<PCクエストノベル(2人)>


ヴァンパイアとの死闘??? ―ネクロヴァンパイア―

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【冒険者一覧】

【1559 / クラウディス / 旅人】
【1856 / 湖泉・遼介 / ヴィジョン使い・武道家】

NPC
【ネクロヴァンパイア / 魔物】
【村人】
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 ある日、エルザード聖都近くのある村で、湖泉遼介はこんな噂を聞いた。

村人:「村の人間がねえ、次々とモンスターに狙われてるんだよ」
遼介:「………」

 あまりにも深刻そうに村人たちが話すから、遼介は放っておけなくなった。

遼介:「よし、退治に行ってやる……!」

 と、まあ遼介がモンスター退治に出ることになったのは、そういうわけだったのだが……

遼介:「で……」

 村人たちに聞き込みを始めようとしていた遼介は、低い声でつぶやいた。

遼介:「どうしてお前がついてきてるんだ? クラウディス……」
クラウディス:「そりゃあもちろん!」

 俺の大切なマスターのためさ! とびしっと親指を立て片目を閉じて、怪しさ満点の言葉を吐くクラウディス。
 遼介は思った。今までかつて、俺はクラウディスに「大切」にされたことなんかあっただろうか?
 いや、ない。絶対にない。
 遼介とクラウディスとの関係は、つまりそういうものなのだ。
 人間ではなく、ドールと呼ばれる自動人形のクラウディスは、かつてマスターを亡くした。そのため新たなマスターを探して放浪しているらしいのだが、……その新たなマスター候補に、遼介が選ばれてしまった。
 マスター、マスター、となついてくるわりに。
 クラウディスは遼介の邪魔しかしない。
 周りをちょろちょろうろついて、騒がしくかきまわすだけだ。

遼介:「く……っ」

 できれば追い返したかった。
 だが、モンスター相手となると――クラウディスの魔法があったほうがいいかもしれない。

クラウディス:「俺をつれていくと、勝利率1%増し! さあ、連れていったほうがいいぜマスター!」
遼介:「1%か!? 1%なのか!?」
クラウディス:「1%をなめるなよ遼介! 100万あったら1万になるんだぞ?」
遼介:「その100万ってのはどこから出てきた数字だーーー!」
クラウディス:「そりゃもちろん、遼介の声の高さの周波数」
遼介:「意味不明なことをぬかすな声高いって言うなーーー!」

 しかし遼介は、不覚にも思ってしまった。
 もし自分の声の高さの周波数???だか何だかが100万だとしたら、本当に1%は重大だ、と。

クラウディス:「勝利率5%増しがいい? 遼介の声がさらに高くなるけど」
遼介:「だから勝利率と声の高さと何の関係があるーーー!」
クラウディス:「いやいやいや。その声の高さを極めたら、きっと叫ぶだけでモンスターを悶絶させることができるようになるぜ」

 遼介はクラウディスに思い切り蹴りを放った。
 クラウディスはひらりとよけて、「ひどいわマスターよよよよ」と泣きまねをした。
 ひどいのはクラウディスだ。絶対に。遼介はそう信じて疑わない。
 で……何するんだっけか?

遼介:「そうだった……村人に聞き込みをするんだった……危うく忘れるところだった……」
クラウディス:「遼介! もう物忘れが激しくなったか!? 一度頭を殴ってみようか」
遼介:「……つっこみどころ満載だがとりあえず、お前マスター候補の頭を殴る気なのか?」
クラウディス:「そりゃあ愛するマスターのためなら時には苦役にも耐えるのがドールの役目……っ」
遼介:「この場合苦役なのは俺だろうがっ!」

 ああもう、不毛だ。あまりにも不毛だ。
 で……何するんだっけか?

遼介:「だーから、村人への聞き込み!」
クラウディス:「遼介。独り言は危ない」
遼介:「ほっとけ!!」

 で……何するんだっけか、じゃなくて、村人への聞き込み!
 ようやく本題に戻って、遼介は村人たちから詳しく話を聞き始めた。
 クラウディスはほてほてとついてくる。
 遼介は村人のひとりをつかまえ、自分たちがモンスター退治に行こうとしていることを伝えて、情報を教えてほしいと言った。

