<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『青き報酬』

●メジャージュエル
「ん? アレックス、出かけるのか?」 
「うむ。先の依頼で十分な報酬を得たじゃろう? 宝石を見に行って来ようと思うてな」
 その朝、アレックス・サザランドは定宿としている『明日に吹く風』を出た。
 しばらく大きな通りを歩いてみたのだが、なかなかいい店が見当たらない。
 アレックス自身、この街に来て日が浅いという事もあって、店の配置もよく判っていないという事もある。
(ううむ。やはり誰かに聞いた方が良かったかの……そういえば、ファラさんの宿がこの辺りじゃったな)
 先の冒険の依頼主であるファルアビルドであれば、いろいろなお宝の持込の経験も多いだろう。そう考えたアレックスは、さっそく彼女のところへと足を向けた。
「おや? ファラさんお出かけじゃったかな?」
「あら〜。アレックスさんお久しゅう〜。ええっと……」
ポン
 ファラが両手を合わせる。
 何を思いついたのか。にこにこと嬉しそうにアレックスの顔を覗き込んできた。
「ちょうど良かったですわ〜。遺跡の探索に行くところだったのですが、盗賊さんが来れなくなりまして。『クレバスセンサー』を使えるアレックスさんに来て頂けると助かりますの」
「むぅ。いや、しかし……わしも用事がありましてな。サファイヤの適当なものを探しておりまして。今日はファラさんに、いい店を知らないか尋ねに来たところだったのですよ」
 その言葉を聞いたファラは、しばし何かを考え込んでいたが、もう一度ポンっと手を鳴らした。
「それではこうしませんか? 同行して頂けるなら、前金としてこのサファイヤの指輪を差し上げますわ〜。それでいかが?」
 差し出された指にはめられていたのは、それなりの大きさを持っていた。彼女の格好からして、それほど遠方に行くわけでもなさそうだ。報酬としては適当なところだろう。
 結局、アレックスは彼女の申し出を受ける事にした。幸い、食料等は十分に用意されていたし、彼自身の装備はエクセラとアミュートであって常に携帯している。
 二人が冒険に出発したのは、昼前の事であった。


●遺跡内部にて
「ふむ……こんなところに遺跡が隠されていたとはの」  
 二人が向かった遺跡は、街から二日ほどで着く森の中にあった。
 入り口の石は既に苔むしており、言われなければ天然の洞窟と間違えてもおかしくはなかった。
「しかし、貴女はどうしてあちこちの遺跡をご存知なのかな? 何か古文書の様なものでもあるんですかな?」
 ファラが言うには、ただ森の中を歩いているだけでも、見えてくるものが違うのだそうだ。
 そしてそれは、現在かけている眼鏡に起因しているらしい。
「どんな言語でもすらすら読める、便利な眼鏡なんですけどね。たまに、それ以外のものが『見える』時があるのですわ〜」
 打ち合わせ通り、アレックスは『クレバスセンサー』をかけて遺跡内に入った。
 明りとしての松明はファラに持ってもらい、彼自身はエクセラをハンドアックスに変えて、先に歩く事にした。
 遺跡内はあまり広くなく、ハルバードを振り回せるほどの通路ではない様だった。 
(もしかしたら、個人的な別荘のようなものだったのかもしれんの。だとすれば、罠のようなものはないはずじゃが……)
 突き当たりの扉に来たところで、アレックスの耳は何かが這いずる様な物音をキャッチした。
 身振りでファラに火を隠す様に伝え、彼は『インフラビジョン』を唱えた。
 さらに、扉に鍵がかかっている事を確認したアレックスは、しばらく考えた後に、『クイックラスト』で鍵の部分を錆びつかせた。
「ファラさん……これで鍵を開けることは出来るはず。じゃが、中には何かおるようじゃ。わしが飛び込むから、一拍おいてから入ってきてくだされ」
「わかりましたわ〜」
 ファラが頷くのを確認し、アレックスは崩れる鍵を強引にこじり、扉を開けた。
 中に飛び込んだ彼の視界に、『インフラビジョン』の効果で映ったのは、巨大な蛇であった。
 素早く扉から離れたアレックスは、ハンドアックスをその体に叩きつけた。しかし、その鱗は予想外に硬く、ほとんどダメージはいかなかった様だ。
 次の瞬間、遅れて部屋に入ったファラの持つ松明が部屋を照らし出す。
 どうやら、いくつかの部屋に通じる広間みたいなものらしい。
 部屋の広さを確認したアレックスは、エクセラをハルバードへと変形させた。
「うぉぉぉぉっ!」
 雄叫びと共に、体重を乗せて振り回されたそれが叩きつけられる。今度はさすがに効いた様だが、致命傷には至らなかったらしい。大蛇は、動きの一瞬止まったアレックスを取り囲んだ。
「アレックスさま!」
 食い込んだハルバードごと、大蛇は彼の体をその長大な体で締め上げていく。
 纏っているアミュートは、ちょっとやそっとの事では傷つかないが、徐々に高まってくる圧力はアレックスに危機を感じさせた。
(むぅ……このままではいかん!)
 アミュートが輝きを増すと同時に、周囲の風の精霊力を活発化させていく。その状態で、アレックスは『ストリュームフィールド』を唱えた。彼を中心に風の防御が発動し、締め付けに抵抗する。
「少しばかり荒っぽいのがいきますぞ! 離れていてくだされ!」
 ファラに声をかけ、アレックスは集中した。
 精霊力を一気に開放すると同時に、防御陣の一角に風の刃を叩きつける。
 気流は暴風と化して大蛇を切り裂き続け、乱裂する風の刃が周囲に四散していった。
 さしもの大蛇もなす術もなく、幾つかに分かれた体をばたつかせていたのだが、それさえもやがて納まり、再び部屋の中は静けさを取り戻したのであった。


