<PCクエストノベル(1人)>
トラップとの戦い〜イン・クンフォーのカラクリ館〜
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【冒険者一覧】
【1070/虎王丸/火炎剣士】
【その他登場人物】
【イン・クンフォー/魔法使い?】
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虎王丸:今日こそはぜってーこの鎖をちぎる……っ
つぶやいて、虎王丸(こおうまる)は首にぶらさがった金の鎖をじゃらじゃらと手でもてあそんだ。
彼は、今でこそただの人間の姿だが、本来虎の霊獣「炎帝白虎」の獣人である。首の鎖は力を制御する能力があり、はずせさえすれば半獣人状態になれる。
虎王丸:くっそ、俺はこんな鎖いらねえのに……!
……というのが本人の本音だが。
本来いた世界から、ソーンという異世界に飛ばされてきた影響で、鎖は異様に強固になってしまっていた。なにをしてもはずせない。
歩くたびにじゃらじゃらと鳴る鎖の音が、耳障りで仕方ない。
虎王丸:今日こそは……っ!
そして彼が向かうは、
通称「イン・クンフォーのカラクリ館」――
その館には、アセシナート軍魔法兵器開発部門長官だった、イン・クンフォーが住んでいるという。
魔法兵器だの開発部門だのはどうでもいいが、要するにイン・クンフォーは魔法使いであるはずだ、という点が虎王丸には重要だった。
高名な魔法使いならこの鎖もはずせるはず。そう考えて少年はどしどしとカラクリ館へと踏み込む――
虎王丸:カラクリ館だってな……どんなトラップでもきやがれ!
――トラップを解除する脳はあいにくない。
単に「突破してみせる」という意気込みだけは、あふれんほどにあった。
実際虎王丸の「鎖をはずす、鎖をはずす」という熱気は、湯気となって彼の頭から出ているほどだった。
塔のような館は上へ上へとやたら高かった。
虎王丸:はっ。高いからなんだってんだ!
何フロアあるか知らないが、虎王丸はまず一階を見渡す。
奥に階段が見えていた。彼はそこへ一直線に走った。
と、
虎王丸:っ!
動物的勘が発動し、虎王丸は階段の直前で飛んだ。
バコン!
階段の直前のあたりの床が抜け、空洞ができる。
虎王丸はそこをうまく飛び越え、階段までたどり着いた。
虎王丸:へっ。このていどかよ。
にやりと笑って階段を昇る――
二階。またもや何もないフロア。
奥に階段が見えている。
虎王丸:また階段の直前で落とし穴ってか? けっ、つまんねートラップ!
虎王丸は駆けた。と、
虎王丸:っ!
今度は部屋の中央辺りで危険信号が頭に鳴り響き、虎王丸は飛んだ。
ガッタン!
部屋の中央辺りほとんどがすべて落とし穴となって抜け落ちて、虎王丸は一瞬冷や汗をかいた。
虎王丸:あ、あっぶねえ……
空洞になった部分の広さを呆れて見ながら、虎王丸は階段へとたどりつく――
三階。
またもや何もない。
虎王丸:今度はどこが落とし穴だってんだっ!?
少年は駆けた。
バコッ バコッ バコッ
あらゆる場所が落とし穴となっていて、次々と開いていったが、虎王丸の動物的勘は素晴らしかった。
虎王丸:俺をなめんなよ!
階段の直前でも動物的勘が発動して、彼は階段直前に開いた穴も飛び越えた。
なんだか偉く体力を使った気がするが、
虎王丸:ふんっ。俺がこのくらいで負けっかよ!
四階――
今度は、上に昇る階段が見当たらない。
代わりに、部屋の四隅に一本ずつ、四本の綱が天井から伸びている。
虎王丸:ははーん……このどれかが階段出現の綱なんだな。
しかし、四本のうちのどれがそれかが分からない――
虎王丸は、考えるのが面倒くさくて、近場の一本を思い切り引いた。
びしゃあっ!
天井から水が降ってきた。
少年はびしょ濡れになった。
虎王丸:………
額に青筋を浮かべながら、虎王丸は二本目の綱を引きに行く。
ザザアッ
天井から豆が降ってきて、びしびしと虎王丸の体中を打った。
虎王丸:………………
額に浮かぶ青筋の量を増やしながら、虎王丸はさらに三本目を引っ張った。
ゴインッ
でかい金ダライが降ってきて、虎王丸の脳天を直撃した。
虎王丸:イン・クンフォー、殺すぞてめー!
