<PCクエストノベル(1人)>


これぞ本物新聞記者! ―貴石の谷―

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【冒険者一覧】

【2623 / 廣禾・友巳 / 編集者】

NPC
【冒険者たち】
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 貴石の谷。
 それはかつて、貴重な宝石が豊富に採れる谷に作られた坑道である。
 当時は人が通りやすいようあちこちにランプが取り付けられ、道は縦横無尽に掘り進められていた。
 ――谷の中に、魔物が徘徊するようになるまでは。
 今や『貴石の谷』を訪れる者はほとんどいない。いるとすればお宝目当ての命知らずか、あるいは――

友巳:「私みたいな人間だけだよねっ」

 廣禾友巳は気合を入れて、ぱんと両手で自分の頬を張った。
 自分の装備をたしかめてみる。いつも着ている動きやすいパンツルックに加えて、コンパクトにまとめた荷物を腰に装着。中には貴石の谷を攻略するための道具や、魔物対策の色んなものが入っている。
 眼鏡をキランと光らせて、友巳は貴石の谷の入口の前で仁王立ちになった。

友巳:「さーあ、どんなわくわく情報が待っているかしら〜?」

 ――廣禾友巳はこのソーンの世界に来るまでは、さる国で出版社に勤めていた。雑誌記者として。
 そしてこのソーンに飛ばされてきてからも、その記者魂は衰えていない。今は「新聞」を生み出して、このソーンにばら撒いている次第だ。
 「新聞」に書かれている情報は、すべて友巳が身を張って得たものばかり。
 ――今回のターゲットは、色んなうわさの飛び交う『貴石の谷』。

友巳:「ファンタジーと言ったら、やっぱり地下のダンジョンだよね」

 とても命の危機を感じなくてはいけない場所に特攻していようとしている人間とは思えない笑顔で、友巳はたいまつを手に坑道への一歩を踏み出した。

 ぴちょん……ぴちょん……

友巳:「あら……どこからか水が染み出しているんだわ」

 天井から落ちてくる雫を見つけ、友巳はさっそくマッピングしていたメモにバツを打ち、『天井、水漏れあり』と書き足した。
 この坑道は崩壊しやすくもなっているという。水が染み出しているということは、崩れやすくなっているということだ。

友巳:「ダンジョンらしくっていいよね!」

 ……しかし友巳には、わくわく度数を高める要素でしかない。
 たいまつの火は小さめのものを用意してきた。魔物に簡単に見つからないためだ。
 おかげで暗くて奥はよく見えない。見えないが――

???:「――い、この先どうする?」
???:「ばっか、前に進むに決まってるだろ!」
???:「マジで!? もうやめようぜ――」

 友巳の胸がおどりあがった。坑道だけに声が響く。これは貴石の谷にやってきた冒険者の声に違いない――
 友巳はふたりの前に飛び出した。

友巳:「ねえ、ちょっと!」
???:「うわっ!?」

 突然現れた女性に、冒険者らしき青年たちは飛び上がって驚いた。
 友巳はきらきらした瞳を二人の青年に向け、

友巳:「あなたたちは、何の用でここに来たの?」

 とメモを片手に、たいまつを持つ手にペンを持ち、完全取材体勢に入った。
 青年たちはびくびくしながら、

青年1:「な、なんだよあんた」
友巳:「私は新聞記者よ」
青年1:「新聞? そういやそんなもんがどっかで売ってたような売ってなかったような……」
友巳:「売ってるのよ! 私もその記者なんだから間違いないよ!」
青年1:「そ、ソウデスカ……」
青年2:「俺は買ったことあるぜ。面白いネタ扱ってて面白かった」
友巳:「でしょう!?」

