<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


+ 晴のち曇り、ところにより一時雨 +




 日はだんだん隠れ、人々は明かりの準備をしているとき、階段を駆け上がる音が響いた。
「なる子ちゃん! 大変だ!!」
 突然入ってくると、いつも晴々なんでも屋に牛乳を届けてくれるおじさんが、目を見開いて叫んだ。
「アセシナートの奴らがフィルケリアの村にいるんだ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ、おじ様。一から話してくださいな」
 営業スマイルで向かえるココに、言葉とジェスチャーで話すおじさんは、こう言った。

『ハルフ村温泉に牛乳を届けた帰りに荷車をひく牛に川の水を飲ませていると、反対の岸の向こうに、アセシナート兵がたむろしているのが見えたんだ。俺は牛の影に身を潜めて奴らを見張っていたんだが、フィルケリアの村のほうへ行ってな、その方向を見ると明かりが煌々とついていたんだ。俺はもう焦って焦って』
 なる子が差し出したお茶を一気飲みし、
「奴らが何をしているか調べてほしいんだ」
「調べるだけでいいの?」
「……できれば、追い返してほしい」
「えっ、受けるの?」
 焦ったようにココが言った。
「人数は?」
「わからんが、確認できただけで六人。村の中に何人もいるかもしれん」
「そう……じゃあ、協力者を募集しなくちゃ!」
 なる子は久しぶりの依頼に燃え、ヴィンはそのノリにのっていた。おじさんは嬉しそうに二人の姿を見ていたが、ココは一人、動揺し、持っていたコップが割れた。

――晴々なんでも屋、久しぶりの依頼であった。


 翌日、大柄の男が晴々なんでも屋の扉をノックした。
「よお! 遊びに来たぜ」
 両手いっぱいに自作のお菓子が入った袋を持って訪れてきたのはオーマ・シュヴァルツ。オーマは店内の異様な雰囲気を感知し、お菓子を皿に盛るとそれを食べさせながら話させた。
「だからね、もぐもぐ。フィルケリアの村にアセシナート公国の兵士がいるんだって。バリバリ」
「…そうか」
 ハート型のクッキーや煎餅を食べながらなる子は話したが、オーマのいつもとは違う表情に、
「ど、どうしたの?」
 不安を感じた。
「いや、村も公国は何度も見てきているが、公国の奴らは今さえ、己達さえ良ければと考えるからな。下手に手を出すと聖都を襲われかねん」
「えっ、そうなの?!」
「なる子は知らんか。だが、見逃すのも」
「悪い奴らを追い出せば良いんだな」
 オーマとなる子の間にひょこっと首に鎖を巻いた少年が現れた。
「うわっ!」
「すいません、虎王丸が『美味しそうな匂いがする』とか言って、勝手に入ってしまって」
 その後ろには、すまなそうにする和風の服装をした少年。
「よお! オーマ、久しぶり」
「おう、虎王丸に凪か。ちょっとそこに座って話を聞いていけ」
「??」
「ケーキも焼けたわよ〜」
 虎王丸(こおうまる)と蒼柳・凪(そうりゅう・なぎ)の二人はオーマに促されるまま椅子に座り、お菓子を食べながら話を聞いた。聞きながら、虎王丸は目をキラキラ輝かし、凪は興味深そうに聞き入っていた。
 二人は頷き、
「俺たちでよかったら協力するぜ!」
 虎王丸、凪の二人も協力する事となった。
「よし、それじゃあ作戦会議といくか」
「おう!」
 作戦会議兼自己紹介兼お茶会ははじまった。
 しかし、自己紹介が終わると、
「また何の[異]を呼び招きやがろうとしてんのかねぇ……」
 オーマは独り言をつぶやき、そのまま黙り込んでしまい、虎王丸はゴム鞠状態のヴィンセントにカルチャーショックし、数分間固まった後、つんつん突っついていた。
 そして凪は、
 パリンッ
「うわっ! ココさん、手! 手!」
「え? ……あら、血が出てるわね」
 コップを割った拍子に手を切ってしまったココを見て、手当てをしようとしたが、当人はまったく動揺した仕草をせず、ヴィンセントと同じくらいの大きさにまで広がった有色の水溜りを見て、指を鳴らした。
 すると、その水溜りは瞬時に無くなり、手の出血も傷跡も無くなっていた。
「心配しなくても、このくらいの術は持っているわ。それより今はアセシナートをどう追い出すか、よ」
「そ、そうですね」
 目の前で起きた術に目を点にしながらも、ヴィンセントを突付きまくる虎王丸を引っ張って席につかせた。
 ヴィンセントはべそをかきながら、ココの膝に乗り、離れない。