遼介:「えーと……例えば……どんな襲われ方をするのか、とか」

 村人たる太っちょのおばさんは、遼介やクラウディスのようなまだ歳若い二人が魔物退治に行くという話に不審そうな顔をしながらも、問いには答えてくれた。

村人:「それがねえ。外傷はほとんどないのよ」
遼介:「え?」
村人:「襲われた子たちみんな襲われた瞬間の記憶を覚えていなくてね。体が急激にだるくなって起きていられないことは間違いないんだけど、何されたのか分からないのさね」
クラウディス:「へーえ。夢魔に精気吸われたとか?」
遼介:「お前は黙ってろ。――で、他に何か特徴ありますか」
村人:「特徴ねえ……」

 そこで初めて、おばさんは心配そうな目で遼介たちを見た。

村人:「襲われた子は、みんな若い男の子だってこと、くらいかねえ……」
遼介:「………!」
クラウディス:「おお! 遼介にぴったり……!」
遼介:「だからお前は黙ってろ!」

 それから襲われる場所の大体の位置を聞いてから、遼介たちはおばさんに礼を言って離れた。

遼介:「若い男の子だってんなら、お前だってそうだろクラウディス」
クラウディス:「マスター! 俺をそんな危険なところに放り込むというのか……!?」
遼介:「お前マスター自身を放り込む気なのか……!?」
クラウディス:「だって遼介だから!」
遼介:「意味分からんわ! とにかくお前が囮になれ!」
クラウディス:「嫌よ嫌だわドールは常に身を危険にさらすマスターを陰から支援することを生きがいにしているのよっ」
遼介:「どうしてそこで女言葉になるっ」
クラウディス:「うふ。私は女、従って囮はできなーい」
遼介:「気色悪いからやめろーーー!」
クラウディス:「はっ。しまった……! 声の高さのせいで遼介のほうが女かも……!」
遼介:「いい加減にしろーーー!」

 ……結局、クラウディスに囮役を押し付けるのが面倒くさくなって、遼介は自分で囮をやることにした。

 村で聞いた、人々が襲われるらしいという場所までやってくると、クラウディスはさっさと近場の木陰に隠れてしまった。
 本当にアテにならねー、と遼介が心の中でクラウディスを殴っていると、

クラウディス:「マスター。本当に危なくなったら助けてやるからな!」
遼介:「………」
クラウディス:「だから本当に危険になるまで、寝かせて?」
遼介:「どあほーーーー!」

 遼介はダッシュで木陰まで駆けていって、クラウディスに跳び蹴りをかました。
 遼介の高速移動にさすがに追いつけなかったか、クラウディスが珍しくあごに膝をくらう。
 どさり。しりもちをついたクラウディスは、

クラウディス:「ふ……っ。マスターが乱心したときも冷静でいるのがドールさ……」

 訳の分からないことをのたまった。

遼介:「俺が乱心してるっつーなら、お前は頭の中が常春だよ」

 遼介は悪態をつく。クラウディスはにっと笑って、

クラウディス:「そしたらマスター、年中花見ができるな。なあ、嬉しい?」
遼介:「お前本気で頭どーかしてる?」

 ……クラウディスの場合、確信犯で言ってるからタチが悪い。
 クラウディスの相手をしているだけでどっと疲れた遼介が、元いた位置に戻ると――

 ――ほーほほほほほ……!

 どこからか、女性の高笑いが聞こえてきた。
 クラウディスが体を震わせた。

クラウディス:「何てこった……! 今のは遼介よりはるかに高い声だったぜ……!? どうする遼介!」
遼介:「どうもするかーー!」

 ばさり
 アホな漫才をしてる間に、目の前に影が落ちる。
 遼介は目を見張った。
 背中にコウモリの羽を持った女が、遼介に襲いかかってきた。

遼介:「………!!」

 遼介は剣を鞘から抜かないまま女の体を打つ。
 女はすっと飛びずさった。

???:「おやまあ、今日もおいしそうなボウヤが二人……」
遼介:「誰だ……!?」

 クラウディスが木陰から覗いて、

クラウディス:「遼介、知らねーの? そいつネクロヴァンパイアだよ。若い男の血だけ吸うっていう」
遼介:「ヴァンパイア……!?」

 女――ネクロヴァンパイアは、ほほほと耳につく高笑いをした。

ネクロヴァンパイア:「私のことをよく知らずに来るなんて、またかわいいボウヤだこと。さあ、血を吸わせなさい……!」

 遼介は、これが村人たちを苦しめた張本人だと確信した。
 襲われた村人たちの症状。体中がだるくて起き上がれない。――それは貧血だ。
 みんな首筋に、おそらく噛まれた跡があるのだろう。気づかれなかっただけだ。

 ネクロヴァンパイアは容赦なく遼介に襲いかかってきた。

遼介:「………っ」

 遼介は一応剣を抜いて敵の攻撃をしのいだものの、攻撃しあぐねていた。
 相手は魔物とはいえ女性――それを複数で叩きのめしていいものだろうか?

