<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


戯れの精霊たち〜風の配達人〜

「私は風の郵便屋さん。風と翼とお手紙があれば、私は何処へでも行けますよ」

 エルライン・シュテルは、今日も手紙のつまった袋を抱えて空を飛んでいた。
 風が吹く。
 青みがかった灰色の、エルラインの翼がはためく。
 エルラインは歌を口ずさみながら、風に乗って進んでいく。
 やがて視界に、ひとつの森が見えてきた。
「あった、あの森ね」
 エルラインは急降下した。
 そしてその森のぎりぎり上空を旋回して、目的の場所をさがす。
 ――この森に住む青年に、手紙を届けて欲しいという依頼――
 森をのぞいていたエルラインは小首をかしげた。
 おかしな森だ。生き物の気配がしない。けれど不思議とあったかく、穏やかで優しい気配のする森だ。
 有翼人として、森には感慨があるエルラインはとても興味を持った。
「あ……あそこに小屋が――」
 人工の建物らしき木組みの小屋を見つけて、エルラインはそこへと降り立った。

 エルラインが小屋の扉をノックしようとするのと、小屋が開くのとは同時だった。
「きゃっ」
「おっと」
 バランスを崩して倒れこみそうになったエルラインを、誰かの腕が抱きとめる。
「大丈夫かい?」
 声がした。若い青年の――
 エルラインは顔を赤くして、青年の腕から離れ慌てて体勢を整えた。
 目の前にいたのは――
 青の入り混じった緑の髪に、森のような暖かい緑の瞳をもった、青年。
「あの、私郵便屋なんですけれど」
 エルラインは抱えていた袋に手を入れながら、「クルス・クロスエアさんはいらっしゃいますか?」
「それなら僕だよ」
 と目の前の青年は言った。
 ほっとして、エルラインは袋から一通の手紙を取り出し、クルスという名の青年に渡す。
 クルスが手紙をひっくり返し、差出人を見て、目元をなごませる。
「ああ、聖都の友達からの手紙か――ありがとう」
「いえ、これが私のお仕事ですから」
 エルラインはにっこりと笑った。
 差出人を見たときの、クルスの微笑みにぽっと心に優しい火が灯る。――そう、こんな微笑みが見られることがエルラインの何よりの楽しみ。

 離れたところにいる人同士をつないで。
 つながったその瞬間の、暖かな絆を目の前で見て。
 その心を、まるで分けてもらったように感じて。

 ふと――
 傍らを、一陣の風が吹きぬけた。
 クルスが虚空を見た。いや――風を「見た」。
「なんだラファル。――ああ、ウインダー?」
 クルスの視線がエルラインに戻ってくる。エルラインの青みがかった灰色の翼を見て、彼は微笑んだ。
「うちの森の風の精霊がね。有翼人が大好きなんですよ」
「風の……精霊?」
「ええ――ここは精霊の森。住んでいるのは僕と、精霊たちだけです」
「精霊……」
 エルラインがつぶやくと、風の動きが変わった。
 まるでエルラインの翼を撫でるように――いたずらに羽根を散らしていく。
 エルラインの髪が乱れて、エルラインは「きゃっ」と声をあげた。
「こら、ラファル! 迷惑をかけるんじゃない……!」
 クルスの鋭い一喝が、風を止めた。
 散った羽根が、エルラインとクルスの足元に落ちる。エルラインは慌てて乱れた髪を直した。
 ひゅう、と耳元で小さな風の音がした。まるでつまらなそうに。
「困ったやつだな……」
 クルスは微苦笑して、「ええと……お名前お伺いしてもいいかな、配達人さん」
「あ、はい! 申し遅れました、私エルライン・シュテルと申します」
「エルラインさん。頼みたいことがあるのだけど」
「はい……?」
 クルスは目で微笑んで、エルラインを見つめた。
「――風の精霊に、体を貸してやってくれないかな」

 この精霊の森にいる精霊は八人――
 誓約により森から出られない彼らも、ひとつだけ森から出る方法がある。
 それは、クルスがあみだしたわざにより、他人の体に宿ること――

「風の精霊さんが……私に宿る……のですか」
「ええ。どうにもラファルがキミを気に入ったようだから」
「ラファルさんとおっしゃる……?」
「人間で言えば子供の精霊ですよ、風の精霊は」
「………」
 エルラインは戸惑った。ほんの少しだけ吹く風を見てみても、そこに子供の精霊の姿などない。
「普通は目には見えないし、声も聞こえないんですよ……僕以外」
 心を見透かしたように言われ、エルラインはぽかんとした顔でもう一度虚空を見た。
 何も見えないし、何も聞こえない。だけど……
「風の……精霊さん、ですか……」
 風。
 それはエルラインがもっとも愛するもの。
 ――それが体に宿る?

