<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『その身に纏え、水のアミュート』

●少年の思い
(考えてみればゴーレムと戦う時も、ヴィジョンと連携しても他の人より役に立ってない気がするんだよなぁ……)
 ジェントスでの戦いから3日が経っていた。湖泉遼介は慌しい街を離れ、近くの森で一人修行に励んでいた。
 今やっているのは、ヴィジョンの力を引き出して、剣に水の属性効果を付与する技だ。
 街でのジェイクらの戦いを見ていて、自分でも出来ないかと試行錯誤しているところであった。
(ちょっと動きづらいけど、慣れだよな)
 彼の戦闘スタイルは闘気による身体能力強化。元々、スピード重視のスタイルである。
 パープルに輝くアミュートを装着したままで、黙々と高速移動や剣技、ヴィジョン召喚などを繰り返していく。慣れてさえしまえば、アミュートは彼にさらなる能力アップを授けてくれた。
 だが、相手も無く一人で訓練を続けるのには限界があった。
 いくら大人びた口をきいても、遼介はまだ子供なところがある。自分の強さに対しての疑問。そこからくる怒りについても、処理しきれないまま、自分の中に溜め込んでいた。


「すまん、待たせたな」
 そこへ、ふらりと姿を見せたのはジェイク・バルザックであった。
 彼もジェントスの街があんなことになり、色々と厄介ごとを抱える羽目になった人物の一人であった。
 一介の冒険者に過ぎなかった彼が、今では西の冒険者ギルドの代表みたいな立場にあった。意外に人望が厚いというのもあるし、ギルドの幹部クラスが軒並み姿を消しているという現実もある。カグラの孫太行が影から支援してくれてるとはいえ、忙しい事には変わりはなかった。
「遅い、遅い。聞きたい事が山ほどあるんだぜ」
 頬を膨らませる遼介に、彼は苦笑で答えた。
「こっちだって書類が山ほどあるんだよ」
 一介の冒険者に過ぎないジェイクだが、元は騎士団に所属していた人間であり、さらにはレジスタンスを実質的に率いていたという経験もある。
 本人にとっては不本意な事かもしれないが、実は事務処理的な能力も高いのであった。 
 それなりにフラストレーションもあったようだ。遼介の呼び出しに応じたのも、それが原因かもしれない。だが、自分よりも大人の人間に指導してもらう事が、今の遼介には必要だった。
「まぁ、いいよ。それよりさ、この前ジェイクが使っていたような『局部障壁』とか『水晶結』みたいな技。あれって、どのくらいで使えるようになるんだ?」
 単刀直入に聞いてみる。ジェイクは少しだけ首を捻って考え込み、慎重に口を開いた。
「そうだな……人にもよるが、才能のある奴なら2〜3度の実戦でモノにする奴もいるな」
 アミュートは精霊鎧とも呼ばれる、魔法鎧の一種である。
 装着者の属性に応じて、精霊力を高め、力に変える。それに慣れるにつけ、発生する余剰精霊力を特殊能力に用いているのだが。
 逆に言うと、精霊力を自覚できない者は、いつまで経っても特殊能力は使えない事になる。こればかりは『心』の問題なので、ジェイクも断言は出来なかった。
「そっか。俺もこの前の経験から、いくつか考えていた事があったんだ。ちょっと見てくれないか?」
 頷いたジェイクの前で、少年は聖獣カードから力を引き出し、精霊剣技を模した技を試していった。
 ジェイクは、ちょっとした驚きと共にその光景を見ていた。
(ふむ……精霊力とは全く関係は無いが、それなりに形にはなっているな。ヴィジョンとかいう概念は俺には理解できないが、それこそがこいつの『力』なんだろう)
「どうだ?」
 軽く息を切らせながら、遼介が振り向きざまに聞いてきた。
 どう答えてやるべきか、幾通りか考えた末、ジェイクははっきりと言う事を選択した。
「簡潔に言うとだな。お前のやっている事は、アミュートの能力とは何の関係も無い。精霊力を理解せずに、特殊能力だけを使える者などはいない」
 遼介の表情が、見た目にもはっきりと落ち込んでいく。それを見て、ジェイクはちょっとだけフォローをしてやる気になった。
「ただし、ヴィジョンの力を引き出すという事については、纏っている意味があるようだな。カードから力だけを引き出して魔法剣技を使うという行為。それ自体のイメージとして、俺達の精霊剣技が役に立っているらしい」
 ようするに、精霊剣技の真似をしている事で、ヴィジョンの力を引き出すきっかけにはなっているという事だ。
 その他にも、ジェイクは幾つかのアドバイスをくれた。
「ナイフの方が得意だというのなら、無理して剣を使う事もあるまい。武器から出る高圧の水刃で攻撃できるというのなら、振るうのはナイフでもよかろう」
 そう言って、彼も持っているエクセラという魔法武器を貸してくれた。これはコマンドワードを唱える事によって、形態を自在に帰ることの出来る武器なのだ。一瞬で、ナイフからハルバードにまで形を変えることが出来る。
 また参考として、アミュートを纏う者にとって、精霊力の使い方は大まかに三つに分かれるという事を教えてくれた。『放射』、『集中』、そして『制御』。特殊能力にしろ、精霊剣技にしろ、それが基本にあると語った。
 ジェイクの指導を受ける内、ナイフの形態でなら水の刃を発生させる事が出来るようになった。振りのスピードが決め手のようである。
「何でもいいさ、技の名前をつけてやるといい。その方が発動の確率も上がるし、威力も上がると思うぞ」
 強いイメージが魔法剣技を生み出す。ジェイクはそう教えてくれた。
 さらに、彼はこうも付け加えた。
「お前の闘気の使い方は、俺のオーラ魔法よりも太行のものに近い気がする。奴の『奥義』も、技と闘気の複合によって繰り出す代物らしいからな」
 そして最後に、アミュートの一番基礎的な技を教えてもらった。それは『精霊力放出』というもの。
 精霊力という概念が、まだ遼介にははっきりと感じ取れてはいない。しかし、アミュートを通じて水貴に力を貸そうと念じる事で、水流弾の威力は飛躍的に上昇したのであった。