四本目をぐいっ。
ようやくガタンッ! と壁の一部が開き、階段が現れる。
虎王丸は鼻息荒く階段を駆け上った。
五階。
またもや上へ向かう階段が見当たらず、中央に一本だけ「引っ張ってください」とばかりに綱がある。
虎王丸は問答無用で引っ張った。と、
足元ががたんと抜け落ちた。
ひゅう、と落とし穴を落ちていく浮遊感――
四階の床でしたたか尻を打って、虎王丸はぎりっと奥歯を噛みしめながら上を見た。
上は落とし穴として開いたままで、見えるのは五階の天井……
虎王丸:負けるか、よ……っ
勢いづいて立ち上がり、虎王丸はもう一度五階まで駆け上った。
六階への階段の扉は、中央の綱を引っ張ったことで開いていた。
虎王丸はその階段も一直線に駆け上がった。
六階――
またまた七階への階段が見当たらず、中央に一本だけの綱。
虎王丸はむうと考える。
――引っ張ったら真下が落とし穴として開くに違いない。となったら……
虎王丸は慎重に、綱を手に取り、引っ張らないようにしながら「真下」からはどいた。
そして斜め方向から、嬉々として綱を引っ張った。
と、
ざらざらざらっ
天井全体から丸い小さな豆が降ってきて、虎王丸は滑って転んだ。
そして滑った先に、開いていたのは中央の落とし穴――
虎王丸は六階から五階に落ち、さらに五階の開きっぱなしだった落とし穴からもそのまま墜落して、四階の床で全身を強打した。
虎王丸:……っ……っ……っ!
虎王丸はがばっと跳ね起き、ヤケになったように五階に駆け上った。
六階の階段も見えるようになっていた。彼は六階への階段も二段とびで駆け上った。
七階。
またもや何もない。今度は綱もない。
虎王丸:どこの壁だ……?
ごんごんごん、と壁を叩いてたしかめていく。階段のある壁なら空洞音がするはずだ。
と、
空洞音が聞こえてくる場所があって、虎王丸は渾身の拳でそこをぶち破った。
ぐるるるるる……
虎王丸:ああん!?
そこには、階段ではなく魔物がいた。
虎王丸は顔を真っ赤にして、手から白焔を生み出した。
そして、
虎王丸:イン・クンフォーはどこだーーーーー!!!
叫びながら、魔物を白焔で焼き尽くした。
そこからはげしげしげしげしと、壁をすべてぶち破りそうな勢いで蹴りつけた。
ようやく空洞音が聞こえて、嬉々としてそこをぶち破ると――
またもや魔物。
刀で一閃の元に切り裂きながら、虎王丸はイン・クンフォーへの殺意をこらえるのに必死だった。
虎王丸:殺すなよ。殺しちゃいけねーぞ。いいか、俺。殺すなよ俺っ。
何度か魔物との遭遇を繰り返してから、ようやく階段を見つけ、虎王丸は三段跳びで駆け上った。
八階。
今度は素直に階段が見えている。
が――
床が、なかった。
下を向けば、自分が壁をぶち破りまくった七階が見えている。
虎王丸:なんだ!? これもトラップだってのか……!?
虎王丸は腕を組み、うーむとうなった。
しかし――考える、ふりはしてみても。
虎王丸:だー! 考えるの面倒くせーーー!
全部飛び越えてやる、そう無謀な意気込みで虎王丸は飛んだ。
すると――
虎王丸:くそ……っ全部、こえられ、ね……っ
落ちることを覚悟しながら足を下ろした、そのとき。
靴底に感触を感じて、「あれ?」と虎王丸は一瞬心臓が凍った。
それがどんな出来事でも、予想外のことが起こると心臓は止まりかけるものである。
虎王丸は――
まるで空中に浮かぶように、部屋の中央に立っていた。
どうやら、床がないと思ったのは間違いらしい。
そこは透明な何かが床なのだ。
虎王丸:ややこしいこと、すんなーーーーー!
ここがカラクリ屋敷だということも忘れて虎王丸は叫んだ。
そこから怒りの跳躍。
そして階段にたどりついた。
九階。
また階段がない。
中央にまた「引っ張ってくれ」とばかりに綱がある。
虎王丸は慎重に、綱の真下に足場が来ないように横へと綱を軽く持ち、斜めに引いた。
と、
虎王丸:げっ!
バカッ
と開いたのは綱の真下ではなく、その周辺。
虎王丸の足元も見事落とし穴となり、虎王丸は落ちかけた。
が、
虎王丸:そう何度も何度も……引っかかってたまるかよ……っ!
素晴らしきかな、根性。
虎王丸は綱にしがみついて、落とし穴に落ちるのを何とか避けた。
そして穴にならなかった綱の真下に降り立ち、穴を飛び越える。
今回は綱を引いても階段が現れなかった。
虎王丸:どこだーーーー!
虎王丸は壁を蹴りつける。
空洞音。拳でぶち破ると、魔物。
虎王丸:ワンパターンなんだよっ!
刀で魔物を一閃して、虎王丸は叫んだ。
虎王丸:待ってろよイン・クンフォー! 今すぐ行くかんな!!!
そして見つけた階段を駆け上る。
十階。
――ど真ん中に、上に昇る階段があった。
虎王丸:この上だな……!?
虎王丸は嬉々としてそこを駆け上ろうとした――
しかし、
ガコン!