 そんな幸せなことが、他にあるだろうか。

「はい。私でよければ」
 エルラインは笑顔になった。
 クルスは微笑んで、「ラファル」と誰かを呼んだ。
「――あまり、迷惑をかけるんじゃないぞ」
 何か言い返されたのだろうか、ははっとクルスが笑う。
 早くその精霊を感じてみたくて、エルラインはうずうずした。

 意識を重ねる瞬間は、風が体の中を通り抜けるような感触――
 翼が、ふわりと浮いた。

『よっしゃー! 久しぶりの“つばさ”だぜっ!』
 エルラインの体に入ってくるなり、風の精霊は大声を出した。
「きゃっ」
 エルラインは思わず耳をふさいだ。しかし自分の頭の中から響いてくる声だ、あまり意味がない。
 体の中で、何かが暴れているような気がする。まるで大風が吹いているような。
「ラファル!」
 クルスの一喝が、荒風を止めた。
「いい加減にしないと外へ引きずりだすぞ。せっかく体を貸して頂いているんだ、大人しくしろ」
 保護者は精霊に厳しく言いつける。
 エルラインの中で、つまらなそうな気配がした。ちぇっ、と子供がすねているような。
 エルラインは何だかかわいそうになって、
「え……ええと、ラファル……くん? 私、エルライン――エルって呼んでください。暴れられるのはちょっと困るけど、森の外で一緒に飛ぶのなら喜んでするから……」
『本当か!?』
 精霊は一気に元気を取り戻した。
『なあなあ、じゃあ俺にも“つばさ”で飛ばせてくれるか!?』
「え?」
 意味が分からず、エルラインはきょとんとする。
 クルスが苦笑して、
「そいつは前に、同じウインダーの方に宿ったときに、翼を使って空を飛ばさせてもらったことがあるらしいんだ。それがやみつきらしくてね」
「え、ええと……」
「ああ。意識がね。今はエルラインさんの思うとおりに体が動くだろうけど、精霊が体の支配権を乗っ取る場合があるんだ。特に風は――」
 と青年は目を細めて、「身勝手に人の体を操ろうとしたり、勝手に体から出て行こうとするから」
 申し訳ない――と森の守護者は言った。
「キミの体から出たらラファルは短時間で死んでしまう。それだけは阻止してやってくれるかな」
「―――!」
 エルラインはぶるっと震えて、胸の前で手を組み合わせた。
「は、はいっ!――ラファル君、私の体から出ないでね」
『風は気まぐれ、そのときの気分によるさー』
 命に関わることだというのに、ラファルは軽くそう言ってきた。
 何ていい加減なことだろうとエルラインは悲しく思ったが、やがてふと思いなおした。
 ――それが『風』というもの、なのかもしれないと。

 森の外へ出ると、ラファルが『ひゅー!』と嬉しそうに声をあげた。
『相変わらず、外って広いなっ!』
「ええ、外は……とても広いところです」
 エルラインは微笑む。
 翼を持ち、色んなところへ手紙を配達に行った。それでもまだまだ行ったことのない場所がある。
 いつか、すべての世界を見てみたい。新しい場所を見つけるたびに、彼女はそう思う。
 けれどすべてを見ていないからこそ、こんなに楽しいのだろうとも思うけれど。
『んで、“える”だっけか? これから空飛ぶのか?』
「はい。飛んで、手紙の配達です」
 言うなり、エルラインは軽く助走をつけて空へと飛び立った。