 そんなこんなで、やっと話はまとまり、
「じゃあ、俺は先に村に入って調査してくるから、わかったことはコイツを通じて伝えるな」
 オーマが皆に渡しているものは、手のひらにちょこんと乗る大きさの苺。
「どうだ、可愛いだろ!」
「えっ、ええ?」
 後ろはピンになっており、服に付けることができる。
「心配しなくても落ちねぇから大丈夫だ」
「いや、その心配ではなくて……これのどこから声が聞こえるのですか?」
「んなもん作ったら敵にバレちまうでねぇか。バレないようにタダの苺みたいになってんだ。大丈夫、その時になったらわかるさ」
「はぁ…」
「これ食えねぇのか……」
 さらに話は進み、
「じゃあ、あたし、なる子と虎王丸さんはオーマさんの合図で村に突入して、凪さんとココは後ろから援護してね」
「おう!」
「わかりました」
 お菓子が尽きると同時に席を立った。
 しかし、ただ一人椅子に座ったまま俯いていた。
「もうココったら何いやがってるのよ?」
「……はぁ、村に行ったらわかるわ」
「??」
 ココの発言に疑問を持ちつつ、一同は晴々なんでも屋を出た。


■ ■ ■ ■ ■


 聖都エルザードから東南に進んだ所にフィルケリアの村はあった。
 そこはかつて豊かな自然が存在し、村人は自然と共存していたが、エルザードとアセシナートの小競り合いが始まって以来、村は荒れつくされ、自然も消滅し、村人は移住生活を送っている。
 その村の一歩手前でオーマは五人と離れることになっていた。小さな獅子に変身し、みなに背を向けたとき、凪はオーマを引き止めた。
「少し待ってください」
 凪は目を閉じ深呼吸をしてから、服の裾を風になびかせ、日の光を浴び、その光を集めると、そっと皆の上から降り注いだ。『八重羽衣』と呼ばれるその舞は、中傷程度のダメージを数回肩代わりする結界を付与する効果がある。
「ありがとよ!」
 小さな獅子となったオーマは村へ向かって駆けていった。姿が見えなくなるまで見送ると五人はその後を追った。
 もう少し先まで行って、村の様子を外から観察するのだ。

 虎王丸となる子は村の様子が見えるところまで来ると、草むらに隠れた。二人は先ほど三人とわかれ、いつでも突撃できるよう近くまで来たのだ。
『おうおう、こりゃあ凄いぜ。村の中には十、いや二十はいる』
「それって人間?」
『いいや、アンデットだ。ゾンビやミイラ、吸血鬼までいるぞ』
 オーマの苺から、みなにそう伝わってきた。いきなり唇がはえて。
「可愛さ半減、いやマイナスだよ、これ……」
 なる子もがっかりだ。
「いいじゃねぇか、それよりワクワクするぜ。早く合図こねぇかな」
『うおっ、人間がいるぞ。ありゃ二十代前半の女だな』
「合図早くきやがれッ!!」
「…違う意味でワクワクしてない?」
 次の瞬間、二人の背後に冷気を感じた。振り返ったが、そこには何もない。
「気のせいか? ……ッ?!」
「こんにちは」
 金属がぶつかり合う音が響き、その間から火花が散った。
「何か音がすると思ったら、エルザードの方でしょうか?」
 ロザリオを身につけた黒髪の青年が虎王丸に切りかかったのだった。
 互いの剣を振り払い離れると、青年は剣を鞘に戻した。
「あんた、アセシナートの騎士? それに、何をする気なの?!」
 虎王丸の後方に立ってなる子は言った。手に篭手を付けて。
 攻撃を避けながら黒髪の青年は頷き、二人を睨みながら、
「僕はエルザードの方とは、できるだけ戦いたくない。だからお引取り願いたい」
「そいつはダメだ。ってかよ、あんた誰だ?」
「アセシナートの、翼(たすく)。さぁ、帰ってください。でないと本気で追い返しますよ」
「ケッ。やれるもんならやってみろッ!!」
 刀を握り締め、地を蹴り虎王丸は翼に切りかかった。翼は虎王丸にしか攻撃せず、虎王丸は翼しか見ていなかった。
 その傍でなる子は、ここで激しく戦えば敵に見つかってしまう事を恐れ、それを虎王丸に伝えたが聞いているとは思えず、おどおどしていた。
 翼を倒そう。しかし、なる子にはわかっていた。自分では全く歯が立たない敵だと。
 だけども時間をかけている場合ではない。こうしている間にも騒ぎを聞きつけたアンデットたちが我先にと向かってきている。
 すると、閃光がなる子の肩をかすり、虎王丸の髪を焦がせ、翼に激突した。目が痛くなるほどの光が辺りを包み、アンデットたちは悲鳴を上げた。
 なる子の目がやっと見えるようになったとき、虎王丸は刀を手にしたまま目をしょぼしょぼとさせていた。アンデットの姿は微塵も無い。
「なにやってんのよ」
 怒った口調でココが言い、二人の前に立った。凪がそのあとを追いながら翼を見た。 胸に当たったのか煙があがり、服が焦げていたが、身につけていたロザリオに何かの魔法がかかっていたようで光を分散したようだった。
 気を失って倒れている。
「早く屈みなさい、これ以上見つかると面倒よ」
 四人は『こんな事できて普通よ』といった風に振舞うココに、アセシナート以上の恐怖を感じ、味方でよかったと心底思った。


