<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


■逃げたカンテラ■



 逃げたカンテラ。
 隠れたカンテラ。

 出てきて僕らの胸を照らして。


** *** *


 木の洞で響くにも似た音を響かせる弦楽器。
 吟遊詩人の奏でる竪琴と比べてどこか洗練されていないそれを、とても気に入っている。
 親が「仕事を覚えろ」と手伝わせる合間だとか、夕方の自由な時間だとか、そういった隙間を見つけては腕に余る丈の弦楽器を抱えてちょっとした木陰に向かう。彼の、それは日々の楽しみで。
 ――ふと、耳に響いた声に弾みがちだった足を止めた。
 向かう先から誰かの声、歌っている。
 知らずきゅうと楽器を抱え、弦を押さえる感触に慌てて腕の力を抜いてから彼はそちらを見遣った。生憎と角の向こうなので見えるものはないけれど、不思議と胸の内を擽る声に一息に近付くのも惜しい。
 そっと目を閉じて、ただ聴いてみる。
 高みから、流れ落ちて身の内の何かを打つ声音。
 洩れる息は感嘆の息。
 感情の根を擽るものは確かにあると思わせるその歌声をただ聴いて佇んだ時間は、けれど長くはなかった。
 瞬いて彼は再び歩き出す。転がる砂利を時に蹴り転がして進み角を曲がる。すぐに見えるいつもの場所。歌声の主もそこにいるだろうかと僅かながら緊張して視線を向ける、そこに。

 幻想のように光を受けて笑む若い娘。

 にっこりと見知らぬ桜色の彼女が笑いかけてくるのに、はじらいも警戒もなかったのは、多分歌が綺麗だったからじゃないかと、近付いて挨拶してから思った。
 自分よりも幾つか年上だろう程度の彼女はとても綺麗な顔をしているけれど、何よりも聞こえていた歌が心を占めていたのであまり萎縮したりもしない。向かい合って、その深い色の瞳に自分が映るのを見ながら、楽器を抱え直してから訊く。
 あんたが歌ってたの?
 そう問えば、彼女は鮮やかな笑みをまた浮かべると積まれた石材に腰を下ろした。砂埃を掃う素早い手の動き。
「音楽を大事にしてる、愛している人に響く歌を歌ってみたんだけど」
 そこで言葉を切ってわざとらしくこちらの顔を見、抱えた楽器を見、うんうんと満足そうにする。
 なんだか先生にでもあれこれ評価されているみたいで落ち着かない風に足を動かしていた彼に、その人はどことなしからかいを含んで笑みを刷くとこう言った。
「聴いて気に入ってくれたなら、あなたは本当に音楽が好き、って事ね」
 いいことだわ、とやはり教室の先生みたいな彼女の声に目尻が少し、熱い。

 ユンナと名乗った彼女が手招くままに近付いてぽつぽつと言葉を交わす。
 このやたらと綺麗な顔をした人は歌姫だという。ああだからあんなにも胸に響く歌だったのかと思いながら、時折首を傾げる言葉を聞いて異界から来た人かと気付いて。
「――その人が、歌を紡ぐ事も教えてくれたのが始まりかしら」
 普段は時間を惜しむ程に――それでも念入りに音を確かめはするけれど――楽器と語らう自分。でもユンナが懐かしそうに語るその言葉をこの日は聞いていた。何故かと考えれば、最初に角の向こうで聴いた歌があまりに心に沁みたからだ。歌う人の気持ちも知りたいと思ったのだろう、きっと。
 親よりもずっと長生きしている雑貨屋の爺さんよりも、もっと不思議な色の目で何処かを見ながらユンナが話す。名前を与えてくれた人、様々な事を教えてくれた人、その好きになった人、歌姫と称される程の彼女の声の切欠。一音一音が愛情に溢れていて、聞きながらそれさえも歌みたいだと。
「そっちは?」
 ちらちらとユンナの同じ人間とは思えない顔立ちを眺めながら、なによりも語る言葉に聞き入っていたら突然に話をふられて彼の指が小さく跳ねた。ぎしと弦を弾いて洞に響く音が一つ転がり出る。
「いい音ね」
「あり、がとう」
「その楽器と出会ったのが、音楽を選んだ切欠?」
 紫色の瞳が、母親が笑って抱き締める時のような光で見詰めてくる。
 その穏やかさに促されるみたいにして、少年は楽器を抱え直すと「うん」と頭を一度振った。



