<PCクエストノベル(2人)>


女神の示す場所 ―アクアーネ村―
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【冒険者一覧】

【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】

NPC
【女神】
【水先案内人】
【フィーリア】
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 今年は残暑も厳しい。暑さで焼かれそうだ。

虎王丸:「俺なんか鎧だぜ鎧!」

 虎王丸はぶつぶつと自分の着ているものを示した。
 好き好んで鎧を着ているほうも着ているほうほうなのだが、一応普段着なのだ。
 しかし蒼柳凪としても、虎王丸の装いは見ていて暑苦しかった。

虎王丸:「あーつーいー!」
凪:「叫ぶなよ……」
虎王丸:「暑いもんは暑いー!」
凪:「暑いって言われるとますます暑いだろ!」
虎王丸:「暑いもんを暑いと言ってなにが悪い!」

 虎王丸は犬歯をむき出しにしてうなる。本当に虎のようだ。

凪:「そうだなあ……」

 凪は虎王丸の愚痴を聞くのをやめて、残暑対策を考えた。

凪:「やっぱりあそこに行くしかないかなあ……」

 年中涼しそうな場所。それは――

 水の都、アクアーネ村。

     **********

虎王丸:「ひゃっほう!」

 アクアーネ村にたどりつくなり、虎王丸は鎧を脱ぎ捨てた。ふんどし一丁の姿になり、ゴンドラを渡すためにある水路に飛び込んでいく。
 そのあまりの行動の早さに、凪には止める間もなかった。
 じゃばじゃばじゃばじゃば遠慮なく飛び散る水。
 ――水路の水が減ってしまいそうだ。

凪:「おい! 水路の水は減らすなよ――」
虎王丸:「ぁあ!? 何か言ったかー!?」

 水音がすごくて虎王丸に声が届かない。
 ごん
 すごい音がした。
 見ると、観光客が乗っているらしきゴンドラが、虎王丸の頭に直撃していた。

虎王丸:「てめっ! なにしやがんだ!」
観光客:「君こそこの水路で泳ぐなんて何を考えているんです!」

 虎王丸と観光客の戦い。
 今は凪たちに限らず、この村は避暑で観光客が多いのだ。
 虎王丸の怒声はまだ続いている。
 凪は片手で顔をおおった。――だめだこりゃ。
 とりあえず知らない顔をしておいて、

凪:「俺はどうするかな……」

 凪は考えた。
 せっかく観光名所アクアーネ村に来たのだ。観光するのも悪くないが――
 それ以上に凪には興味のある部分がある。
 遺跡。
 このアクアーネ村にまだまだ隠されているという遺跡。

凪:「遺跡の情報を調べてみるか……」

 凪はそう決めて、虎王丸に声をかけようとして――
 うるさい水音を思い出し、やめた。
 どうせ虎王丸のことだ、行動が目立つからいざというときもすぐ見つかるだろう。
 我ながらおおざっぱだなと思いつつ、凪は歩き出した。


村人:「遺跡かい? そういうのは男衆のほうがよく知っているかもねえ」

 まず目に入った露店の女性に話しかけると、そんな返事があった。

凪:「男性ですか?」
村人:「男衆がこの村の整備をしてるからね。ああ、あと水先案内人とか」
凪:「なるほど……」

 凪は礼をする代わりに、その店の売り物だった果物をひとつ買い、頭をさげた。
 買った果物は梨。梨をかじりながら、凪は次はどこへ行こうか考える。
 ――男性か、水先案内人か。
 水先案内人といえば、ゴンドラの漕ぎ手をしてくれる人々のことだ。

凪:「……水先案内人さんをさがしてみようかな」

 凪はつぶやいた。そしてゴンドラ乗り場へと歩き出した。

 ゴンドラには水先案内人なしでも乗ることができる。が、やはり観光にきたなら案内人をつけるのが妥当だ。
 以前来たときには案内人なしでゴンドラを漕いだ凪は、水先案内人としゃべるのがほぼ初めてだった。

