<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


躍館の石


▲序

 石屋エスコオド。そこは路傍の石に意味を与え、その意味を必要とする人に石を売る店である。仕入れは店主であるエディオン自身が行い、販売する。
 だが、中には販売出来ぬほど強い意志や力を持った「ロウエイ石」が存在する。それらは一旦鎮めてからではないと販売できないばかりか、壊すことすらできないのである。
「ええと……これも、ロウエイ石ではあるんですが」
 エディオンは聳え立つ館を見つめ、苦笑する。
 石屋エスコオドの隣に、館が建っているのである。つい一時間ほど前には存在しなかった館だ。
 レンガ色の壁に、しっかりした白縁の窓。どこからどう見ても立派な洋館である。
「おかしいですね、最初はこーんなに小さな石だったんですが」
 エディオンは握りこぶしくらいの大きさを作り、見つめる。たったそれだけの大きさしかなかったレンガ色の石は、いつの間にか洋館を作る一部として成ってしまったらしい。
「これは、中に入って鎮める要因を探さないと」
 唸りながら館を見つめる。すると、ふと視界に何かが入ってきた。
『ドッキリドキドキウェルカム館!聖剣を手に入れろ!』
「……この看板は」
 エディオンは絶句する。間違いない、これはテーマパークの館なのだ。それが何故か、こうして具現化してしまっている。
「そういえば、テーマパークが出来る前に地震で壊れたとかいう噂が」
 ドッキリ(中略)館を見つめ、エディオンは呟く。鎮めてもらわないと、と付け加えながら。


▲扉

 悠然と聳え立つ館を見つめながら、エディオンは「と言うわけで」と言って目の前にいる二人に笑いかける。
「お二人とも、準備は宜しいですか?」
「おうよ、ばっちりだ!ようするに、ドキマッチョサマー・オープンザマッスルを開催すりゃいいんだろ?」
 オーマ・シュヴァルツはそう言ってにっと笑った。何かが違うのでは?とエディオンは疑問に思いつつも、とりあえず「そうですね」と頷いておいた。
「まあ、素敵ですね。わたくしも失礼して、お邪魔致しますね」
 うふふ、と嬉しそうにシルフェは笑う。既に気持ちは館の方に向いている。
「中で何が起こるか分かりませんから、気をつけてくださいね。テーマパークですから、命に危険は無いとは思うんですが」
「おう、任せとけ!親父愛聖剣は、入手せねばな!」
「ええ。恐らく普通の聖剣でしょうけど」
 エディオンは、すかさず突っ込む。
「聖剣といえば、聖なる剣ですね」
「そのままですね」
 びしっと突っ込まれつつも、シルフェはにこにこと笑っている。突っ込みなど、最初から気にならないといわんばかりに。
「おっと、突入前に蚊の撃退をしないとな」
 オーマはそう言って、ごそごとスプレー缶を取り出す。そこには「桃色夏美筋は危険な香り・虫除けスプレー」と書いてある。それを躊躇うことなく、ぷしゅーと全身にふりかけた。
「あら、オーマ様。虫除けですか?」
「ああ。俺特製の虫除けスプレー!どうだ、使うかい?」
 オーマが明らかに怪しいスプレー缶をシルフェに差し出す。シルフェは「まあ」とだけ言って首を横に振る。
「お心遣いは嬉しいのですが」
「というより、明らかに不可思議な生き物がオーマさんの後ろに見えるんですけどね」
 エディオンはそう言って、オーマの後ろを指差す。確かに、スプレーをした端からわけのわからないふわふわしたものだとかもさもさしたものがオーマに寄ってきている。
「良かったですね、シルフェさん。あれを使わなくて」
 エディオンが言うと、シルフェは一瞬「え?」と言ってきょとんとし、次にオーマを見てから「ふふ」と笑う。
「面白いですね」
 がく。
 感想が何か違う。エディオンはゆっくりと首を横に振る。
「よっしゃ、それじゃあ準備も完璧だ。行くぜ!」
「何が起きますかしら?不思議な石の、不思議なお屋敷ですね」
 シルフェはそう言い、小さく「よいしょ」と一歩を踏み出す。平面に建っているのだから、掛け声は入らないような気がするのだが。
 しかし、それを見習ってオーマも「よっこいしょ」と声をかけてから踏み出した。
「気をつけてくださいね」
 なんとも楽しそうな二人の背に、エディオンは一応声をかけておいた。
 できる事なら、自分も一緒に館の中についていきたくなる衝動を必死に抑えながら。