クラウディス:「遼介ーー」

 ふと呼ばれてさっと背後を見ると、木陰でクラウディスが、どこから取り出したのか二本の「遼介ファイト!」と書かれた旗を振ってへらへらと笑っていた。

クラウディス:「頑張れーー応援してるぞーーー」
遼介:「………」

 高速移動。瞬時にクラウディスに足蹴りをかましてから、遼介はネクロヴァンパイアに向き直った。
 もう複数で攻撃することにためらいはない。……何しろクラウディスは手伝ってくれる様子がない。
 となれば、一対一だ。
 遼介は剣を一閃した。
 ネクロヴァンパイアは、翼で飛んでそれをよけると、再び遼介に襲いかかってくる。
 要するに遼介の血を吸いたいわけだから、近づかなくてはいけないわけだ。
 もしくは――
 遼介を気絶させて、その隙に吸う方法を選ぶか。

遼介:「そうそう思い通りにはなってやらないぜ……!」

 ネクロヴァンパイアの攻撃は、高速移動で簡単にかわせる。
 後は――どう攻撃するか――
 と、
 遼介は次にヴァンパイアが取った行動に目を見張った。
 木陰には、遼介が足蹴りを思い切りかましたためにちょっと失神しているクラウディスがいる。女は――そちらに向かって飛んでいったのだ。
 遼介は手を伸ばして、

遼介:「やめろ! そいつの血を吸おうとしたら――!」

 しかし女は止まらない。転がっているクラウディスを抱き起こし、その首筋に唇を近づける――
 ―つ―
 牙が刺さった。

クラウディス:「ん?」

 クラウディスが目を覚ます。しかし、
 ネクロヴァンパイアが悲鳴をあげた。

ネクロヴァンパイア:「何なのこの子……!?」
遼介:「――だから、そいつには血が存在しないって……」

 クラウディスはドールである。人形に、血が存在しているわけがない。
 ついでに言うと痛覚がないから、痛くもないだろう。
 女は気味が悪そうにクラウディスを手放した。
 クラウディスが呼吸をしていないことにも気づいたらしい。

ネクロヴァンパイア:「何て不気味な子……!」
クラウディス:「吸血鬼に言われたくねーよ」
ネクロヴァンパイア:「ああ、くわばらくわばら」
クラウディス:「それ雷避けの呪文じゃなかったか?」
ネクロヴァンパイア:「いちいちうるさいのも不気味な生物だからね……! ああこっちにこないで!」
クラウディス:「……言われなくても近づかないけどさー」

 ネクロヴァンパイアは非常に混乱したようだった。

ネクロヴァンパイア:「こうなったらボウヤから血をもらうわよ……!」

 女は激昂して、遼介に向かってくる。
 爪が長く伸びる。両手の全爪――計十本の凶器が遼介を襲う。
 右手は上から、左手は右から――襲いかかられて、遼介は高速移動で逃げた。そして女の背後に回り、剣の柄で思い切り殴りつけた。

ネクロヴァンパイア:「っがっ!」

 ネクロヴァンパイアが体をそらして悶絶する。

クラウディス:「遼介ー。何手加減してんのー?」
遼介:「……女性だからどうしても……」
ネクロヴァンパイア:「女だからって――なめるんじゃないよ!」

 ネクロヴァンパイアはかっと口を開いた。
 息が――吐き出された。
 遼介はその息をまともに顔面にくらって、目をつぶされた。

遼介:「しま……っ!」
ネクロヴァンパイア:「さあ、血をお寄こし!」

 腕が女につかまれるのが分かる。遼介は感覚だけを頼りに、剣でそれを切り払おうとした。
 しかし、その瞬間には腕が放され、次の瞬間に再びつかまれる。
 右手首を、がっしりと。
 遼介は剣を取り落とした。

遼介:「くそ……っ」

 左手でズボンのポケットをさぐって聖獣カードを取り出そうとするが、右手で取り出しやすいよう右側のポケットに入れていたのでうまくいかない。
 と、女はポケットの中に何か入っていることを察したのだろうか。
 さっと、ポケットの中をさぐられた。そして、

