外に出たらモッテモテですよう」
骸骨:「……私夫いる……」
キャビィ:「おお! ならちょっと旦那さんにやきもちやかせてみませんか? 湖の外でモッテモテなところ見せて、旦那さんに『こいつは俺のもんだ!』って言わせるとか!」
骸骨:「……私そんなことして楽しい歳じゃない……」
キャビィ:「嘘っ! めちゃくちゃ若く見えますよ! 十代って言っても通用しますよ! 失礼ですけどおいくつですか?」
骸骨:「……八十五……」
 がらがらがっしゃん、と近くの家の屋根が落ちてきたような気がした。
 ワグネルは額に手をあてて、ため息をついた。
 そして、ここは何とかして門を開けてもらうべく、キャビィに調子を合わす。
ワグネル:「いやー、信じられねえ。八十五!? 若返った年数じゃないんスかそれ。絶対俺彼女にしてえと思ったのに」
骸骨:「………」
 骸骨がぽっと頬を染めたような気がした。
 ……器用である。
ワグネル:「もしやその神殿の中に、あなたのように若返るための秘密があるとか……!?」
キャビィ:「うわあ! そうだとしたらあたしも絶対知りたいですー! ねえねえ、中に入っちゃダメですかあ?」
骸骨:「だめ」
 うわ即答。
キャビィ:「何でですかあ〜〜〜」
骸骨:「ここ……誰も通さない……それ、契約……」
 うわ一番ヤなパターン。
キャビィ:「うっうっ。キャビィ悲しい」
 キャビィが嘘泣きをしてみても、
ワグネル:「奥さんを俺のものにできねーねら、せめて神殿内の女の子を俺に紹介してくれ! もちろん全員奥さんより劣るだろうけど!」
骸骨:「だめ」
 ……だめだこりゃ。
 ワグネルとキャビィはひそかに視線を交わした。
 ここから入ろうとするのはいったん諦めよう。
キャビィ:「分かりました……あたしもあたしのやり方で頑張ります……」
ワグネル:「そうだな。人の手に頼ったのがいけなかったんだぜ、きっと」
骸骨:「……頑張って」
 骸骨はやけにいい人だった。
キャビィ:「いいなあ……おねーさんみたいな人を奥さんにできるなんて……旦那さんは今どこに?」
骸骨:「あそこ……」
 骸骨が指差した先。
 青い屋根の家が見える。
ワグネル:「せっかくだ。奥さんに色々世話んなったって挨拶してくっか」
キャビィ:「そうだね――じゃ、またね奥さん」
 そんなことを言いながら、二人は泳いでその場を離れた。


キャビィ:「正面から入れないなんて、面倒くさいなあ」
 骸骨が見えなくなる距離にまで来て、とたんにキャビィの口が険悪なものに変わる。
ワグネル:「仕方ねえ。女でも兵士らしいからな」
キャビィ:「八十五歳で!?」
ワグネル:「ここは魔法都市だぜ。ひょっとしたら本当に若返りとかの魔法が作られてたのかもしれねえだろ」
キャビィ:「うわー。その魔法の研究書がお宝だったら、絶対売れそー」
 キャビィが両手を握り合わせてニヤリとする。
ワグネル:「……自分でその魔法使おうとは思わねえのか」
キャビィ:「あたしは不老なんざどうでもいいさ。金と楽しみさえあればね」
 ワグネルはくくっと笑った。
 その言葉には同感だったから。
ワグネル:「さて、どうしたもんかねえ……」
キャビィ:「あの門番騙すためにさ、旦那とやらに会いに行ってみる?」
ワグネル:「旦那も魔物だろうがよ」
キャビィ:「のぞくぐらいいいじゃないよ」
 仕方ねえな、とワグネルはため息をついた。
 すいすいと泳いで、二人で青い屋根を目指す。
 とっくになくなっている窓ガラス。開きっぱなしの窓をひょいとのぞくと――

 どぷっ――

 ワグネルの鼻先を、槍先がかすめていった。
ワグネル:「な、なんだあ!?」
キャビィ:「攻撃されてやんの」
 キャビィは楽しそうに、口笛でも吹きそうな表情でワグネルを見る。
キャビィ:「どうせなら、鼻落としてもらえば良かったんじゃないの?」
 ワグネルはわなわなと震え、
ワグネル:「じゃあお前も窓のぞいてみやがれ!」
 と怒鳴りつけた。
キャビィ:「やだよ。怪我したくないもん」
ワグネル:「てめーはなあ……」
 何だか色々と言いたいことがありすぎて、逆に何も言葉が出てこない。
 ワグネルはがっくりと肩を落とし、それから、
ワグネル:「仕方ねえ……」
 道具袋の中からひとつの魔術具を取り出した。
 これは安物だ。大きな音を立てるだけの。
 ワグネルは何とか窓から顔を出さないようにしながら、その球状の魔術具を窓の中に放り入れた。

 どばん!

