<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


祠の奥 + 紅蓮の炎 +



◇★◇


 視界の利かぬ闇の中、そっと手を動かして両手を重ねる。
 今が昼なのか、夜なのか、そんな事は分からない。
 あの日以来、幾千の月日が流れたのか・・・それすらも、朧に霞む。
 ふっと照らせば穴の中、むき出しの壁が冷たく悲しい。

「寂しい・・・な・・・」


◆☆◆


 風が秋の気配を帯び始め、陽の光がほんの少し、柔らかくなる。
 馨は心地良く吹く風に目を閉じ、暫くその感覚を楽しんだ。
 髪を揺らす風は涼しく、耳元を通り過ぎる音には秋独特の哀愁が感じられる。
 そっと目を開けば上空の雲が地に黒い影を落としており・・・パタパタと、背後から走ってくる小さな足音に振り向く。
 ピンク色の長い髪をふわふわと揺らしながら、手には紙袋を持って、可愛らしい少女が走ってきていた。
 彼女の通行を邪魔しないようにと道の脇による。
 少女がお礼でも言うかのように淡い色の唇を薄く開き・・・カツンと、その足が何かに引っかかる。
「は・・・はわわっ!!」
 驚いた少女の目が見開き、馨が慌ててその体を受け止める。
 何とか地面に滑り込む前にその華奢な体を抱き上げ・・・ほっと安堵したのも束の間、少女の手から転げ落ちた紙袋の中から、何かが散乱する。
「・・・花の種・・・?」
 地面に点々と落ちた小さな黒い点を見詰めながら馨が呟き、少女の体から手を放すと種を拾い上げる。
「ど・・・どうしよう・・・お花の種・・・」
 少女がオロオロとしながら種を拾い集め、涙目になりながらも紙袋の中に入れる。
 馨も落ちていた種を拾い上げると紙袋の中に入れ、少女の顔を覗き込んだ。
「お使いですか?」
「そうなのっ。あのね、リタがね、お花の種買って来てねって・・・シャリー、お花屋さんまで行って来たのっ」
「シャリーさんと仰るんですか?」
「んっとね、シャリーはシャリアーなのっ!でね、リタはね、リタ ツヴァイって言うのっ!」
 見た目は8歳か9歳か・・・お人形のように愛らしい容姿のシャリアーはそう言うと、しゅんと肩を落とした。
「シャリー、お手伝いいつも失敗しちゃうの。でもね、リタ怒らないんだよぉ?いつか、ちゃんと出来る日が来るって・・・」
「リタさんの仰るとおりですよ」
 ほとんど無意識に、馨はシャリアーの頭を撫ぜていた。
 ・・・放っておけない、そんな気にさせる・・・不思議な子だった。
「あ!そうなのっ!さっきは、助けてくださって有難う御座いましたなのっ!」
 ペコリと頭を下げたシャリアーに、大した事はしていないと首を振る。
「んっとね、もし・・・お兄さん?が、良ければ、シャリーのお家に来てくださいなのっ!」
「けれど・・・」
「シャリーのお家ね、喫茶店なのっ!でね、リタが“てんちょー”なのっ!あのね、リタのお料理はとっても美味しいのよっ!」
 喫茶店・・・そう言えば、少し喉が渇いた・・・
 馨は暫し考え込んだ後で、シャリアーに道案内を頼むと歩き始めた。
「私は馨と申します」
「馨ちゃん、覚えたのっ!」
 ピっと右手を上げるシャリアー。
 “馨ちゃん”の呼び名は新鮮で、少し恥ずかしいようなくすぐったいような、そんな気持ちが燻った・・・。


