<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


彫金材料捜索しませんか?〜爆裂!親父愛な彫金を手に入れよ

「彫金セールだぁ?」
胡散臭そうな表情を浮かべるオーマにレムは優雅に顎を引いた。
そのあまりに悠然とした姿にエルザード城下で耳にした話が真実だとようやく納得した。
―あのレディ・レムが魔道彫金のセールをやってるってさ。
白山羊亭にたむろしていた若者達が楽しげに話題にしていたのは、魔道彫金師・レディ・レムが採掘し

た鉱石を持ってくれば格安で彫金をしてくれるという話。
にわかに信じられない話だが、彼女を見る限り冗談を言っていない。
結構強欲なところがある彼女にしては信じがたい。
「単なる暇つぶしね。」
どういう心境なのかは分からず、疑り深く窺うオーマにレムはにっこりとのたまう。
「あの放蕩弟子が中々戻ってこなくってね……どうも待ちぼうけさせた仕返しらしいのよ。」
「それで暇つぶしか。」
放蕩弟子、とレムが言った瞬間、オーマの脳裏にあの不敵な笑みを浮かべた少年の顔が浮かび、苦笑し

た。
師匠も師匠なら弟子も弟子だな、と思うオーマだが、レディ・レムの腕前は確かなものだ。
この際、この機会を利用させてもらおうとオーマは腹を決めた。
「じゃ、いっちょ材料を取ってきてやろうじゃねーか!!」
ばしっと拳を打ち合わせるとオーマは意気揚々と館を飛び出す。
その後姿を見送りながら、果たしてどんな材料をもってくるのか、と少しばかり楽しみにするレムであ

った。

エルザードから少しばかり離れた場所のとある森。
鬱蒼と生い茂る木々の間からは奇妙な叫び声やら雄叫びなんぞが響いてくる。
旅人どころか地元の人間でさえ滅多に……つーか、あんまりお近づきになりたくないこの森こそ、知る

人ぞ知る秘境のジャングル。
別名・人面ジャングルサンクチュアリ(聖域)。
ご大層な名前の割に危険は少なく、迷い込んでも遭難することはない。
が、一般常識からかなり逸脱した植物や鉱石、動物に遭遇するため慣れていないと森の中で貧血起こし

て倒れる。
普通、倒れたら遭難と思われがちだが、先述したようにここで遭難することは絶対にない。
なぜならば、倒れても一般常識逸脱生物によって森の外に運び出される。
よって今まで遭難した人はいない、という訳である。
森のはずれには小さな集落があり、森の外に運び出された人間はそこの住人に看病されて旅立てるので

問題はない。
ある意味、ものすごく安全なのかもしれない秘境にオーマは迷うことなく足を踏み入れた。
彫金材料を探すのだったら、鉱山などを当たったほうが良いのでは?と疑問に思う。
だが、オーマがここを選んだのには、それなりの理由があった。
一つは王都で噂を耳にして以来、一度訪れてみたいと思っていたから。
そして、もう一つ。
レディ・レムが来ていたという事実だ。
「あの森の奥には人面ミスリルやオリハルなんかの―それこそ、超一級品の鉱石がわんさかあるって話

だ。随分前に王都の魔道なんとかっていう女が興味もったようじゃが、結局入らずじまいじゃったな。


集落で骨董屋を営む老人の話にがぜんやる気を出した。
あのレムが興味を持ったこともさることながら、今までお目にかかったことのない親父心をくすぐる鉱

石というものを見てみたい。
それが人情ってもんだ、とオーマはうんうんと一人でうなずいて森の中を闊歩していった。

(宝の山だ!!)
その光景を目にした瞬間、心の底から思った。
奇妙な笑い声を上げる鉱石。筋肉がっしりムキムキのナマモノ集団。青紫やら赤紫の花を咲かせて群生

する人面草。
オーマにとってまさしく宝の山であった。
「生きてて良かったぜ!!」
空気を振るわせる叫び声を上げ、喜び勇んで採取を開始するオーマ。
熱心に採掘開始すること1時間。
背後で何かが動いたのを感じ、オーマは採取の手を止め、息を飲む。
(魔物か?)
一瞬、瞳に緊張の光を走らせ、オーマがゆっくりと振り返る。
と、ほぼ同時に茂みから複数の影が飛び出してきた。
「「「「ギュギョガー!!!」」」
その瞬間、オーマは破顔した。
歓喜の雄叫びを上げてオーマの前に飛び出してきたのは、某事件で知り合ったゴブリンご一行様。
一時敵対したのだが、負傷した仲間達を救われたことから今ではオーマ信奉集団と化していた。
再会の喜びに飛び跳ねるゴブリン一行に苦笑をこぼし、分かるわけないな、と思いつつ、オーマは疑問

を口にした。
「お前ら、なんだってここにいるんだ?住処からかなり離れてんだろ?」
その声に反応し、ゴブリン達は動きを止め、しばし何事か話し合い―鍬を持って地面を掘るジェスチャ