 爆発音が鳴る。
 どぷっどぷっどぷっと、窓から何度も槍が突き出されてくるが、ワグネルとキャビィは身を伏せて避けた。
 そして、ころあいを見計らって二人は再び神殿の門番の元へと泳いでいった。
ワグネル:「奥さん!」
 慌てているような、深刻な顔を装って、ワグネルは骸骨女兵士に声をかけた。
骸骨:「……またお前たち……」
ワグネル:「奥さん、今の爆発音聞こえたか! ありゃお宅からだ、旦那さんに何かあったかもしれない!」
骸骨:「………!」
 骸骨兵士はさすがに反応した。
キャビィ:「契約がどうのこうの言ってる場合じゃないよ! 旦那さんの危機だよ!」
 キャビィがワグネルに調子を合わせて、早口でまくしたてる。
 骸骨兵士は――
 とん、とその場の床を蹴り、自分の家に向かってものすごいスピードで泳いでいった。
キャビィ:「骸骨だから水圧が少なくて済むんだなあ」
ワグネル:「んなこたどうでもいい! 今のうちに入るぞ!」
 ワグネルは慎重に神殿の扉に手をかける。
 ――重い。
ワグネル:「手伝え!」
 自分からは一向に動こうとしないキャビィに怒鳴りつけると、仕方ないとでも言いたげにキャビィは扉に手をかけた。
 と――
???:『汝、なにゆえこの神の園に足を踏み入れるか』
 どこからか、声が響いてきた。
ワグネル:「げっ。問答タイプかよ……」
???:『汝、なにゆえ神の園に足を踏み入れるか』
 ワグネルとキャビィは顔を見合わせる。
 そして――
キャビィ:「お宝のため!」
 どきっぱりと。
 キャビィがそう答え、ワグネルがずるっとすべってこけた。
 しかし、
???:『汝、正直者よ。神の園は真実なる心を歓迎する』
キャビィ:「お? お? お?」
???:『入るがよい』
 ぎぎ……い……
 重かった扉が、自ら開いていく。
キャビィ:「やったね!」
 キャビィがVサインをワグネルに向かってつきつけてくる。
 ワグネルは口をあんぐり開けて、声もでなかった。
???:『忠告する。神の園を荒らすべからず。荒らせばそれすなわち神の怒りに触れることなり。繰り返し忠告する……』
キャビィ:「もっちろーん! ほらほらワグネル、入ってきなよ」
ワグネル:「……ああ」
 二人が門の中へ入ると、門は自動的に閉まった。
 そして――
ワグネル:「―――!!!」
 目の前は、骸骨兵士だらけ。
骸骨:「曲者!」
ワグネル:「ま、待て待て俺たちゃ門番に認められてだな――!」
骸骨:「曲者!」
 槍が次々と繰り出されてきて、言い訳をする暇もなかった。どうやら最初に騙した門番骸骨のように、「契約」とやらに縛られているらしい。
 ワグネルとキャビィは逃げ回った。逃げて逃げて、そして……
 いつの間にか神殿の地下に入り込んでしまっていた。
ワグネル:「地下か……お宝がある場所としちゃあ、妥当だな」
キャビィ:「適当に入っただけのくせに」
ワグネル:「なめるな。盗賊としての勘でここに導かれたのさ」
キャビィ:「真顔で言えるあんたを尊敬するよ」
 地下は水が入り込んでいない。
 ただし、天井からは水漏れしている。ぴちゃん、ぴちゃんと薄暗い廊下に雫の落ちる音が不気味に響いた。
ワグネル:「かーなりそれっぽい場所じゃねえか。ビンゴか?」
キャビィ:「ただの死体安置所かもよー」
ワグネル:「そういうところにも案外お宝があるんだよ」
キャビィ:「墓荒らし? きゃー怖い!」
 不毛なやりとりをしながらも前へと進む。
 廊下は石畳だったが、そこは二人とも盗賊である。足音を消すくらいわけはなかった。
ワグネル:「誰もいねえな……拍子抜け」
キャビィ:「いいんじゃん? 楽で」
ワグネル:「こういうときに楽だと後でぜってー苦労すんだ……」
 盗賊的な勘がビビビと強く反応していた。
ワグネル:「おまけに一本道だしよ……」
 しかし、他に道がないのだからとりあえず進んでみるしかない。
キャビィ:「純金の何か、ねー」
 キャビィが頭の後ろで手を組みながら言った。
キャビィ:「純金の薄っぺらい紙、とかだったらどうしよーねー」
ワグネル:「うるせえんだよお前はさっきから」
キャビィ:「静かにしてるの性に合わないんだよね」
 しかしそこは、キャビィも盗賊。
 声の響きそうなこの地下道で、押し殺した声でしゃべることは忘れていなかった。
ワグネル:「元は取ってやるさ……意地でも」
 そう、つぶやいた時――

