<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『古塔の探索』

●ギルドの異変
「さて、俺だったら何処を紹介してくれるんだ? ……別に『誰を』でもかまわねぇ
けどな」 
 そう言ってワグネルは目の前の男をじっと見つめた。
 男の名は、ジェイク・バルザック。既に何度も冒険を共にしており、その腕と冷静
な(時には冷徹にも見える)判断力には彼も一目置いていた。
「お前もか……俺の仕事は斡旋じゃないんだがな」
「仕方ないだろ? 肝心のギルドが開店休業状態なんだから」
 本来であれば、冒険の斡旋などはジェントスの冒険者ギルドが行うのが筋といえる
のだろうが、ここしばらくは募集の更新もされていない様であった。そこで、一部の
新米たちは比較的に古株であるジェイクに頼んで、いろいろと冒険を紹介してもらっ
ていたのであった。
「まぁ、いい。お前さん向けの仕事もちょうどある」
「ほぅ? そいつぁ楽しみだね」
 不敵な笑みを浮かべ、ワグネルはジェイクの差し出した羊皮紙に目を落とした。


●古塔を目指せ!
「それで、よりによって相棒がこいつかよ……」
「あん? なんか文句あるのかい?」
 魔法拳士である猛明花にじろりと睨まれ、ワグネルは口を閉ざした。
 以前にも一緒に冒険した事があり、その気性についてはよく知っているつもりであ
った。
(まったく……ジェイクもやってくれるぜ)
 シティを離れて3日。
 二人は主に見捨てられた古い塔の前に立っていた。
 罠といえるものはないはずだが、最上階までは幾つもの鍵がかかった扉をくぐらね
ばならず、ワグネルの技術が必要とされるのだ。
「よし、いくぞ」
 塔の前庭には小型のモンスターが何匹も生息しているようだ。いちいち構っている
暇もないので、スライシングエアで牽制しつつ、二人は一気に走りぬける。 
 入り口に取り付いたワグネルが鍵に集中している間、明花が一人でそれらの相手を
務める事になる。小型のモンスターとはいえ、冷気を吐くものもいるので、けして侮
れる相手ではない。
「双雷旋!」 
 雷の魔法を付与した状態で、明花は両足を旋回させながら蹴りを叩き込んでいく。
曲芸のような体さばきだが、今のワグネルにはそれを眺めている余裕はなかった。
「開いたぞ、入れ!」
 頭の潰された2体が目に入る。
 それ以外のモンスターに牽制の意味でスライシングエアを放ち、明花が飛び込んで
くるの確認して扉を閉めた。
「さて、ここからが本番か……」
「そうだね。気を抜かないでいくよ」
 外壁に沿うようにして上に向かう、巨大な螺旋階段。
 ここでは回避に必要なスペースが取りづらい。中のモンスターは飛行するものばか
りなので、狙いうちにされるだけであった。
「俺は脚とスタミナには自信がある。一気にかけあがって注意を引くから、少し遅れ
てついてきな」
「分かった。多分、三分の二くらいを越えれば、ヘイストで一気にいけると思う。そ
こまでは頼んだよ」
「任せろ……いくぞ!」
 二人はかすかなブーツの音だけを残し、一気に階段を駆け上がっていった。
タッタッタッ……
 飛来するモンスターの数を数えていたワグネルは、途中であほらしくなってやめて
しまった。うざいほどに寄って来る奴らに対する最善の方法は、一気に駆け抜ける事
であった。目の前を塞ぐものにだけ気をつけ、あとはそいつらの吐く毒液にだけ気を
つけながら、ただただ駆け上がっていく。
(足を止めたら囲まれる。走り抜けるしかねぇっ!) 
 どれだけの駆け上がっただろう。
 ようやく最後の扉が見えた時には、さすがのワグネルもあごが上がり始めていた。
 息が整わなくては鍵開けもままならない。
 そこへ、一気に追いついてきた明花が階段状で大きく息を整えた。
「ワグネル、しっかり踏ん張ってなさいよ……『ストーム』!」
 駆け上がってきた背後に向けて、明花は暴風の魔法を叩きつけた。
 ダメージを与えるほどの威力はないが、空を飛んでいた奴らはひとたまりもなく、
壁に叩きつけられて下へと落ちていった。
「これで……しばらくは時間……稼げるわ……。今の内よ!」
 明花もさすがに苦しそうであった。
 ワグネルは頷くと、すぐさま扉の開錠に取りかかる。
 ほどなくして、最後の鍵が開けられたのを確認した二人は、その扉を潜り抜けて
いった。