凪:「あの……お尋ねしたいんですが」
案内人:「ん? なんだい」

 凪が声をかけた案内人は、珍しい男性の案内人だった。案内人はたいてい女性なのだが。

凪:「俺、新しい遺跡について研究しようと思ってるんです。新しい遺跡がありそうなところを知りませんか」
案内人:「おやおや、キミも歴史学者か何かかい?」
凪:「……え、ええ、まあ」
案内人:「そうだねえ……」

 まだ若そうな案内人は腕を組み、虚空に視線をさまよわせて、

案内人:「南東にある崩れたところなんか怪しいね」
凪:「!」

 凪は慌てた。その場所は以前凪が虎王丸と行った場所ではないか。
 そこには本物の女神がいて、下手に人間が踏み荒らしていい場所ではない。

案内人:「あの南東の崩れた場所からは何かオーラを感じる。一度掘り出してみたいものだ」
凪:「あの、南東が怪しいんですね。ほ、他にはありませんか」

 何とか話をそらそうと凪が無理やりに言葉を続けると、案内人は「他にかい?」と眉根を寄せた。

案内人:「そうだなあ……北西かな」
凪:「北西?」

 南東とは真反対だ。凪が首をかしげると、

案内人:「あそこからも弱いオーラを感じる!」

 案内人は力んだ。案外興奮しやすいタチらしい。
 凪も興味津々だった。

凪:「北西の……どのあたりですか?」
案内人:「ちょうど瓦礫の山になっているところさ。そこを掘り出せばきっと何か出てくる」
凪:「瓦礫の山……」

 これは虎王丸の力を借りなくては掘り出せそうにない。
 他にはないですか、と訊くと、案内人は「最近オーラを感じてなくてさあ」と嘆いた。

案内人:「この村も、遺跡を掘り出しすぎだよ。少しは自重すべきだ」
凪:「……そうですね」

 色々思うところがあって、凪は神妙にうなずいた。

 結局――
 その日の収穫は、案内人からの「北西の瓦礫の下」だけだった。
 陽が落ちてくる。
 水路をたどっていくと、

虎王丸:「なあなあねえちゃん、俺と一緒に泳ごうぜ」
凪:「………」

 凪はどこからかハリセンを取り出し、スパンと虎王丸の後頭部を打った。

虎王丸:「っってっっ!」

 虎王丸がものすごい形相で凪を見る。その間に虎王丸にからまれていた女性は逃げていった。

虎王丸:「なにしやがんだ、凪!」
凪:「ナンパしに来たんじゃないんだぞ。……しかもふんどし一丁でなにやってるんだ」
虎王丸:「これぞ男の本当の姿!」

 虎王丸はなにを恥ずかしがるでもなく、堂々と胸を張る。
 凪は脱力感で今にも倒れそうだった。自分が目を離している間に虎王丸が何をやっていたんだろうと思うとぞっとする。
 やはり一緒に行動していたほうがよかったか。そんなことも思ったが今さらだ――

凪:「とにかくだな、虎王丸」
虎王丸:「あん?」
凪:「もうすぐ夜になる。……遺跡見に行くぞ」
虎王丸:「どこの」

 凪は小声で、虎王丸に囁いた。

凪:「この間見つけた、女神様の神殿」

     **********

 本物の女神に会える神殿――
 虎王丸がそのことを覚えていないはずもないし、そこにもう一度行くと聞いて喜ばないはずもない。
 虎王丸は夜の涼しさにようやく鎧を着て、南東のくだんの遺跡へとやってきた。もちろん、凪も一緒だ。
 凪は周囲を警戒していた。

虎王丸:「お前、さっきからなにきょろきょろしてんだ?」
凪:「万が一誰かに尾行されてたら、女神様にご迷惑をおかけするだろ」
虎王丸:「心配しなくても、そんな野郎がいたら俺がぶっ飛ばす」

