<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


お宝奪還大作戦!〜悪の栄えた試しなし

「と・・・取り返すって、なんで私が!!」
「当たり前でしょう?人を絶望のどん底に叩きつけた責任、取りなさい。」
顔面蒼白で叫ぶリーディスにレムは人の悪い笑みで有無を言わせず断じた。
にらみ合う二人の間に挟まれて、おたつく青年。
数分の沈黙が流れた後、観念したようにリーディスはうざったそうに髪を掻き揚げた。
「分かったわよ。やればいいんでしょう?ただし手伝いが必要よ。」
「ええ・・・でも、探さなくてもいいみたいね。」
鋭く瞳を細め、ねめつけるリーディスにレムは小さく片眉を上げて微笑をこぼす。
何気なく青年がその視線を追った先に、二人の人物が歩み寄ってくるのが見えた。

「手伝ってやってもいいぞ。」
シグルマは酒を煽りながら飄々と応じられ、感謝の念を口に仕掛けた青年は次に放たれた言葉に凍りついた。
「報酬は取り返した宝石の半分だぞ。」
「あら、それはいいわね。4分の1で構わないから頂くわ。」
満面の笑顔で言い切るシグルマにリーディスも乗ってくるから、たまらない。
信頼できる人物だから大丈夫よ、と早々に店を出て行ったレムの笑顔が怨まれてならない。
が、救いの神はある。
この時、沈没しかけた青年に救いの神は確かに存在した。
「話は聞かせて頂いた。恐喝同然の買い取り方も問題だが……この金貨。贋金となれば大事だ。放っておくわけにはいかぬ。」
憤然と怒りを露にするアレスディアに心から青年は安堵を覚える。
性格に難ありだが信用に足る人物と言われるレディ・レムが信頼できると言い切ったのだ。
今は彼らを信じて行動するしか道はない。
青年は腹をくくると、三人に向き合うと改めて頭を下げた。
「厄介なことなのは重々承知しております。宝石を取り返すことも大事ですが、贋金も見過ごせません。どうかお力をお貸しください。」
真っ正直に頭を下げられ、シグルマとリーディスはあらぬ方向を見て、照れくさそうに頬を掻き、アレスディアは承知したとばかりに深々とうなずいた。

「ともかく連中の尻尾をつかまないといけないわね。」
「そうだな。まずは情報を集めよう。」
「めんどくせーな。こいつを持ってちょいとばかり脅しかけりゃいいだろう?連中だって、贋金作りは重罪だって分かってんだからよ。」
あっけらかんと言い放ってたシグルマに真面目な相談を始めたリーディスは思わずこめかみを押さえ、アレスディアは言葉を失う。
「確かに、そうすれば事は済みますよ〜」
「だろ?ちょいと知り合いの役人にいってやるって・・・・・」
「言った瞬間、逆に役人呼ばれてこっちが贋金作り犯ですよ〜。ついでに恐喝容疑まで上乗せされて牢獄行き決定ですって〜」
胸を張ったシグルマは半泣き状態の青年に指摘され、思わず言葉に詰まる。
一見根性がないお坊ちゃまかと思いきや、意外に頭が回る、とアレスディアは思わず感心した。
相手は宝石を脅し取って贋金を押し付けるような悪党だ。
真正面から乗り込めば、今指摘された事態になるのは目に見えている。
下手に動けばこちらが不利になる可能性もゼロではないのだ。連中が気付く前に証拠をそろえるためにも慎重かつ迅速に動かなくてはならない。
それが絶対条件だ。
「けど、その手は全く使えないって訳じゃないわね。」
「え?」
「考えがあるわ。このリーディス様に任せなさい!!」
無意味に胸を張って笑い出すリーディスに、誰もが、アンタに任せたら不安だよっ!!と心のうちで叫ぶ。
さすがにどういさめるべきかと考えたアレスディアとシグルマだったが、それは杞憂で済んだ。
なぜなら。
「リーディスさん、レムさんから伝言です。『アレスディアとシグルマの指示に従え。策があるなら相談しろ。でなきゃ、はり倒す!』だそうです。」
タイミングを計ったようにルディアの言葉にリーディスは一瞬にして生ける彫像と化した。