 友巳は胸を張った。そして、

友巳:「というわけで、もっと面白いネタを新聞に載せるために取材に来たの。ねえ、あなたたちは何の用でここにきたの?」

 青年たちは顔を見合わせた。お互いに視線で――まるでケンカをしているように険悪な視線だったが――会話をして、
 やがてひとりが渋々と口を開いた。

青年2:「そりゃ……ここに宝石を採りにきたんだ」
友巳:「んー、そりゃあそうよね。でもさっき、この先に進むかどうか迷ってなかった?」
青年1:「そりゃ迷うさ!」

 もうひとりの青年が大声をあげる。
 声が反響して、三人は慌てて耳をふさいだ。

青年1:「――ここは、危険なんだから」

 落ち着いた頃、青年は小さな声で続きの言葉を紡ぐ。
 そしてもうひとりの青年に思い切りどつかれた。

青年2:「お前なあ。ここまで来ておいて何だってんだよ! 最初は乗り気だったくせに!」
青年1:「だってお前、さっきの魔物見たろ!?」
友巳:「魔物!?」

 すかさず友巳は食いついた。

友巳:「魔物!? どんな形をしてた? 噂の宝石喰いってやつ!?」
青年2:「あれは……普通のモンスターだったけどなあ」

 あれぐらいなら俺たちにも倒せるぜ、と青年は腰に装備している剣を示す。

青年2:「――だてに冒険者やってねえからな」
青年1:「でも調子に乗って奥までいって、取り返しのつかないことになったらどうすんだよ」
青年2:「宝石喰いだってやってやるぜ!」
青年1:「冗談じゃないよ! 俺はもうつきあってられない!」

 とうとう青年の片方は、もうひとりを残して入口へと歩き出してしまった。
 残された青年のほうは憤然として、「やる気のねえやつだ!」と友巳を無視して奥のほうへ歩き出す。
 完全にふたりのやる気が食い違ってしまった。友巳はふむふむとメモに書き足した。
 『こうして貴石の谷の入口でケンカ別れする冒険者もいる』

 少し歩くと、入口でケンカ別れしたふたりが見た魔物と思われる魔物に遭遇してしまった。
 うわさに聞く宝石喰いの姿形とは違った。たしかに普通のモンスターのようだ。
 友巳は腰に装着していた袋から生肉を取り出し、魔物の前に放り出して、そのまま逃げた。

 ――なんとか、追ってこられずに済んだようだ。

 友巳はマッピングを怠らないようにして歩みを進める。
 がら……
 時おり傍らの壁石が崩れては、友巳を少しだけ驚かせた。
 しかし、このていどで友巳が諦めるはずがない。ますます意気揚々と歩いていくと、再び人の話し声が聞こえてきた。

男:「これが……人生のかけ、ってやつかな」
女:「あんたとのかけなら、いくらでもやってやるさ」

 笑いあっている。何の話だろうと、友巳は胸を弾ませてふたりに近づいた。
 誰だ! と友巳の接近に気づいて振り向いた男が鋭く声を放つ。
 たいまつの炎が、友巳に向けられた。

女:「なんだ、女じゃないか」
男:「しかもひとりきり――か。何やってんのさ、あんた」
友巳:「私は新聞記者よ」

 友巳は両手をあげて敵意のないことを示しながら、そう答えた。

友巳:「できれば、おふたりがこの貴石の谷にきた理由を聞きたいの」
男:「理由? そんなもん聞いてどうすんだ」
友巳:「新聞に載せるのよ」
女:「そんなことのために、こんなところまでひとりきりで?」
友巳:「そうよ」

 友巳が真剣にそう答えると、女は笑った。

女:「あははは! 面白いねえさんだねえ。いいよ、話してやろうか」
男:「本気で話すのか……?」

 男が微苦笑して、威嚇のために剣の柄に当てていた手を離した。
 三人は、少し身を寄せ合った。男が念のため懐に手を入れている。そこに短剣でもしこんであるのだろうか。
 女がゆっくりと話しだす。

女:「あたしたちはねえ……かけをしてるのさ」
友巳:「どんな?」
女:「人生をかけて。って言っても、要するに両親の反対をおさえこむために、なんだけどね」

 何を反対されているかは、ふたりの様子を見れば聞くまでもない。
 ふたりは信頼しきっている様子で並んでいる。

女:「あたしの親が資産家でね……だけどこいつは貧乏宿無し、ひとりきりなわけだ」
友巳:「それじゃ……うーん、もしかして、つりあえるほどの資産を手に入れてみろ、とか?」
女:「そうそう。察しがいいじゃないかねえさん」
男:「資産を手に入れるには、この谷に来るのが一番だと思ってな」