ネクロヴァンパイア:「おやまあ。こんな邪魔なモノはいらないわ」
遼介:「―――!」

 カードを奪われた、それを察して遼介は吼えた。

遼介:「返せーーー!!!」

 しかし耳障りな高笑いが聞こえ、
 聖獣カードが悲鳴をあげているような気配を感じ、
 遼介の心が怒りに燃え上がろうとした、そのとき、

クラウディス:「――っていうかさあ」

 カッ――
 見えない視界に、それでも光があふれたのが分かった。

クラウディス:「お前、調子に乗りすぎ」

 滅多に聞けないクラウディスの冷たい声――
 クラウディスが何をしたのか分からなかったが、ネクロヴァンパイアの悲鳴があがった。
 そして、遼介の右腕が解放された。
 目に冷たい何かが触れる。

クラウディス:「遼介。じっとしてろ」

 クラウディスに真剣に言われ、遼介は思わず従った。
 目に何か光を注がれるような感覚――
 やがて、

クラウディス:「ほら。もう目、開くぞ」

 言われてぱっと目を開けると、目の前ににいっと笑うクラウディスの顔があった。
 最初に目に当てられた冷たいものは、どうやらクラウディスの手だったらしい。

遼介:「さ、さんきゅ……」
クラウディス:「いえいえ、マスターのためならば」

 ほい、と手渡されたのは聖獣カード。
 何もされていなかった。遼介は改めてクラウディスに感謝した。
 地面に落としていた剣を再び手にとり、遼介はネクロヴァンパイアに向き直る。
 ネクロヴァンパイアは風の魔法でもかけられたのか、翼をちぎられていた。

遼介:「もう、遠慮はしない……っ!」

 高速移動をかけ合わせた剣技。
 女の体を容赦なく傷つけていく。
 そこから流れる緑色の血――

遼介:「その血の中に……みんなの血がまじってるんだな!」

 怒りに燃え上がる遼介は止まらなかった。
 女の腹に拳を当て、『気』を打ち込む。跳ね上がった女の体を、剣で斜めに切った。

ネクロヴァンパイア:「ぐはぁ……っ」

 口から血を吐き出す女。しかしもう気の毒だなどと思わない。

遼介:「これで……とどめだ!」

 遼介は跳躍した。
 ――真下に、口惜しそうな女の顔が見えた。

     **********

遼介:「はあ……」

 一戦終えて、ほっと安堵のため息をつく遼介――
 と、唐突に首筋に痛みを感じてぱっと飛びのいた。
 背後にいたのはクラウディスだった。遼介は首筋を手で押さえて真っ赤になって怒鳴った。

遼介:「何人の首噛んでやがるんだよ!?」
クラウディス:「いや、吸血鬼ってどんな気分なのかなーと」

 ねえねえ、とクラウディスはとことこと遼介に近寄ってきながら、

クラウディス:「今うまく噛めなかったから、もっかいやらして?」
遼介:「誰が噛ませるか!」
クラウディス:「ケチぃなあ」

 クラウディスは――本当にいったいどこから取り出したのか、「遼介のケチ」と書かれた旗を二本取り出して両手で振り出した。ぱたぱたと。

クラウディス:「遼介のけちーけちー。こう言って街中を歩き回ってやるー」
遼介:「誰がお前の言うことになんか気をとめるかよ……!」
クラウディス:「いや。俺みたいなかよわそうな小さな子供が泣きながら歩けば必ず声をかけてくれる人はいる。そんときは遠慮なく、『遼介っていう僕のおにいちゃんが、僕の大切な実験の邪魔をしたんだ』って言っておくから」
遼介:「そんなんで同情するやつがいるかーーー!」
クラウディス:「と言ってる隙に首筋かぷり」

 かぷり。
 本当に噛みつかれて、遼介は絶叫した。

遼介:「やめろーーーーーー!!」

 なんというか……
 今回は、ヴァンパイアとではなく、クラウディスとの戦いだったような気がするとしみじみと遼介は考える。
 途中でクラウディスに救われたことなど、すでに遠い意識の彼方だ。
 もっともクラウディスに関わると、どんな環境でもどんな状況でもどんな危険なときにでも、必ずこういうことになるのだが……
 マスター候補として目をつけられたことを嘆いている場合ではない。
 ……家に帰ったらクラウディス対策を真剣に考えようと、遼介は思った。


 ―Fin―