▲1F

 入口に入ると、巨大なエントランスが広がっていた。豪勢な洋館のようにも見える。中央には二階に続く巨大な怪談が聳え立っており、左右にドアがあった。
「どうやら、選択肢は二つのようだな」
「そのようですね。ふふふ、何が起こるのかしら」
 シルフェは嬉しそうに笑い、その言葉にオーマも「そうだな」と言って、にっと笑った。
「妥当に二つに分かれるかい?」
「ええ。どちらがより面白い道を通るか、競争ですね」
 判定方法があまり良く分からない競争である。
「心躍る、ドッキリドキドキウェルカム館に、ようこそドキー!」
 左右どちらのドアに行くかを決めている際に、甲高い声が響き渡る。二人とも、何事かと辺りを見回すと、中央の階段の途中にふわふわと丸い生命体が浮かんでいた。
 白いバスケットボール。
 そう形容するのがいいかもしれない。もしくは、白いソフトバレーボールだとか。
 それにちょんちょんと申し訳程度に二つ目となる点をつけ、ぱくぱくと動く口がついている。
 食べ物で例えるならば、寒くなってくると現れるあんまんに、ちょんちょんと黒ゴマをつけた感じ。はたまた、バニラアイスにちょんちょんとチョコレートを申し訳程度につけた感じ。あげていけば、キリはない。
 ともかく、そういうような物体が浮いているのである。
「まあ、おいしそう」
 にこっと笑いながら言うシルフェに、思わず白い物体ががくっとする。
「シンタンを驚かさないで欲しいドキ」
 白い物体は、どうやらシンタンというらしい。ついでに、変な語尾もつけるらしい。本当に変だ。
 シンタンはぷりっと頬を膨らませ、二人をちらりと見る。オーマはシンタンを見つめ、にやりと笑う。
「伸ばしがいのありそうな餅だな」
「失礼ドキ!」
「伸ばし飴でもいいですね」
「うわあ、本当に失礼ドキ!」
 シンタンはぶりぶりと怒っている。怖くないのだが。
「ともかく、この館の説明をするドキ。これから一つずつ部屋を通って、階段を上がっていくドキ。部屋ごとにクリア条件があるから、それをクリアして星を集めるドキ」
「星をいくつ集めたら、聖剣がもらえるんだ?」
「三つドキ。二人合わせてで構わないドキ」
「何故シンタン様というお名前なんですか?」
 おっとりと尋ねるシルフェに、シンタンは「関係ないドキ」と呟きながらも、口を開く。
「シンタンは、この館のマスコットドキ。つまり、飛び出る心臓を現すドキ」
「直球勝負だな、名前」
 かっかっかと笑いながらオーマが言うと、シンタンが「そんな事ないドキ」と抗議する。
「心臓と言う割に、白いんですね」
 にこっと笑うシルフェ。シンタンは「関係ないドキ」と言って軽く膨れた。
「さっさと出発するドキ!時間は待ってくれないドキ!」
「んじゃ、俺は左に行くかー」
 オーマはそう言い、階段の上にある左の扉を指差す。
「それでは、わたくしは右の方へ行きますね」
 シルフェはそう言い、右の扉を見ながら階段を上がり始めた。
「頑張るドキー」
 背中から、シンタンの甲高い応援が入るのだった。


