<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『さらわれたジェス』

●ジェスとジェイクと
「大丈夫か? かなり疲れてるみたいだけど……」  
「まぁな。かといって、のんびりもしていられんしな」
 ジェントスの街の襲撃から十日後。ジェイクは忙しい毎日を送っていた。カグラギルドの人間と交渉しながら、街の復興作業にも手を貸す。一介の冒険者である彼には関係のないはずの仕事が多い。
 それは、今までの活動を通しての彼の人望であった。
 実質的にはギルドマスターに近い仕事までこなしてしまっている。フリーウインド時代から組織の細々とした雑務をこなしていた事もあるのだろう。
「忙しいとこ悪いんだけどさ……」 
「何を言ってる」
 ジェイクが微笑む。
 一応、恋人として冒険者仲間にも紹介してもらっているのだが、結構外ではつれない態度でいる事が多い。しかし、部屋に帰ってくればそれなりに笑顔を見せてくれる様になっていた。
(これは、あたしだけの特権だよね)
 これでグリムみたいに甘える事ができればもう少し進展するのだろうが、なかなか上手くいかないジェスである。
 そんなでも、二人の仲はゆっくりとだが深まってきたのだ。
「で、疑問点というのは?」
 ジェイクが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、話はすぐに現実的なところに戻された。ここらの切り替えが早いのも、ジェイクの欠点だとジェスは思う。
「あー……うん。神殿に行く途中で会った、レグ・ニィのことなんだけどさ」 
 とはいえ、今は無駄に時間を費やすわけにもいかない。 
 一応、レグと遭遇した話はしてあるが、細かいところまではしていない。ジェスは一から状況を説明する事にした。
 レグの様子がおかしく、記憶がないらしい事。
 『闇を統べるもの』と、鎧の関係について。
 ソニックブレードをレグが使った事、などなど。全てを彼女が語り終えた時には、カップの底に残っていたコーヒーは既に冷めきっていた。 
 ジェイクはしばし目を閉じ、情報を整理していた様だが、ゆっくりと顔を上げた。
 実は、彼とレグはあまり接点があったわけでもないのだ。
「そうだな。順番にいこうか。記憶の無い点だが……カイが集めてきた情報も合わせると、二つの仮説が立てられる」
「二つ?」
「ああ。一つは、氷の棺に長期間に渡り閉じ込められていた為に記憶を失った。もう一つは、ヒルダによって催眠術か何かをかけられて記憶を操作されたかだな」
 コーヒーを淹れなおそうとしたジェスを(やや慌てながら)制し、ジェイクは二人分のコーヒーを淹れてくれた。
 それをゆっくりと味わい、もう一度口を開く。
「だが、聞くところによると、奴は『魔眼』と呼ばれるカオス能力を所持してはずだ。いかにヒルダとはいえ、同種の力での操作は厳しいだろう」
「それじゃ……!」
「うむ。洞窟にあった氷の棺は、ゴーレムの工房を作ろうとしていた連中に発見された。そして、都合のいいように利用されているとみるのが正解だろうな」
 上手くすれば記憶を取り戻すかもしれない。そうすれば状況が変わる事も考えられる。
 鍵となるのは、一緒にいたはずの女魔術師かもしれない、そうジェスは考えていた。
「それから『闇を統べるもの』についてだが……シン・クレアを覚えているか?」
 懐かしそうな目をして、ジェイクは昔の仲間の名を口にした。
「もちろん」
「あいつが天界人騒乱の際、後に奥さんとなる女性をかばってカオスの魔物と対峙した話は有名だが……」
 再び、コーヒーを飲む。
「その時の魔物の名が、『闇を統べるもの』だったはずだ」
「なんだって!?」
 ジェスが立ち上がる。魔物を退治した話自体は聞いていたが、魔物の名前までは覚えていなかったのだ。
「かなり強力な魔物だったという事だ。同一の個体とみても間違いはないだろうな。詳しくはエランにでも聞いた方がいい。半分関係者みたいなものらしいからな」
 エランとレグに接点がなかった為、『闇を統べるもの』の名は彼女には伝えていない。盲点であった。
「魔法を使って逃げたというし、恐らく魔物が鎧に封印されているのは確実だな。力が回復しきっていないんだろうが……」 
 言葉の後半は、カップの中の黒い液体の中へ消えていった。
 ジェスもそれには気がついていた。
 『天空の門』がカオス界と繋がれば、そこから溢れ出す瘴気によって、魔物も本来の力を取り戻すだろうと。
「ソニックブレードについては?」
 言葉の止まったジェイクに、彼女が聞く。
「ある意味、それが一番簡単な質問だ。前にも言っただろう? 純粋な精霊剣技と違って、ソニックブレードは騎士の中にも使える者がいる」
「なんでだよ?」
「お前達は風の精霊力によって真空刃を作るが、彼らは純粋に剣速によって衝撃波を繰り出しているのさ。オーラブレードに比べれば優しい部類に入るとはいえ、達人の力量が必要だがな」
 また新しい名前が出てきた。
 剣技についてはまだまだ知らない事が多いのだ。
「オーラブレードってのは何だよ? 聞いたことねぇぞ、そんなの?」
 ジェイクが薄く、本当に薄く笑った。
 それを見て、ジェスは質問した事を後悔した。彼がその笑みを浮かべる時は、決まって思い出したくない過去の話をする時だったからだ。
「ジェトの騎士団に伝わっていた、幻の剣技さ。かつて精霊騎士団と、御衛士と呼ばれる親衛隊とに分かれる際に失伝したと言われている。なにしろ……」
ギシッ 
 粗末な椅子とテーブルが軋む音がした。
「レベッカの父親であるベルニッシュ卿が最後の使い手だからな」
「……レベッカも使える素質があるって事か?」
 ジェイクが首を振る。
「いや……血筋とかは関係ない。むしろオーラ魔法の領域に含まれるからな。あいつには無理だろう」
 室内に沈黙がおりた。
 かつての騎士団長、ユハン・カームに関係する話になると、決まって口の重くなるジェイクであった。不敗の騎士とまで呼ばれたベルニッシュ卿を、一騎打ちで負かしたのがユハンであったとされている。
 だが、その彼も最期は不幸なものであった。
 第一王女ジュシカ(ジュディスの姉に当たる)と恋仲であった彼は、マキシミリアンの蜂起の際に王女をかばい、戦場に消えた。
 その戦いの唯一の生き残りこそが、ジェイクなのである。
「やるべき事がいっぱいだな……ちょっと夜風にあたってくるよ」
 しばらく一人にしておいた方がいいかもしれない。そう考えて、ジェスは一人、宿の外へと出て行ったのであった。


