<PCクエストノベル(2人)>


撃退!変態たち! ―戦乙女の旅団―

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【冒険者一覧】

【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】

NPC
【旅団の人々】
【変態】
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 エルザード聖都へ帰る途中のこと……

虎王丸:「ったく。怪我なんかすんなよなー」
凪:「仕方ないだろ……」

 とあることが理由で、蒼柳凪(そうりゅう・なぎ)は足に軽い怪我をしていた。
 おかげで連れの虎王丸(こおうまる)に、散々悪態をつかれるハメになっていた。

虎王丸:「怪我なんかつばつけときゃ治るってんだ。ぺっぺっ」
凪:「うわっ! 汚っ」
虎王丸:「誰もてめーになんか飛ばしてねえよ!」
凪:「それでも汚いものは汚いよ!」
虎王丸:「いいから足出せ、俺がやってやる!」
凪:「やめてくれ! お前の治療法は乱暴極まりないんだから!」

 とまあ、いつもの調子でわいわいやりながら、凪が足を引きずるのに合わせて歩いていたとき――

凪:「ん? あれは……」

 視線の先に、キャラバンが見えた。
 キャラバンといえば交易品を持っているはず。治療薬も持っているかもしれない。
 虎王丸に治療を頼むよりよほどいいだろうと、凪はさっそくそのキャラバンに声をかけた。

凪:「すみませーん! 薬ないです……か……」

 声をかけかけて、凪は言葉を詰まらせる。
 振り向いたのは――女性ばかりだった。
 これはもしや、と凪は体をこわばらせた。
 噂の――メンバーほとんどが女性で構成されているという戦乙女団の旅団!?
 おそるおそる横を見ると――

虎王丸:「へへへ……」

 虎王丸がだらしない顔をして、旅団の女たちを見ていた。
 妙齢の女性に無条件に弱い虎王丸。まずい。これは、非常にまずい――

旅団の女:「どうしたの? ボウヤたち」

 声をかけられ、凪はびくっと震えた。
 隣では虎王丸がますますだらしない顔になるのが分かった。

旅団の女:「今、薬がどうとか……」
虎王丸:「そうなんだよ!」

 ここぞとばかりに虎王丸がまくしたてた。

虎王丸:「俺の連れがさあ、これまたマヌケで、足に怪我してやがってよ。なあなあ、あんたんとこの旅団で治療頼めない?」
旅団の女:「あら、まあ……」

 キャラバンの服装とは、なぜこうも悩ましいのか。
 女が考えるように小首をかしげる姿もあでやかだ。

凪:「いや、あの……」

 本当にまずい。こんなところに虎王丸を放り込んだら、オオカミの前に肉を出すようなものだ。それも新鮮な。
 しかし――怪我をしているのは凪なのである。

旅団の女:「かわいそうに。今、治療してあげるわ――こちらへおいでなさい」
虎王丸:「おう!」

 虎王丸は――とんでもないことに凪を抱えあげて、旅団へとつっこんだ。

 戦乙女の旅団。
 長は女性。彼女が率いるは少数の男性と、ほとんどの女性たち。

凪:「あの……お薬さえ頂ければ、じ、自分でやりますから……」

 そう言う凪を制して、女たちは快く凪の足の怪我の治療をしてくれた。
 凪はたくさんの女性に興味深そうに囲まれ、見つめられることが恥ずかしかった。見世物のようだ。おまけに女性に。
 女性が苦手というわけではないが、こうまで妙齢の女性ばかりだと恥ずかしくもなる。

 とは言え。
 彼女たちが自分より旅慣れていることは間違いなかった。
 包帯の巻き方も鮮やかで、凪は思わず感嘆した。

凪:「どうやったらこうも綺麗に巻けるのですか?」

 そうして凪が女たちに効率的な治療法や、冒険のいろはを学ぼうとしている一方で――
 虎王丸はというと。
 ……旅団の女たちに、ナンパをしかけていた。

虎王丸:「なあなあ、俺と一緒に酒飲まねえ?」
虎王丸:「俺と一緒にあっちまで遠乗りってのはどう?」
虎王丸:「お姉さん綺麗だよな、俺が今まで見た女たちの中で一番!」
虎王丸:「よかったら今夜一緒に……」