▲2F

 左の扉を開けると、きらびやかな電飾で彩られたステージの上に、机がぽつんと置いてあった。正面には大きなモニタ画面がある。
「なんだなんだ?」
 オーマは、とりあえず机に近づく。机には赤いボタンが設置されており、試しに押してみると、ぴこーん、という電子音がして机下部分が光った。
 いわゆる、クイズ番組でよく見られる机だ。
「クイズがここで始まるのか?って、まさかそんな訳が……」
「はいはーい、おっまたせしやしたー!」
「……あったか」
 ないよな、と言おうとしたオーマの言葉をさえぎり、甲高い声が響いた。シンタンと酷似しているが、ちょっと色が違っていた。白は白でも、どことなく青い。パステルブルーとかいう、淡い色だ。
「さーて、大好評のクイズ・ドキドキタイムの始まりです」
「待ってたぜ!」
 オーマがにかっと笑いながら言うと、パステルブルーはにこやかに微笑む。
「私、司会の心臓出る蔵です」
 不吉な名前である。にこやかさもパステルブルーの淡い色も、完全に無視してしまったかのような名前だ。
 オーマはそんな名前を気にすることなく「おお!」といいながら手を叩く。ぴかぴかと光る電飾や、甲高い心臓出る蔵の声に、自然とテンションが上がってきたのだ。
「クイズに正解すれば、星をプレゼントッ!失敗したら……罰ゲーム」
 にや、と笑いながら心臓出る蔵が言う。いやな顔だ。普通の人ならば、カチンときて拳をぎりぎりと握り締め、力強く「うるぁっ!」なんていう掛け声と共に殴りかかってもおかしくない位の嫌な顔だ。
 だが、オーマは嬉しそうに「よっしゃ!」とガッツポーズを取る。やる気満々、気合充分である。罰ゲームは考えていない、むしろ罰ゲームだろうが楽しんだもの勝ち!くらいの勢いだ。
「第一問!否、むしろ全一問!」
「一問しかないのか」
 ちょっと残念そうなオーマ。
「ええ、一問です。オンリーワンですね、オンリーワン。ナンバーワンではなく、オンリーワンですよ」
 ちらちらとオーマを見ながら、心臓出る蔵は言った。だが、オーマはただ「ふむ」とだけしか答えなかった。
 突っ込みも賞賛もない。放置プレイという言葉がちらちらと横切るかのようだ。
「……という事で、ザ・一問!」
 心臓出る蔵は、とりあえず進める事にする。正しい選択だ。
「おうよ、何でも来い!」
「では、問題!体の内蔵の中で、血液を体中に送り込む器官は何と言う?」
 にやにやと笑いながら、心臓出る蔵はオーマの答えを待っている。オーマは一瞬「うーむ」と悩み、バシッとボタンを叩く。同時に、ぴこーん、という間の抜けた音が響き渡った。
「お答えをどうぞ!」
「心臓?」
 じっと、二人は見つめあう。空気が変わってしまったかのように、辺りを静寂が支配している。それがしばらく続いた後、心臓出る蔵はぐっと拳を握り締めた。
「正解っ!」
「よっしゃぁ!」
 オーマのガッツポーズと共に、表彰式でよく流れる例の音楽が響き渡る。心臓出る蔵は、何処からか出したハンカチで目元を拭いながら、小さな両手でそっとオーマの手を握り締めた。
「おめでとう。本当に……よくやった」
「全一問だがな!」
 かっかっか、とオーマは豪快に笑った。心臓出る蔵は、こくこくと何度も頷いた。
「これを持っていくがいい。きっと、役に立つ」
 手渡してきたのは、星型のバッジだった。オーマはそれを見つめ「なるほど」と言って笑う。
「こいつを三つあつめりゃいいんだな?」
「さあ、行くがいい!己の心に全てを詰め込んで!」
「行くけど、その前に」
 オーマはそう言い、袂からスプレー缶を取り出した。この館に入る前に全身に振りかけた、例の奴である。
「これをやろう!星を貰った礼だ」
「お、おおお!これは素晴らしい」
 心臓出る蔵は感動しつつそれを受け取り、早速自らに振り掛ける。ぷしゅー、と勢い良く。
「んじゃ、俺は先に行くぜ。しっかり使ってくれよ!」
「ありがとう!忘れない、絶対にこの恩は忘れないよ!」
 ぶんぶんと短い手を何度も振る心臓出る蔵。その後ろに、びっくりドキドキ大集合が起こっているのも気付かず……。
「……って、うおおおお!」
 やっぱり、気付いたらしい。オーマはその声を「喜んでるな」と判断し、にんまりと笑った。
 きっと真相を聞いても、喜ぶ事にはなりそうであった。