 目の前に、扉が現れた。

 キャビィが嬉しそうにとととっと小走りに駆けて行き、扉に軽く手を触れる。
???:『汝、神の園を荒らすべからず……』
ワグネル:「忠告か。そういやさっきの門も言ってやがったな」
キャビィ:「知ったこっちゃないじゃん」
 キャビィは嬉々として扉を押した。
 ワグネルも異論はなかったので、それを手伝った。
 そして。

ワグネル:「!!!」

 目の前が一気にまぶしくなり、ワグネルは思わず目をつぶった。
 隣でどうやらキャビィも同じ反応をしたらしい。
キャビィ:「まぶし……!」

 しばらく時間を置いてから、ワグネルはそろそろと目を開く。
 視界が。
 視界がきらきらと輝いている。
 視界が、金色に輝いている。
 ワグネルは目を見張った。
ワグネル:「じゅ、純金の……」
キャビィ:「純金の……部屋?」

 その一室は、壁がすべて金で出来ていた。
キャビィ:「すっごいじゃないか!」
 キャビィは飛び上がって喜んで、ぺたぺたと壁に触った。
キャビィ:「わわわ、本物? 本物? これってレンガと同じような作りだよね、取り外せるよね?」
 そう、それはまるで純金ののべ棒をレンガのように積み上げて造ったような壁だったのだ。
 ワグネルも飛び跳ねたいくらいに嬉しいまぶしさだ。
 壁、天井――床をのぞいてすべてが。
 金色ののべ棒で。
ワグネル:「取り外すぞ……!」
 二人してナイフを取り出し、できる限り金に傷をつけないよう慎重に慎重にナイフの先をのべ棒とのべ棒の間にさしこんでいく。
 不思議なことに、接着剤のようなものを感じない。
 魔法でつなげてあるのだろうか?
ワグネル:「さすが魔法都市……!」
 ワグネルはわくわくしながら金ののべ棒のひとつを――
ワグネル:「よし!」
 取り外した。
 とたん。

 バタン!

 部屋の扉が閉まった。
 部屋の中にどこからか声が響いて聞こえる。
???:「汝、神の園を荒らす者。神の園、荒らすべからず……」
ワグネル:「げ……っ!?」
キャビィ:「まさか……」
 キャビィが扉に駆けていく。
 しかし、扉は外から押すタイプの扉だった。内側には何もついていない。
 内側からは開けられない。
 ワグネルは慌てて取り外したばかりののべ棒を壁にはめこんだ。

 ぎぎ……い……

 扉がゆっくりと開く。
 ワグネルはがっくりと肩を落とした。
ワグネル:「まじかよ……こういうタイプのトラップ?」
キャビィ:「何とか扉を騙す方法を考えればいいんだろ?」
ワグネル:「分ぁってるよ。少なくとも三本は持って帰らねえと来た甲斐がねえ」
キャビィ:「それってもちろん、あたしの分を除いてだよね? あたしは五本は欲しい」
ワグネル:「帰りに重すぎて沈んでも知らねえぞ」
 ワグネルはもう一度、のべ棒を取り外した。
 扉がすかさずバタンと閉じる。
 道具袋をあさり、魔法薬を取り出す。
 これは今でこそ液体だが、空気に触れると固形になるタイプの魔法薬だ。
 それをのべ棒で空いた部分に流しこんで……

