<PCクエストノベル(2人)>


おかしな女神降臨 ―神の塔―
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【冒険者一覧】

【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】

NPC
【女神】
【タンタラス】
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 蒼柳凪と虎王丸は、よく二人で冒険をする。けんかをし合いながらも、何となく一緒にいるコンビだ。

凪:「ほら虎王丸! そこで女の人にちょっかいかけない!」
虎王丸:「バカ言え、旅先でいい女を見つけるのが醍醐味だろうが!」

 ――こんなやりとりをしながら、それでも二人は旅に出る。
 今回は東へと出向いた。そこで色々やって、さてエルザード聖都へ帰ろうかとしたとき、凪はふと思い出した。

凪:「そう言えば……たしかこのあたりに、『神の塔』とか言う場所の残骸があるって聞いたよな」
虎王丸:「んなもん覚えてねーよ」

 虎王丸はあくびをしながら答える。
 そんな虎王丸には慣れっこだったので、凪は深くつっこまずにただ話を進めた。

凪:「どうだ? ここまで来たんだし行ってみないか?」
虎王丸:「あー? 何だよ面倒くさい。もう疲れた」
凪:「あまり人に知られてない場所だぞ、いい宝が残っているかもしれない」
虎王丸:「あー……」

 お宝か、と虎王丸はつぶやく。

虎王丸:「神の塔、とくりゃ強力な武器だの、空飛ぶすげえもんがあるかもしれねえな……!」
凪:「……そこまで発想が飛躍できるのはすごいとは思うけど……」
虎王丸:「よっしゃ! 行ってやろうじゃねえか!」
凪:「………」

 何となくがっくりと力が抜けたが、虎王丸がやる気になってくれたならいいか、と凪は前向きに考えることにした。
 情報を頼りに『神の塔』と呼ばれる場所へと向かう。
 ――見つけるのに時間がかかった。そこは小高い山の陰にあったのだ。

凪:「どうりで人に知られてないわけだ……」

 その場所は――
 『塔』と呼ばれていたのが信じられないほど――
 ぺしゃんこに、つぶれていた。
 面積は広いが、おそらく一階分くらいしか残っていないのではないか。おまけに天井が抜けている。
 とは言っても、壁が高いのでのぼって上から入るのは無理があった。

虎王丸:「なんだこりゃ。シケたダンジョンだな、おい」
凪:「“残骸”って呼ばれるくらいだしねえ……」

 凪も少々呆れたが、とりあえず中に踏み込んでみることにするかと足を前に出した。
 門らしき場所は、かろうじて見つかった。半壊状態だったが。
 そこを開こうとしたとき、凪はふと気づいた。

凪:「……? 文字盤……?」

 門の傍らの壁に取り付けられた黒い石。そこに刻み付けられた文字。

凪:「ええと……『我が女神のために我はここに塔を建立す』」
虎王丸:「女神!?」

 虎王丸の目が輝いた。根っから女性好きの虎王丸――ただし歳下は眼中外――には、『女神』という言葉はとても魅力的だ。

虎王丸:「女神のために造られたってのか、ここは……! いい心がけじゃねえか!」
凪:「あのなあ……」

 何なんだこの態度の豹変振りは。そんなことを思いながら、凪は改めて崩れた塔を眺める。
 ――女神の塔……

凪:「何で……崩れたんだ?」

 凪は首をひねりながら、門を押した。
 押したが、動かない。
 押しても押しても動かない。
 ……引っ張ってみた。
 引っ張っても引っ張っても動かない。

凪:「虎王丸……頼むよ」
虎王丸:「けっ。面倒くせえの」

 虎王丸は押した。
 動かない。

虎王丸:「くあっ!」

 負けず嫌いの虎王丸、顔を真っ赤にして押した。押して押して押しまくった。
 ガラガラガツッ!
 頭上から崩れた壁が落ちてきて、虎王丸の脳天を直撃した。

凪:「虎王丸!」

 虎王丸、ノックダウン。
 凪は慌てて虎王丸の治療に回った。

 幸い、虎王丸は石頭であったらしい。こぶができただけで済んだ。

虎王丸:「ちっくしょう!」

 虎王丸はがばと跳ね起きて、めまいもなんのその再び扉と格闘し始めた。
 今度は凪も一緒に押す。押して押して押して。
 引っ張ってもみる。取っ手を引っ張って引っ張って引っ張って。
 ――開かない。