■ ■ ■ ■ ■


 オーマは、獅子の手でも撃てる麻酔銃をくわえながら村内をくまなく調査してまわっていた。だが、アンデットが道を塞いで先に進めない。
 どうしようか迷っていた時、そのアンデットたちが一目散に村の外へ走っていった。
 もしかして……いや、それはないか。
 オーマは途中で見つけたサラマンダーを見本に、炎を纏った巨大なサラマンダーを具現化した。
 そして、それに村中を走り回るよう命令すると、メラメラと、まるで巨大な炎の塊のようなサラマンダーは、オーマに向かって頷くと砂埃を上げて走り去っていった。
 案の定、すぐに村の中は炎に包まれ、大量の煙が発生した。しかしこれは具現化したものによって起こされたのであって実際の炎と煙ではない。多少の暑さを感じるだけで焼死することもない。
 だが、さらに具現化した炎と黒煙を加えると、火事でなくても厄介な障害となろう。 実際には燃えていないのだから後から問題になることもない。
 アセシナート兵やアンデットたちは燃えている建物が飛び出てきて消火活動をしようと水を探しているが、ここは自然が失われた土地。水などない。
 目的は炎ではなく、大量の煙だったのだが、姿を見せないようにするためのものなので多めのほうがいいだろう。

 今、フィルケリアの村は炎に包まれていた。その炎は近くにそびえ立つ山にまで広がっている。
 その炎が広がる様子を村の傍で待つ五人は確認すると立ち上がり、虎王丸となる子は三人とわかれ、燃える村へ飛び込んでいった。
 “これが合図である”
 オーマは五人の無事を願いながら首謀者を探した。


■ ■ ■ ■ ■


 二人が村に着いたとき、燃え上がる村の中に走り回る巨大な炎のトカゲを発見した。
「あれは…オーマさんが言っていた火事の原因ね。この煙じゃ視界が悪いから誰だかわからないし、相手は混乱している……チャンスね」
「俺たちの視界もヤバイけどな」
「大丈夫! これはオーマさんが出したものだよ、味方には大丈夫のようになってるって!」
「だといいがな」
 虎王丸は再び刀を握り、なる子は篭手をはめなおした。
 後ろの茂みには凪とココとヴィンがいるが、親玉がでるまで前にいる二人のサポートをすることになっている。ヴィンはココが離したくなくて付いてきているだけだが。
「行くぜッ!」
「うん!」
 虎王丸となる子は炎の中に飛び込んだ。二人の様子はココが持っている水晶玉に映し出され、いつでも術が使えるように凪とココは用意をした。