◇★◇


 シャリアーに連れられて来た場所は、御伽噺の中から抜け出したのかと思うほどに可愛らしい外観をした喫茶店だった。
 喫茶店ティクルア・・・そう書かれた看板も、アンティーク調で可愛らしい。
 木の扉を開ければ、カラカラと鈴の音が鳴り・・・
「ただいまなの〜っ!」
 シャリアーの声に、奥から1人の少年が顔をのぞかせる。
「お帰りシャリアー・・・って、あれ?お客さん?」
「そうなのっ!あのね、シャリーが道で転びそうになったら、助けてくれたのっ!馨ちゃんなのっ!」
「そうなんですか?それは有難う御座います。ここのウェイターをしておりますリンク エルフィアと申します」
「初めまして、馨です」
 丁寧に頭を下げられて、馨も同じように頭を下げる。
「シャリアー、リタに頼まれた花の種は買えたの?」
「うんなのっ!シャリー、ちゃんとリタに頼まれたの買って来たのよっ!」
「それじゃぁ、厨房にリタがいるから見せてきな。あ、走ったらダメだよ?」
「分かってるのっ!」
 満面の笑みでシャリアーが頷き・・・トテトテと走って行く・・・
「あぁ・・・走ったらダメだって言ったのに・・・」
「ご兄妹ですか?」
「あ、違います。血は繋がっていないんですけれど・・・」
 リンクが言葉を濁し、1番日当たりの良い場所へと馨を案内する。
 四角く切り取られた窓の向こうに広がっていたのは酷く穏やかな風景だった。
 青い空に浮かぶ雲、風に靡く木々の葉・・・
「あの・・・失礼ですが、馨さんは・・・何か・・・その・・・なさっているんでしょうか?」
 戸惑いがちの言葉に顔を上げれば、リンクの視線は馨の腰に提げられた日本刀に注がれていた。
「えぇ。コレが職業と言うわけではないのですが・・・」
 何かを言い出そうか言い出すまいか迷っている、そんな表情のリンクに、馨は穏やかな視線を向けた。
「何か、お困りですか?」


 金髪のおっとりとした美少女・リタが運んできた紅茶を啜りながら、馨はリンクから聞かされた内容を頭の中でもう1度反芻してみた。
「祠の調査をなさりたいと言う事ですが・・・何の調査をなさるのですか?」
「えーっと・・・」
 どう言ったら良いものかと悩むような表情を見せながら、リンクが視線を窓の外へと向ける。
「もしくは、炎龍にお尋ねしたいことがあるのでしょうか?」
 リンクの話を聞かされたあとで、馨が選んだのは“炎龍”の方だった。
「龍は古代の高き知性の生き物。礼節を持って問えば欲する答えも授けてくださるかもしれません」
「あー・・・そうなんですけれど・・・」
 煮え切らない表情のリンクに、首を傾げる。
「とあるものが、祠の中にあると言う噂を聞いて、その調査に向かうのですが・・・その、調査内容は・・・あ、別に祠を破壊しようなどと言うことではないんです」
「きっと、調査と言うからには深い事情がおありなのでしょう」
 この歳若い少年が、何の調査をするのかは分からないが・・・祠を破壊しようとしているわけではないと言う言葉には安心できるものがあった。
 リンクは、まだ若いが・・・それなりに知識や物事の道理をわきまえている感じがする。
 決して愚かな行動をすることはないだろう。
「私の力でよければ、お貸しいたします」
「有難う御座います」
 ほっと安堵した様子のリンクに、ほんの少しだけ表情が緩み・・・
「馨ちゃんとリンク、どこか行くのぉ〜?」
 店の奥からトテトテと走ってきたシャリアーにリンクが頷く。
「祠の調査に行って来るんだ。シャリアー、リタの言う事をちゃんときいて大人しくしてるんだぞ?」
「はいなのっ!シャリー、良い子にしてるのっ!だから、馨ちゃんもリンクも、気をつけて行って来てくださいなのっ!」
「行って参ります」
 馨は小さな店員さんにそう言って頭を下げると、カランと軽快な鈴の音を鳴らしながら扉を開けた・・・。


