<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『シシュウ草を探して〜魔女の罠/偽りか真実か〜(後編)』

「久しぶりの上玉だ。このパーツ、是非とも手に入れたいものだ」
 女はくすりと笑った。
 手の中の水晶玉を2度撫でた後、頬杖をつきながら覗き込む。
 水晶玉には少年が3人映し出されている。
 主にそのうちの1人を、女は嘗め回すように見つめていた。

**********

 怯えていたダラン・ローデスが銃型神機を拾い、虎王丸の方へと向けた。
「ダラン!」
 途端、倒れこむように凪がダランに覆いかぶさった。
「とりあえず落ち着け」
 体力を失っているため、力ずくで止めることは難しい。身を預けるように、蒼柳・凪はダランを抱きしめた。
 状況を理解出来ていないが、こうすれば虎王丸も斬りはしないだろうし、ダランも虎王丸を撃つことはないだろうと踏んだ。凪がダランに飛びついたのと同時に、虎王丸は姿を消していた。
「落ち着け、ダラン。これは恐らく洗脳の罠だ。俺の中に何かが浸食してくる様を感じた。多分、お前か虎王丸、もしくは2人共その影響を受けているんだ。気をしっかり持て! 虎王丸は敵じゃない。銃を下ろしてくれ。そして一旦ここから出よう」
 凪の言葉を受けてか、ダランの手から銃型神機が落ちる。
「凪、お願いがあるんだ」
 ダランの声は静かであった。
 落ち着きを取り戻したのかと、凪は体を離してダランの目を見た。
 すっと、ダランの両手が上がった。
「少し、眠っていて」
 瞬間、ダランの両手が凪の首を掴んだ。
「ダラ……ッ!」
 強い力で締め付けられ、息が詰まる。
 同時に、ダランの手を通して、何かが凪の体に入……戻ってくる。凪が切り捨てたはずの力だ。
 自分の中に魔力が戻る感覚と、自分を内側からも押さえつけようとする力を感じる。
「く……っ」
 とにかく、ダランの手を外さねば――。
「ダラン、てめぇ!」
 声とともに、ナイフがダランの頬を掠め、壁に突き当たり落ちた。
 一瞬ダランの力が緩んだ隙に、凪はダランの手から逃れ、間をとった。
 軽く咳き込むが、意識ははっきりしている。
「凪を傷つけた俺を許さないとかのたまってたくせに、てめーは何してんだよ!」
 声の主は虎王丸だ。投げつけたナイフの他、武器を持ってはいないようだ。
「虎、王丸。これはこの場所に仕掛けられた洗脳の罠だ。ダランを連れてここから出ろ!」
「了解!」
「うわああああっ」
 虎王丸が近付くと、ダランはすばしっこく逃げて凪の後ろに隠れる。
「そんな事いって、アイツは俺を斬るつもりなんだ! 虎王丸を近付けたらダメだ!!」
 ダランを追う虎王丸の動きが硬い。
 顔をしかめ、何かに抵抗しているように見えた。
 洗脳に抗っているのか?
 しかし、今の凪の体力ではダランを1人でここから引き摺り出すことは不可能と思えた。
「ダラン、とにかくここから出よう。見ろ、虎王丸は武器を持っていない」
「嫌だー! 武器を持っていなくても、俺のことくらい簡単に捻り殺せるんだ、あいつは! ここが一番安全なんだ! 虎王丸を追い出してよ、凪ー!!」
 虎王丸は動かず、何かを口にしようとしているのだが、声が届かない。なんらかの力で声が封じられているようだ。
 凪は頭痛に抗いながら、魔力の流れを感じ取る。
 ダランから放たれた力が、虎王丸を締め付けている――。
「俺を信じてよ、凪! さっきのも凪を攻撃したんじゃないんだ。少し眠っててもらって、その間に自分で全て終わらせようと」
「信じるよ、ダラン。……それがお前の本当の言葉なら」
 凪は渾身の力を込めて、ダランの腹部に肘鉄を食らわせた。
 声を上げることもなく、ダランが倒れる。
 途端、大きな力がダランの中で膨れ上がる。
「虎王丸、早くダランを!」
 凪の言葉が終わらないうちに、虎王丸が動き、ダランの体を放り投げた。
「超特急で出口にご案内〜ってな」
「馬鹿、手荒すぎだ!」
 すぐにでも駆け寄りたいところだが、体に力が入らず、よろめいてしまう。
 虎王丸が凪の手をぐいと引き上げた。
 二人の目が合う。
 大丈夫だ。いつもの虎王丸だ。
 魔力の影響も感じられない。
 安心して力が抜けそうになるが、今はダランが心配だ。
 凪は虎王丸に支えられつつ、ダランの元へと急いたのだった。
「傷だらけじゃないか」
 投げられたダランは、擦傷だらけであった。しかし、打撲などはないようだ。
「投げる前と大して変わんねーよ」
 言われてみれば、そうだ。罠の空間にいた時から頬に傷があり、体にも擦傷があった。
「俺が気を失ってる間に、何があったんだ?」
 剣を拾う虎王丸に問う。
「それはだな……。いや、そんな事より、早く採るもの採って帰ろうぜ。説明はあとあと!」
「そうだな」
「で、どうすれば、罠にかからずにすむんだ? てゆーか、俺はずっと正気だったぜ」
「魔力……霊的な力か」
 凪は呟きながら、今まで起こったことを思い巡らす。
「あの場所に入った途端、俺の中の霊力や精神力に類するエネルギーが侵食され変換されそうになったんだ。抵抗しているうちに、何か別の思念が入り込んでくるような感覚もあって……」
「……なんだかよくわかんねーけど……つまり、自分の力が自分のものじゃなくなっちまうとかそんなカンジかよ?」
「まあ、そんなところか」
 それ故に、凪は力を体外に放出したのだ。
「んじゃ、奥には俺1人で行ってくるぜ! それなら、万が一洗脳されても、傷つける相手がいねぇしな」
 2人共、罠の空間の先に、扉のようなものを確認していた。多分そこが目的地だろう。
「そうだな……。侵食は一気に行われはしない。急いで駆け抜ければ虎王丸なら、大丈夫だろう」
 共に行きたいところだが、ダランをこのままにしてはおけない。凪自身も著しく体力を失っているため、足手まといになりかねない。
「あ、虎王丸……」
「分かってるって! 草以外にも色々役立ちそうなもの、山ほど持ってくるからよ!」
 にやりと笑みを残し、虎王丸は扉の方へと駆けて行った。
「っ……」
 舞術でダランと自分の回復を図れないかと考えるのだが、いまだ続いている頭痛と眩暈で集中ができない。
「少し休めばなんとかなるか……」
 凪は壁によりかかり、ダランの手を掴むと目を閉じた――。