「死にてえ奴から掛かって来いよッ!? あの世までぶっ飛ばしてやるぜッ!!」
 事前に刀には『白焔』とよばれる火炎能力を宿らせていた。これは悪魔やアンデットに特に有効の技である。
 相手を挑発しながら虎王丸は空高くジャンプし、飛び掛かり、刀を叩き付けた。当初の予定は弱い手がいたら峰打ちをし、愚問する予定であったが、しかし、ここにいるのは人語がわからず唸るばかりのゾンビやミイラ、意味不明な言語を話す吸血鬼だけしかいない。
「どいつもこいつもッ! ちったぁマトモなやつはいねぇのか!!」
 いつの間にか、なる子とはぐれてしまったが、なる子の言うとおり炎に触れても多少熱く感じるだけで煙たくもなく、ただ汗が出るだけだが、
「あっついなッ!」
 四方を囲まれてはサウナのように熱い。
 しばらく人語が話せる敵を探しながら刀を振り回していると、
「虎王丸!」
 振り返ると、そこには真っ赤な頭をしたなる子が。しかし、元々なる子の髪は赤色だが、今見てみるとなんだかいつも以上に赤いような……。
「もう敵がいなくなったんだって! さっきココに会ってね、そう言ってたよ。さぁ、みんなの所へ戻ろう」
「本当か?!」
 大騒ぎしたくせに、こんなにあっさり終わるとは。
「本当だよ? ねぇ、早く行こうよ」
「そうだな」
 にっこりとなる子は微笑むと腕を引っ張った。しかし、頭を近くで見てみると真っ赤な髪の中に液体が―――
「なる子?!」
「虎王丸ッ!!」
 凪の声が聞こえたかと思うと、足元に魔方陣が現れた。すると、なる子は目を見開き叫び声を上げて倒れてしまった。突然のことで驚きつつも気を失ったなる子の体を支え、そっと寝かした。
「天恩霊陣…? 凪か!」
「危なかった、まさかなる子さんがとり憑かれるとは。敵にはこういう術を使うものがいるんだな。虎王丸は、怪我はないか?」
 炎から現れたのは凪。
「あ、あぁ。しかし…、ちょっといなくなったかと思っただけだったのに、なる子……そういや、ココとヴィンは?」
「はぐれてしまったよ。最初は三人で水晶玉を覗きながら二人の様子を見ていたけれど、黒い影が襲ってきて、俺だけ逃がして二人は……だけど、虎王丸と合流できてよかった」
「そっか」
 二人が会話している最中、なる子は目を覚まし、今までの経緯を聞いて驚いていたが、頭の怪我も癒え、三人は天恩霊陣から出た。