◆☆◆


 ティクルアから出て、竜樹(りゅじゅ)の鳥に乗って山を一つ越えた場所、人里離れたその村の中心部にある祠の中。
 馨とリンクは慎重な足取りで奥へと向かっていた。
 岩肌がむき出しになった祠の内部では青々としたコケがこびりついており、天井部分から落ちてくる水滴を吸って膨らんでいる。
「足元に気をつけてくださいね」
 先を進む馨がそう言って、後ろからついてくるリンクの足元に気を配る。
 細い通路を進み、ふっと・・・風の流れが変わったところで馨は足を止めた。
 ゆっくりと目を閉じ、風の音を聞く。・・・直ぐ近くに、ここよりも広い場所がある・・・。
 馨は十分に注意をしながら進むと、開けた場所へと出た。
 先ほどまでの圧迫感のある場所とは違い、天井は高く広さも十分にある。
 石で作られた床の中央には天井へと伸びる1本の柱があり、柱の周囲にはなにやら奇怪な文字が羅列されていた。
「うわ・・・大きい・・・」
 リンクが柱を見上げながらそう言い、ふっと柱の向こうに見える小さな台座に視線を向ける。
 台座の上には四角い穴が数個開いており、その下には柱に刻まれてたものと同じ文字が書かれたブロックが数個落ちている。
「この穴にブロックをはめ込めば良いんですね」
「けれど、適当に入れても開きそうにないですね」
 リンクがブロックを拾い上げながらそう呟く。
「恐らくそうでしょう。穴の数は5つ、ブロックの数は30個・・・。柱の文字に何かヒントはないでしょうか?」
 そう言って柱を調べてみるものの、柱に書かれている文字を読む事は出来ない。
 まるで絵のような文字は記号としか言いようのないもので・・・
「この柱の文字は・・・なかなか古いですね。この辺りで古来使われていた文字です。・・・面白いですね。1行目と2行目は使われている文字が違います」
「どう言う事ですか?」
「1行目と3行目に使われている文字が同じで、2行目と4行目が同じです」
「つまり、偶数行と奇数行で使われている文字が違うと、そう言う事なのでしょうか?」
「そうです。恐らくは、どちらかがこの台座の穴を埋めるヒントなのでしょう」
「・・・読めますか?」
「勿論です。お読みしましょうか?」
 リンクの言葉に軽く頷くと、馨は真っ直ぐに天井へと伸びる柱を仰ぎ見た。
 細く白い指で文字をなぞりながら、リンクが言葉を紡ぐ。
「まずは奇数行・・・古より伝わりし秘宝を抱き、長く眠るは幼き少女。紅蓮の炎に身を任せ、聖巫女を守る聖なる獣の名を刻め」
「偶数行にはなんと書かれているのですか?」
「神々に祝福されし、蒼の妖精。かの者たちの話を聞く時、閉ざされし歴史が再び開く。かの者たちの名を刻め」
 凛と響くリンクの声が石の床に吸収される。
 石で囲まれたこの場所では、音は不思議な響き方をする・・・。
 馨は暫くその音に耳を澄ませた後で、ゆっくりと口を開いた。
「奇数行を読むべきでしょう。聖なる獣・・・恐らく、炎龍ではないかと」
「そう言えば“えんりゅう”も“すいてんし”も5文字ですね」
 だから台座には5つの穴しか開けられていないのだ。
 リンクが散らばったブロックの傍にしゃがみ込み、1つ1つ手にとって見ていく。
 これもちがう、これもちがう・・・そう言いながら5つのブロックを手に取ると、パチパチと四角い穴に順番に入れていった。
 ―――――パチリ
 最後のブロックが入った瞬間、柱がゆっくりと回転し、中心部に真っ直ぐな線が入る。徐々にその部分から左右に開かれていき・・・
「凄い・・・」
 リンクが溜息交じりの言葉を呟く。馨も固唾を呑んでその光景を見詰め・・・2人の目の前で、柱は綺麗に2つに分かれるとその中心から階上へと続く階段が現れた。
 階上から下りて来るのは、熱気を含んだ風・・・
「お願いします」
 リンクが念を押すように馨に頭を下げ、ゆっくりと・・・馨は階段に足をかけた。
 トントンと、上がれば上がるほど感じる凄まじい熱気に、自然と馨の表情は硬くなっていた。