「しっかし商人ってのは客が多いな〜」
「でも、美学のかけらもないわね。無駄に貯めこんでる証拠よ。」
小さくあくびをかみ殺し、無用に、というか、無駄に派手ででかい屋敷を物陰から見張るシグルマのぼやきにリーディスは何の根拠があるか分からないが、猛然と声を荒げる。
まぁ気持ちは分からなくもない、とシグルマは頭の隅で思う。
こちらが地味で地道に偵察を強いられているのに、明らかに上質な生地を使った衣服やら宝石やらを詰め込んだと思われる荷物が運び込まれるたびに悠然と迎え入れる商人の姿を見れば怒りたくもなるものだ。
もっとも単なる八つ当たりでしかないと充分にわかってもいる。
だが、思ったよりも地味な活動に鬱憤をつのらせ、シグルマに当り散らすリーディスに少々、いや、かなりうんざりしていた。
こうなると分かっていたら、能天気な青年を残すべきだったと多大に後悔する。
情報収集と偵察の二手に分かれて証拠を見つけることにし、時間と落ち合う場所を決めるとそれぞれ行動を開始した。
シグルマとリーディスは贋金作りで宝石を脅し取った商人の屋敷の偵察に。
アレスディアと青年は商人達の情報収集を行っていた。
あんまり体力のなさそうな青年は偵察にまわした方がいいのでは?とシグルマが提案したのだが、リーディスが難色を示した。
―私、情報収集なんて地道な作業は向かないのよ。
胸を張って威張る割に、すでに飽き飽きしているのだから返す言葉が見つからない。
情報収集に向った二人が早く戻ってこないかと、何度目かのため息をついた時、ふいにシグルマの瞳がある光景を捉え、閃いた。
ぶつぶつと文句を言っていたリーディスも面白いものを見つけた子供のように表情を輝かせる。
彼らの視線の先にあったもの。
辺りの様子を伺いながら、大切そうに麻袋を抱え込んだ運び屋らしい若者が入り口を固めていた用心棒の一人に案内されて、屋敷に入っていくところだった。
「怪しいな。」
「ええ、思いっきり怪しいわね。」
どこかリーディスの声が弾んでいるのは気のせいではないと思いつつも、シグルマはようやく目的のものを得られるとばかりに屋敷へと乗り込んでいった。

「これはこれは・・・・・・魔道彫金師・レディ・・・・・・」
「リーディスよ。」
「失礼しました、お客人。それでご用件とは?」
殺気が混じったリーディスの笑顔に頬の辺りを引き攣らせながら、商人は何とか笑みを張り付かせる。
予想外の来客に慌てている状態がよく分かり、シグルマはにやりと口元をにやりとゆがめると懐から青年から預かった贋金を懐から取り出し、テーブルの上に転がす。
「珍しいメダルを拾ったんだが、宝石と交換してくれねーか。この店なら取引してくれると思ったんだがな、駄目ならメダルに興味のある知り合いの兵士に相談してみるかな。」 
瞬間、商人と背後に控えていた用心棒達の顔色があからさまに変わる。
しかしそこは手強い商人。
即座ににこやかな表情を浮かべると、二人をねめつけた。
「何のご冗談ですかな?当方ではこんなものに心当たりはないのですが・・・・・・」
「あら、そうでしたの?」
「そうですとも。手前どもは贋金などに心・・・・・」
とぼけたリーディスに安堵して口走った運び屋の言葉に商人が殺気混じった視線を向ける。
青ざめた表情で逃げ出そうとする運び屋をシグルマは見逃さず、軽い身のこなしでその行く手を阻む。
「どういうことだ?坊主。」
「私達は極めて珍しいメダル・・・としか言ってませんわ。」
「それがどうして贋金だなんて分かったんだ?」
鋭い追及に運び屋は泣き出しそうな顔をして商人を見た。
視線を向けられた商人は忌々しげに舌を打つと、用心棒たちに目で合図を送る。
ふいに生じた殺気にシグルマはとっさに身をかわし、リーディスは逃げなさいと悲鳴に近い叫びを上げた。
次の瞬間、鉄混じりの血臭が部屋中に漂う。
呆然とした表情のままその場に倒れ伏す運び屋にリーディスが駆け寄り、無防備になったその背に用心棒達の凶刃が振り下ろされ―凄まじい金属音を高鳴らせ、数本の剣が宙を舞う。
「ふざけた真似してくれんじゃねーか!こいつが持ち込んだ銅やら銀やらが見つかるとそんなに厄介なのか?」
怒りを爆発させ、二対の剣を閃かせるシグルマに商人は倒れ伏した冷ややかに見下すと、ひどく緩慢な動きで彼らを見た。
その表情は驚愕に彩られている。
今切り捨てた運び屋が持ち込んでいたものを正確に言い当てるなど考えもしなかったのだろう。
だが、一応腕利きの彫金師であるリーディスの目はごまかせるはずがない。
あの異常なまでの周囲への警戒ぶりと麻袋の重さから中身が貴金属であることは充分に分かった。
だからこそ踏み込み、突きつけたのだ。
「そこまで気付くとは捨て置けませんね?」
小さく眉を上げると、商人は面倒な書類にサインをするかのような動きで片手を上げる。
それを合図に凶器を手にした用心棒達が雪崩を打って現れた。
往生際が悪いとはこのことだ。
シグルマは舌を撃つと、襲い掛かってくる用心棒たちを迎え撃ちだした。