●旅路の果てに
 大蛇を片付けた後は、部屋の探索もスームズに進められていった。
 やはり、以前は隠れた別荘として使われていたらしく、部屋の大半は生活スペースとして使われていた様であった。
 その一部が崩落によって外部と繋がっており、大蛇が侵入したらしい。
「ふぅ。どうやら、お宝はそれほどなさそうですな」
「いえ……そうでもありませんわ」
 ファラが嬉しそうに微笑む。古い石版のようなものを大事そうに取り出し、バックパックへと仕舞い込む。
「それは?」
「『竜の尾』と呼ばれる秘術の写しですわ〜。やはり、『堕ちた都市』の周辺では失われた秘術が発見されるケースが多いというのは本当だったのですわね」
 そういえばファラは、自分の部族から失われた、それらの秘術を探して旅をしていると聞いた。
 火竜王の神殿でも多くの秘術を会得できたらしい。後に、どんな宝にも換え難いと興奮していたものだった。
「ゴールはまだまだ遠いのですかな?」
 そう問いかけたアレックスに、ファラは微笑んだ。
「いえ……残りは2〜3つくらいでしょうか。水竜王の神殿に行けば、はっきりすると思います」
 二人はそれから出口に向かって歩き始めた。 
 しばらく他愛のない話をしていたが、ふとしたタイミングに彼女が漏らした一言を、後にアレックスははっきりと思い出すことになる。
「これで、呉先生に依頼されていた協力も目処がつきましたし。『竜の翔破』が見つからなかったとしても、一度故郷に帰ろうかと思うんですの……」
 金髪を風になびかせて、嬉しそうに笑うファラ。 
 だが、彼女を待つ運命は……それを許さなかった。


                                        了                               


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3216/アレックス・サザランド/男/43/ジュエルマジシャン

【NPC】
ファルアビルド・パスティス/女/28/ドラゴンホーラー

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。
 体調を崩してしまい、がっつりと遅れてしまって申し訳ありません。
 本編の続きについても、近々再開する予定ではありますので、またよろしくお願いします。
 今回、アレックスはアミュートの進化を果たしています。
 風の魔法の強化というところですか。自力でトルネード(Wウインドスラッシュ)なども可能です。
 サファイヤも無事ゲットしていますので、魔法を覚えてもらって結構ですよ。
 それではまた、次のお話でお会いしましょう。