▲3F

 先に進むと、更に階段があった。そこを登ると、ぽっかりと空いた広い部屋へと辿り着く。
「お?」
「あら」
 そこで、再びオーマとシルフェが顔を合わせた。どうやら、分かれていたのは二階部分だけだったらしい。
「なんだ、繋がっていたんだな」
「そのようですね」
 二人はそう頷きあい、互いに何かを取り出す。
 それぞれが手に入れた、星型のバッジだ。
「オーマ様も手に入れられたのですね」
「おう。これで、後一つだな」
「という事は、ここで最後なのでしょうか?」
 シルフェがそう言ってきょろきょろと辺りを見回していると、目の前にパステルピンクの生き物と、パステルブルーの生き物が現れた。
「心臓飛び蔵様」
「心臓出る蔵じゃねーか」
 それは、殆ど同時に発せられた言葉だった。シルフェはパステルピンクを見て「心臓飛び蔵」と呼び、オーマはパステルブルーを見て「心臓出る蔵」と呼んだ。
 どちらも同じくらい、不吉で微妙な名前である。
「いかにも、私は心臓飛び蔵っ!」
「そうして私は心臓出る蔵っ!二人合わせて……」
 二人は短い手をぎゅっと合わせ、ポーズを取る。といっても、丸っこいのでポーズを取っているのだろう、という予想でしか過ぎないが。
「心臓飛び出隊!」
 そして、名前はまんまだった。多少捻れば良いのに、と突っ込まれても文句の言えない安直さである。
「それで、合体でもするのか?」
 オーマはそう言って期待の眼差しを心臓飛び出隊に向ける。心臓飛び出隊は顔を見合わせ、ひそひそと話し合いを始める。
「オーマ様、無理なのではないでしょうか」
「そうなのか?いや、でも折角二人合わせてとか言ってるんだし、ここは一つ合体ぐらいして欲しくねぇか?」
 オーマが言うと、シルフェは少しだけ考えた後「そうですね」と頷いた。心臓飛び出隊の間に、明らかな動揺が走る。
「……人生の中で、時折出来ない事にぶち当たる事が在る」
と、心臓飛び蔵。
「今まさに、君らはその場面に直面したのである!」
と、心臓出る蔵。偉そうに話しているが、あまりたいしたことは言っていない。
「じゃあ、何でそんな隊を組んでるんだ?揃って俺の仲間になりてぇのか?」
 オーマが真顔で尋ねると、心臓飛び出隊は「いやいや」「そうじゃなくて」と首を横に振る。
「ここまで辿り着いた、君らに捧げる為、我々は此処に来たのだよ」
「ここまで辿り着くっていうか、普通に突っ切ってきたけどな」
 オーマの突っ込みに動じることなく、心臓飛び出隊は続ける。
「ここで、我々を見事倒してみるがいい!」
 ばばーんっ!
 派手な効果音が部屋中に響き渡る。心臓飛び出隊は、格好良く(多分)決めている。ポーズもばっちり、写真のフラッシュの嵐でも吹き荒れそうな勢いだ。本人達も、心の中で「決まった」だとか思っているはずだ。
「どうやって倒せば良いですか?」
 がくっ!
 高まっていたノリを、一気に現実へとシルフェは引き戻す。
「そ、それはどうだろうね!」
「もっと何かいう事があるんじゃないかね?」
 二人は口々に言うが、シルフェは「え」と言ってから、ほわんと笑う。
「仲が宜しいですね」
「ちっがーう!」
 びしっ!なかなか鋭い突っ込みだ。
「仲が良いって言うか、こうしてみたらなかなか上手そうな饅頭にも見えるよな」
「また全くちっがーう!」
 びしぃっ!オーマの感想に再び鋭い突っ込みだ。
「とーもーかーくっ!我々をこの場で倒してもらおうか」