 女たちはカラカラと笑って、若い虎王丸を適当にあしらっていた。子供をあしらうかのように。

旅団の女:「ボウヤより私のほうがお酒強いわよ?」
旅団の女:「あらあら、ボウヤ馬に乗れるの?」
旅団の女:「まだまだ人生短いでしょうに。その言葉を使うには早すぎるわよ」
旅団の女:「くすっ。今夜一緒に戦いの訓練でもしましょうか?」

 不発。不発に不発。
 虎王丸。次の作戦に出る。
 ずばり「着替え覗き」。

 あちこちできゃーきゃーと女たちの悲鳴があがった。
 そして――虎王丸の悲鳴もあがった。

凪:「虎王丸……?」
旅団の女:「多分私たちの仲間に痛い目に遭わされたんでしょうね」

 私たちをなめちゃだめよ――と、凪の治療をしていた女がウインクをした。

旅団の女:「私たちはモンスター襲撃に備えて訓練されているからね。そんじょそこらの兵士より強いわよ」
凪:「は、はは……」

 虎王丸の悲鳴がまたあがった。
 凪は眉間に手を当てて、ため息をついた。

凪:「それにしても――モンスターの襲撃、ですか?」

 凪は引っかかって尋ねる。

旅団の女:「ええ。頻繁に魔物に襲われるのよね。誰かに狙われているんじゃないかと長は言うのだけれど」
凪:「キャラバンですもんね」

 キャラバンと言えばお宝の宝庫。
 もし魔物を従えることのできる人間がいたら、魔物の仕業に見せかけて襲ってもおかしくはないだろう。
 凪は少し考えた。
 ――虎王丸の悲鳴は聞こえていた、が――

凪:「このキャラバンは今どこへ向かっているんでしょうか?」
旅団の女:「聖都よ。ちょうどあんたたちを連れていけるね――ああ、魔物のことなら安心して。お客さんに怪我はさせないから」
凪:「いえ、あの……もしうちの連れが邪魔じゃなければ、モンスター退治俺たちも手伝いますから」

 手伝わせてください――と凪は熱心に頼んだ。
 元より世話になった人物を放っておけるタチでもなく。戦いの修行中でもあり。
 旅団の女は、凪が歳下だからと馬鹿にしたりはしなかった。

旅団の女:「ありがとう、助かるわ。――今、長に言ってくる」
凪:「あ、俺たちも長に挨拶に行かなきゃ……!」
旅団の女:「あんたは怪我をしてるじゃないの」
凪:「大丈夫です。その……連れを連れて挨拶に行かせてください」

 凪は立ち上がった。
 治療は完璧で、痛みさえも和らいでいる。
 これなら、とぴっと背筋を伸ばし、彼は虎王丸の悲鳴が聞こえる場所へと向かった。

 虎王丸は――
 ぼろぼろになりながらも、懲りずにテントの中を覗こうとしていた。
 凪は眉間に手を当てた。額にびしっと青筋が立ったような気がする。
 そして、すかさず彼は舞い始めた。
 『卑霊招陣』――

虎王丸:「……!?」

 虎王丸が、見覚えのある舞に気づいてとめようとしたときには遅かった。
 凪は舞を終えた。その直後から、

虎王丸:「げ……っげ……っ!」

 虎王丸の意思は関係なく。
 虎王丸は突然服を脱ぎだした。
 そして脱いだ服を手に、下品なダンスを踊りだした。
 ひら ひら
 じゃらじゃらじゃら
 虎王丸の首の鎖が激しく音を立てる。
 女たちの悲鳴があがった。
 ただし、どこか面白そうだった。

凪:「これから長のところに挨拶に行ってくるからな。お前は当分踊ってろ」
虎王丸:「おい、凪! なーぎー!! テメェ、覚えていやがれっ!!」

 ダンスを踊りながら悪態をつく虎王丸に背を向けて、凪はすたすたと歩き出した。
 向かった先で、凪の治療をしてくれた女性が笑いをこらえて肩を震わせていた。

凪:「思い切り笑ってくれてもいいですよ」
旅団の女:「――ぷはっ! はははは! 愉快ねえあんたたち!」
凪:「とりあえず俺だけ長さんに挨拶に行ってもいいですか?」
旅団の女:「ああ、ついておいで。ぷぷ、あははははは」

