<PCクエストノベル(2人)>


撃退!おかしな魔物使い! ―戦乙女の旅団―

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【冒険者一覧】

【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】

NPC
【マーダ】
【半獣人】
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 エルザード聖都に向かう途中、蒼柳凪と虎王丸の二人は戦乙女の旅団にとても世話になった。怪我をした凪の治療をしてもらったのである。
 ところが、彼らが旅団に世話になったその夜、旅団は魔物たちに襲われた。
 魔物たちは、誰かに操られているようだった。凪はその犯人をつきとめ――
 それが、旅団に所属するリエラという女性の元夫だということが分かった。

リエラの夫:「勘弁してくれよ〜。俺はマーダに言われてこの旅団は悪いところだと……」
リエラ:「あんたのほうがよっぽど悪い夫だったわよ!」

 戦乙女の旅団の女は強い。リエラを連れ戻しに来た夫の行動は良かったのか悪かったのか、それはさておいて……

凪:「マーダ……」

 凪はその名が気にかかっていた。
 マーダという人物は、魔物を操るマニュアルとやらを手にしているという。

凪:「そんなヤツを野放しにしていいのだろうか……」

 しかし、考えても自分は今怪我をしていてあまり動くべきではない。
 とりあえず休むことにしようと、凪と虎王丸はそのままキャラバンで一夜を過ごした。
 次の日――

虎王丸:「へへん。こんな話を聞いて黙っていられるか」

 虎王丸は、凪がまだ眠っている時間帯に起き出した。
 そして、旅団にとりあえず捕まっていたリエラの夫をたたき起こし、マーダの居場所を聞き出した。

虎王丸:「近くの岩山……そこにいるんだな、マーダ様は」

 虎王丸的には、マーダは名前からして女だろうと様づけである。実際に女だとは、リエラの夫は一言も言っていないのだが。
 虎王丸はひそかにマーダがいるという岩山に向かった。

虎王丸:「倒しゃあの旅団での株も上がるし……魔物を操るマニュアル手に入れりゃ、俺様が操って色々できるしよ。マーダは悪い女っつーことで、お仕置きもできるしなあ」

 にやにやにやにや。
 岩山に向かう虎王丸の顔は、はたから見ると危ないことこの上なかった。

 夜明け前にふと目を覚ました凪は、隣に虎王丸がいないことに気づいて訝った。

凪:「すみません……誰か連れがどこへ行ったか知りませんか?」

 凪たちのテントは、旅団にほんの少数いる男性たちのテントである。その男たちに訊くと、虎王丸は出て行ったとのこと。それ以上のことは誰も知らないらしい。

凪:「………?」

 ますます訝って、凪はひとりテントを出た。
 キャラバンを見渡してみる。
 虎王丸独特の気配が、旅団内になかった。

凪:「どこへ行った……?」

 虎王丸と長く一緒にいる者としての勘。凪は、もうひとつのテントにそっと声をかけ、入っていく。
 そこにはリエラと数人の女、そして縛り付けられたリエラの夫がいた。

凪:「すみません。虎王丸がどこへ行ったか知りませんか?」

 なぜか起きていたリエラの夫が、眠そうな顔をしながら答えてきた。

リエラの夫:「それなら……きっとマーダのところじゃないか?」
凪:「え?」

 話を聞いて、凪は眉間に強くしわを刻んだ。
 わざわざ夜明け前にリエラの夫にマーダの居場所を聞いて、ひとりで出て行ったのだ。
 虎王丸のことだ。ろくな目的じゃあるまいと決めつけて、凪は急いで自分も岩山へと向かった。
 マーダを捕まえること自体には賛成だ。旅団には恩がある。

 虎王丸の気配を捕まえるのは、それほど難しいことではなかった。

虎王丸:「おらーー! マーダ様、出てきやがれーーー!」

 ……これだけ大声を出されれば。

凪:「何で様づけなんだ……?」

 そこのところがちょっと気になったが、とりあえず凪は陰から様子を見守った。
 凪としては、なぜマーダが旅団を襲っているのかが気にかかる。今回のことで、それが分かるかもしれない――