◇★◇


 階上へと上がれば自然に退路は断たれ、リンクが驚いたような困ったような声を洩らす。
 馨は目の前に佇む巨大な龍に向かって恭しく頭を下げると自分の名を名乗り、眠りを覚ましたことへの詫びを声に出した。
「貴方のお名前はなんと仰るのでしょうか?」
 そう尋ねた馨の言葉に、返事はなかった。
 高い知能を持っている龍だが・・・もしかして、この龍は馨の言葉がわからないのだろうか?
 やけにオーバーなアクションで、炎龍が真っ赤な炎を口から放出する。
 その動作の大きさで、どこに炎が吹かれるのか分かるために、みすみす焼かれるようなことはないのだが・・・
 “無血に導く智慧こそ人に必要な物”をモットーとする馨は、流血のない解決策を望んでいた。
 まして、この場所は祠だ・・・。祠は神聖なる者を祀った場所。血で汚す行為は極力避けたかった。
 言葉の通じる相手ならば説き伏せることも可能だが・・・どうやら炎龍には人と会話をするだけの能力はないようだった。
 地術を使い、祠内部に蔓延る植物の成長を促進させ、蔓を伸ばし・・・炎龍の体を拘束するべく働きかける。
 しかし、そこは炎と草・・・たやすく燃え上がってしまう。
 どうにかして戦意を失わせられないかと考えるが、相変わらず炎龍は大げさなアクションの後で紅蓮の炎を吐き出している。
 無益な殺生は好まないが・・・戦わざるを得ない場合があることも、馨にはよく分かっていた。
 現在炎龍の専らな攻撃対象は馨だが、成り行きを見守っているリンクにいつ、炎の手が向くかは分からない。
 それほど鈍いとは思えないリンクの運動神経だが、彼に特殊な能力があるとも思えない・・・。
 時間だけがゆっくりと過ぎていく一進一退の攻防。
 パターン化された炎龍の攻撃方法を見ているうちに、馨はある事に気がついた。
 炎龍は、決してこちらを殺そうとしているわけではないらしい。
 そうでなければ、説明がつかないことが多々あった。
 まず第1に、リンクを決して狙おうとしない・・・そして第2に、馨が回避する頃合を見計らってから炎を吐き出している・・・。
 試しにワンテンポ回避を遅らせてみるが、炎龍はキチンと馨の回避に合わせて炎を吐き出した。
 ・・・つまるところ、炎龍が意図しているのは馨の体力の消耗・・・その1点に尽きるのだろう。
 ならば、何故そんなことをしているのだろうか・・・?
 到底分かりそうにない疑問を前に、馨の視線が炎龍へと注がれる。
 硬そうな鱗、澄み切った瞳は真っ直ぐで・・・ふと、炎龍の背後にチラリと1つの影が過ぎった。
 小さなその影は、確かに人のもののようだった。
 ・・・馨の脳裏に、先ほどリンクが解いてみせた柱に刻まれた言葉が蘇る。
 『古より伝わりし秘宝を抱き、長く眠るは幼き少女。紅蓮の炎に身を任せ、聖巫女を守る聖なる獣の名を刻め』
 つまり、炎龍が守っているのは・・・
「そろそろお姿をお見せいただけませんか?・・・聖巫女様?」
 馨の言葉に、炎龍がピタリと動きを止める。
「・・・よく、分かったわね」
 ややあってから響いた声は透き通った幼い子供のもので・・・炎龍の背後から姿を現した1人の少女に、馨は恭しく頭を下げた。