 凪はランタンに火を灯した。
 ――入口が崩れかけた女神の神殿は、相変わらず優しい水であふれていた。
 奥へ、奥へと向かう――

 そこ、は。
 相変わらず、とても美しい場所だった。
 周囲の壁からは絶えず水が流れ落ち、中央の女神像の両手からも水がさらさらと。

凪:「女神様」

 凪は呼びかけた。
 しかし、返答がない。

虎王丸:「ばっか、こうすりゃいいんだって!」

 虎王丸は自信まんまんに、白焔を女神像の背後にある核に放った。

 ぼう……

 白焔を受けて、核が発光する。

 するりと、女神像から女神が抜け出してくる。

虎王丸:「よーっす女神! 元気にしてたかー!」

 虎王丸は間の抜けた声をかけた。凪はずるりとすべりかけた。
 女神が、くすくすと笑った。

女神:「そなたたちも元気でよかった……我に会いにきてくれて感謝いたします」
虎王丸:「この村に来て、あんたに会いにこないわけないだろー!」

 虎王丸のなれなれしさが、却って女神像を楽しませるようだった。
 女神は微笑んだまま、

女神:「村の様子は……どうですか。栄えておりますか」
凪:「お見えにならないのですか?」
女神:「感じる……ことはできる。しかし目で見ることはできぬ。神とて目が欲しくなることはあるのです」

 女神は寂しそうに笑う。
 凪は申し訳なさで神妙な顔になって、

凪:「アクアーネ村は……今はにぎわっていますよ。暑い時期ですから」
虎王丸:「あんたの水は気持ちよかったぜ!」

 水路で堂々と泳いだらしい虎王丸は、びしっと親指を立てた。
 女神はころころと笑った。

女神:「そう、まだ充分栄えているのですね……よかった」

 それで――と女神は凪と虎王丸の顔を順ぐりに見る。

女神:「そなたたちは……何用でこの村に?」
虎王丸:「泳ぎに来たぜ!」

 虎王丸は即答した。――彼的にはそれで間違っていない。
 女神は凪を見る。
 凪は答につまった。

凪:「とりあえず避暑……ですが……」
女神:「他に目的が?」
凪:「……すみません、女神様」

 心底申し訳ない気持ちで、凪はうなだれた。

凪:「俺は……他の遺跡をさがしていました」
女神:「まあ」

 女神は少しだけ表情を動かした。驚いたような顔だ。

女神:「して……なぜそのように暗い顔をしている?」
凪:「あの……昼に村人さんとも話したんですが、この村の遺跡を荒らしすぎてるって……」
女神:「ああ」

 納得したように、女神は穏やかにうなずいた。

女神:「そのようなこと……気にしなくてよいのですよ、そなた」
凪:「でも……」
女神:「遺跡は崩れてしまった過去の遺物。彼らも我のように、忘れ去られるのを恐れている」
凪:「………」

 凪は女神を見つめた。
 ――人々の心の中に生き続ければいい――
 そう言って、表に出ることを拒んだ女神。
 それでも寂しいから、せめて凪と虎王丸がたまには会いにきてくれれば嬉しいと、そう言った女神。

虎王丸:「掘り出しゃいいんだよ」

 虎王丸が軽く言った。

虎王丸:「こんな女神様とかが埋もれちまってるかもしれねーんだぜ。かわいそうだろ」
凪:「………」

 虎王丸の場合は、埋もれてかわいそうなのは女性に限っているだろうが。
 凪は口を開いた。

凪:「北東に――」
女神:「北東?」
凪:「遺跡らしきものがあると、聞きました」

 女神が目を見張る。
 そして静かに目を閉じた。まるで何かを感じ取ろうとしているかのような――
 やがて瞼をあげたとき、女神はひどく悲しそうな顔をしていた。

女神:「お願いです……その遺跡を掘り出してやってください」
凪:「女神様?」
女神:「そこに埋もれているのは我の妹……我の、双子の妹です」

 虎王丸が目を輝かせた。

虎王丸:「ってことは、美人だよな!」
凪:「妹さんも、女神様なのですか?」

 凪は虎王丸を無視して訊いた。
 女神は首を振った。

女神:「我は双子。双子にして、力はすべて我だけが持つ。妹には何の力もなかった」

 だから――と、女神は続けた。

女神:「我の大切な妹には、小さな祠のようなものを建てられただけで終わってしまった。そなたたち、どうか妹を」
凪:「行きます!」

 凪は即答した。

虎王丸:「当然、俺もな」

 虎王丸は下心まんまんでにんまりと笑う。
 女神はすがるような目で二人を見た。

女神:「どうかお願いです。妹を……救って……」

     **********

虎王丸:「んで、この瓦礫をどかせってか?」

 夜の間にことを済ませてしまおうと、凪と虎王丸は早速北西の瓦礫の山にやってきた。
 そこは、ひどく村はずれにあった。女神の妹たる人を祀る祠が、なぜこんなところにあるのだろうと、凪は不思議がった。