???:「何用だ、若いの」

 声が、した。
 三十歳に届くか届かないかていどかと思われる女性の――

 虎王丸が、へらっと笑ったのが――なぜか気配だけで分かった。

虎王丸:「お前か、戦乙女の素敵な旅団を襲わせてるってぇのは? 制裁受けやがれ!」
マーダ:「笑止!」

 女の――マーダの声は――自信に満ちていた。
 凪はぶるっと震えた。辺りに魔物の気配が漂ってきた……

虎王丸:「ばーか、てめぇがけしかけてる魔物なんざみんな旅団の女たちにやられてら。弱っちい」
マーダ:「なんだと……!」

 凪はさらに武者震いをした。
 魔物の気配――濃密な、濃密な――
 大量の――

 岩山の陰から、次々とハウンド系のモンスターが姿を現す。
 虎王丸が、けっと舌打ちした。

虎王丸:「っんだよ。結局犬しか操れねえのかよ」
マーダ:「なめるな……!」

 マーダの姿が、凪にも見えた。岩山の上に。
 たしかに声のイメージとたがわない女性……
 それが、右腕を振りかざす。

マーダ:「来い! 我がしもべたちよ――!」

 現れたのは、ぼんやりと輪郭が薄らいでいる薄っぺらい存在だった。それが、何十体も。
 虎王丸が、にやりと笑う。

虎王丸:「甘いな。甘いってんだ!」

 少年の手に生み出されるは白焔――
 それを剣筋に乗せ、思い切り放つ。
 剣圧の届く場所にいた存在はすべて、白焔に焼きつくされた。

虎王丸:「おら、こいよ!」

 白焔は魔物や霊体にもっとも効き目が高い――
 襲いかかってくるハウンドや幽霊もどきを次々と白焔で焼き尽くしながら、虎王丸は吼えた。

虎王丸:「マーダ様! あんたもかかってこいよ!」

 ……凪はずっこけた。
 この期に及んで様をつけるのかあいつは。皮肉にもならない。

マーダ:「く……っ」

 マーダが両腕を掲げる。

マーダ:「来い、我が真なるしもべたちよ。真なるしもべたちよ。我が身を護れ!」
虎王丸:「せけぇんだよ!」

 虎王丸が岩山を獣のように身軽に駆けのぼる。

虎王丸:「てめえが来やがれ、マーダ様!」

 その虎王丸の眼前に、
 突如現れたのは、
 背に獣の翼を持つ、半獣人。
 顔だけ獣の――ライオンのような顔を持つ半獣人が、三体。

虎王丸:「―――っ!」

 虎王丸は岩山の上で一歩退いた。
 一瞬前に虎王丸がいた場所を、半獣人の爪が通りすぎていった。
 一体はかみつくように、一体は爪を振りかざし、また一体は何かを口から噴こうとかっと口を開き――

凪:「………!!」

 凪は岩場の陰から、銃型神機で弾を撃ち込んだ。
 半獣人の一体の腕が、吹き飛んだ。

半獣人:「………」

 腕の取れた半獣人が、じっとなくなった腕の場所を見る。
 あははは! とマーダが高笑いをした。

マーダ:「どうやらひとりじゃなかったらしいねえ。でも無駄だよ! こいつらは――」

 マーダの手が輝く。
 半獣人の腕が、瞬く間に再生した。

凪:「なに……!?」

 凪は愕然と神機を持つ手に力を込めた。
 再生した? ならば急所を撃つしか倒す手はない――!