『なあなあ、“てがみ”って何だ?』
 空を飛んでいる最中に、ラファルが頭の中から呼びかけてくる。
 エルラインは大切に大切に抱いている袋を示して、
「この中にいっぱい入っているものです」
『知ってるよ。さっきクルスに渡してたやつだろ? なあ、あれなに?』
「人と人との絆を結ぶものです」
『……よく分かんねえよ』
 むすっとした声が返ってきた。
 エルラインは慌てて、
「ええと……遠いところに住んでいる人に、伝えたい言葉を文字で綴って、それを私のような配達人が伝えたい相手に届けるんです」
『へえ……』
 分かったような分からないような返事をラファルはつぶやき、そして、
『なあ、その袋の中身俺も見たい』
 と言い出した。
「え?――だめですよ。大切なお手紙です」
『何で見ちゃだめなんだよ』
「その人とその人の大切な心がこもっているんです。他人が軽々しく触っちゃいけません」
『えー』
 ラファルの『俺も見たいー!』という不満の声を耳にしながら、エルラインは風に乗って次の目的地へと飛んでいく。
 ふ……と時々意識が遠くへ飛びそうになった。
 ああこれが意識をラファルに乗っ取られるということなんだろうかと、エルラインは必死で自分をたもった。
『出せよー! 出せよー! 出せよー!』
 ラファルがわめきだした。
 さすがにしつこい。ついラファルに引きずられて、違う方向に行ってしまいそうになる。
「だ、だめですよ。――ああっ!」
 体が半分引きちぎられるような感覚におちいった。――まさか。
「だめ、だめですよ、ラファル君――行かないで!」
 エルラインは必死でラファルの意識を引き止めた。いったいどうやっているのか、自分でも分からないまま。
『じゃあ、手紙見せろよっ!』
「見せます、見せますからっ!」
 引き絞るように言った言葉が、ようやくラファルの激情を止めた。
 気まぐれな風の精霊は、今度は心を躍らせるようにして、『早く、早く!』と急かしてくる。
 エルラインはぜえぜえ息を吐きながら、
「――ちょっと待っててください。今すぐには、無理ですから」
『えー?』
「でも必ず見せます。約束します。だからお願い、体から出て行かないで」
『ちぇー』
 それでもやはり風の精霊は不満だったようだが――
 何とか、暴れるのはやめてくれた。
 エルラインはほっとして、呼吸を整える。
 それからもう一度、目的地までの方向修正をした。

     **********

 ヴオオオオゥゥゥゥゥ……

『うっわ、すっげえ風……』
 その場所にたどりついたとき、ラファルが感嘆の声をあげた。
 精霊の森からもほど近い場所にある、険しく高い山。気流が不安定で翼で飛ぶことは難しく、かと行って歩くにはつらすぎる。
「この山頂にも、お手紙届けなきゃいけなくって……」
 エルラインは気流に巻き込まれないぎりぎりの位置まで近づいて、抱えていた袋からそっと一通の手紙を取り出した。
 あて先はたしかに、この山の山頂になっている。
 預かったのは数日前。配達人として、これ以上の遅れは許されない――
「今までの私じゃ無理だったけれど、今日はラファル君がいるから」
『俺?』
 きょとんと風の精霊が気配を返してくる。
 エルラインは強くうなずいた。
「きっと行ける。今日ならきっと……」

 ごくり、とつばを飲み込む。
 目の前でうずまく気流の勢いはすさまじい。
 
 ヴオオゥゥゥゥ……

「ラファル君、一緒に!」
 叫んで、エルラインは気流に飛び込んだ。
 瞬間、体中が引きちぎられるような感覚におちいった。
 前に少しも進めない。
 翼が――翼がもげそうな――

 ――だめ、なの――?

『いったん外へ出ろ、える!』
 頭の中から怒鳴り声が聞こえて、エルラインは命からがら外へ飛び出した。
 全身で息をつく。翼は無事だろうか? たしかめるのも怖い。
『“つばさ”は無事だぞ』
 心の声が届いたのだろうか。ラファルが教えてくれた。
 エルラインは唇をかんだ。やっぱり無理だった。
 今日こそはと思ったのに……
『この気流……』
 ふと、ラファルがつぶやいた。『越えちまえば、山に近いほうは気流がないんだな』
「え……?」
 ラファルの言葉の意味が分からず、エルラインは気流を見つめる。
 たしかに気流は山を囲うようにして存在するが、山にべったり張り付いているわけではない。越えれば山の近くは普通の空気のはずだ。
『ここを、どうしても越えなきゃならないんだな?』
 ラファルが訊いてくる。
「え、ええ……」
 エルラインは小さくうなずく。
 ラファルが怒ったように言葉を続けた。
『何で弱気になってるんだ?』
「え?」
『お前、その“てがみ”ってやつの配達人なんだろ!』
「―――」
『これくらいで負けるなよ! 遠くと遠くをつなぐものって、俺には意味分かんねえけど、大切なことなんだろ!』
「―――!」
 エルラインははっとした。
 そうだった。何を弱気になっているのだろう。
 手紙は絆の証。それを壊すことは決して許されないことなのだ。