ーを始めた。
疑問符と頭に浮かべるオーマだったが意味は即座に理解できた。
住処である鉱山で採掘をしているが毎日同じものを採っているのも飽きてきた。
そこで冒険心に溢れた彼らは旅に出て、採掘をしている……ということなのである。
ジェスチャーだけでそこまで理解する事態、奇跡に等しい。
まさしく親父愛がなせる業である。
「すげーぜ、お前ら。向上心があるってことはいい事だぜ。」
言葉を通じないが、心で理解できる。
ゴブリン達は嬉しそうにうなずくと、思い出したように慌てて自分達の革袋から何かを探り当て――底

から不可思議な光を放つ鉱石を取り出した。
「グギャ!!」
受け取ってくれ、とばかりに差し出すゴブリンにオーマは面食らう。
オーマにはこの鉱石がなんなのか分かっていた。
一般でも貴重な鉱石―ミスリル。しかも、人面つき。
欲しくない、と言えば嘘になる。だが、彼らが苦労して手に入れた鉱石を受け取るわけにはいかない。

さりとて彼らの気持ちを無下にもできない。
悩むオーマにゴブリンたちは心配はない、とばかりに革袋を広げて見せた。
なんだ?と思って覗き込み―オーマは爆笑し、喜んでミスリルを受け取った。
ゴブリンたちの袋には溢れんばかりのミスリル鉱石が詰め込まれていた。

カウンターの上に並べられた鉱石を一つ一つ見て、骨董屋の老人は嘆息した。
返答をする必要もない。
全て本物のミスリル鉱石―しかも、最上級に値するもの。
長いこと鑑定をやっているが、ここまでの品は初めて見た。
「どうだ?使えるか?」
「ああ、充分過ぎる品じゃよ。これなら王都の彫金師とやらも大満足じゃ。」
喜色に染まるオーマの顔を見ながら、老人はやれやれと椅子に深く腰掛けなおした。
秘境とまで言われているジャングルから無事に戻ってきただけでなく、超一級品に値するミスリルを持

ってくるとは――只者ではない。
「ありがとな、じーさん。」
「待ちなされ、お若いの。」
鑑定の礼を言われ、店を後にしようとするオーマに老人はふとある物を思い出し、呼び止めた。
何事かと振り返るオーマに老人はカウンター奥の棚から虹色に輝く小瓶を手に取り、ミスリルを置くよ

うに促した。
怪訝そうな顔を浮かべるオーマを前に老人は小瓶を開け、虹色に輝く中身の液体を一滴降りかかる。
目がくらみそうな眩い光が店内を照らす。
思わず目を細めるオーマ。
やがて光が失せ、再びミスリルを目にし―小さく呻く。
まるで空の虹を溶かし込んだような光を帯びたミスリルが置かれていた。
「こいつは…?」
「持っていくといい。彫金師さんなら分かるじゃろうって。」
驚くオーマにころころと老人は笑いかけた。

「取ってきてもらって何だけど……いきなりすごい品持って来てくれたわね。」
出された鉱石を見た瞬間、レムは感嘆した。
ただでさえ貴重なミスリルに虹のミスリルまで持ってくるとは思いもしなかった。
これだけの品を扱えるのは彫金師冥利につきる。
「それで何を彫金するの?これだけあればかなりの物ができるわね。」
満足げに鉱石を手にしたレムの問いにオーマはしばし考えを巡らせ、口を開いた。
「そうだな。具体的にというならオルゴールだ。家族の写真を……」
一旦口を開くと、次々と注文をつけてくるオーマ。
最初はまともに相槌打っていたレムだったが、話がくどくなってくると会話を放り出し、オルゴール製

作に使う宝石や細工をどうするかに思いを巡らせる。
家族を大切にしているオーマの気持ちを表すように少しばかり贅沢に、だが、決して派手にならない落

ち着いた品をデザインする。
もう一つの品―ドレスアップする腕輪も同様にデザインを組み立てる。
生地となる材料が良いだけに腕の振るいがいがあるというものだ。
そんなレムの姿にオーマは息を吐き出すと、ふっと笑みをこぼし、一輪の花をカウンターに置いた。
「?これは……ルベリアの花」
「さすがに博識だな。いつかてめぇ自身の為だけに何かを彫るお前さん――レムの姿も俺は見てみてぇ

けどな?」
その言葉にレムは虚をつかれる。
以前、生意気な弟子が言ったのと同じ言葉。
まさか同じ台詞を聞かされるとは思っても見なかった。
―自分のため…ね。
柔らかな光を帯びたルべりアの花に込められた意味にレムは艶やかな微笑をこぼしたのだった。

FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1953:オーマ・シュヴァルツ:男性:39歳:医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

【NPC:レディ・レム】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、緒方智です。
ご発注ありがとうございます。
またまた遅くなって申し訳ありません。
今回のお話いかがでしたでしょうか?
なつかしい顔も出てきた採掘になりました。
彫金完成までしばしかかりますが、ご満足のいただけるものになるでしょう。
またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。