 女は笑いながら凪を長のところへと案内してくれた。

 旅団の長は、もちろん女性である。

長:「先ほどから何やら賑やかだが……」
凪:「すみません、俺たちのせいで……」
長:「いいや、魔物の襲撃の賑やかさよりよほどいいさ」

 長はさすがに寛大だった。にっこりと笑って「歓迎しよう、お客人」と杯を持ち上げる。
 凪は丁寧に礼をして、

凪:「治療等のお礼は必ず。魔物襲撃の際には、俺たちもお手伝いします」
長:「それはありがたい。ひとりでも人手がほしいところだ」
凪:「二人です。……ご迷惑をかけてはいますが、俺の連れも戦いになれば頼りになると思います」
旅団の女:「それは見れば分かったわよ」

 凪の治療をしてくれた女が、くすくすと笑いながらそう言ってくれた。

旅団の女:「あんたも、あんたの連れのあの愉快なボウヤも、相当頼りになる……ってね。長、今回の旅は楽ができそうですよ」
長:「ああ、そうだな」

 長は笑った。ただいま虎王丸がどういった状況でいるのか、どうやら報告がいっているらしい。
 ……よほど寛大な長なようだ。凪自身がやっておいてなんだが。
 それからひとしきり、長に魔物襲撃について話を聞いた後、凪は虎王丸のところにまで戻ることにした。

 凪が虎王丸のところに戻ると、ようやく凪の『卑霊招陣』の効果が切れたときだったらしい。虎王丸が悔し泣きをしながら服を着なおしていた。

凪:「虎王丸。聖都までこのキャラバンに同行することになったから」
虎王丸:「………」
凪:「このキャラバンは、どうやら魔物に襲撃されやすいらしい。それの護衛を手伝うことになったから」
虎王丸:「………」
凪:「虎王丸にしちゃ察しが悪いなあ」

 ふてくされて返事をしない虎王丸に、凪は大仰にため息をついてみせた。

凪:「分かるか? 護衛ってことは、大切なこのキャラバンの女性たちを護るってことだぞ」
虎王丸:「………!!」

 虎王丸がようやく大きく反応した。
 ぐりんと凪のほうを向き、

虎王丸:「おい、何でまたそんなに魔物の襲撃が多いってんだ?」
凪:「さあ。長は誰か首謀者がいるとお考えのようだけど……」
虎王丸:「さては乙女団のいい女たちにフラれた男の逆恨みだな。間違いない!」
凪:「………」
虎王丸:「かかってきやがれ、いつでも返り討ちにしてやらぁ!」
凪:「単にキャラバンだから襲われるだけっていう可能性も――」
虎王丸:「はははは! 逆恨みするような心の狭ぇヤツに、ここの女は似合わねえよ!」

 だめだこりゃ、と凪は思った。しかし――
 周囲から、ぴゅうと口笛が鳴った。
 旅団の女たちが、虎王丸のセリフに対して賛辞を送ったらしかった。
 虎王丸が調子に乗って手を振っている。

虎王丸:「なあなあ一緒に一晩過ごさねえか〜?」

 ……まとめて声かけてどうする。
 凪の内心のつっこみをよそに、虎王丸はナンパを再開していた。

++++++++++

 その夜――
 凪に耳を引っ張られて、客用のテント(ちなみにほんの少数いる男性たちと同じテント)で寝ることになった虎王丸が、ふてくされて眠れずにいたとき――

 カタカタ……

 何かの音が聞こえた。

 カタカタ……

 ――何がどうというわけではない。
 ただ、虎王丸の勘に訴えかけるものがあった。それで充分だ。

虎王丸:「凪! おーきーろーっ!」

 げしっと怪我をしている足を蹴りつけられ、凪は跳ね起きた。

凪:「痛い! わざわざこっちを蹴ることないだろう……!」
虎王丸:「昼間の仕返しだ!」
凪:「今頃何の話をしてるんだよ! 大体何で起こして――」

 言いかけ、凪ははっと耳を澄ました。
 テントの外で、女たちが騒ぎ出すのが分かる。

凪:「なんだ……!? 何が起こってる!?」
虎王丸:「分かってねえのはてめえだけだ! 大方魔物の襲撃だろうよ!」
凪:「………!!」

 悔しい話だが、実際そういう勘は凪より虎王丸のほうがよく働く。……野性的というか動物的というか。
 女たちが騒いでいるからではない。
 虎王丸の勘だからこそ、凪は信じた。
 二人はテントから飛び出した。旅団の男たちは、テントを護ることを使命とされているらしい。
 実際に戦うのは女たち――