 男のほうは絶えず周囲を気にしながら、苦笑した。

男:「男の名誉にかけて、と思っていたら、こいつもついてくるって言ってきかなくってな」
女:「ちゃんと親にも承諾受けたさ。あたしは元々冒険者だしねえ……。『うちの娘を護りきれたら』っていう条件が増えたけどね」
友巳:「ふむふむ」

 友巳はさらさらと、慣れた速記でメモを取っていく。

女:「そんなわけで、今ふたりでここにいるわけ。――どうだい、ネタになりそうかい?」
友巳:「ドラマティックにネタにできるよ……!」

 友巳がぐっと親指を立ててウインクしてみせると、ふたりは笑った。
 そして、ふいに真剣な顔になって、

女:「そこの分かれ道の右の坑道……そこの奥に宝石喰いがいるんだ」
友巳:「え?」
女:「今から、それに挑もうと思ってる」
友巳:「な、なんで宝石喰いがいるって分かってるわけ?」
男:「下をよく見てみな」

 男に言われて友巳が足元を見てみると――
 友巳は目を見開いた。たしかに、右の道の方面に大量に人骨があった。

男:「宝石のあるところに宝石喰いあり……逆に言って宝石喰いのいるところに宝石あり。それにかけてみようかってわけさ」
友巳:「なるほど……」

 友巳は深くうなずいた。友巳には珍しく神妙な顔で。

男:「さ。そろそろ行くか」

 男が女を促す。
 女はうなずいて、友巳に手を差し出した。

女:「ありがと。あんたのおかげで気分転換できた」
友巳:「そんなこと……」

 友巳はさっとメモを腰にしまい、その手で握手を受ける。
 しゃらん、と女のしている青と緑の宝石の入り混じった、細かい金属製の腕輪が音を立てた。

友巳:「いい結果を願ってるよ」
女:「ありがと。また生きてあんたに会えるといいな」

 そう言って――
 ふたりのパートナーたちは右の道を進んでいった。
 友巳はふとふたりの帰りを待とうと思って、やめた。
 ――生きているなら、また会える。
 メモに一行の文章が増えた。
 『パートナーが心を紡ぎあう場所、貴石の谷』


 谷も奥まってくる。しんとして、音もしない。
 たいまつの火が自然と小さくなってきて、友巳はごくりとつばを飲み込んだ。
 がらがら……
 頭上から石のかけらが落ちてきて、かんかんと友巳の頭を打つ。

友巳:「いたっ。――まったく、私の上に降ってくるなんて失礼なんじゃない?」

 言ってもせんないことをぶつぶつ言いながら前へ進む。
 モンスターにもたびたび出くわした。そのたびに、生肉を放り出して友巳はさっさと逃げた。逃げるためならたまには後退も仕方ない。
 幸い、採掘されまくっているこの坑道は、色んなところでつながっている。
 友巳はメモにマッピング、坑道には印をつけながら前に進んだ。
 と――
 前方に灯りが見えて、はっと友巳は自分のたいまつを後ろへやった。――気づかれないように。
 ガハハハ、と下品な笑い声が聞こえた。

頭目:「うまくいったな!」
メンバー:「うまくいきましたね〜ヘッド」

 ヘッドと呼ばれた男の笑い声があまりに耳に障って、飛び込んで取材に行く気にはなれなかった。代わりに慎重に、気配を消して近づいていく。
 曲がり角をそっとのぞくと、
 どしりと地面に座ったひとりの大柄な男を中心に、五人ほどの男たちがいた。
 “ヘッド”の持つジョッキに、メンバーのひとりが酒を注ぐ。ヘッドはそれを一気飲みし、またガハハハと下品に笑った。