■ ■ ■ ■ ■


「オーマ」
 小さな獅子に変身したまま村中を走り回っていたオーマは声がしたほうを向いた。
「…ココ? ヴィン?? おいおい、ココとヴィンじゃねぇか。凪はどうしたんだ?」
「はぐれてしまったの。でも、オーマに会えてよかった。まだ敵に会ってないのね」
「あぁ、なかなか居なくてよ! なる子たちを呼ぼうか? そしたら、いつ会っても大丈夫だ!」
 オーマは沈んだ顔をしているココに内心驚きつつ、
「じゃあ苺から呼びかけてみるぜ、そしたら無駄足をせずに済む」
 苺を片手に話す中、ヴィンを抱っこしながらココは指を鳴らし、近づいてくるアンデットたちを粉砕していた。できるだけオーマに気づかれないように。
 そういえば、こういう術をよく使うせいか、凪によく見られていた気がしていたのだが、ココはできるだけ凪にはこのような術を使ってほしくないと思った。凪がいるときは炎や雷を召還していたのだけれども、
 こんな後味の悪すぎる術ばかり、覚えても仕方がないでしょう?
 ココが指を鳴らし、指差した跡には炭と水蒸気だけしか残っていなかった。
「よし、もう少しで来るぜ。それまで、ここで待っていよう」
「わかったわ」
 ココは結界を張ると、その結界に煙を纏わり付かせて姿を隠し、思い切り指を鳴らして光線を、まるで大砲の如く飛ばした。
 すると、ダダダダダッ!! と素早く駆ける足音が聞こえ、
「ちょっとアンタ!!」
 肩で息をしながら虎王丸と凪を両腕に抱え、髪も服も焦げたなる子が結界の中に入ってきた。
「すぐに居場所はわかったけど、やり方ってもんがあるじゃない!」
「そうね」
 いつもと違うココの態度に拍子抜けし、ぽかーんと手から力が抜け、虎王丸と凪は地面に落ちた。
「イテテッ! ……なる子って意外と力があるんだな…」
 頭を押さえながら虎王丸は言ったが、凪は気を失っている。
「いつもなら、『そんな術くらい避けられないアンタが悪い』って言うのに……どうしたのココ?! やっぱり今日アンタ変よ!」
「無視かよッ!」
 ココはヴィンの頬を突きながら、
「もう少しでわかるわ。それまでこの結界の中で戦闘準備をしておくことね。オーマも虎王丸も凪も」
 結界の外で聞こえる足音と擦れて聞こえる会話。正体はわからないが、五人はココの言葉に従うことにし、変身を解き、刃を磨き、気合を入れなおし、お菓子をつまみんで……
 お互い顔を合わせて頷いた。
「結界を解くわよ」
 ココが指を鳴らすと、六人の目の前には灰色の髪の女性が立っていた。脇には、凪とココとヴィンを襲った黒いシルエットや先程まで気絶していた翼とアンデットたち。
「やはり、ベル姉さんなのね。やっと会えた」
「??」
 五人は、ココ以外の五人には理解できなかった。
 中央に立ち、先に口を開いた灰色の髪の女性、アセシナート公国はエルザード軍と大きく変わらず、個々の将軍と騎士が、個々の判断を持って戦う組織であって、このアセシナートの軍勢の中央に立つと言う事は、彼女は将軍の位だと思われるのだが、
「ラリーズ……ベルと呼ばないでって言ったでしょう」
「私はララよ。“ココ姉さん”」
「ココが二人?!!」
 灰色の髪の女性は髪と服装以外、ココと瓜二つなのである。
「クックックッ。ベルナデット様、貴方様には『捜索命令』が下っているのですよ? だから、直々に貴方の部下であった我々が出向いたのです」
「ミーダ、あんた……」
 黒いシルエット、ミーダは真っ赤な口でニヤリと笑っていた。
「おい、ココ! ちゃんと説明してくれ。おまえ、アセシナートとは関係ねぇよな?!」
 オーマは問い質したが、ヴィンを抱っこしていた手が力なく落ち、地面につき数回跳ね返り、やがてその場に静止した。
「嘘、だよな」
 虎王丸と凪も、出会って日は浅いが、この状況に動揺を隠せずにいた。

 皆の視線がココに集まったとき、ココは鼻で笑い、
「たしかに、アセシナートに忠誠を誓い、あの者たちの上司であったけど、それはとっくの昔に捨てたことよ。なにを今更」
「ココが…アセシナートの……」
「国の重要書物を持ち出し、会得したあと焼失して、さらに騎士数百人の殺害……これほどまでの実力を持つものを逃がすはずはないでしょう。それに、姉さんはアセシナートにとって邪魔な存在とも知り合っている」
「じゃあ、フィルケリアの村に来たのは俺らを誘き出すために…?」
「それもあるけどね。さぁ、もうお喋りはいいでしょう。姉さん、それにエルザードの皆さん、おとなしく捕まってくださいな」
 アセシナートの軍勢が一気に六人襲い掛かった。


■ ■ ■ ■ ■


 もう、どれだけ戦ったのだろう。
 すでにアンデットは消え去り、あとはララ、ミーダ、翼の三人のみ。しかし、いくら攻撃しても、まったく当たらないのである。
「クックックッ!! 何をやっているのです、こっちですよぉ!」
「待ちやがれッ!」
 風を切り、地面をえぐるほど虎王丸は刀を振るい続け、
「一度倒れた僕を倒せないなんて、君はなんでここに来たのですか?」
「俺は…俺は!」
 走りながら舞をし、『霊砲演舞』と『蒼之比礼』とを使い分け、布で剣をはらい、その隙に銃で撃ち込んだ。
「ララ、退きなさい!」
「たとえ息をしていなくても姉さんは連れて帰る」
 炎を操り、雷を落下させ、呪いをかけ呪詛返しし合い、互いが互いの弱点を見出すまで、決定的な隙ができるまで、他人は手出し無用の戦いを繰り返した。
 オーマ、それになる子とヴィンは見ているだけしかできなかった。
「ど、どうしようオーマさん! あたし、あたし……」
 頭を抱えるなる子。オーマはそっと肩に手を置くと微笑んだ。
「大丈夫だ、誰も負けやしないさ。信じて待て。ココのことは後でいいだろう?」
 なる子はまったくオーマの言葉が聞こえていないように一点を見つめたままガクガクと振るえていた。オーマはヴィンを拾い、なる子に持たせると、炎でなる子を隠し、三人が戦っている場に行った。
 手には先程の麻酔銃。
 オーマは銃を持った方の腕を伸ばし、三度銃声を轟かせた。
「ウッ」
 腕に命中した翼は予想外の痛みに一瞬、凪から目を離した。
 この隙を見逃すはずはなかった。途端、布が長く伸び、きつく巻きつくと、翼の動きを完全に封じた。
「俺の勝ちです」
 翼は凪の顔を見て、口を動かすと引き攣った笑顔をうかべ、気を失った。
 その同時刻、虎王丸と戦っているミーダにも異変が起こった。
「クックッ……翼はまだまだ幼く、弱い存在だと思っていたのに」
「テメェこそ、この俺をなめすぎてんだよッ」
 オーマの麻酔弾と虎王丸の白焔をまともにくらったミーダは翼と同じく凪の布により捕まえられた。
 あとはココと戦っているララのみ。
「ココッ!」
「ココさん!」
 虎王丸と凪は加勢しようとしたが、炎と雷の渦により近づくことができない。
「大丈夫だ、ココは負けねぇ。だから待つんだ」
 二人もなる子とヴィンが待つ所へ行き、戦いが終わるのを静かに待った。