 ――本当は、夜には用事もあったのだけれど。
 でも「音楽を学びたいのに言い出せない」という少年の事が心に触れた。
 だから問答無用で協力を決定し一人で盛り上がっていたオーマ・シュヴァルツを踵落としの一発で沈めてから、ユンナは改めて協力を申し出たのだ。マスタとかいう男に。
 そうして直接会ってみた少年は、話す言葉、ユンナの歌の受け止め方、それらを少し知れば豊かな感受性と音楽への愛情を見て取れる。才能も、ある、だろう。
「じゃあ、親御さんの手伝いしながら合間に練習なのね」
 邪魔しちゃったかしら、と少年の表情を伺いながらあえて言う。
 途端に少年は慌てて否定して、落ち着かなげに抱えた楽器の弦を弾いた。
 目の前の、この彼が言うには「一目惚れ」だという楽器。不釣合いな丈のそれを丁寧に抱えて時折弦を鳴らしてみる音はゆったりと低く、耳触りが本当に良い。
「でもそれじゃああんまり遊べないでしょう?なんだってそんなに音楽が好きなの?」
 思い出したように零れ出る音が不自然に跳ねて、少年が照れ臭そうに視線を泳がせる。
 あーとかうーとか言いながら続かない彼の言葉。手元は落ち着き無く弦を揺らして旋律にならない音がぱらぱらと溢れて。
 それを何気なく聴きながら遠く、視線をユンナは投げた。
「大切なものだとか、還る場所だとか、愛おしい全てに対して歌うんだけど」
 けれど一つだけ、ユンナがけして舞台で歌う事のないものがある。
「愛を、誰かに向けて歌うものだけは、絶対に歌わないのよ私」
 我ながら格好良いわよね、と少年を見る。
 相手は弦を弾く手を止めてユンナを見、それから楽器を見下ろすとぽつぽつと口を開き出す。
 口にしなかった、少年への言葉。
 そういう譲れない何かを持っているんじゃないの?
 音楽に対しての、それを言葉にせず問うてみたようなものだったけれど、意識して受け止めてはおらずとも少年には通じたのだろう。

 昔から様々に響く音が好きだったこと。吟遊詩人の奏でる曲を懸命に覚えたこと。
 安物でも小遣いを貯めて手に入れた楽器。
 音が指から響くのが好きだ。誰かが通ったときにちょっと笑って見て行くのが楽しい。

 話し出せばとめどない少年の想い。
 けれどそれが止まれば、弦に触れる指辺りへと向けていた顔の下半分が少し歪んだ。
 少年からは見えないままユンナの瞳が微かに細められる。
「だけど」

 だけど、父ちゃんも母ちゃんも後継ぐって決めてるみたいだから。
 趣味にしちゃあ大したもんだ、っていうから。
 仕事の手伝いをさぼる程にはしないようにっていうから。

「だからさ」
 無理なんだ。音楽の勉強するの。
「無理なの?音楽すること」
 ぽつりと余韻も強く落ちた言葉をすかさずユンナは拾い上げた。
 あえて勉強でなく、ただ音楽を『する』として訊く。
 かろうじて見える少年の表情。その眉間に少し入る皺。
「……わかんね」
「あれだけ『音楽好き』って話してたのに?」
 目的は、励ましではないのだ。
 力づけるのではなく、自ら望んで動くようにする。
 あるいは、それを諦めてしまうのが消えた光の意味するところだろうか。
 想う先を見失い向かう力を失い、それはユンナの記憶の底を弱く浚う。奪われて力を失う心の光。
 僅かに思い返す間にまた少年が本当に小さく呟いた。
「わかんね。だけど、無理なのかなぁ」
 楽器弾くの好きなのに、と。
 諦めきれないのだと主張する瞳の揺れに合わせるように、かちゃりと小さな硬い音。
 目を丸くする少年の前に、どこかから転がり出たかのように不安定に取手を揺らして蓋を叩く、それは。