◆☆◆


 長い髪を背に垂らした幼い少女は、外見年齢12歳ほどだった。
 しかし、あどけなさの残る表情とは違い、瞳は鋭い光を宿していた。
「私は馨と申します。こちらはリンク・・・お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
 見た目こそは幼い子供だが、馨は決して粗雑な言葉を使わなかった。
 見かけで人を判断することはしない。まして、少女は聖なる獣“炎龍”に守られていた聖巫女なのだ。恐らく、馨の数倍は生きているのだろう・・・それを窺い知るだけの瞳の強さがあった。
「あたしの名前は紅蓮(こうれん)・・・貴方達、下で謎を解いてきたのよね?」
 紅蓮の言葉にリンクが頷く。
「“古より伝わりし秘宝を抱き、長く眠るは幼き少女。紅蓮の炎に身を任せ、聖巫女を守る聖なる獣の名を刻め”・・・ですよね?」
「そう。古より伝わりし秘宝を抱いて長く眠っていた少女」
 自分を指差してそう呟き、今度は炎龍へと指先を向ける。
「紅蓮(こうれん)の炎に身を任せ、聖巫女を守る獣」
「・・・ぐれんって読むんじゃなかったんですね」
 リンクの呟きに紅蓮が苦笑しながら首を振り、真っ直ぐな視線を馨に向ける。
「あたしが炎を司る聖巫女よ」
 ・・・炎龍の纏っていた炎は紅蓮の炎・・・即ち、紅蓮が授け与えた炎だと言うのだ。
「凄く久々のお客さんで驚いたわ。あたしの存在に気付いたの、貴方達が初めて」
「あの龍は・・・」
「あたしの炎の加護がある限り、死ぬことはないの」
 紅蓮が優しく炎龍の頭を撫ぜる。
 甘えるように炎龍が目を細め・・・
「あたしは暴力は大嫌い。だから、炎龍は人を殺さないし殺されない」
「でも、それなら決着がつかないじゃないですか」
 リンクの言葉に、紅蓮がゆるゆると首を振る。
「そのうち疲れちゃうでしょう?少し気絶させて、外に放り出せば問題ないわ」
「貴方はどうしてこのような場所におられるのですか?」
「秘宝を守っているからよ」
 紅蓮はそう言うと、そっと両手を胸の前で組み・・・目を閉じて祈った。
 淡い光が紅蓮の体を包み込み、ふわりと明るく光った次の瞬間、その小さな手には丸い玉が握られていた。
 透明な玉の内部では、勢い良く燃え盛る炎が揺らめいている・・・・・・
「コレが秘宝・・・紅蓮の炎、その、真の姿」
 紅蓮はそう言うと、馨に玉を手渡した。
「炎龍を倒した勇者・・・いえ、あたしの存在を知った貴方に、紅蓮の炎を授けるわ。この力で世界を・・・」
「ちょ・・・ちょっと待ってください」
 突然の展開に、馨が慌てて玉を紅蓮に返す。
「こんな大変なもの、頂くわけにまいりません」
「けれど・・・」
「そもそも、これを頂いた後・・・貴方はどうなるのですか?」
「・・・暫くしたら消滅すると思うわ。紅蓮の炎はあたしの命の炎。離れていれば、繋がりは薄くなってやがてあたしは炎龍と一緒に消える」
 紅蓮の言葉に、馨は軽く首を振った。
「やはり、これを受け取るわけにはまいりません。物には、持つべき人がいます。紅蓮の炎は私ではなく、貴方が持つべきなのです」
 玉の内側で燃え盛る炎は熱い。
 凄まじい力を秘めたこの玉は、紅蓮の手にあるからこそ大人しく眠っているのだ。
 もし・・・この力が放出したならば・・・
「・・・変な人ね。あたし、何千年も生きているけれど・・・貴方みたいな人は初めてだわ」
 紅蓮はポツリと呟くようにそう言うと、ポケットの中から赤く輝く小さな鍵を取り出して馨の手に握らせた。
「これは?」
「ココに来る鍵。祠の脇に、鍵穴があるから・・・そこにさしこめば、いつでもココに来れます」
 真っ直ぐな瞳の奥、強い信念のさらに先・・・深い悲しみの表情が見え隠れしている。
「また・・・参ります」
 馨が柔らかく微笑みながらそう言って・・・リンクがそっと、持っていたノートに全てを書き記した。


   『祠の奥、炎龍の傍には紅蓮の少女』



○あの場に残るは謎


 祠からの帰り道、竜樹の鳥の背で、2人はのんびりと寛いでいた。
 なかなかに乗り心地の良い背は柔らかく、夢現の空の旅だった。
「それにしても・・・」
 ふっと、口を開いたのはリンクだった。
 報告書に何かを書きながら、困ったように眉根を寄せている。
「どうしました?」
「あの子、どうしてあそこから出ないんでしょうね??」
「どう言う事です」
「紅蓮の炎を隠すなら、もっと良い場所がありそうなものじゃないですか」
 そう言って、暫く宙を見詰めながら、リンクは1つの仮説を口にした。
「あの場所に、なにか隠してるんでしょうか・・・?」
「何か・・・ですか?」
「あの場所から離れられない・・・その理由があるんじゃないかって・・・。封印なんてモノ、されてないんですし、自分で何処にでも行けるじゃないですか。それなのに、俺たちを呼ぶんですよ?」
「聖巫女であるがゆえに、あの場から離れられないのではないのですか・・・?」
「いや、色々推測は出来るんですけれど・・・1つ気になった事があって」
「何ですか?」
「チラっと見えたんですけど、奥に・・・扉みたいなのがあったんですよ。アレ、何なんでしょうね??」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


――――― あの場所に眠るものは何なのか・・・



             その謎はポツリ、扉の向こうに ――――――



               ≪ E N D ≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3009 / 馨 / 男性 / 25歳 / 地術師


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『祠の奥』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座いました(ペコリ)
 馨さんがティクルアを訪れるその切っ掛けをどうしようかと悩んだ結果・・・
 お年寄りと子供には少々弱いと言う部分から、シャリアーを登場させました。
 シャリアーと一緒に花の種を拾っている姿は微笑ましいだろうなぁと思いながら執筆いたしました。
 馨さんの穏やかで優しい雰囲気をキチンと描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。