<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


氷の庭へ
  ―ナマモノ達の舞い踊る―

□Opening
 その巨体を隠すように木々の合間を走る。何度か後ろを振り向いて、追っ手の無い事を確かめた。
 いや、まだ油断は出来ない。
 もう一度周囲を確認し……、そしてオーマ・シュヴァルツは、目の前の小屋の入り口に手をかけた。妻より下僕主夫ナマ絞りな仕置の逃走中、偶然見つけたこの島。そして島の中心に向かい走った所、小さな小屋を見つけたのだ。
 見つけたからには、入るしかあるまい。身を隠すには丁度よさげな場所だ。
 と、言うわけで、オーマは勢い良くそのドアを開けた。
「はい……、いらっしゃ……」
 小屋の中心で、その人物は一人椅子に座っていた。ウサギのような耳と尻尾。小屋の住人は驚いたように、オーマを見上げる。
「なんだ、こりゃぁ?」
 しかし、オーマはオーマで首を傾げ、しげしげと部屋の中を見回した。
 と言うのも、至るところに扉扉扉。外観から察するに、それほどこの小屋に沢山の部屋が付属しているわけでは無さそうだ。では、あの扉はどこに繋がっている?
 オーマは、すたすたと部屋を横断し、一つ少しだけ開いている扉に手をかけた。
「わー、まって、まってください、ええとこの扉の向こう側は氷の世界なのですが」
 慌てて、ウサギのような耳と尻尾を持つ部屋の住人がオーマの後を追った。
『へぇ、氷の世界たぁ、興味深いな』
『ばっか、氷だぜ? ハーブ系の俺らにゃあ、辛いところよ』
『旦那ぁ、どうするんです?』
 けれども。
 オーマの足元や肩の辺りで、イロイロなものが蠢いた。
「ええーっ、何です? 何?」
 びくびくとウサギの耳を振るわせ、小屋の住人は一歩後ろに後退した。
「は? 人面草あーんど霊魂軍団だが、何か? つか、お前は誰だ」
 取り敢えず、オーマは扉から一旦手を離し、にっこりと小屋の住人に笑いかけた。
「ええと、ボクはトット、ラビ・ナ・トットです、あなたは?」
「俺は、オーマだ」
 意外に、挨拶を交わしてしまえば何事も無かったように感じられる。トットは自分の役割を思い出し、オーマが開けようとした扉の前にかしこまって立った。
「この扉の向こう側は凍りの次元が広がっています、どうぞ、冒険はご自由に、但しモンスターの徘徊する空間ですけれども」

□01
 さて、トットはどこからかコンパスを取り出し、オーマに差し出した。
「このコンパスがあれば、次元で迷う事はありません」
 トットの説明をおとなしく聞いていたオーマ。が、突然、首を横に振り残念そうに呟く。
「桃色」
「え? 何です?」
 不思議がるトットからコンパスを受け取り、何やらオーマはコンパスを弄り始めた。その顔は至極嬉しそう、瞳が怪しくきらきらと輝いている。
「桃色・ハート模様・マイコンパスーアレンジっ」
 どうやら、何かが完成した模様。オーマは、ぐっとコンパスを上に掲げて、ふんぞり返った。
 わっと、オーマの足元や肩の辺りから歓声が上がる。
『素敵コンパスっす』
『俺も欲しい』
『欲しいなぁ』
 そして、いつの間にか人面草&霊魂軍団は、我も我もとトットに詰め寄りコンパスを求めた。
「そそそ、そんなぁ、だめですよぉ、一人一個ずつです〜」
 トットは見た事も無いようなナマモノ軍団に恐れをなしながら、それでもコンパスは死守した。
「まぁまぁ、お前ら、今こそ聖筋界ブラッディラブバトル筋隠れ家求めて……」
「隠れ家?」
 オーマはトットの指摘にこほんとせきをし、もう一度、軍団をなだめるように勢いをつけて言い切った。
「もとい!! ナマモノラブ成就求めて三千筋だぜ……!!」
『ラブ成就!!』
『おう、ハニー! この扉の向こうに居るのかい?』
『っしゃぁ、行くぜー』
 扉の前で、喜び踊るナマモノ軍団。オーマも、満足そうに胸を張って笑っている。トットだけ、一人、ノリ遅れた感じでぼんやりその光景を見ていた。

 ▼オーマ・シュヴァルツは【桃色ハート模様dimensionコンパス】を手に入れた!
 ▽イロモノ軍団はコンパスを貰えなかった!