凪:「仕方ないだろ……お前のほうが力は強い」
虎王丸:「しゃーねーなー」
凪:「………。力強いと女の子にモテるかもな」

 虎王丸の瞳が輝いた。彼はがぜん、やる気を出した。

凪:「体力もあるとなおいい」

 瓦礫をどかし始めた虎王丸に、追い討ちをかけるように言ってやると、

虎王丸:「ってこたぁ、お前将来大丈夫か? 相手いねぇぞ」
凪:「俺のことはいいんだよ!」

 凪は真っ赤になって怒鳴った。
 虎王丸は本当に頑張ってくれた。本当なら大人三人くらいはいないとできそうにない仕事を、根性と下心だけでやりきってしまった。
 瓦礫をどかすと――
 そこに、半壊した祠があった。

凪:「あ……」

 凪は一瞬手を伸ばし、それから唇を噛む。
 ――女神と同じような『核』がそこにある。祠の中央に。
 しかし、その『核』は半分ほどまで壊れてしまっていたのだ。

虎王丸:「試してみるだけ試してみっか!」

 虎王丸は白焔を生み出し、半壊した核にぶつけた。
 こう……
 核が、弱々しい光を放つ。
 そこからぼんやりと、透けるような姿をした、青白い顔の女性が現れた。

女神の妹:「お前たち……何用で私を起こした」

 女神と双子とはとても思えないような低い淡々とした声で、青白い顔の女は言う。

凪:「あ……あの、あなたのお姉さんに言われて、あなたの祠を掘り出そうと」
女神の妹:「余計なことをするでない!」

 女は一喝した。

女神の妹:「姉者のように、私は人々に求められていない! 私が起きる必要などなかった!」
凪:「そんな……!」
女神の妹:「事実、私の存在を知っている者などこの村にはおるまい。そういうことだ」
虎王丸:「……知ってるやつ、いるぜ」

 虎王丸が、頭の後ろで手を組んだ。
 女神の妹がいぶかしげに、にらむように虎王丸を見る。

虎王丸:「ずっといたさ……あんたの姉さんが、ずっとあんたを心配してた」
女神の妹:「姉者……」
虎王丸:「今回だって、妹がかわいそうだって、泣きそうな顔をしてさあ」
女神の妹:「――私は姉者には愛されていない!」

 女は金切り声を出した。

女神の妹:「私は姉者には愛されていない!」
凪:「なぜ、そう思うのですか?」

 凪は一歩前に進んで、女神の妹と対峙する。
 女は口惜しそうにぎりぎりと歯ぎしりをした。

女神の妹:「姉者は私に力がないと分かると、すぐにこんな村のはずれに追いやった! 姉者は私を嫌っておる!」
虎王丸:「そりゃ違うなあ」

 虎王丸が軽い口調で言う。
 女の壮絶な視線を受けても、平気な顔で。

虎王丸:「あんたの姉さんはさ、多分あんたと自分が必要以上に比べられないようにしたんだって。近くにいたらことごとく比べられちまうだろ? だったら離しておきゃいいんだって」