虎王丸:「凪ー! てめ、こら、いつの間に来やがったーーー!」
凪:「ありがたがって欲しいよ! ほら虎王丸、こっちを見てる場合じゃないだろ!!」

 虎王丸は凪の方角を見ながらも、野生の勘らしきものでひらひらと半獣人たちの攻撃を避けている。
 白焔一発では焼き尽くせない、よほどの強さの半獣人だ。
 刀で斬りつけても、斬りつけたそばから回復する。

凪:「どうやって倒せばいいんだ……」

 こんなに苦戦するとは思わなかった。
 そう、思ったとき。

虎王丸:「こら、マーダてめえ! これだけ部下働かせてんなら相応の報酬やってんだろーなっ!!!」

 ……虎王丸が訳の分からないことを言い出した。
 と、
 半獣人たちが、くるりと虎王丸に背を向けた。
 ――マーダのほうへと。

半獣人:「……報酬、くれ」

 ずるぅっ。
 凪はすべって転びそうになった。
 しかし半獣人たちは止まらない。

半獣人:「報酬……」
半獣人:「報酬……くれ」
半獣人:「僕たち……働いている」
マーダ:「な、ななな……っ」

 半獣人はその鋭い爪を、よりにもよってマーダに向けた。

虎王丸:「だーーー!」

 虎王丸がダッシュで岩場を駆けのぼり、マーダを抱いて半獣人の攻撃を避けた。
 そして、ずびしぃっと半獣人たちに指をつきつけた。

虎王丸:「てめーら! こいつの下僕になるって決めたんだろうがよ!? 今さら報酬なんか欲しがんな!」

 ずるずるぅっ
 凪は再びすべって転びそうになった。
 ……お前が言うな、お前が。
 心底そう思ったが、つっこめる位置にいない。

 そして困ったことに――
 虎王丸のセリフは、半獣人たちのハートにズキンと来てしまったらしい。

半獣人:「そ、そうだった……」
半獣人:「僕たち、しもべ」
半獣人:「しもべが報酬、おかしい」

 胸に手を当て、虎王丸に向かって礼をする。

半獣人:「正しい道、導いてくれて、ありがたい」
虎王丸:「おうっ。お前らいいやつらじゃねえか!」

 虎王丸は脇にマーダを抱えたまま、偉そうにふんぞり返った。

半獣人:「しかし……どうすればいい」
半獣人:「どうすればいい」
半獣人:「お前、僕たちの恩人。だが主は、お前を殺せと」
虎王丸:「気にするな!」

 虎王丸は、また訳の分からない理屈をこね始めた。

虎王丸:「いいか、俺は恩人だ! 従ってもう殺されない!」

 ……なんじゃそりゃ。
 凪はつっこみたい衝動を必死で抑えていた。
 半獣人たちは、おうおうと感動していた。

半獣人:「そうか、そうか。なら、殺せない」
半獣人:「主。この恩人は殺せない」
半獣人:「次の命令を、くれ」

 マーダは虎王丸に捕まって暴れていた。

マーダ:「こら! お前さっきからどこ触ってる! こら、こら!!」

 お前たち助けろ! とマーダが叫んでも、半獣人たちは動かなくなってしまった。
 なんだあ、と虎王丸がため息をついた。

虎王丸:「こんなんじゃよお、あんたの魔物操りマニュアルも大したことなさそうだなあ」
マーダ:「うるさい! お前がイレギュラーなんだ! というか変なところ触るな!」

 ズキュン!

虎王丸:「あでっ――このやろ、凪!」
凪:「いい加減にしろ、虎王丸!」

 凪は岩場の陰から姿を現し、神機を構えながら虎王丸を威嚇した。

凪:「悪いヤツ相手だからって何をしてもいいってわけじゃない! というかセクハラだろうが……!」
虎王丸:「るっせーよ!」

 虎王丸は、神機で軽く撃たれた拍子に逃がしてしまったマーダに、再度手を伸ばそうとした。

 ズキュン!

