<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『ワグネルの回想』

●過ごしてきた日々
(そういや、最初にあの連中と知り合ったのも『神殿』絡みの仕事からだっけなぁ……)
 半分近くが焼け落ちたジェントスの街を歩きながら、ワグネル・パウロ・カルロス・デ・オリベイラはここでの冒険の日々を振り返っていた。
(風竜王の神殿に行き、初めて『騎士』に出会ったんだ。あんときゃあ、ビビったよな) 
 燃えカスとなった材木を踏みしめて、焼け落ちた建物を見上げる。
 『明日に吹く風』という看板が、煤まみれになってはいるが、読み取れる。
「それから、この店に出入りするようになった……」
 仲間達を通じてアミュートという鎧を知り、遅れてきたグリムからジュエルアミュートという類似品の説明を受けたのだ。
(もう一度神殿に行く事になり、そこで隠されていた部屋を見つけ出したんだ。あいつらときたら、マッピングの基礎も知らなかったからな)

『遥か古代。聖獣王ドラゴンは四体の重臣に、天空都市レクサリアの守護を命じた。聖獣王、四竜をもって四天に封じ、その力を持って都市に繁栄をもたらさん』 

 それが部屋の壁に書かれていた叙事詩の内容であった。
 今はもう、四竜の名前も全て判っている。
 騎士との再戦の後、自分達は火竜王リフレイアスの裏切りを聞かされ、その真相を探るべく、東の神殿に向かうことにした。
(けど、あの時はちょうど新年祭だったんだ。んで……ファラの依頼に付き合うことになって、『あいつ』とも知り合いになった)
 冒険の報酬はエリクサー。後の戦いですごく役に立ったものだ。
(そう言やあ、あの遺跡とかも『墜ちた都市』の生き残りのものなんだろうな。まだアイテム残っていたよな、確か)
 遺跡を探し出すのには、ファラのかけている眼鏡が一役かっていたらしい。
 機会があれば借りたい一品だ。
(ったく。あの生意気なハーフエルフ!)
 明花の事だ。女だてらに拳法家であり、しかも魔法を付与する変り種だ。
(まぁ、酒を飲んでる時は可愛いとこもあったけどな……)


 そして、いよいよ火竜王の神殿へと向かった。
 激戦に次ぐ激戦。自分の装備に自信が無くなってきたのもこの頃だったか。
 あのアミュート使いどもも、それぞれに自分と向き合いながら戦いを潜り抜けていった。
 カオスの魔物と正面から向き合ったのもあそこからだった。今抱えている問題。『天空の門』のきっかけも、あそこから始まったのかもしれない。
(とんでもねぇ化け物だと思っていた火竜王も、結構そこらの人間と変わらない様な事を言ってたし……)
 古塔の探索に行ったのも、あそこから帰ってきた時だった。
 ワグネルは肩から提げているフレイムジャベリンを眺める。それは、蒼鱗の飛竜から取り出した臓器を元に作り出された魔法武器なのだ。
「そうだな。こいつの扱いにもう少し慣れておいた方がいいか……」
 街を背にして、ゆっくりと森の方角に向けて歩き始める。
 彼が手にした新しい力は、強力な炎の槍を撃ち出す代わりに、ちょっとクセのある武器であった。仲間の援護をしていくのに、自在に使えないようでは困る。
(あん時みたいな後悔はたくさんだからな……)
 ふと疑問符が浮かぶ。
「あの時? あの時って……どの時だ?」
 水面に浮かぶ泡が消えるように、思い出しかけてた何かがかき消されていった。
「まぁ、いいか」
 深くは考えず。
 歩きながらワグネルの思考は再び『墜ちた都市』の中へと引き戻されていく。
(水竜王リルファメースが俺達に伝えた危機。それは、『天空の門』とやらの悪用だった……)
 何でもカオスの魔物が住む世界と、この聖獣界をつなげようという試みらしい。
 西のギルドマスターだったヒルダとかいう女性が首謀者だと後に聞いている。
 ジェントスの街をカオスゴーレムの軍勢が襲ったのも、そこでテストをする事によってゴーレムをレベルアップさせ、門を護らせるつもりだったという。
 そんな事をあれこれと考えている内に、街の外れまで来てしまった。
 もう一度街を振り返り、ジェイクを始めとする仲間達との冒険の日々を思い返す。
「やっぱここまで付き合っておいて……はいさよなら、とはいかないよな」
 共に戦い。
 共に笑い。
 時に喧嘩したり。
 時に酒を酌み交わしたり。
 大切な思い出がそこにはあった。
「付き合うさ。最後までな」
 そしてワグネルは一人、森への道を歩いていった。
 その背中で大刀が小さく鳴っている事には気がつかぬまま。


●走り去る先を撃て!
 森の中に入ったワグネルは、適当に獲物となる動物を探していた。
(この辺にいる動物なら、間違いなく当たれば一撃で仕留められる。問題は、外した時に周囲を延焼させる可能性だよなぁ)
 結局、この辺りに生息するオオヘラジカの類に的を絞った。
 鳥の類では骨も残らない可能性がある。適度に動き回る相手となればいい線であろう。
(いた!)
 水辺に一匹、かなりの大物がいた。あれならいきなり消し炭になる事もあるまい。
 チャージを短くして打てば威力も小さく、速い槍が撃てるという事にも最近気がついた。逆に、たっぷり時間を取れば高威力の槍が撃てるという事でもある。
(よし、行くぞ!)
 岩場から身を乗り出し、自慢の快速を飛ばして風のように近づいていく。
 狙撃すれば簡単に仕留められるが、それでは使いこなす練習にはならない。気がついたオオヘラジカがジグザグに駆けながら岩場を登っていくのを追いかける。
 姿を視界に捉えるや、フレイムジャベリンを構えるが、その時にはもう次の位置に飛んでいる。
「ちっ、この辺がスライシングエアとは違うとこなんだよな」
 聖獣装具であれば、投擲したあとでコントロールが利く。
 実戦ならば、威力を考えながら使い分けるところだが、今日のところは練習だ。
 だが、二度、三度と狙いを外す中で徐々にコツが掴めてきた。
(そうか……首の向いてる先を撃つ。斬り合いと同じだ。先読みして撃つのか)
 そうと分かれば、ワグネルの行動は早い。
 平坦な岩場を探し、足場の確保をしながらジャンプ。そして狙いをつける。
「そこだっ!」
 オオヘラジカの動きを正確に予測し、その移動先と距離を脳裏で修正して狙い撃つ。
 短いジャベリンの一撃は、確実にその胴体を捉え、全身を焼き尽くした。
 ゆっくりと岩場を駆け上がり、獲物のところまで辿り着いた。
「いい大きさだ。これなら全員にステーキを食わせられそうだな」
 仲間達の喜ぶ顔を想像すると、少しだけ口元が緩んだ。
(ふっ……甘くなったかな)
 その場で手早く解体作業に取り掛かるワグネル。
 どうやら夕飯までには、街に帰れそうであった。


                                 了




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2787/ワグネル/男/23歳/冒険者

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。
 今回も依頼いただきありがとうございました。
 私の中では、ようやく固まったワグネルの大刀のイメージがあります。多分、ワグネルが来るのと来ないのとで、大分内容は変わると思います。 
 それではまた。
 次は『漂流都市』でお会いしましょう。