 数十分後、指を鳴らす音が辺り一帯に響き渡り、オーマが具現化した炎が一瞬にして消え去り、村も元通りになって現れたのは煤によって服が汚れたココと座り込むララ。
 オーマと虎王丸、そして二人を捕まえた布をしっかりと持つ凪。遅れてなる子とヴィンも駆け寄った。
「なぜ、この村にいたんだ」
 俯いていたララは顔を上げたが、また俯き、口を開かない。
「もう一度聞く、なんでフィルケリアの村にいたんだ」
「…いいじゃない、もう」
 疲れきった顔をしてココは言った。
「私が話をつけたから、その二人も離して。今後この三人が攻めてくるときは私が追い返すから」
 ココは指を鳴らすと凪の手が勝手に開き、布の力も緩んだ。
「本当に、いいのかよ」
 解放されたミーダは気を失っている翼を抱き上げるとララの傍に寄った。
 ララは翼の髪を撫でながら目を細め、そしてキッと此方を睨み、
「今回は引き返すけど、あきらめたわけではないから。姉さん、次こそ連れ戻すわ。エルザードの人間、今度会ったら容赦シナイカラネ」
 ララは丸い発光体を地面に叩きつけると大量の光線と煙を発し、それがおさまると、そこには姿がなかった。
「消えた…」
「…俺たち勝ったんだよな」
「そう、ですね」
 終わって我に戻ると、目の前にはフィルケリアの村に広がった炎のような夕暮れ。
 それを見つめるオーマと虎王丸。舞い、『天恩霊陣』を使って五人の傷を癒す凪。その陣から、そっと抜け、考え込むココ。その背を見つめ、声をかけようか迷うなる子とヴィン。

 今日分かった真実は、序章しかにしかすぎない。
 ココはアセシナートの軍人であって、なぜ抜け出したのか、それを聞いて表情を変えたなる子に何が起こったのか。なぜヴィンは表情を硬くしているのか。
 それは、闇。まるでアセシナート公国の街のよう。
 光の差さない暗闇が、晴々なんでも屋のメンバーに漂っていた。


【晴のち曇り、ところにより一時雨/完】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2303/蒼柳・凪/男性/16歳/舞術師】
【1070/虎王丸/男性/16歳/火炎剣士】

NPC
【晴々なる子】
【ココ】
【ヴィンセント・フィネス】
【ララ・ウルディアン】
【ミーダ】
【鈴山・翼】

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■         ライター通信          ■
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 こんばんは、ライターの田村鈴楼です。
 後半は戦闘シーンばかりで、シリアスで……ギャグな場面を入れたくなったのですが、どうでしたでしょうか?
 NPCが多く登場してしまい、できるだけ皆様の活躍場面を増やそうとしたのですが、ご意見・ご感想等ありましたら、ぜひお寄せください。

 最後に、いつになるかはわかりませんが、続編を予定しております。
 晴々なんでも屋のメンバーの過去や思い、そしてアセシナート軍との戦いを書く予定です。
 ぜひ、よろしければご参加ください。

 ありがとう御座いました。