凪:「何か魔術でもかけてあるのか……?」

 魔術、がかけてあるとするならば――
 凪は再び文字盤に目をやる。

凪:「あれかな……?」

 黒く汚れた文字盤の表面を撫でて綺麗にする。
 触っただけでは何も起こらない。となると――
 凪は文字を指でなぞった。

 『我が女神のために我はここに塔を建立す』

 とたんに文字盤の文字が輝き始めた。
 そして、門の取っ手も。

凪:「今だ虎王丸、押すか引くかしてみろ!」
虎王丸:「うっせ、言われるまでもあるか!」

 虎王丸はがっしと取っ手をつかみ、扉を引いた。
 ギギイイイイィィィ
 重くきしんだ音を立てて、扉が開き始めた。

凪:「初歩的な魔術だったな……」

 虎王丸はこぶつくり損だったというわけだ。
 しかし虎王丸は元気だった。

虎王丸:「よっし! お宝探しに行くぜ!」
凪:「ちょ、待て! ひとりで勝手に入るな!」

 凪は慌てて、飛び込んでいく虎王丸の後を追った。


 塔の中は、崩れた瓦礫で埋まっていた。

凪:「うわあ……この中から宝物を探すのは、骨だなあ……」
虎王丸:「ばっか、だからこそいいもんがあるんじゃねえか」

 虎王丸にしてはやる気まんまんで、彼はがしゃがしゃと瓦礫をのぼっていく。
 凪は瓦礫をどかす戦法に出た。力仕事は虎王丸のやることだが、凪にだってできないことはない。

凪:「瓦礫に埋まってるかもしれないしな……」

 ひとつ、またひとつ。額から汗を流しながらどかしていく。
 虎王丸は瓦礫の上を飛び回っていた。
 一階だけでどれだけの面積があるだろうか――

凪:「……ものすごく無駄な労力を使っている気がする」

 瓦礫をどかしていた凪は思わずつぶやいた。
 一部をどかしただけでものすごく疲れたので、虎王丸のように瓦礫の上を歩くことにする。
 ――壁には、レリーフが描かれていた。
 玉座らしきものに座っている男がいる。
 次のレリーフでは、その男のもとに、女性が降臨している姿が描かれている。男がひざまずいて祈っていた。
 そして次のレリーフでは、塔の建立をしている人々の姿。

 どうやら王らしき人物のもとに女神が光臨し、その命令で塔を造った――ということらしい。

凪:「こんなところに王国なんかあったのか……」

 いつ頃の話だろう。エルザードの歴史にはなかった気がする。
 しかしそんなに古い話にしては、この塔は残っている壁が綺麗だ。
 凪はそっと壁に触れてみる。そして――
 パチィッ

凪:「うわっ」

 凪は慌てて手を引っ込めた。
 何かに弾かれた。どうやら――また魔術的なものに。

凪:「何だ……? この塔はまだ何かに護られているのか?」

 そう言えば門のところの文字盤といい、古いにしてはしっかりと魔力が残っていた。
 一階が崩れていないのは、その魔力のせいなのだろうか……?

凪:「虎王丸!」

 凪は虎王丸を呼んだ。
 あー? と面倒くさそうな声が返ってくる。

凪:「この塔、まだ仕掛けがある! 気をつけろ!」
虎王丸:「仕掛けぇ?」

 と虎王丸がつぶやいた瞬間、虎王丸の姿が消えた。
 がっしゃん!
 ――と、足を滑らせ瓦礫の間の溝に落ちたのだ。

凪:「虎王丸!!!」

 凪は急いで虎王丸のいる場所まで瓦礫を渡っていく。

虎王丸:「いでで……」

 虎王丸は溝にはまって、うずくまっていた。

凪:「虎王丸、無事か? ほら、手を貸すから上がってこい」
虎王丸:「ちょっと待て、いてて、すぐに動けるかっての……いってー……??」

 顔をあげかけた虎王丸が、ふと視線を溝の底に集中させる。

虎王丸:「あ?」

 虎王丸は、差し出されている凪の手を取らずに溝の底に手を伸ばした。
 がちん
 虎王丸の鎧の篭手が当たって、おかしな金属音が鳴る。

凪:「どうした?」
虎王丸:「何か……ある」

 虎王丸は目を輝かせる。これは――お宝を見つけたときの輝きだ。
 凪は溝を覗き込んだ。

凪:「取り出せそうか?」
虎王丸:「よっし、瓦礫をどかしてやろうじゃねえか」

 虎王丸は腕をまくるようなしぐさをして、瓦礫をどかし始めた。
 凪も小さめの石をどかすのを手伝う。あるいは、大きすぎて虎王丸ひとりでは持てないものを。
 やがて、溝が広がった。
 ……ぽつりとそこに置かれていたのは、古典的な宝箱がひとつ。