「ふぅ……何か疲れたなぁ」
「今日はこれくらいにしておけ。アミュートの能力は思ってる以上に体力や精神力を消耗させる。特に慣れない内はな」
 そう言って遼介にタオルを投げて寄こし、自らも汗を拭った。
 少年のお腹が小さく鳴った。気がつけば、日もすっかり傾いてきている。
「よし。それじゃ飯にしようぜ! 今日はいろいろ教えてもらったからな。俺のおごりだ!」
 少しだけ目を丸くして、少年よりも二十ほど年長の元騎士は、口元に微笑を浮かべた。
「そうか。それじゃご馳走になろうか。安くて美味い店を知っているから、そこにしよう」
「え、どこどこ? 魚より、肉の美味い店だぜ?」
 親子でもない。兄弟でもない。
 微妙な年齢差の二人の剣士は、ゆっくりと街に向かって歩き始めていった。
                                    
                                      了



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1856/湖泉遼介/男/15/ヴィジョン使い・武道家

【NPC】
 ジェイク・バルザック/男/35/元騎士

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。
 今回も受注していただき、ありがとうございました。アミュートの特殊能力については、個別ページの情報でも書かれていますので、よかったら目を通してみてください。 
 遼介の場合、あれもこれもというよりは、的を絞った方がいいように思えたので、あえてジェイクにも特殊能力の説明はさせませんでした。
 ヴィジョンの第三段階に達した方が、素直に力を出せる気もしますしね。
 ただ、アミュートは単純に着てるだけでも、戦闘力自体は2倍になります(防御力が高いし)。
 それと『身体能力強化』という闘気の使い方は、やはり太行や将已の戦い方に近いものがありますね。
 次の長編にも参加していただけると嬉しいですね。お待ちしております。

 それではまたお会いしましょう。