●決戦、蒼鱗の王者
「ここが……目的地か?」
「ええ。間もなく、飛竜が戻ってくるでしょう。自分の巣に邪魔者が入り込んだのを
感じ取ってね。それの体内から、あるものを取ってくるのが呉先生からの依頼よ」
「それは……?!」
 返答を聞くよりも早く、ワグネルの耳は何かが羽ばたく音を捕らえた。
「ちっ!」 
 横っ飛びでかわしたワグネルの側を、黒曜石のような巨大な爪が通り過ぎていった。
 そのままゆっくりと最上階の中央部に舞い降りた飛竜の姿は、まさしく王者の風格
を持つものであった。
 あらかじめ打ち合わせしてあったとおり、ワグネルが積極的に動いて飛竜の注意を
引き付けていく。スライシングエアも投げてはみたが、これは表面の強靭な鱗に弾か
れただけで終わった。
 背中の大刀を抜いたワグネルが、足元を狙って斬りつけていく。ヒット&アウェイ
を心がけての抜刀切りである。斬りつけた後は転がるようにして飛竜の攻撃範囲から
身をかわす。下手なハルバードよりも威力がありそうな尻尾が、さっきまで彼のいた
床を舐めていった。
「孟氏形意拳奥義……紅龍飛翔!」 
 飛竜がブレスを吐こうとした、その瞬間を狙って、明花が風の様にのど元へと駆け
上がった。真下からの強靭な一撃をまともに顎に受けて、さしもの飛竜が崩れ落ちる。
その間に、ワグネルはその翼膜をズタズタに切り裂いていった。
「これでは……もはや飛べまい!」
 怒りの咆哮と共に、灼熱の火球が一つ、二つ、三つと床を燃やし尽くしていく。ワ
グネルは必死にそれらをかわし続ける。奥義を放った明花は動きが止まっている。そ
の間は彼が注意をひき付けなければいけなかった。
 だが、明花もそろそろ限界がきつつあるようだった。ヘイストの魔法で維持してい
たスピードが無くなり、撃ててあと一撃といったところであろう。 
「これで終わりだ!」 
 凍気のこもった右足が、大きく跳ね上がって胸元の鱗を剥ぎ取っていく。
 そこへ、ワグネルは渾身の力を込めて突きを繰り出していった。
 暴れる飛竜の体に当たり、ワグネルは大きく投げ出される。受身をとった姿勢のま
ま、胸に深々と大刀を埋め込まれた飛竜が息の根を止めるのを見守る。
 しばらく飛竜はもがいていたが、その動きはやがて収まり、最上階に再び静けさが
戻ってきた。
「ふぅ……大丈夫か、明花」
「当たり前だ、これくらいで……」
 言葉ほど余裕はなさそうであった。
 それでも彼女は飛竜に近寄ると、手早く解体作業を開始した。
「で、どこを持って帰るって?」
「さっきのブレスの源になっている……らしい器官さ。呉先生は火炎袋って呼んでた
けど」
 なにやら手書きの解剖図らしきものを見ながら、明花は解体作業を終えた。
「本当にそれでいいのか?」
「多分ね。高熱をもってるから間違いないと思う」
 特殊な袋にそれを納め、二人は立ち上がった。
「……帰りもあの階段を通るのか?」
「いや、下りるだけなら浮遊の魔法がある。それで降りよう」
「そりゃあいい。出来れば今度からは行きもそれでお願いしたいもんだ」
 ワグネルの軽口に肩をすくめ、明花は呪文の詠唱を始めた。


●新たなる力
「おつかれさまでした。依頼した品は、確かに受け取りましたよ」
 カグラギルドの鑑定所では、呉文明が待っていた。
 二人が渡した袋の中身を確認し、笑顔を見せる。
「それで新しい武器を作るって言ってたけど、どんな武器なんだ? 俺でも使える様
なら分けて欲しいだけどよ」
 ワグネルの言葉に、彼はしばらく考え込んだ後に頷いた。 
「まぁいいでしょう。どうせ試作品だから誰かにテストしてもらう予定でしたしね。
今作っているのは、フレイムジャべリンという代物ですよ」
 呉先生の言うところによれば、ジャベリンといっても既存の物のように投げるわけ
ではなく、炎の槍を飛ばす仕掛けになっているらしい。
 筒状のそれは、ジャベリンくらいの長さであるとの事だ。
「一日3回くらいに限定すれば、しばらくは使えるでしょう。大事に使ってください
ね」
 完成次第、譲り受ける約束を取り付け、ワグネルは宿へと帰っていった。 



                                     了





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2787/ワグネル/男/23/冒険者

【NPC】
 猛明花/女/19/魔法拳士

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。

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■         ライター通信          ■
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 まいど、神城です。
 そんなこんなで、ワグネルはフレイムジャベリンを手に入れました。
 これはまぁ、ようするに……ビームライフルみたいなもんですw 槍の名前がつい
てはいますが、銃に近い武器だと思ってください。
 マイケルムアコックのエターナルチャンピオンシリーズの中で、『フレイムランス』
という未来武器があるので、一度書いてみたかったのですw
 某ゲームとどこに接点があるのかと問われると苦しいとこですが、ボウガンの素材
になるよりはいいかと。
 戦闘では大刀も使っておりますが、ここでは普通の武器ですね。
 強力な力だけに、クライマックスでどかんと使ってみたいものです。
 それでは今回はこの辺で。また、ご指名をお願いしますね。
 再見〜!