虎王丸:「よーっしゃ!」

 虎王丸は嬉々としてそれを開けようと手を伸ばした。
 バシィン!!!
 凪が壁に触れたときよりも、もっと激しい弾き音がして、虎王丸は吹っ飛ばされた。
 したたかその辺の瓦礫に体を打ち、虎王丸はがばと起き上がる。

虎王丸:「ちっくしょ、今日は何だってんだ!?」

 ……確かに今日の虎王丸はついていない。

凪:「宝箱にも魔術か……当然と言えば当然だな」

 凪は注意深く宝箱を観察する。
 サイズはやたらとでかい。大型犬一匹入りそうだ。鍵穴は――ない。
 凪は頭を悩ませた。

凪:「触れない……となると……魔術を解除しないと……。呪文かな?」
虎王丸:「開けゴマ!」

 しーーーーん
 宝箱は無用なまでに静まり返った。
 虎王丸は負けなかった。

虎王丸:「開け! おら! 開けってんだ! てめーは女神の宝だろ! 俺のために開け!」

 無茶苦茶である。
 しかし――
 凪は見た。虎王丸のまくしたてる言葉に、一瞬だけ宝箱がぼんやりと反応したのを。

虎王丸:「女神の宝なら俺がもらう! おら、開けってんだ女神の宝! 開け!」
凪:「いや、女神の宝ってわけじゃないと思うけど……」

 ぼう……
 今度は凪の言葉にも反応した。そう――
 『女神』という、単語に。
 凪は思い出した。そして高らかに唱えた。

凪:「『我が女神のために我はここに塔を建立す』!」

 パアッ――
 宝箱が輝いた。
 そして宝箱がゆっくりと己から開いていく――

虎王丸:「うっしお宝ぁ!」

 と虎王丸が飛び上がったのもつかのま。
 宝箱から飛び出してきたのは、

凪:「なっ――魔物!?」

 薄透明に白いオオカミ――
 虎王丸の動きが止まった。
 オオカミはどんどんと巨大化して、やがて一階の高さに届くほどとなる。

凪:「くっ……罠か!」

 凪はぱっと二丁の銃型神機を取り出す。
 虎王丸は動かなかった。うつむいたまま――

凪:「虎王丸! 何してる、早くしないとやられるぞ……!」

 凪は舞の準備を始めながら怒鳴った。
 と――
 虎王丸が、その右手に――
 巨大な、白焔を生み出した。

虎王丸:「っざけんなーーーーーー!!」

 虎王丸は吼えた。吼えて、巨大な白焔を白オオカミに投げつけた。
 魔物が悲鳴をあげる。口からたれていた唾液がどろりと瓦礫の上に落ち、じゅうじゅうと煙を立てる。
 ――瓦礫が溶け出した。
 虎王丸は刀を抜いた。そして、一気に魔物に突進した。
 凪は『蒼之比礼』を舞った。
 その手に気流の布が生まれた。虎王丸の後ろから、凪は気流を鞭としてふるい、魔物に叩きつける。
 魔物の横っ面が鞭にはたかれた。その隙に虎王丸が、魔物の顔に飛びかかった。
 刀が斜め切りに魔物の顔面を裂く。
 血は出なかった。虎王丸は連続して、今度は白焔をまとわせた刀を振りかざす。
 オオカミが虎王丸に向かって、大きく口を開けた。
 凪は回り込んで、横から魔物の顔を神機で撃った。
 魔物の顔がそれる。虎王丸の刀が、白焔が魔物の顔面を襲う。
 魔物の目がつぶれた。魔物が吼えた。首が暴れ狂い、虎王丸の体を打つ。

凪:「虎王丸!」
虎王丸:「この程度で負けるかよ! 今日一番弱かったぜ!」

 今日はとことんついていない虎王丸が、地面にすたっと降り立ちふんと胸を張る。
 魔物の唾液が虎王丸の頭上に降りかかりそうになる。虎王丸はさっと避けた。
 魔物の懐に飛び込み、刀でその胸を突き刺す。
 魔物の首がたけり狂った。

