<PCクエストノベル(1人)>


クレモナーラ村〜銀の創り手
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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス

 3347 / ロス・ヘディキウム / 歌姫/吟遊詩人
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 自然豊かなクレモナーラ村は、これから来る夏の暑さを思わせる強い日差しを受けて輝いていた。
 朝露の残る草たちが。流れ行く澄んだ川面が。陽の光を反射して、見ていて気持ちの良い光を纏っている。
 カラリと青く晴れた空を渡る雲は時折太陽の光を隠し和らげ、おかげで日差しのわりに、気温はそれほど高くない。
 総じて言えば、過ごしやすい陽気であった。
 花開く春の頃は音楽祭とその準備で賑わい、外からの来訪者で混雑するということもあって、ロス・ヘディキウムは、祭りが終わったこの時期を選んでクレモナーラ村までやってきた。

ロス「なにか見つかるといいんだけど……」

 ケースに入れたままのフルートを、外側からそっと撫でる。
 以前、とある人物から譲り受けたものだ。クレモナーラ村の名匠の手による品らしいが、ロスはその辺りのことを詳しく知らない。
 フルートの製作者について何か少しでも知ることができたらいいな、と。そんなことを考えて、この村までやってきたのだ。
 とはいえ、人探しだけを目的とするには少々もったいないくらい、この村は美しく、また音楽好きの者には居心地の良い雰囲気を醸し出している。
 川も森も豊かで、澄んでいて。歩いているだけでも楽しい気分になってくる。
 その気持ちをさらに高揚させてくれるのは、村のあちこちから零れてくる楽器の音と匂いだ。
 胸躍らせながら村の道を広場に向かって歩いていくと、そこにちょっとした人だかりを見つけて立ち止まる。
 流れてくるのは軽やかな調べ。
 気がついたら、自分の楽器に手が伸びていた。
 村人たちの視線がロスの方へと向けられる。突然の飛び入り参加だけれど、楽器を弾いていた者は戸惑うことなく、合わせてくれる。
 いや、ロスもまた、相手の音を聴き、合わせて。それが美しいハーモニーを生み出すのだ。
 パタパタと小さな羽音が意識の片隅に聞こえる。どうやら、鳥たちも集まってきたらしい。
 一曲を終えた瞬間。
 広場は拍手の音でいっぱいになった。けれど鳥たちもこの村の人たちの気質をわかっているのか、逃げる様子は微塵もない。

ロス「あ……どうもありがとうございます」

 吹いている時は注目されていてもまったく気にならなかったのだけど、今更、なんとなく照れてしまって顔を赤くする。

村の青年「すごいじゃないか」

 にこにこと嬉しそうな笑顔を向けてくれたのは、バイオリンを手にした青年だ。

ロス「すみません、急に入ってしまって……」
村の青年「いや。こちらこそ、君のおかげで素晴らしい音を聴けた。ありがとう」

 告げた青年は、それから少し、不思議そうな顔をする。

村の青年「そういえば、君はどうしてこんな時期に?」

 祭りの時期こそ賑わう村だが、普段はそれほど人が多いわけじゃない。楽器の発注が絶えない名産地ではあるけれど、すでに素晴らしい楽器を持っている――ひとつ演奏したあとだ。ちょっと耳の良いものならば、ロスの腕だけでなくフルートの出来の良さにも気付く――ロスが楽器を買い求めに来たとは思わなかったのだろう。

ロス「人を、探しているんです」

 言って、フルートを示す。

ロス「このフルートは人から譲り受けたものなんですけど、製作者がこの村にいると聞いて、訪ねてきたんです」

 ロスの言葉に、青年だけでなく周りにいた村人たちも顔を寄せ合い、フルートを観察し始めた。
 村人たちがしばらく話し合った結果、先日亡くなった老職人の手によるものではないかと教えてくれた。

ロス「亡くなったんですか……?」
村のおばちゃん「ああ。惜しい人を亡くしたもんだ。っても、老衰で、大往生だったんだけどね」
村の青年「よかったら家を見ていくかい?」
ロス「いいんですか!?」
村の青年「ああ。今は誰も住んでない空き家だしね」

 期待に胸を膨らませて案内された先で、けれど、期待のものは見つからなかった。
 というのも、村のみんなが知っていたそこはあくまでも『家』であり『工房』ではなかったのだ。

村の青年「いい人ではあるんだけど、謎の多い人でね。実は誰も、彼がどこに工房を持っていたのかは知らないんだ」
ロス「……そうなんですか……」
村の青年「先に言えばよかったかな。期待させちゃったみたいで悪いね」
ロス「いえ、そんなことはありません。教えていただいて助かりました」

 村の誰も知らない。なら、もしかして、村の中ではなく外に工房を作っていたのではないだろうか?
 晩年まで楽器を作り続けていたというし、亡くなった時にはかなりの高齢だったというから、外といってもせいぜい村はずれ辺りだろうが。
 青年に別れを告げて、ロスはその工房を捜し歩いてみることにした。



ロス「結局、見つからなかったな……」

 その日の夜。宿の部屋で、ロスは小さなため息をついた。
 いろいろと手がかりは得られたのだけれど、結局、そのものを見つけることはできなかったのだ。
 だが収穫がなにもなかったわけではない。

ロス「今度の時は、見つけられるといいな」

 そっと、フルートを撫でる。
 窓から差し込む月明かりを受けた銀色は優しい光を放って、なんだか、ロスの言葉に頷いてくれたように感じた。