「ふざけやがって!普通、いきなり仕掛けてくるかよ?!」
「仕方がないでしょう?こうなったら徹底的にやるしかないわね。」
正気を失い、目を血走らせた用心棒の一団を叩きのめしながら、愚痴をこぼすシグルマにリーディスが冷ややかかつ楽しげに応じる。
だが、そこに手心など一切ない。
手加減無用と言い放ったのだから当然だが、二人とも後悔の念などはない。
わだかまった血だまりの割に傷が深くないことに安堵しながらも、リーディスは床の上で苦しそうに呻く運び屋を手際よく治療しながら、魔法を繰り出す。
決定的な物的証拠を突きつけられ、追い詰められた商人はあろうことか二人の目の前で用心棒達に運び屋を切り捨てた。
その瞬間、彼らが激怒したのは言うまでもない。
結果、数では圧倒的に上回っているが、実力差でシグルマとリーディスが完全に優位に立っている。
「余計な事を知ったあなた方がいけないのですよ?私どもの代わりに罪人になっていただきます。」
と、にこやかにのたまわってくれた商人だったが、鬼気迫るシグルマの剣戟に色をなくした。
―ここまで来て捕まっては意味がない。
不利を悟った商人は殺気立っている用心棒達にその場を押し付けると、ご丁寧に手近にあった宝石類などをかき集めて逃げ出した。
どこから現れるのか分からないほどの用心棒達を倒しながら、シグルマは目の端で商人が逃げ出すのを捉え、怒鳴り声を上げる。
「逃げるんじゃねーっ!!悪党がっ!!」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!小悪党の分際で生意気よぉぉぉぉぉぉっ!!!」
その叫びにリーディスも気付くが、怪我人のそばから離れる事ができず、ヒステリックな絶叫をあげながら群がる用心棒達に八つ当たる。
屋敷の廊下を数人の用心棒に守られながら、商人は肩を怒らせながら足早に歩く。
鉱山側の奴らに味方した元締めを陥れるために、策を巡らし、ようやくここまできたというところでこんな目に遭うとは納得いかない。いや、できるわけがない。
自分はここで終わらない。終わってはならない人間なのだ。
そのためには少々の犠牲が出るのも厭わなかった。それが当然だと思っている。
「あんな小僧、私のために死んで当然だろうが・・・光栄に思え。」
傲慢極まりない呟きがこの商人の全てを物語っていた。
だが、悪事を働いたものには必ず報いを受けるもの。
古今東西の歴史がそれを語っている事である。
そして、この商人にもそれは等しくかかるものだった。