虎王丸:「ちっ。死なねえな」

 虎王丸は白焔を生み出すと、それを突き刺したままの刀に伝わらせる。
 魔物の胸が――
 白焔に焼かれる――
 虎王丸は白焔を生み出し続けた。それは刀を伝わってどんどんと魔物の体に回っていく。
 やがて体中に白焔が回った魔物は、
 断末魔の咆哮を残して消え去った。

 息をつく虎王丸と凪の耳に――
 どこからか、拍手の音が聞こえてくる。

???:「見事! いや、見事だったぞそなたたち!」
虎王丸:「ぁア?」

 虎王丸はすさまじく機嫌の悪い目つきで声のしたほうを見た。
 そこに――
 ぷかぷかと空中に浮かぶ、透き通る体を持った男がいた。


???:「ずっと待っておったのだ……その宝箱の魔物を倒せる者を!」

 男はしみじみとつぶやいた。

凪:「あなたは……」

 凪は驚いて、男の服装を見つめる。
 それは壁のレリーフで、玉座に座っていた男と同じ服装だった。

凪:「ま……まさか、王様?」
???:「うむ。我が名はタンタラス。タラス王国の第四代目の王だ」
虎王丸:「タンタラスぅ?」

 聞いたこともねえな、と虎王丸が吐き捨てるように言う。

タンタラス:「なんと! そなたたちは歴史を知らぬのか――我が代でこの塔は完成し、そして崩れた!」
凪:「いや……俺たちの知ってる歴史にタラス王国なんて文明はありませんでしたよ。ここはエルザード王国です」
タンタラス:「エルザード……? 何たること! 我が国はほろびたのか!」

 そう言えば何とか通じるものの、タンタラスの発音は微妙に今と違う。

凪:「滅びたんだと思いますよ……。残っているのはこの塔の残骸だけです」
タンタラス:「何たること! 何たることよ……!」

 タンタラスは嘆きの声を何度もあげた。
 そういう彼も……おそらく幽霊なのだろう。

タンタラス:「我が国は不滅! 女神がいる限り不滅であったはずなのに……!!」
虎王丸:「女神!」

 虎王丸の瞳がきらりんと光る。

虎王丸:「おい、女神ってのは美人か? 詳しく教えろよ!」
タンタラス:「無論! 我が国の守護神たる女神は美しく聡明! この塔は女神のために建立された――」
凪:「それはレリーフやら文字盤やらで分かりますけど、どうして崩壊したんです?」
タンタラス:「それが分からぬのだ」

 タンタラスはがっくりと肩を落とした。
 しかし次の瞬間にはぴしっと背筋を伸ばし、

タンタラス:「そのことを我らが女神に問いたいと思うておった! しかしその宝箱の魔物が邪魔をしておった……! 子供たちよ、感謝するぞ!」
凪:「女神に問う……? どうやって?」
タンタラス:「その宝箱の中に水晶玉がある! それが我らが女神の下されたものだった。そこから声をかければ、いつでもお声を返してくださった!」
凪:「そんな女神がいるのか……?」