□02
 ざりざりざりと、足元から氷をつぶして歩く。氷の世界と言うだけに、木も丘も道の砂も凍り付いていた。幸いな事に、地面は一面の氷ではなく、氷がちりばめられた道だったので滑る心配は無さそうだった。
『こ、こ、凍えるぜ〜』
「弱音を吐くんじゃねぇ! 良いかお前ら、お前らの見合い相手を探しに行くんだ! 気合入れろ!」
 確かに。
 人面とは言え、草にとって氷の世界はとても厳しいものだった。
 けれど、オーマは軍団に活を入れ、西へと進む。魔物がいると言う事は、見合い相手かも知れないと言う事だ。
「あのぅ〜、ボクがついて来る意味はあったんでしょうか?」
 そんな、熱い軍団の後ろから、トットは静かにオーマに問うた。
「何を言うかね、軍団の見合い相手探しにGOな今、立会人役が必要だろう?」
 オーマは、それはさも当然と言う風に片手をひらひら振る。
「いえ、見合いじゃなくて〜……、奥に進めば居るのはモンスターなんですけどぉ」
 本当に分かっているのだろうか。トットはオーマを見上げて、それから静かにため息をついた。だいたい、モンスターと遭遇してもトットに戦闘力は無い。一体どうしたものか。沈み込むトットに、オーマが優しく肩を叩いた。
「大丈夫だ、何てったって、今ならJunebride間に合いマッスル」
 そして、にかっと爽やかな笑顔。白い歯がきらりと光った。
「あう〜、全然大丈夫じゃない〜、それにぃ、どうして西なんでしょう〜? なにかあてでも有るんですか〜?」
 その、眩しすぎる笑顔に、トットはくらくらと眩暈を覚え顔をしかめた。
 相変わらず、軍団伴うオーマは、確かな足取りで西へ向かっていた。
「そりゃもう、朝の筋占いで西に筋運有☆と来たら、西に進むしかねぇよな」
 その自信たっぷりの言い様に、トットはもう一度大きくため息をついた。

 ▼オーマ・シュヴァルツは氷の庭を西へ向かった!
 ▽トットは腹黒連行の模様だ!