 凪は驚いた。虎王丸がこんな考えの持ち主だとは――

虎王丸:「現に自分の神殿だって、中央じゃなく南西の端っこに造らせてる。自分の力を示したいだけなら中央に造らせるだろ。……あんたの姉さんは、そういう女神様だよ」

 いつになく、虎王丸の声は優しかった。
 女神の妹が、虚をつかれたように呆然とした表情になる。
 凪は深くうなずいた。

凪:「そうですよ。あなたのお姉さんは、あなたのことを決して忘れていなかった。あなたを愛しているから」
女神の妹:「………」
虎王丸:「なあ」

 うつむく女神の妹の前で、虎王丸が急に元気な声を出した。

虎王丸:「あんたの名前、教えてくれよ」
女神の妹:「名前だと……?」

 いぶかしそうな女の視線に、虎王丸は大きくうなずく。

虎王丸:「“女神の妹”って呼ばれんのも嫌だろ。教えてくれよ」
女神の妹「そ、そんな必要のないもの」
虎王丸:「俺は知りたい」
女神の妹:「………」

 凪は黙って成り行きを見守っていた。虎王丸の言葉は、女の心を揺さぶるだろうか――
 やがて、
 女神の妹は……小さく、つぶやいた。

女神の妹:「……フィーリア、と姉者は呼んでいた」
凪:「それは……」

 凪は思わず声をあげた。

凪:「妹、という意味の言葉――」
虎王丸:「フィーリアか。いい名前持ってんじゃん」

 虎王丸ががははと笑う。

虎王丸:「――よく似合ってんぜ」
フィーリア:「………」

 フィーリアは最初のころの壮絶な表情を消し、落ち着かなさそうに視線をきょろきょろさせた。
 それは何だか頼りなげな視線で、戸惑っているようにも見えた。

フィーリア:「名を――姉者以外に呼ばれたのは初めてだ」
虎王丸:「ならこれからは」
凪:「俺たちも呼びます」

 あ、いいとことったな! とばかりに虎王丸の凶暴な視線が凪に突き刺さる。
 凪は気にせず笑顔を作った。
 フィーリアの青白かった顔に、赤みがさした。

虎王丸:「かわいいぜ、フィーリア」
凪:「お前は結局ナンパか!」
虎王丸:「何言ってんだよ。女ってのは褒められるともっと綺麗になるんだぜ」
フィーリア:「そう、言えば……」

 フィーリアは小さくつぶやいた。

フィーリア:「姉者は……名を持っていなかった……」

 フィーリアの目に、涙のようなものが浮かぶ。
 やがてフィーリアは、両の手を拳にして震わせた。

フィーリア:「姉者……姉者……っ」

 愛する者の名を呼ぶ声――

フィーリア:「もう……姉者の声は聞こえない。核が」
凪:「俺らが伝えますから」

 凪は透けるほどに力弱まったフィーリアに微笑んでみせた。
 フィーリアは初めて、微笑んだ。
 その拍子に、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。

虎王丸:「さすが水の村の守り神」

 虎王丸がフィーリアの顔をのぞきこむ。

虎王丸:「涙も綺麗だな」

 フィーリアは泣き笑いの顔になった。笑うと、やはり双子の姉に似ていた。
 凪と虎王丸はその顔を見て、心からの満足を味わった。
 姉妹とは――やっぱり、どこかでつながっているものなのだ、と思いながら。

     **********

 フィーリアが核に姿を消した頃には、夜はすっかり明けていた。

凪:「この祠……見つけたら、誰かが修復してくれるかな」
虎王丸:「さあなあ」

 虎王丸は、あふ、とあくびをして大きく伸びをした。

虎王丸:「別に直さなくてもいいんじゃねえの」
凪:「何でさ」
虎王丸:「大切な部分は、ちゃんと残ってるみたいだったしよ」

 虎王丸はにやりと笑って、自分の親指でとんとんと心臓の位置をつつく。

虎王丸:「ここがある限り――永遠だ」

 凪は笑った。心地いい笑いだった。
 今回はすべて虎王丸にしてやられた。そんなことを思っても、悔しい思いはまったくない。

凪:「やっぱり女性の相手はお前かな、虎王丸」
虎王丸:「おう! 女心なら任せとけ!」

 二人は朝日を浴びながら、うん、と伸びをした。
 アクアーネ村の朝日は、二人の少年を大きな心で迎えてくれた。


 ―Fin―

ライター通信-------------------------
こんにちは、笠城夢斗です。クエストノベルではお久しぶりです。
今回は……やたら虎王丸が優しくなってしまい、「これでいいのか!」とつっこみながら書いていました。これはこれで気に入っていただけると嬉しいです。
よろしければ、またお会いできますよう……