 心臓飛び蔵が、とりあえず纏める。纏めなければ、いつまでも進みそうになかった。
 二人がきょとんとしていると、ごろごろと目の前にボールが転がってきた。赤や青、黄色や緑といった色とりどりのカラーボールだ。拾い上げると、ふに、という触感と共につるつるした表面が何処となく心地よい。
「それで、我々に当てるがいい。そこにあるボールは60ある。その内、半分である30個を我々に当てる事ができれば、星を渡そう!」
 心臓出る蔵が声高らかに言った。
「つまり、全力で投げりゃいいんだな?」
 ボールの一つを掴みながら言うオーマに、心臓飛び出隊はひそひそと話してから「それなりの力でよろしく頼む!」と誇らしく答えた。
「楽しそうですね。頑張ります」
 ボールを二、三個掴み、シルフェはにっこりと笑う。心臓飛び出隊は思わず「あ、頑張ってください」と普通にコメントを返した。
 ぴっぴっぴ……ぴーんっ!
 電子音と共に、戦闘が開始された。戦闘と言っても、オーマとシルフェが心臓飛び出隊に向かってボールを投げつけるという、ただそれだけだが。
 心臓飛び出隊は投げつけられるボールに対し、時に避け、時に当たり、時に反撃した。当たっても痛くないボールだが、オーマの力強さとシルフェの楽しそうな様子から、何故だかボールに当たると痛みが走った。恐らくは、二人の投げつけるボールの把握が難しいからだ。
 オーマは力強く投げている。残像?と疑いたくなるくらい、速球を投げる。それが見事直撃した瞬間は、本当に痛みが走る。オーマのボールを投げる表情が楽しそうなのも、更なる痛みを加速させるのに一役買っている。
 一方、シルフェは狙いをしっかりと定めてから投げていた。一つ一つの動作は遅いが、その分確実に心臓飛び出隊にぶつかっていった。シルフェの表情がにこやかなので、一瞬でやってくるボールに時折対処できなかった。
 当たっていくボールは、部屋の中央に設置されている電光掲示板に随時数字が増えていっていた。
「ていっ!」
 最後の一つを、オーマが気合を入れつつ投げる。ぼむ、という痛そうな音と共に、心臓飛び出隊から「がはっ」という声が漏れた。
「あ、悪い。痛かったか?」
「ええ、多少なりとも痛かったですよ」
 皮肉交じりに心臓飛び出隊が言うと、シルフェが「ごめんなさいね」と言って微笑む。
「でも、とても楽しかったです」
「それは何よりですね」
 どことなく哀しい音を含んだ言葉だ。
 全てが終わった時、電光掲示板には「31」という数字が現れていた。つまりは、30以上なのでクリアとなる。
「やったな!」
「はい」
 ぱん、と楽しそうに手を合わせる。互いの功績を称えるかのように。
 そんな二人に、心臓飛び出隊はよろよろとしながら近づいた。二人に向かって、星型のバッジを差し出しながら。
「さあ、これを」
「聖剣をてにするがいい、勇者達よ!」
 二人に向かってポーズを決めながら言う心臓飛び出隊に、二人は顔を見合わせてから星型のバッジを受け取った。
「よっしゃ、これで三つ揃ったな」
「はい。有難うございます」
 オーマは手の中にある星型のバッジをまじまじと見つめ、シルフェは心臓飛び出隊に向かって頭を下げた。
「まっすぐ進んでください。そうすれば、聖剣の場所に辿り着きますから」
 心臓飛び出隊はそう二人に言い、奥にある怪談を指差した。オーマとシルフェは互いに頷きあい、そちらに向かった。
 聖剣があるだろう、場所に向かって。