階段が突然、平坦な坂となった。
虎王丸は滑り落ち、尻と背中を打った。
虎王丸:んだと……っ!
坂になってしまった階段を見つめ、虎王丸はぎりぎりと歯ぎしりした。
階段の上には、たしかに次の階がある。
虎王丸:ちっくしょ……!
……素晴らしきかな、ド根性。
虎王丸は――
平坦で急な坂を、まさしく根性だけで駆け上った。
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十一階――
天窓から明るい光が差し込むその場所は、ガラクタ置き場のように散らかっていた。
その中央の机と椅子で――
???:やれやれ……元気な若造じゃのう。
虎王丸:!?
椅子がくるりと回り、その人物が天窓の日差しを浴びながら姿を見せる。
少し髪の毛の後退し始めた、白ひげの男だった。
虎王丸:あ、あんたがイン・クンフォーか!?
勢いこんで尋ねると、老年に近い男は首を振った。
???:いんや。わしゃその弟子じゃ。
虎王丸:なに……!? それじゃあ本人に会わせろよ!
虎王丸は男のもとに詰め寄る。
首にかかった鎖をじゃらじゃらと示しながら、
虎王丸:イン・クンフォーならこの鎖がはずせるはずだ! はずせ!
???:しかしのう……
虎王丸:はずしてくれりゃこの鎖やるぜ! 希少価値高ぇと思うぜ!
???:………
虎王丸:あんだよ、なんか他に欲しいもんあんのか? 冒険で取ってきてやってもいいぜ。
???:……お前さんみたいなのが多いのが困りもんじゃの。
虎王丸:あ? じゃあ他の連中が来たら俺が追い払ってやるよ!
いい加減本人出せよ、と虎王丸は偉そうに迫った。
本人ももし渋るようなら、魔法使いなら詠唱に時間がかかるだろうし、刀つきつけて脅しちまえばいいや、などと考えながら。
虎王丸:へん。弟子なんかにゃ用はねえよ。早く本人だせよ!
???:まったく……分かったわい。
男はもにょもにょと、口の中で何かを唱えた。
と――
ぼよん、と虎王丸の背後で音がして、
???:呼んだぁ〜〜〜ん?
せくしーな女性の声がした。
虎王丸はぎくりと硬直した。
???:んもう、弟子ったらぁ。あんまりあたしを呼ばないでって言ったじゃなぁい。
この声のトーン、色っぽさ……
虎王丸はおそるおそる振り向く。
そこに、ボインのせくしーオネーサマがいた。
???:すまんのう、師匠。そこの若造がうるさくてな。
???:それは聞こえてたけどぉ。
女性はなめらかな金色の髪をさらりと流しながら、虎王丸に迫る。
しなやかな白い腕を虎王丸の肩にかけながら、
???:ねえ、ボウヤ……
虎王丸:は、はいっ!?
年下には興味がないが、オネーサマには無条件に弱い虎王丸。硬直してしまった。
???:あなたの頼みはぁ、仕方ないから聞いてあげるからあ……ちょっと、お願い聞いて?
ちゅっと虎王丸の頬に唇を触れて。
虎王丸はますます硬直した。
虎王丸:ななな、なんだっ!?
???:そこにぃ、水晶玉が見えるでしょう……?
艶やかな声で女はすらりと指先を滑らせる。
指した先、「弟子」たる男の横に、たしかに水晶玉があった。
女は虎王丸の耳元で囁きかけた。
???:あれ、ちょっと持ってきてくれない……?
虎王丸:は、はいっ。
虎王丸はぎこちなくぎしぎしした動きで「弟子」の元へ行き、
水晶玉へと手を伸ばした――
カアッ――
虎王丸:………!!!
触れた瞬間。目がくらむほどの光があふれ――
虎王丸は一瞬にして、その場から消え去った。
???:やれやれ……まだ若造じゃの。
「弟子」は呆れたようにつぶやいた。
ボインのオネーサマはその場で消滅した。
イン・クンフォー:弱点を見抜くのはわしの得意分野じゃ。分かったか若造……?
水晶玉で転移させた元気のいい少年を思い出しながら、イン・クンフォーはふぉっふぉっと笑った。
**********
気がつくと、そこはイン・クンフォーのカラクリ館の外だった。
虎王丸:………!!!
騙されたことに気づき、虎王丸は吼えた。
虎王丸:ちっくしょーくそじじーーーー!!!
げしりと館の扉を蹴っ飛ばしてみても、開く様子がない。完全に閉じられてしまったらしい。
虎王丸:この仕返しはいつかしてやっからな……っ。くそじいい……っ!!
……どうやら虎王丸の鎖が取れる日は、まだまだ遠いようだった。
―Fin―
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虎王丸様、初めまして。笠城夢斗と申します。
今回はクエストノベルのご発注ありがとうございました!
古典的なトラップばかりで申し訳ございません;楽しんで頂けましたら幸いです。
またお会いできる日を願って……
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