 不審に思いながらも凪が宝箱をのぞくと、大きな宝箱の中にはたしかに水晶玉が鎮座していた。

虎王丸:「おーい、女神ー!」

 虎王丸が呼びかけた。
 しかし、水晶玉はうんともすんとも言わない。

虎王丸:「返事がねえじゃねえか! おいこら、ガセネタつかませんな!」
タンタラス:「そんなはずはない……!」

 我が女神よ! とタンタラスは自らも声をかける。
 しかし、やはり水晶玉は反応しなかった。

タンタラス:「なぜだ……! 我が女神よ、なにゆえ……!」
虎王丸:「滅びた国になんか用はねえんじゃねえの」

 虎王丸はだんだん不機嫌になってゆく。宝もなければ女神もいない。当然だ。
 凪は――
 少し考えて、思いついたことをちょっと実践してみた。

凪:「『我が女神のために我はここに塔を建立す』!」

 とたん――
 水晶玉が輝いた。
 塔の中が光で満ちあふれ、思わず凪も虎王丸も目を閉じる。
 そして次に目を開けたときには――

???:「何ですってえ!? またこの邪魔くさい塔を建てるというの!?」

 ……ひとりの美しい女性が。
 白い衣のようなローブをバタバタさせながら、鬼のような形相でこちらを見ていた。

タンタラス:「おお、我が女神よ!」
虎王丸:「美人じゃねえか!」

 タンタラスと虎王丸が、それぞれに歓びの声をあげる。
 しかし凪は、容姿その他よりも『女神』の言動が気になった。

凪:「あの……つかぬことをお尋ねしますが、あなたがタラス王国の守護神の女神ですか?」
???:「あんなうるさい国、とっくに放り出したわよ!」
凪:「じゃ、じゃあ本物なんですね……」

 女神は不本意そうだった。
 タンタラスが「なぜですか!」と再び嘆きの声をあげる。

タンタラス:「我が女神よ……何ゆえ! 貴女が塔を建てろと私の夢でおっしゃったから、私はこの塔を建てたというのに……!」
女神:「私はあんたの夢なんかに降臨した覚えなんかなくってよ! それはただの夢だわ!」
凪:「……なるほど」

 要するに、タンタラスは夢で女神に「塔を建てろ」と言われたと思っていたが、しょせんそれは夢でしかなかったということだ。

凪:「とすると……まさか」

 凪は思いつきにぞっとして、女神を見た。

凪:「――この塔を崩したのは、貴女自身……?」
女神:「そうよ」

 あっけらかん。
 タンタラスがあんぐりと口を開ける。
 虎王丸が、面白そうにひゅうと口笛を鳴らした。

虎王丸:「きれーなおねーさん。何でだよ?」
女神:「決まっているでしょう」

 女神はその整った顔立ちを、憎々しげにしかめた。

女神:「私たちは天上界にいるのよ……! こいつらったら十三階まで造ってまだまだ上に伸ばそうとするから! それじゃ私のスカートの中見えちゃうじゃないの!」
凪:「……は?」

 凪は思わず声をもらした。
 虎王丸が、うんうんとうなずいた。

虎王丸:「そりゃいけねえな。スカートのぞくために塔を建てるなんざ邪道だぜ」
タンタラス:「そ、そんなつもりでは……!」
虎王丸:「のぞくなら堂々とめくる! そうだよな、凪!」
凪:「何で俺にふるのさ!?」

 虎王丸の言葉が女神の怒りに触れ、凪と虎王丸の体にびりびりと電流が走った。
 凪は甚だ不満だった。何で俺まで。

凪:「……っ……」
女神:「いい、よーくお聞きなさい坊やたち。この水晶玉に二度と誰も近づかないよう魔物をおいたのも私。よくも邪魔してくれたわね」
凪:「そんな!?」
女神:「しつこく声をかけられちゃたまんないからよ! まったく、余計なことをしてくれたわね!」

 女神はもう一度凪たちに電流を流し、それからタンタラスを見た。

女神:「いいことタンタラス。二度と私に声をかけるんじゃないわよ。あんたをこの世から抹消するぐらい簡単なんだからね」
タンタラス:「ああ、我が女神……!」
女神:「うるっさいわねー、我がとかつけないでようっとうしい」

 そうして女神はさっさと姿を消してしまった。
 残された三人――
 凪とタンタラスは呆然と、虎王丸だけは地団駄を踏んで。

虎王丸:「くっそー! ちょっとぐらい触らせてもらうんだった! 口説く暇もなかったじゃねえか!」
凪:「お前は女神さえも口説くのか……」

 凪はがっくりと肩を落とした。
 誰よりも沈痛な面持ちでいたのはもちろんタンタラス――

タンタラス:「ああ……そんな……私はこれからどうすれば……」
凪:「王様……」
虎王丸:「元気だせって」

 虎王丸が、触れない幽霊な王様の背中をばしっと叩くようなしぐさをして、

虎王丸:「いい女はあの世にもいるぜ! さっさとあの世逝っちまって、いい女口説いてこいよ!」
タンタラス:「………」

 タンタラスがますます影を背負った。そりゃそうだ。
 しかし虎王丸はまったく気づかずに、

虎王丸:「俺はまだまだこの世のいい女を口説き倒してないからなあ。あの世には逝けねえ」

 などとつぶやいていた。
 凪ははあとため息をついた。
 仰いだ空は、どこまでもぬけるように青かった。


 ―Fin―