 今は誰の胸も照らさない、灯火を消したカンテラ。


** *** *


 少年と、その胸に隠れていた物語のカンテラを抱えてユンナがまず音楽祭の会場に着いた。
 進行役と打ち合わせる間にジュダ、そして母子を連れたオーマと現れる。
「ジュダ、いいかしら」
「……ああ」
 舞台に上がる者達が手を馴らしているのか、幾つもの音が鼓膜を叩く。
 半ば引き摺られる勢いで一緒に来た少年が楽器を抱えてその音達を拾う様を見ながら、まずユンナはジュダを手招くとその長身を滑らかな指先で引いて少しばかり屈ませた。心得たもので、表情を変えず耳を寄せるジュダ。
「歌に乗せる詩を紡いで頂戴。愛しいものやそれぞれが還る場所へ向けた想い、それを語る詩よ」
 寄せられた唇から洩れる言葉に、ジュダは何も問わずに少年だとか母子だとかに視線を走らせてから最後にユンナの抱えるカンテラを見た。今も灯りを抱えないその硬いシルエットを眸に映し、それからユンナへ向けて囁き程の大きさで「わかった」と返すと屈んでいた背を伸ばす。

 陽が空の端へと逃れ藍の色を濃く滲ませつつある空。
 その下で明かりを灯してさざめく人々。街路にも点々と灯が入りつつある時間。
 無意識だろうか指が弦を求める少年。人の多さに身を寄せる娘を抱く母。
 老人は今頃職人と話をしているだろうか。

 大きなものではなく、小さな、ささやかな事柄を言葉にしようか。
 ジュダがそのように思ったかは、表情からは読み取れない。
 ただユンナに伝えられた詩が何気ない暮らしの中で見る事の出来るものへ向けた言葉が多かったというだけだ。歌姫が、心の灯火を取り戻して貰う為にと考えた、その意図を組んだのかもしれない。
「やっぱり、素敵な言葉だわ」
「そうか」
 そうよ、と満足げに微笑むユンナが持っていた件のカンテラをジュダに差し出す。
 無言のまま、手入れされた指から硬質のそれを預かると桜色の髪を名残のように翻して背を向けて彼女は舞台へと歩き出した。


 気付けば音楽祭は、さざめきの中で始まろうとしている。


 幾人もが歌い奏で踊り。
 その様々な世界に少年が瞳を輝かせているのがユンナには確かに見えた。
 ジュダに紡いで貰った言葉は頭の中、唇の向こうの舌の上、胸の内、いまや息づく程に己の中に満ちている。
 少年が特に聴き入るものはどれも想いの篭ったものばかり。混ざる上っ面だけの楽にはさほどの反応を返さない彼の姿に瑞々しい唇をついと笑みの形に引いて、静かに舞台へと歩き出す。
 ――彼が紡いだ詩。私が歌う詩。
 それはきっと少年の瞳に想いの光を灯す。
 ジュダの会った老人にも、オーマが連れてきた母子にも。
 そしてカンテラ自身にも。
 あ、とも、ら、とも、不明瞭な一音を滑り出させると後は周囲の何もかもが歌声に溶けて広がるようだった。

 それを聴いてオーマは母子を見る。
 途切れがちながら、いまだあれこれと言い合う手を繋いだままの二人。
「きれいなこえ」
 娘が無意識に零した言葉に母親もまた無意識に頷き返す。
 スーツ姿のままのオーマは流れ広がる歌姫の声に聴き入る母子へと数歩近付いた。
 微かな砂利を踏む音に母親が視線を向ける。
「歌はお好きですか」
 連れ出しておいて今更だが、彼女は素直に頷いて再び舞台へとその目を戻す。
 合わせてユンナの歌う姿を眺めながら、オーマは更に言葉を連ねていく。
「歌われたことは……いや、やはり子守唄ですかね」
「そうですね。子守唄なら」
 こんなに綺麗な声ではないけれど、と付け加えるのには笑って否定する。
 声の質が良くても想いの無い歌は心には響かないものだ。
「まだ小さな子に聞かせる子守唄は、まるで贈り物のようじゃないですか?」
「贈り物、ですか」
「母が最初に贈る、子が最初に贈られる、深い愛情の篭った唄」
 体格からの威圧感は多少あれど、初対面から変わらず丁寧な口調のオーマが微笑みさえ湛えて言うのに母親は舞台から僅かに目線をずらして空を見る。繋いだ手の先の娘もいつのまにか、舞台から母親へと目を移していた。
「そのときどんな気持ちで唄われたのか」
「宝物のような、ほんとうに、愛しくて」
 ユンナの声。言葉はジュダが紡いだ詩。オーマの仲間は世界の様々なものを想い愛し、それを示す。
 彼らの示すそれが、母子と、そしてユンナの会った少年とジュダの会った老人と、今ここで聴く人々と、それぞれに伝われば。
 人面草や霊魂がもさりもさりと歌に誘われるように足元で揺れている中で、母子は立っている。
「唄を贈った時の想いを、少し思い出してみても良いかもしれません」
 言うまでもない事だろうと思いながら、オーマ自身も浮き上がる想いに瞳を揺らしてそれだけを告げた。