 女たちが、大量の魔物に囲まれ得物を構えていた。
 魔物はすべて、犬型の亜種だった。――従えるならこれ以上楽な魔物はいない。

治療の女:「ボウヤたち、よく眠れたかしら!?」

 こんなときにも陽気に声をかけてくれる女がいる。

虎王丸:「いい女がいねえテントでよく眠れるもんかい! あんたが添い寝してくれりゃ別だったろうけどな!」

 こんなときにも変わらずナンパをしかける虎王丸がいる。
 凪はその、変わらない光景に――
 却って落ち着きを取り戻した。

虎王丸:「てなわけで、魔物撃退したら添い寝けってーい!」

 虎王丸が刀を抜いて、魔物たちの群れにつっこんでいく。
 女たちが軽快に笑って、

旅団の女:「そりゃ、くじ引きでもしなきゃねえこっちは!」

 剣を、弓矢を、それぞれに慣れた手で扱い出した。

凪:「舞っている暇がない……」

 凪は銃型神機を二丁、さっと取り出し、両手に構えた。
 マガジンは物理攻撃用。犬型には取り立てて弱点属性がないから仕方がない。
 霊力によって自在に弾を操る――
 最前線を行くのは虎王丸。刀で、白焔で、魔物の数を着実に減らしていく。

旅団の女:「かっこいいよー、ボウヤ!」

 からかうように声をかけられ、でれっとした隙にざくっと魔物の爪が腕に刺さったりしていたが。

虎王丸:「であああああ!?」
凪:「何やってるんだよ!!」

 虎王丸の腕に喰らいついた魔物に向かい、凪は神機を構える――
 ガガガガガッ
 跳ね飛ぶように、魔物の体が吹っ飛んでいった。

虎王丸:「ちっ! やってくれるぜ!」
凪:「今のは明らかにお前が悪いだろ……!!」
虎王丸:「うるせえ! だぁりゃあああ!」

 虎王丸の問答無用の勢いは、魔物をひるませるに充分だった。
 刀が横薙ぎに振るわれ、一度に複数の魔物を斬り飛ばしていく。
 虎王丸の一撃で絶命しなかった敵を神機で確実にしとめながら、凪はあたりを探っていた。
 魔物の動き――たしかに統率が取れている。だんだんと、虎王丸を避けるような動きになっているのは、決して魔物たちの防衛本能だけではあるまい。
 そして魔物たちが向かっている先は――
 弓矢という、接近戦には絶対に向かない武器を持つ女たちの方向――

凪:「…………!!」

 神機で魔物の頭をぶち抜きながら、凪は声を張り上げた。

凪:「弓の皆さん、気をつけてください……! だんだん魔物がそちらを狙っています!」

 言われてはっと剣の女たちが弓の女たちをかばうように立つ。
 凪はふと頭を撫でられ、ぱっと神機をそちらへ向けた。
 しかし撃つ前にぎりぎりで止めた。

凪:「お、長さん……」
長:「君は冷静だね。ありがたいよ」

 そう言って長は、長剣を手に虎王丸とは違う方向に切り込んでいく。
 凪はふうと息を吐き、気を落ち着けてさらにあたりを見回していく。
 ――どこにいる?
 ――どこにいる、魔物を操っているヤツは?