□03
 オーマは手元の【桃色ハート模様dimensionコンパス】を確かめる。扉をくぐった瞬間に、このコンパスはすっと方向を指し示した。それから、迷い無く針は方角をオーマに告げる。
「随分深いところまで来ましたねぇ」
 トットは凍りついた草をばりばりとかき分けながら辺りを見回した。
 最初はきちんとした道が有ったのだが、そのうち道も無くなり、草を分けて進む事になったのだ。大抵の凍りついた草は、オーマの巨体にぱきぱきと倒れて行ったが、それでもトットの身長くらいで折れ留まるものも有った。トットがかき分けていたのは、そのような凍りついた草だ。
「……、居るな」
 ふ、と。
 オーマは立ち止まり、コンパスをぱちんと閉じた。そして、一度目を閉じふっと軽く息を吐く。
「な、居るって、なにがです〜?」
 オーマを取り巻く空気が変った……? その急な変化に、トットは目を見張る。
 居る?
 何が?
 それは、先ほど、いみじくもトット自身の口から漏れた、つまり……。
「アニキっ、風……が……」
 コチン、と。
 軍団の人面草が全てを言う前に凍りつく。
 びゅうとふく風。その風は、まるで意志を持ったようにナマモノ軍団に襲いかかった。
 次々と、凍りつく集団。
 それは、一瞬の出来事だった。
 更に風は勢いを増し、オーマに襲いかかる。
「オーマさんっ、あぶな……」
 トットは耳を押さえ逃げ惑いながら、オーマへ声をかける。
「ふんっ、大胸筋燃え燃えリフレクトっ」
 しかし、オーマはあえて風に向かい、そして気合一閃。オーマのその燃え上がる闘気……いや、闘筋は見事風を跳ね返したっ! 一体どんな仕組みなのかっ! 誰にも分からないっ!
 仁王立ちのオーマは、にやりと笑い風のふく元ヘ大威張りで宣言したっ!!
「この俺のラブマッチョボディを凍らせしは、愛娘の冷徹言葉と愛妻の紅色番犬睨みのみっ」
 筋プライドにかけて、そんなやわな風には負けぬと、勢い良く相手を威圧する。
 しかし、更に氷の風がオーマ達を襲った。
 オーマは、その風を今度は上腕筋のみで跳ね返し、声を上げる。
「見えない位置からの遠隔攻撃、その腹黒さや良しっ」
「えええ〜、い、いいんですかぁ?」
 その言葉に、トットは驚きと不満の色をあらわにした。
 のだが、がさりと前方で何かが蠢いたので、トットはまた耳を押さえ縮こまる。
「あんた達、何の用? こんな所に何しに来たの? と、とっとと帰ってよ!」
 その耳に届いてきたのは、張り詰めたような少女の声だった。見ると、凍りついた木の影に小さな少女? の姿。但し、頭部には触角が生えており、背には小さな羽根、どうやら昆虫類のモンスターのようだ。
「いやさっ、ちょい待った、どうだ、腹黒同盟に加入しねぇか?」
 緊張するモンスターとは違い、オーマはずかずかと彼女? に近づき、どこから出してきたのか腹黒同盟パンフをびしりと差し出し勧誘攻撃をはじめた。
「な、何なの? あたしは、外からの訪問者なんて嫌いなんだからねっ、どうせあたしをいじめに来たんでしょう!!」
 少女のようなモンスターは、かっとなり、大きく息を吸い込む。
 その呼吸に合わせるかのように、また、氷の風が巻き起こった。
「ノンノン、真の氷漢目指すなら、コレを見よっ!!」
 その氷の風を受け、オーマは膨れ上がった!
 いや、激しい風に遮られ、その姿は陽炎のように揺らいでいたけれど、それは確かに巨大な獅子だった。
 あっと言うトットの声は、壮絶な風に音を失う。
「アニキエフェクト始動ッ!! 行くぞッ! ブリザードブレス!!!」
 巨大な獅子は、モンスターの起こした何倍ものブレスをやすやすとしてのける。
 あまりの激しいブレスに、獅子自体が光り輝いているかのごとく。若干気にかかるのは、獅子のバックに美しくポーズを決めたマッチョなアニキ達のミラージュが浮かんでいる事か。
 しかし、獅子の足元に居たモンスターや、もちろんトットにもダメージは無い。
 それどころか、全てが凍り付いている世界でのブリザードブレスは、つまり何も凍らせる事無く何も傷付けない。
「な、な、何よ、何なの……?」
 その、雄雄しい様子を見上げながら、モンスターは困惑気味に呟いた。
「うむ、コレを手本に、真の氷漢を目指すも良し!」
 そして、獅子へ変身したオーマは、更にもとの姿へと変化しモンスターの肩をやさしくぽんと叩いた。
 モンスターの少女は戸惑う。この者は、自分を傷つけようとすればいつでも出来たはずなのに、その巨大な力を全く傷付けず笑う。だから、少女はほんのちょっと、オーマを素直に見上げた。
 ただ一つ、これだけは言わねばならない。
「だ、だ、だ、誰が漢よーっ!!」
 その可愛らしい叫びを聞きながら、オーマはニヤリとほほ笑んだ。