 カンテラに何事か語りかけるジュダをうかがう前に見たのは、母親と娘が繋いだ手を互いに包むように握り直す姿。

 その母子の姿はジュダからも見えていて、手に持つカンテラに瞳があればカンテラにも見えていただろう。
 呼びかけるように軽く揺らすと蓋が側面と触れて微かに音を響かせる。
「……お前が消した光を、取り戻しつつある」
 かた、と今度はジュダの手によらず小さな音。
 冷ややか、と言ってもいい眼差しでカンテラを一瞬見て舞台の上で今も己の紡いだ詩を歌う彼女を見る。
 昼よりも朧な明かりの中で優しげな髪色は光のようだ。声が聴く者達の心に少しずつ染み渡り火を灯す。
 その姿から目を離さぬままカンテラへと語りかける言葉。
「物語へ還らぬのであれば、具現にて代わりを生み其れを還してもいい」
 かたん。
 蓋が風も吹かないまま跳ねた。
「だが、代わりが還り其れで十分であったならば、お前は」
 カンテラが揺れたのはいっときの事だった。
 緩やかに、淡々と語るジュダの言葉の先はカンテラにも容易く察する事が出来たのか。
 錆びた軋みを最後に動きを止める。
「お前は還る場所を失う」
「いやいやいや、そんな厳しい事はちょっと置いといてだな――ぐは」
「……反射だ」
「いやいや気にすんな気にすんな、気に」
 言葉の先を告げたところで乱入してきた見知った相手を瞬間沈めてしまった。
 頑丈な相手は平然と起き上がり何やら繰り返していたがぴたりと動きを止める。見ればユンナが物言いたげな厳しい目付きでこちらを見ながら歌っているではないか。一瞬だけ視線を交わしてジュダも意識をカンテラに向けた。
 多分あの視線は「馬鹿にかまけてるんじゃないわよ」という類だろう。
 女王様には素直に従うのが懸命だ。
「どうする」
 カンテラを顔近くまで掲げて問うてみる。
 だが再びオーマが割って入るとカンテラへと笑いかけた。
「だからちょっと待てって。まあアレだ、お前もちっとユンナの歌聴いてみな。もう聴いてるか?」
 その笑顔を横目に見、オーマの意図する所を理解してジュダがカンテラをユンナの側へと向ける。
 歌であるしどんな風にしていても聞こえるかもしれないが、多少は違う筈だ。
 紡いだ詩は少なくない。
 それをゆったりと響き渡る声で歌うユンナ。
 彼女の歌をカンテラに改めて聴かせる。
 ジュダはそのまま唇を閉ざしてオーマが働きかけるのを待った。
「ユンナを見て、それから歌を聴いてる皆を見てみな。それぞれよく見れば心に光が灯ってる――解るだろう?お前が隠れ歩いたヤツだってそうだ。消えた胸の明かりを灯そうとしてる」
 真摯に語るオーマの正面に、カンテラの側面が来るようにとジュダは僅かばかり腕を揺らす。
 軋むような音をカンテラの角が立ててまるで返答のようだ。
「カンテラよ、お前自信はどうなんだ」
「繰り返しの物語から飛び出したのだったか」
「知ってるか?お前が照らしてた二人は今、暗い森の中で震えてるんだ――別に一方的に責めたりしねぇよ。ただな、そんな二人を想像して考えてみて欲しいんだ」
 オーマが、そこで指差したのは舞台の上の歌姫。
 旋律は更に力強く朗々と空をも震わせるかと思う程に大気を泳ぐ。その源の美女。
 ジュダが美しいそのシルエットへとカンテラを掲げれば、陽に代わって天に躍り出た月がカンテラの硝子に誇らしげに姿を映す。それはさながらカンテラの灯りのように。
「この音楽祭、ユンナだけじゃなく皆の唄でどれだけ聴衆が力を得たと思う。その唄でどれだけ心に力を受け、光を灯していると思う」
 ジュダの手の先で震えるカンテラ、その振動は持ち手の肘辺りまで軽く走った。
 長身の男が掲げているのだから、周囲より随分と高い場所からカンテラは見下ろしているだろう。
「なあ、本の中の少年達にとってのその唄ってのはよ」
「心を照らす、光になるものだ」
「そういうこった。それは」
 一拍だけ。
 ユンナの声が余韻を残して霞み、滲み、消える。
 オーマはそれを待った。
「それは、お前が灯すその光そのものじゃねぇのか?」
 がたがたと一際大きく震えるカンテラ。けれど光はまだ灯らない。
 ジュダが今度はカンテラへと言葉を連ねていく。
 たいした言葉ではない、ただ思い出す何かがあるだろうとそれだけの。
「繰り返しの物語の中で、二人の道と心を照らしながら抱いた想いは、ないのか」
 ――がたん、と。
 強く強く、硝子の側面が割れるのではと瞬間思う程に強くカンテラの蓋が跳ねた。
 がたんがたんと今も繰り返す。それは例えば、大変な忘れ物に気付いた様子。