▲屋上

 階段を上がった先にあったのは、屋上だった。そしてその一角に、剣が刺さっていた。
「お、あれじゃねぇか?」
「そのようですね」
 二人が近づくと、剣の柄に星型の穴が三つあった。
「ここに入れるようになっているみたいですね」
 シルフェはそう言うと、自らが手に入れた星型のバッジを穴に埋め込む。
「みたいだな。んじゃ、俺もっと」
 オーマは、自分が手に入れた星型のバッジと先ほど手に入れた星型のバッジを取り出し、柄にはめ込む。
 三つ全てをはめ込んだ時、聖剣がきらきらと光り始めた。そうして、光はだんだんと何かの形になっていく。
 丸い、塊に。
「……良くぞ此処までやってきました」
「あら、シンタン様」
「よ、ついに此処まで来れたぜ!」
 格好良く決めているシンタンを半分くらい無視し、話しかけるシルフェとオーマ。シンタンは途端に頬を膨らませ、ぶーぶーと抗議をする。
「こういう時は、憧れと尊敬を持ってみて欲しいドキー」
「てか、その剣って聖剣?親父愛聖剣か?」
 わくわくしながら答えるオーマに、シンタンは「違うドキ」ときっぱりと首を振る。
「ここまでやってこれた勇者たちに、祝福を与えているドキ」
「そっか。じゃあ宜しく!」
 ぐっと親指を立てながら言うオーマに、シンタンは一瞬と惑いつつも「まあ、いいドキ」と言って渋々納得する。
「その聖剣で、何かなるのですか?」
 じっと剣を見ていたシルフェが尋ねると、シンタンはゆっくりと首を横に振る。
「何もならないドキ。勇気があると、認定するだけドキ」
「認定だけかよ」
「当たり前ドキ。聖剣をやるだけでも、感謝して欲しいドキ」
 シンタンはそう言い、オーマとシルフェを見てにっこりと笑う。
「認定、するドキ」
 オーマとシルフェは顔を見合わせ、にっこりと笑って頷いた。そうして、自然と聖剣へと手を伸ばした。
 きらきらと光り輝く、星を三つ抱え込んだ聖剣に……。
 どーんっ!
 二人が手を伸ばした瞬間、がらがらと館が崩れ始めた。
「な、何だ?」
「恐らく、わたくし達がクリアしたからでしょう。この館は、これで満足したんじゃないでしょうか」
 崩れる様子を見ながらシルフェが答える。
「いや、それは分かるが……こんな、突然でなくってもいいんじゃねぇか?聖剣、結局手にしてねぇし」
 オーマはそう言い、後頭部をぼりぼりと掻いた。
「これも最後のアトラクションだと思えば、楽しいです」
 にこ、と笑いながらいうシルフェに、オーマは一瞬面食らってからにやりと笑う。
「それもそうか」
「ええ」
 二人はそう言いあうと、屋上から出口へと向かっていった。表面部分から、準備崩れていっていた。ぼろぼろと、皮がむけていくように。
 瓦礫がぼろぼろと落ちていく中、きらきらと光るものを視界に取られた。それは、崩れ落ちる館の中で光り輝く、星のついた聖剣であった。


▲結

 がらがらと壊れきった館は、崩れた瓦礫からさらさらと風に乗って消えていった。そうして残ったのは、最初にエディオンが手に入れた大きさの石だけだ。
「無事、のようですね」
 エディオンは、出口まで必死に走ってきたオーマとシルフェに声をかける。
「ああ、何とかな。クリアしたら、石が鎮まっちゃったみてぇだな」
「そのようですね。お怪我がないようで、何よりです」
 エディオンはオーマの言葉に頷き、微笑んだ。
「それが、石ですか?エディオン様」
 シルフェはそう言い、ひょいとエディオンの手元を覗き込んだ。そこには、最初に拾ったのと同じ石があった。
 先ほど崩れ落ちたものの、たった一あけらだけ残った石である。
「ええ。しっかりと鎮められているようですね。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそとても楽しかったです」
 シルフェが言うと、オーマも「そうだぜ」と言って笑う。
「もう一度できる事なら、行ってもいいぜ?ドキマッチョサマー……」
「オープンザマッスル、ですか」
 エディオンはそう言い、微笑んだ。オーマは「そうそう」と言って頷く。
「そういえば、聖剣はどうなったのでしょうか?崩れ落ちる時、きらきらと光っていたのは見たのですが」
 シルフェが尋ねると、エディオンは微笑んだまま石を二人の前に差し出した。
「そういうことか」
「まあ」
 二人は石を見て、笑い合う。
 石の中央に、柄の部分に星が三つついた剣が浮き出ているのであった。

<躍館の石に聖剣を閉じ込め・了>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39(999) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り 】
【 2994 / シルフェ / 女 / 17(17) / 水操師 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。ライターの霜月玲守です。この度は「躍館の石」に御参加いただき、本当に有難うございます。
 今回は、クリエータ共同「館」企画の一環としてのものです。企画と言っても、特に他のクリエータさんと同じ時間の流れなどはありません。この話単品で成り立っております。
 オーマ・シュヴァルツさん、再びのご参加有難うございます。ノリだけで進んでいった為、探索部分がなくてすいません。終始楽しそうな雰囲気で書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか。
 今回、少しずつですが個別の文章を交えております。2F部分です。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。