 ヴオオオオオオウウウウウ…………

「どうすれば……いいのかしら」
 エルラインは真顔で気流を見つめた。
 考えて考えて、考えて。
『ひとつ方法があるぞ』
 ラファルが言った。
「え?」
『ひとつだけ言っとくけど、俺はお前の体の外に出たらお前には姿も見えないし声も聞こえないからな』
「ら、ラファル……君?」
『時間は少しだけだからな! すぐに飛び込めよ!』
 言うなり――
 体が引き裂かれるような感覚が襲ってきた。
 エルラインはすぐに気づいた。これはさっき、ラファルが体を出て行こうとしたときの――
「ら、ラファル君……っ」
『動くな! “てがみ”、届けるんだろ!』
 ――風が体を通り抜けて、意識が離れた――
 そして次の瞬間には、
 目の前でうなっていた気流が、
 その一部が――風を失った。

 風の精霊が、風を操った。

 ――急げ!
 聞こえないはずのラファルの声が聞こえた気がして、エルラインが思い切ってその風のない部分に飛び込んだ。
「――ラファル君!」
 山の近く、気流のない部分まで飛んで、エルラインは声を枯らしそうなほど叫んだ。
 ラファル君、ラファル君、ラファル君――!

 風が――
 ふわりと。
 エルラインの翼に触れた。

 しゅっ――と、体の中を風が吹きぬけるような感覚――

『あー、えらい目に遭った』
 ラファルの疲れきった声が聞こえる。
 エルラインは、目に涙をためた。
「ラファル君……よかった……!」
 ――風の精霊を外に出すと、すぐに死んでしまうからそれだけは阻止してくれと。
 言われていたのに、自分は――それで助けられてしまった。
 ラファルが戻ってきた嬉しさと、自分の情けなさでぽろぽろと涙がこぼれる。
『ん?』
 ラファルが不思議そうに、『それって――たしか“なみだ”ってやつだよな。お前なんで“なみだ”出してんの?』
「それは……」
 ラファルの帰還が嬉しいから。自分に力がなくて悔しいから。自分が情けないから。
 そのどの言葉も、精霊は欲しがっていないような気がした。
 だからエルラインは、胸を張った。
「これでようやく、お手紙を渡せると思ったら、嬉しすぎて涙が出ちゃって」
『へえ』
 精霊は軽く笑った。
『配達人って、そんなにいいもんなんだな』
 エルラインは、ようやく笑顔になれた。
「もちろんです……!」

 山頂に住んでいたのは魔術師だった。
 手紙を渡すのが遅れてごめんなさいと言うと、魔術師は「よくここまで来れたもんだ」と笑顔でエルラインを迎えてくれた。
 お茶を淹れてもらった。
 ――ラファルに飲ませてあげたいと思った。
 意識が重なっている間なら、お茶の味も伝わるのだろうか――
 エルラインがくいっとお茶を飲み干すと、
『うわっ。何これ』
 風の精霊がびくっと震えた。
 透明な風の精霊の体にも、お茶は届いたみたいだ――
『変なの、変なの、変なの!』
 エルラインがゆっくりお茶を口にするたび、風の精霊がばたばた暴れる。
 おかしくなって、エルラインはくすっと笑った。

 帰りは気流を通らなくて済んだ。魔術師が、外への扉を魔術で開いてくれたからだ。
 再びラファルに命の危険を冒させなくて済んで、エルラインは心からほっとした。
 魔術師の扉を通ると、そこは山の入口――

 陽が、落ちてきている。

「帰りましょうか」
『“てがみ”、見せてくれる約束だぞ』
「今日はだめです」
『何だとーーーー!』
 嘘つき嘘つき嘘つきー! とラファルが暴れ始めるのを、
「時間はかかりますけれど、必ずお見せしますから……!」
『くそっ。ほんとーだな!?』
「はい、本当です」
 エルラインは強くうなずく。
「必ず、素敵な“手紙”をお見せしますから」
 夕陽がエルラインの青灰色の翼を明るく染める。
 エルラインは翼をはためかせた。精霊の森への帰り道に向かって――