 微かな熱が、硝子の中で煌いて。

 歌い終えたユンナが男共の元へ向かいかけ、そこで遠目にも解るカンテラの灯り。
 よしよしと頷いて笑んだユンナへと駆け寄る少年の姿が目に入ったのは、そんな時だ。
 興奮さめやらぬ表情は力に満ちていて、きっと明日にでも自分の望む道を両親に話すだろうと確信させる。少し探せば母子が互いに優しげに笑いながら語り合っている姿。
 完璧ではないか。
 思いかけて老人の事に気付く。けれど微かな達成感を滲ませる人影が会場に入りジュダに近付くのを見かけて、やはり完璧だと判断する。
 足を止めてユンナがあれこれ考えている間に、少年が彼女の元に辿り着いた。
「うた、ほんとに」
 体中で賞賛を示す少年の正直な様子に流石に苦笑を浮かべてしまうが、すぐにそれも消える。
 大切な楽器を抱えたままの彼の腕を取り歩き出す。
 怪訝そうにしながらも付いて来る少年と共にカンテラの元へ。

 少年へとユンナは、手前で一度振り返ると、こう言って笑いかけた。

「一曲頼むわね。私が歌うから」


 オーマに並んで話しかける母子。
 ジュダに箱を開いてみせる老人。
 ユンナの言葉に慌てながらも頷く少年。

 そこかしこから唄と想いが響く中、カンテラにも確かに小さな小さな光。


** *** *


 震える僕らの胸を照らすカンテラ。
 小さな光を抱えて戻ったカンテラ。

 君の中の光がほら、僕らを照らす。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2083/ユンナ/女性/18歳(実年齢999歳)/ヴァンサーソサエティマスター兼歌姫】
【2086/ジュダ/男性/29歳(実年齢999歳)/詳細不明】

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■         ライター通信          ■
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 解りにくいオープニングだったかと思います。ライター珠洲です。
 それぞれのNPCの視点からPC様へという代物で、前半をそれぞれのPC様にしてあります。
 NPCの悩みだとかが曖昧な状態となってしまいまして、考えが浅かったと反省しつつお届けさせて頂きます。揃って御参加、本当にありがとうございました。

・ユンナ様
 はじめまして。歌姫様という事なんですけれど、描写はあまり無い辺りご容赦下さいませ。
 色々と少年にアドバイスだとか、本人気付かない感情を察したりだとか、人生経験の豊富さからこなして頂けそうでしたが簡単な展開と相成りました。唄の力は侮れないですよね。色々音楽漁りたくなったライターです。