虎王丸:「てめっ、邪魔すんな!」
凪:「邪魔するさ!」

 ズキュン! ズキュン! ズキュン!
 衝撃だけで威力のない弾を虎王丸に当てて、虎王丸のセクハラを止めようとする。
 と、

半獣人:「恩人に……何をする……」

 ばさり。
 翼の音が近くにきて、次の瞬間半獣人が凪に向かって腕を振り下ろした。

凪:「………っ!!」
虎王丸:「やーい! やっちまえー!」

 虎王丸がけらけらと笑っている。
 凪は顔を真っ赤にして怒鳴った。

凪:「俺はマーダさんを助けようとしたんだぞ!」
半獣人:「な、に……」
凪:「あの虎王丸はな! マーダさんに害を与えるぞ、絶対に!」

 半獣人が虎王丸を見る。
 虎王丸は、この期に及んで胸を張っていた。

虎王丸:「そのようなヤツに耳を貸すな! 俺が正しい!」
半獣人:「む……」
凪:「ばか! マーダさんが嫌がってるの分かるだろ!」
半獣人:「むう……」

 半獣人たちは混乱したようだった。マーダがきゃあきゃあと悲鳴をあげているのでなおさらだ。
 そしてその混乱の中で、マーダはとりあえず凪が一番まともだと判断したらしい。

マーダ:「真なる我がしもべ! お前たち、戻れ!」

 両手を掲げての命令。
 しゅうう、と半獣人たちが消滅した。

虎王丸:「あっ、てめっ何で消しやがった!」
マーダ:「あんたに文句言われる筋合いないよっ!」

 確かにその通りである。
 凪は怪我が治りきっていない足でよいしょよいしょと岩場をのぼり、虎王丸たちのところへとたどりついた。
 そして、マーダに向き直った。

凪:「マーダさん。あなたは何故戦乙女の旅団を狙うのですか?」
虎王丸:「んなことどうでもいい、魔物操るマニュアル出せマニュア」
凪:「旅団は大変迷惑しています。嘘をついて人をけしかけてまで、何か恨みでもあるのですか?」

 虎王丸のセリフをさえぎって、凪はマーダに迫る。
 マーダはくっと少年二人をにらみつけた。

マーダ:「あいつらは……私を仲間にしてくれなかったのよ!」
凪:「………………え?」
マーダ:「私は……私は年増だからって……!」

 そう言って、わっと泣き出す。

凪:「と、」
虎王丸:「年増ぁ???」

 虎王丸は訝しそうにマーダを上から下へ眺め回した。

虎王丸:「あんた幾つだよ」
マーダ:「女に年齢を聞くの!?」
虎王丸:「んな話聞いたら気になるじゃねえか」
凪:「それより、たしか旅団の長さんはあなたの名前を知らないと……」
マーダ:「私はあの日から人生を変えのさ……! 年増と言われたあの日から、ヤバい魔法使いと付き合って顔も変えて名前も変えて、魔物操って人生をあの旅団への復讐に費やすと決めた……!!」
凪:「………」

 女の年齢の恨みは海よりも深い。
 つっこみどころ満載だったが、凪は何も言えなかった。
 反対に虎王丸が、

虎王丸:「だから、あんた何歳なんだよってんだ」

 長い、長ーーーーーい沈黙があった。
 マーダは、ぼそりとつぶやいた。

マーダ:「………………」

 それを聞いた瞬間、
 虎王丸はひいっとのけぞり、凪も思わず一歩さがった。
 ああっとマーダが地面につっぷしてめそめそ泣き始めた。

マーダ:「呪ってやる、呪ってやる、呪ってやる……!」

 本気で呪われそうな声音で何度もつぶやかれて――
 さすがに今回ばかりは、虎王丸も、凪が腕を引っ張るのを嫌がらなかった。

 虎王丸と凪は、こそこそと逃げ出した。

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虎王丸:「はーあ」

 岩山を出て、旅団に戻ろうとしながら、虎王丸は大きく伸びをしていた。

虎王丸:「眠いの我慢してまで来るようなことじゃなかったぜ……ふぁーあ」
凪:「というか、ひとりで行こうとするんじゃない」
虎王丸:「てめーがいるとうるせーんだよ」

 吐き捨てる虎王丸に、凪は言った。

凪:「もしものことがあったらどうするんだ! お前のことを心配していないとでも思ってるのか?」
虎王丸:「余計なお世話だっつーの」

 そう言って、虎王丸はそっぽを向いた。
 凪は笑った。――虎王丸は、案外耳まで赤くなるタチらしい。

 遠目に旅団が見える。 
 広い草原――
 夜明けの光に、薫風がかけぬけた。


 ―Fin―