 すう、ふう、一度の深呼吸の後は息をつめ。
 まなざしを鋭くして探し続けた――
 と、

凪:「―――!!!」

 見慣れない人影に、凪は威嚇の射撃を一発撃ちこんだ。
 人影が、びくっと体を震わせるのが分かった。
 凪は近場の旅団の女に訊いた。

凪:「あれは誰ですか!?」
旅団の女:「ん? あ……?」

 女が眉をひそめる。

旅団の女:「誰だ、あれは……!?」

 人影が逃げようとした。
 凪はとっさに、再びの威嚇射撃を行った。
 人影が立ち止まる。

凪:「誰だお前は……!」

 人影が再び逃げようとする。男の輪郭だった。
 凪は――

凪:「女性たちがこんなに立派に戦っているというのに、お前は逃げるのか……!」

 苛立ちのままに舞を舞った。
 『卑霊招陣』。
 何で今日はこんなにもこれを舞う機会が多いのだろうとか思いながらも、凪は舞った。迷いなく舞った。
 そして――

???:「なんだこりゃあ!?」

 泣きそうな悲鳴が聞こえてきた。
 魔物たちの統率が乱れた――
 そこを一気に、虎王丸や旅団の女たちがしとめていく。
 魔物たちの全滅。そして、

???:「なぜだ? なぜ俺は踊っているんだ――!?」

 服を脱いで下品なダンスをしている男がひとり……
 凪は急いでそちらへと向かった。
 あっ、と凪の背後で声をあげた女がいた。

旅団の女:「あんた……!!」
???:「お、お前〜〜〜」
凪:「………?」

 旅団の女のひとりが慌てて踊っている男の前に出て、彼を隠すようにする。

旅団の女:「ね、ねえキミ、これどうにかならない? いつ効き目切れるの?」
凪:「はあ……一時間くらいは切れません」
旅団の女:「な、なんとか早めに切れる方法ない? ああ自分のダンナがこんな踊り踊ってるなんてもう恥ずかしくてどうにかなっちゃいそうよ……!」
凪:「す、すみません――」
長:「しかしだ」

 ふいに、旅団の長がその場に現れた。

長:「私もひそかに魔物を操っているのは誰かとさぐっていたが……どう考えてもその男だ、リエラ」
リエラ:「え!? こ、この人が!?」
長:「ああ」
リエラ:「そ、そうだったとしても、とりあえずこの罰はお許しください〜〜〜! 他なら、鞭打ちでも拷問でもなんでもいいですから……!!」

 それはいいのか、と誰もが思った。
 長はため息をついた。

長:「まったく……詳しい話を聞かせてもらうぞ――」
虎王丸:「てめえが変態か―――!!」

 さっくり。
 突然飛び込んできた虎王丸の刀が、リエラの夫の腕を斬ってしまった。

++++++++++

 虎王丸やリエラの夫、他旅団の女たちの怪我を一通り治療し終わった後――……

長:「さあ、詳しく話を聞かせて頂く」

 長はリエラとリエラの夫を前にしておごそかに尋ねた。
 リエラは縮こまっていた。
 リエラの夫は、憤慨していた。

リエラの夫:「何を……っ。この旅団は悪の旅団と聞いたぞ! 人の妻ばかりを横取りして洗脳し、盗賊まがいのことをしてキャラバンぶっていると!」
長:「なんだと……?」

 リエラ、と長は妻のほうの名を呼ぶ。

リエラ:「わ、私はこの人とは別れたんです……っ。だっていざ結婚してみたら酒癖は悪いしいびきはひどいしっ。だから逃げ出して、このキャラバンに引き取ってもらったんです」
長:「ああ……それはそうだったな。忘れていない」

 長はリエラの夫に向き直る。

長:「この通り、我が旅団は悪の旅団などではない。お前は誰にそんなことを吹き込まれたのだ」
リエラの夫:「え? え?」
長:「大体一介の男が魔物を操れるなど……まともではないな」
リエラの夫:「いやそれは……マニュアルを頂きましたから」
凪:「ま、まにゅある……」

 同席させてもらっていた凪が唖然と声をあげる。

虎王丸:「誰からもらったってんだよ」

 虎王丸がもっとも重要な点をぶっきらぼうに訊いた。

リエラの夫:「いえ、それが……ま、マーダ様に……」
長:「マーダ?」

 長が首をひねった。

長:「聞いたことのない名だな。何者だ?」
リエラの夫:「さ、さあ……」
リエラ:「そんな得体の知れない人間のいうこと信じてこないでよ!」

 リエラがヒステリーのように叫んでぽかぽかと夫の怪我をしている腕を叩く。
 夫が悲鳴をあげた。

凪:「とにかく……何者かが嫌がらせにしては悪質なことを、この旅団に行っているということですね」

 凪が真剣な声音で長に言った。
 長はうなずいた。

長:「そうだな。とにかく――今夜は助かったぞ、客人」
虎王丸:「約束は!? なあ約束は? 添い寝の約束は!?」
凪:「虎王丸……お前、また舞をくらいたいのか?」
虎王丸:「うわ凪、てめえっ!」

 腕に怪我をしている虎王丸と足に怪我をしている凪のとっくみあいが始まる。

長:「客人。傷口が開くぞ」

 冷静に言う長は、真剣に止めようとしていない。

 結局虎王丸があまりにうるさいので、本当に旅団の女たちはくじ引きで添い寝する人間を選び出してくれたのだが――
 その夜は、凪は冷静に虎王丸に痛い思いをさせておいた。
 軽めの『冷砕波』で、凍傷をくらわせてやることで……


 ―Fin―