●闇からの魔の手
(なんだか寒くなってきやがったなぁ……)
 なんやかんやで深夜になっていたらしい。月光が足元を照らしていた。
 付近には既に人の気配はなかった。なんとなく、噴水の方へと足を進めていったジェスだったが、周囲があまりにも静かな事に気がついた。
「!」
 異変に気がついたジェスが振り返ると、そこには漆黒の鎧を纏った騎士が立っていた。
(レグ!)
 声を上げたつもりが、音にはならなかった。
 彼女は慌てて腰に手を伸ばすが、街中だと思ってアミュートもエクセラも持っては来てなかった。
 風のように、忍び寄ったレグの手がジェスを捕らえる。その右手が、ゆっくりとジェスのあごを掴み、自分の方へと向ける。
 瞬間、真紅の瞳に魅入られて、ジェスは意識を失った。
 何もかも一瞬の出来事であった。
 まさか、ジェントスの街中に現れるとまでは考えていなかったのだ。
 漆黒の騎士は両手でジェスを抱え上げると、広がった影の中へと足を踏み入れ、姿を消した。


●囚われの姫君
(う……)
 ゆっくりと意識を取り戻したジェスは、自分がどこにいるのかまるで見当がつかなかった。
 少し埃の匂いがするとはいえ、わりと立派なベッドに寝かされていたからだ。しかも、天蓋付きである。
(え……っと。と、とりあえず変な事はされてねぇよな)
 色々と身の回りをチェックしてみる。
 縛られているわけでもないし、身体にも異常はないようだ。
(何かされてたら、ジェイクに顔向け出来ねぇしな)
 部屋の中を確かめようとすると、扉が開く気配がした。
 咄嗟にジェスが身構えると、入ってきたのはレグであった。あの鎧は身に着けていない。
「てめぇ……」
「さて、話してもらおうか。俺が何者なのか。お前とどういう関係にあったのかをな」
 無駄に豪華で広い部屋の中で、二人は真っ向から対峙したのであった。


                            ……to be continued



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3076/ジェシカ・フォンラン/女/20/アミュート使い

【NPC】
ジェイク・バルザック/男/35/元騎士

※年齢は外見的なものであり、実年齢とは異なる場合があります。

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■         ライター通信          ■
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 どうも、神城です。
 そんなわけでさらわれてしまいましたw
 レグサイドを描写してもよかったのだけれど、ヒルダとカオスナイトくらいしか表には出てないのよね。
 ヴァレリーはレグの動き回れる範囲内にはいないし。
 ヒルダや『闇を統べるもの』といると、身の危険が心配だしw
 とりあえず、こんなところです。しばらくはレグと話を出来る環境になりました。逆に、脱出しようとして他の面子に見つかったら大ピンチですw
 どうなるジェス!?
 いや、本当にヒルダさんには見つからない方がいいでしょう。マジで鬼畜ですから、ものすごい事されたりしますよ。きっとw 
 人質とか見せしめとかいう言葉が好きだったからなぁ(しみじみ
 
 非常に限定された環境下ではありますが、ここから漂流都市に突入します。頑張ってください。
 それではまた。次回のプレイングに期待しています。