頭目:「さっきの男と女……まったくうまく罠にはまってくれやがってよう」

 友巳はふと気づく。頭目の傍には大きな袋がある。
 そして反対側の傍らには――

メンバー:「本当に、ヘッドは賢い方です。人骨でうまく冒険者を引き寄せて、宝石喰いと代わりに戦わせるとは」

 手もみしながらメンバーのひとりがへらへらと笑う。
 ヘッドはにやりと笑った。

ヘッド:「そしてやつらが命からがら宝石喰いを討ち取ったときを狙って、やつらを殺っちまえば肝心の宝石は俺たちのもんさ」
友巳:「―――!!」

 ヘッドの傍らにあるもの、それは、
 剣にネックレスに、しゃらんと音の鳴りそうな、青と緑の入り混じった腕輪――

 ――『また生きてあんたに会えるといいな』

友巳:「―――!!!」

 友巳は声にならない悲鳴をあげた。
 ばきっ……
 友巳が動いた拍子に、壁岩のひとつが割れた。

メンバー:「誰だ!」

 全員の意識がすべて友巳に向かう。

メンバー:「いつの間に……!?」

 げっふ、と汚い息を吐いて、頭目が低く命じる。

頭目:「縄をかけろ。さるぐつわをはめてな」

 メンバーたちの行動は素早かった。暴れる友巳をあっという間に縛り上げ、口に布をかませる。
 頭目がゆっくりと立ち上がり、友巳のところにやってくる。
 酒の呑みすぎで充血した目が、壮絶な目つきで友巳を見つめた。

頭目:「……いつから聞いてやがった……なんにしても、生かして帰すわけにゃいかねえんでな」

 友巳は必死に頭目をにらみつけた。
 絶対許せない。そう思って。

メンバー:「ヘッド!」
頭目:「あんだぁ?」
メンバー:「宝石喰いが来ます……!」

 メンバーの報告に、頭目はにやりと笑った。

頭目:「よし。いい女だからもったいねえが……ここに転がしておくか。宝石喰いのいい餌になるだろうよ」
友巳:「――っ――っ――っ!」

 縄で縛られた友巳を地面に放り捨てたまま、六人の男は悠々と去っていく。
 そして奥から代わりにやってきた気配……

友巳:「――っ――っ!」

 大型の両生類のような姿をした魔物が、のしのしと歩いてくる――
 友巳は必死に逃れるすべを考えた。まず縄を切らなければ。しかし用具は全部腰の袋の中――
 のし のし
 宝石喰いが、ゆっくりと歩いてくる。
 のし のし
 友巳は涙がにじんでくるのを感じた。怖いのでも悲しいのでもない。――悔しさで。
 あんな男たちに――
 思い通りにされるなんて、絶対に――!
 のし のし……
 近づいてきた宝石喰いが、友巳に気づき顔を近づけてくる。
 鼻先で体を転がされて、友巳はごろごろと地面を転がった。
 嫌だ、嫌だと心が訴えている。
 喰われることがではない。あの男たちの思い通りになるのが――

 ――友巳の心の絶叫が、どこかに通じたのだろうか。

 のし のし のし

 宝石喰いは、しばらく地面に転がしていた友巳を無視して、違う道を歩いていった。
 その後姿を見送っり、やがて消えた頃、
 友巳の体中に、どっと冷や汗が噴きだした。

 ――きっと、お腹がすいていなかったのだろう――

 ふと横を見ると、ちょうど壁岩がとがっている場所を見つけた。
 少し格好悪いなと思いながらも自分で転がっていき、そこまで到達すると、そのとがっている部分に縄をぎりぎり押し付けた。
 うまくいかずに肌を傷つけ血がにじむ。しかしこれくらいでへこたれていては新聞記者は務まらない。
 ぎり ぎり ぎり
 ――ぷつん
 縄の一部分が切れた。そこから、縄は簡単に解けた。
 血まみれになった腕をかばいながらさるぐつわをはずし、友巳は盛大に息を吐き出した。

友巳:「ああもう、何てことよ……っ!」

 頭目たちのいたところを見る。盛大に燃やされた焚き火が残って、坑道を照らしている。
 ――もうあの剣と、ネックレスや腕輪は持っていかれてなくなっている。

友巳:「信じられない……冒険者ギルドに、う、訴えて、やる……ん、だか、ら……」

 涙が流れそうになるのを必死でこらえた。奥歯をぎりっとかみしめて。
 新聞記者ならば、こういう出来事も事実として受け取らなければいけない。
 ――でも今くらいは――
 普通の人間として、泣いてもいいだろうか――