□04
『ふぉーっ、メラ可愛いーっ』
 ところで、すっかり忘れ去られていたナマモノ軍団のうち、一輪の人面草が突然叫んだ。いや、勿論、凍らされていたわけなのだけれども、彼? の目はめらめらと燃えあがっていたのだ。
「ん? どうした? 兄弟」
 腹黒同盟の勧誘ビラをモンスター少女に押しつけようとしていたオーマ(まだ諦めていなかった!)が、その人面草の変化に気付き声をかける。
『お、お、お嬢さん、ぼ、ボクの蜜はいかがですか?』
 しかし、人面草はオーマの事などまるで、眼中に無い。
 彼を覆っていた氷は、彼の熱により溶け、そして彼はモンスター少女に突進して行った。
「ちょ、あ、あたしは……、草の蜜なんて……、き、嫌いなんだからねっ」
 言い寄られた少女は、しかし触覚をぴくぴくと動かしながら、拗ねたように下を向いた。拒絶の言葉に、心なしか力が無い。何と言っても、昆虫にとって花の蜜はもっともいとおしいモノ。それが、氷の世界では花も凍り付いて蜜採取どころでは無いのだから。
「おお! ラブゲッチュパワーで突破したんだな! 愛の奇跡だ」
 うんうん、と。
 その様に、オーマは満足げに頷いた。
「あ、あの〜、話がまとまった所で、そろそろ帰りませんか……」
 随分奥まで来てしまった。
 トットは、その他の凍りついた軍団をかき集めながら、オーマに進言する。もう、この辺りで帰りたいと言うのがその本音だった。
「何を言う、立会人、こうなりゃ挙式会場も物色が必要だな」
 オーマは、俯く少女の頭を何度かぽんぽんと軽く叩き、遠くを見通す。
「な、何するのよっ、ちょっと、あたしはまだ、何も」
 頭に置かれたオーマの大きな手を必死に払いのけ、少女は抗う。
『おぅ、ハニー、怒る様も超キューッ』
 その隣で、ラブ光線を発しながら人面草は身をくねらせた。
「嬢ちゃん、この辺でどっか、綺麗な所は無いのか?」
 その様子にオーマは殊更満足したのか、両腕を腰に当てかっかっかと豪快に笑った。
「綺麗な所……、無いわけじゃないけど……」
 そんな陽気なオーマや怪しくもラブ光線を出す人面草に囲まれ、少女は戸惑いながらも、更に西の方をそっと眺めた。

□Ending
「わぁ、大きな湖だね〜」
 草をかき分けながら進んだその先に、一同が見たものは、きらきらと輝く湖だった。輝いてはいるけれど、それは、氷が光を反射しているのでは無い。
「ここはね、凍らない湖」
 先導していたモンスターの少女が、そっと湖に手を浸す。
 氷の世界で、彼女が生きているのはきっと、この湖のおかげだろう。
「ナイススポット、ラブパワーマックスだな!」
 オーマは、湖畔で眩しそうに湖を眺めた。
『ハニー、超ラブ、超ラブだー』
 人面草は、うっとり少女を見つめながら湖に向かって叫びつづけた。ただ、その足元は、ちょっぴり凍りかけていたけれど、まぁ、何とかなるだろうて。
「べ、別にあんた達を全部信じたわけじゃないんだからねっ」
 少女は、全く自分に危害を加えない、外の世界からの訪問者をちらちらと見ながら強がっていた。
「さて、そろそろ帰るとするか」
 どれほどその光景を眺めていただろうか。
 オーマの言葉に、トットは一人、ほっと安堵の表情を浮かべた。
『アニキ、俺はハニーとココに残る、いや、残させてくれ』
 いつに無く真剣な人面草が一人。
 その姿には、頑なな決意が見て取れた。
「そうか、兄弟、元気でなっ、俺達はいつでも応援しマッソーッル」
 人面草の男の姿を瞳に焼き付けるように、ぐっと、オーマはポージングを決めた。
「な、何よっ、ココに残ったって何にも無いんだからねっ」
 その隣で、昆虫のモンスター少女は、触覚をぴくぴくと嬉しそうに動かした。

 一同は、少女と一本の人面草を残し帰路につく。
「んー、何てオモシロ筋くすぐる小屋なんだ」
 ところで、凍りついた軍団を抱え、オーマはニヤリと呟いた。
「え? 何か言いましたか?」
 トットは、何とか小屋に帰る事ができそうだと、安心してオーマを見上げる。
「いやいや、あの小屋隠れ家認定筋決定」
 瞬間、涼しい氷の風がひゅうとふく。
 オーマのきらりと輝く白い歯が、トットの網膜にきっちりと焼きついた。

 ▼オーマ・シュヴァルツは西の先に凍らない湖を発見した!
 ▽トットは小屋を隠れ家に認定されてしまった!
<End>


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳 / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

□オーマ・シュヴァルツ様
 こんにちは、いつもご参加有難うございます。
 氷の世界での冒険、いかがでしたでしょうか? 頂いた楽しいプレイングを楽しく仕上げるべく、本人も楽しみながら書かせて頂きました。
 発見した場所につきましては、後日Interstice of dimension内にも追加致しますので、ご確認下さい。
 少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。
 では、また機会がありましたらよろしくお願いします。