 固形になった魔法薬が、その場所を埋めた。
ワグネル:「これでどうだ……?」
 ワグネルは待った。しかし――

 扉はうんともすんとも言わない。

キャビィ:「頭のいい扉。けちっ!」
 キャビィが扉を蹴っ飛ばし、自分の足を痛めて辺りを飛び回った。
ワグネル:「お前も充分アホだ」
 ワグネルは他にも色々試してみた。ひょっとして重さが足りないのかと、穴を埋めるのではなくのべ棒と同じ重さのものをはめこんでみたり、爆発物で大きな音を立ててみたり。
 あるいは扉のほうを思い切り押したり、爆発させてみたり、魔法薬で何やかんや……
 一時間以上それを繰り返し、やがてワグネルは天井を仰いだ。
ワグネル:「……なんてこった!」
キャビィ:「純金のお宝ってこういうオチ!? ありえない〜〜〜!」
ワグネル:「しょせん魔法には勝てないってことか……」
 ワグネルは苦々しい思いで扉を見つめた。
ワグネル:「何てったって、その魔法を暴発させて都市ごと落ちたんだしなあ……」

 結局――
 ワグネルとキャビィは、純金の部屋を諦め、外へ出た。
 骸骨兵士たちを何とかやり過ごし、空家そうな家をさがして空き巣まがいのことをしてちまちまと金にかえられそうなものを手に入れ、そそくさと空中都市を出ようとしたところで、
骸骨:「……お前たち……」
 後ろから声をかけられ、ひいっと縮み上がった。
 そこにいたのはどうやら――持っている槍の種類から、最初に神殿の門番をしていたらしき女兵士だった。
 ワグネルたちはとっさに深刻な顔をし、
ワグネル:「旦那さんは大丈夫でしたか!?」
 などと言ってみた。
 骸骨兵士には、殺気はなかった。
骸骨:「ああ……誰かが外からおかしなものを放り込んできたらしいが……平気だった……」
 教えてくれてありがとう、と骸骨兵士が頭をさげてくる。
 ワグネルとキャビィは視線を交わし、冷や汗を流した。流しても水中なのでいまいち感触はなかったが。
骸骨:「外とやらに帰るのか……」
キャビィ:「はい! おねえさまのようにたくましい女目指して頑張りまっす!」
骸骨:「私はここでは痩せていることで有名だったのだが……お前たちの世界ではこれをたくましいというのか……」
キャビィ:「そそそ、そうなんですっ!」
骸骨:「……気をつけて……」
 心底心配そうな気配がする。
キャビィ:「ありがとうございます!」
 キャビィが大きく頭をさげて、にこにことスマイルを振りまきながら、
キャビィ:「では、おねえさまもお元気で!」
骸骨:「ああ……お前たちも……」
 もし可能なら、と骸骨はつぶやいた。
骸骨:「お前たちの挙式に私も行きたかった……」
ワグネル:「………!?」
キャビィ:「ありえないし!」
 思わず素に戻ったキャビィに、骸骨兵士が驚いたような顔をする。器用である。
 キャビィは慌てて、
キャビィ:「そそそ、それじゃ!」
 と背を向けて泳ぎ出した。
ワグネル:「てめ、待て!」
 ワグネルも慌てて後を追う。
 骸骨兵士は何時までも何時までも見守っていてくれた。

ワグネル:「はあ……」
キャビィ:「ため息なんかつくなよ辛気臭い」
ワグネル:「手に入れた分全部売っても今回の支払い分取り戻せっかどうか心配でよ」
キャビィ:「あっそ。言っておくけど、あたしが見つけた分はあげないよ」
ワグネル:「てめ!?」
 キャビィはそ知らぬ顔ですいすいと泳いでいった。
 そして、前のほうでサメ型モンスターに遭遇し悲鳴をあげて逃げ回った。
ワグネル:「ざまみろ」
 吐き捨てて横を向いたワグネルは、見た先にもう一匹ワニのようなモンスターがいるのを見て引きつった。
 だんだんとこちらへ近づいてくる――
ワグネル:「だーーーー!」
 ――盗賊に大声は禁物。
 そんな基本的なことさえ、今は忘れ去ったワグネルとキャビィの悲鳴が、湖の底で響き渡った。


 ―Fin―


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初めまして、ライターの笠城夢斗です。
今回は私のような新人を使ってくださりありがとうございました!
盗賊なのにどう考えても盗賊な言動ではない二人をお許しください。おまけになぜかワグネルさんがつっこみになってしまっておりますが……(汗)
楽しんでいただけますよう願っております。
またお会いできる日を願って……