???:「おい……?」

 うつむいていた友巳に、ふと声がかけられた。
 友巳はゆっくりと顔をあげた。そこに――

女:「どうしたのさ……? 腕、血まみれだぞ……?」
男:「縄の残骸……もしかして、縛られていたのか?」

 見覚えのあるふたりの人間の顔――

友巳:「ふたりとも!」

 友巳の顔が輝き、そしてゆるんだ。ぽろぽろと、我慢していた涙が目の端からこぼれ落ちた。

女:「何泣いてるのさ?」

 女がそう言ってからから笑う。
 でもどうしてだろう、人違いだったのだろうか。
 そう思って改めてふたりを見ると――ふたりは友巳よりよほどぼろぼろだった。あちこちに包帯、包帯だけでは足りなかったのか布を巻きつけて、友巳を見下ろしている。
 男の持っていた剣、女のしていたネックレスや腕輪はない。

友巳:「ふたりとも……タチの悪い冒険者に襲われたんじゃなかったの?」
男:「なんだ、知ってるのか」

 男が苦笑した。
 女が軽く笑い飛ばした。

女:「やつらはプロじゃないね。私たちが宝石喰いに相当やられたと思い込んで、簡単に斬って終わらせたんだよ。後は死んだフリさ」
友巳:「―――」

 友巳は表情をかげらせる。
 ふたりは生きていた。それは嬉しい。でも――

友巳:「宝石は……奪われたんじゃ……」

 男と女は顔を見合わせて、苦笑した。

女:「ま、それは仕方ないやね。これからも懲りずにさがすだけさ」
友巳:「―――」
男:「男と女ふたりきり、人生かけて生きていくんだよ」

 友巳のやる気ががぜんと燃えてきた。
 このふたりのことを新聞に出す。このふたりの生き様を。
 伝えなきゃならないことがあるから、新聞はある。
 伝えたいことがあるから、新聞は存在するのだ。

友巳:「私は新聞記者――」

 友巳はつぶやいた。ん? と女が首をかしげた。
 友巳は立ち上がり、ぱんぱんとズボンをはたいてからふたりに向き直った。輝く瞳で。

友巳:「輝くものを見たら、書かずにいられないんだよ」

 友巳の言う言葉の意味が分からず、ふたりが首をかしげる。
 ふと、
 かつん、と音がして、友巳は振り向いた。
 それは友巳が縄を切ろうとして使ったとがった壁岩だった。先端には友巳の血がこびりついている。何となく拾ってみると、

友巳:「――あ――」
女:「ん?」

 女が覗き込んでくる。そして、

女:「ああ――」
男:「なんだ?」

 男も覗きこんできて、そして友巳の手のうちにあるものを見て呆然とつぶやいた。

男:「宝石の……原石……」

 三人は顔を見合わせ――
 そして、盛大に笑った。
 笑い声が反響する。しかし耳をふさいだりはしなかった。
 おかしくておかしくて、三人は笑った。
 友巳の目からぼろぼろと涙が流れる。
 でももういい。もう我慢する必要なんかないんだ――

     **********

 友巳の取材はいったん外に出た後も、二度三度と続いた。坑道の中をマッピングするだけでなくスケッチ、坑道の周辺もスケッチ、冒険者がやってきたらすかさず取材、悪だくみをしている冒険者を見つけたら冒険者ギルドに報告――

 そして数日後。
 『貴石の谷』の特集の組まれた新聞が発売された。

友巳:「文字通り、体を張った記事だからね!」

 貴石の谷の特集は話題を呼び、発売部数は伸びに伸びた。
 ある日、あの男女が友巳に会いに来た。体中ぼろぼろのまま、笑顔で。

男:「あんたのおかげで、結婚の条件がさがったんだ」
女:「なのにね。あたしらまだまだあの谷に行く気まんまんなんだよ」

 そう言って、二人は笑った。

女:「あたしら、谷に取り憑かれたのかもね」

 友巳も笑った。爽快な笑いだった。

友巳:「じゃあ今度は、あなたたちふたりの特集を組もうかな」

 そんなことを言いながら空を見上げる。そして思った。
 暗い坑道では決して見られない空の明るさ。けれどその明るさに負けない何かが、あの谷にはあるのだと――


 ―Fin―

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初めまして、笠城夢斗と申します。
このたびはクエストノベルのご注文、ありがとうございました!納品が大変遅れて申し訳ございません。
最初はギャグにしようと思っていたのですが、発注内容を見ているうちに、シリアスのほうがいいかなと思えてきたのでこんな展開になってしまいましたが……いかがでしたでしょうか;喜んでいただけましたら幸いです。
よろしければまたお会いできますよう……