「そこまでだ。大人しくしていただこう。」
通用口に差し掛かった商人達の耳に凛とした声が届く。
闇を切り取ったかのような漆黒の衣を身に纏った年若い女―アレスディアが悠然と立ちふさがり、商人は忌々しそうに舌を打つと、両脇に控えていた用心棒たちを顎でしゃくる。
心得たとばかりに切りかかる用心棒の攻撃を流水のごとき動きでかわす。
鍛え上げられたしなやかな動きに追いつかず、踏鞴を踏む用心棒にアレスディアは手にした漆黒の槍を瞬時に鋭く閃かせ、鳩尾に強烈な一撃を加える。
「覚悟を決められよ。組合から官憲に通報されている・・・逃げ場はない。」
奥から怒りに顔を染めたシグルマがかけて来るのが見つめながら、用心棒を倒され、呆然となった商人にアレスディアは冷然と言い放つ。
残っていた用心棒達も官憲という言葉に凍りつく。
逃げ場はどこにも残っていないと悟ったのか、商人は突然狂ったように高笑いを始めた。
その姿にアレスディアは怪訝な表情を浮かべ、駆けつけたシグルマも同様に呆気にとられる。
「ただで捕まるものか!お前達も一味だと言ってやるわ!!」
道連れにしてやると、叫ぶ商人。
傲慢を通り越した身勝手な言葉に二人は返す言葉が見つからず、立ち尽くす。
状況的に考えればありえないが、保身のために部下を切って捨てたくらいだ。
そのくらいの事はやるかもしれないな、とシグルマが頭を掻く。
「いいえ、そんなことにはなりません。」
アレスディアの背後からゆったりとした足取りで現れた青年の場違いなまでに穏やかで静かな声が朗々と響く。
だが、その声音には抗うことは許さぬ強さが滲んでいた。
呆気に取られるアレスディアとシグルマに一礼すると、青年は懐から黒ずんだ銀時計を取り出し、商人に突きつけた。
「これが何を示すかお分かりですね?覚悟を決められよ。」
にこやかな青年の笑顔に商人は糸が切れた人形のように崩れ落ち、官憲たちを引き連れてやってきたリーディスも思わず呻きに似た声を上げた。
青年が持つ銀時計―それは隠密監察官の証だった。

「ご協力ありがとうございました。」
純朴としか言いようがない笑顔でにっこりと笑う青年にシグルマは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
この信じがたい外見が隠密監察官には必要なんですよ、と説明され、思わず納得してしまう。
一見して田舎者にしか見えないお坊ちゃん育ちで、用心棒に脅されたぐらいであっさり宝石を取られた挙句、贋金を押し付けられるような人間が実は監察官などと誰も思うはずがない。
だからこそ、その盲点を最大限に利用して、金属横領及び贋金製造犯を追い詰めることができたのだ。
一味は全て捕まり、被害は最小限。横領されていた銀や銅が無事回収され、一件落着。
だったが、依頼人が官憲たる隠密監察官では予定していた報酬は当然・・・・・もらえるはずがなかった。
その時点でシグルマはがっくりときたが、天は彼を見捨てはしなかった。
「ああ、忘れておりました。」
青年は何かを思い出したように懐から手のひらに乗るほどの革袋をシグルマに差し出した。
「何だよ?こいつは。」
「今回の報酬です。」
やはりご協力頂いたのに何もしないではいけませんからね、とのんびりとした口調でのたまう青年にシグルマはがばりと立ち上がる。
思わぬ重さに息を詰め、恐る恐る革袋を開けると、そこには予想通りのものが納められていた。
「い・・・・・・いいのか?」
「もちろん。上司からの許可もあります。どうぞお納めください。」
悪党に渡るよりも有意義な使い道だと、言う青年に大きくうなずきながらも、やはり悪が栄えたためしはないな〜と実感するシグルマだった。

FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2919:アレスディア・ヴォルフリート:女性:18歳:ルーンアームナイト】
【0812/シグルマ/男性/29歳/戦士】

【NPC:リーディス】
【NPC:レディ・レム】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、緒方智です。
このたびはご依頼頂きましてありがとうございます。
お待たせしまして申し訳ありません。
はた迷惑な人物に振り回されつつも、無事事件は解決。多少のどんでん返し要素もございましたが、いかがでしたでしょうか?
青年の言葉ではありませんが、本当にご協力があればこそ、です。
ではまたご機会がありましたら、よろしくお願いいたします。