     **********

「満足そうな顔をしているね」
 森の守護者たるクルスが、エルラインを見てそう言った。
「いいことでもあったかい?」
「ええ、ラファル君のおかげで」
「――ラファルが体の外に出た気配があるけど、迷惑はかけなかったかな」
「いえ――」
 エルラインは首を横に振った。
「ラファル君が命をかけてくれたおかげで、私は助かりました」
「そうか」
 クルスが微笑む。

 精霊が離れるのにかかる時間はほんの一瞬――
 精霊が無理やり離れるときよりも軽く、ほんの軽く風が体から吹きぬけたような感覚。

「ラファル君……」
 目に見えなくなった精霊を求めて、エルラインは名を呼ぶ。
「何か知らないけれど、『約束破るなよ!』と言ってるよ」
 とクルスが教えてくれた。
 エルラインは笑顔になった。そして、
「クルスさん、少し教えてほしいのですけれど――」

     **********

 数日後。
「こんにちは。風の配達人です」
 エルラインは再び、クルスの小屋前に降り立った。
「いらっしゃい。また何か配達物かい?」
「はい」
 エルラインが差し出した手紙を、クルスは受け取る。
「ん?――ラファル宛、か?」
 名前を出されて反応したのか――
 風が一陣、突風のように吹き抜けた。
「あ、ラファル君?」
 エルラインは見えない風に声をかける。「約束通り、“手紙”、持ってきましたから」
 大切にしてくださいね――とエルラインは優しく言った。
「それじゃあ、私は次の配達に行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
 クルスが手を振る。
 エルラインの翼を撫でるように、風が吹く。
 エルラインは飛び立った。――ラファルの元気のいい風に押されながら。

『おい。“てがみ”早く見せろよクルス!』
 エルラインが帰ってしまってから、ラファルが騒ぎ出した。
 クルスはのんびりと手紙をひっくり返した。
 ――差出人は――
「ああ、なるほどね」
 そこには複数の名前が連なっていた。エルラインは先日、クルスに「今までラファルと関わったことのある人物」を教えてくれと言ってきたのだ。
 そしてどうやら、その全員からラファル宛ての手紙を書いてきてもらったらしい。
 封を開ける。数枚の手紙が中から出てくる。
 クルスはその数枚を、ラファルに見せてやった。
『――これが、“てがみ”か?』
「ああ」
 うなずく。ラファルがむうっと難しい顔になるのを見ながら。
 そしてたまらず、クルスは笑った。
「まいったな。お前は文字が読めないのに」
『読め!』
 ラファルがずびしっとクルスに指をつきつけた。
「はいはい。まずこの間来たウインダーの男の子から――」
 クルスはひとりずつ、手紙を書いてくれた人々の名前を読み上げながら、そして内容も読み上げる。
 ラファルが珍しく神妙に聞いていた。
 うつむいたその顔が、軽く紅潮している。
 クルスは微笑んで、最後の名前を読み上げた。
「エルライン・シュテルより――」
 ラファルがはっと顔をあげる。
 クルスはその文面を読み上げた。

「この間は本当にありがとうございました。手紙は、こうやって森の中にいるあなたにも暖かいものを伝えられるのじゃないかと思います。私もまた、手紙を書きますね。ラファル君も元気な風でいてください――」

『森の中にいても……』
 ラファルがそっとつぶやく。クルスが唇の端をあげた。
「人と人のつながり、だ」
 それからラファルにせがまれて、クルスは何度も手紙を読み上げた。
 何度も、何度も。
 ――ラファルの風が熱くなりそうなほど、何度も――


 ―Fin―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3423/エルライン・シュテル/女/20歳/郵便屋】

【NPC/ラファル/男/9歳(実年齢?歳)/風の精霊】
【NPC/クルス・クロスエア/男/25歳/精霊の森守護者】

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■         ライター通信          ■
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エルライン・シュテル様
初めまして、笠城夢斗と申します。
このたびはゲームノベルにご参加いただき、ありがとうございました!
ウインダーの方に風の精霊を扱っていただくのはとても相性のいいことなので、嬉しかったです。ノベル、気に入っていただけるとよいのですが……
よろしければまたお会いできますよう……