「凪、なぎー!」
 体を揺すられて目を覚ました。
 今にも泣き出しそうな顔で自分を見ているダランの姿がある。
 掴んでいた手は離していない。
「凪! よかったー」
「大丈夫。ちょっと眠ってただけだ」
「眠ってたって……凪、すんげぇ苦しそうだった。何かと戦っているみたいで、虎王丸と俺、凪を止めようとしたんだけれど、できなくて……。で、虎王丸の姿がないんだ。凪に借りた銃型神機も見当たらないし、なんか体中痛ぇしー!」
 その瞳には涙が浮かんでいる。
 どうやら、洗脳されていた時の記憶はないようだ。
 手を離し、ダランの肩を叩いて、凪は起き上がった。
「虎王丸はすぐに戻ってくるはずだ。それまで、傷の手当てをしよう」
 頭痛は随分と和らいだ。
 凪は回復効果のある舞を始める。
 半泣き状態だったダランだが、今は真剣に自分を見つめている。
 凪の動き一つひとつを目に焼き付けるような瞳。
 多分、覚えようとしているのだろう。
 泣いていてはダメだ、役に立ちたい――そんなダランの思いが聞こえるようであった。
「今のは、『天恩霊陣』っていうんだ」
 一通り舞い終えると、凪はダランに舞術の説明を始めた。

 大量の収穫物を背負った虎王丸と合流し、3人は帰路についた。
 帰りは3人とも別の理由で歩きは遅かった。行きの2倍ほどの時間をかけて、出口に辿りつく。
 体を引き摺るようにファムルの住処へと戻ったその時は、既に夜になっていた。
 凪は少し眠った後、収穫物を確認することにした。
 使い方の良く分からないマジックアイテムが3つほど。腕輪と派手なバンダナ、それとベルト。
 あとは家具や雑貨ばかりだ。それらにも、多少の魔力を感じる。
 肝心の草はダランからファムルに渡された。
「よーし、完成!」
 虎王丸は今回の収穫物を収納する倉庫を作っていた。
 出来上がった倉庫は、廃材で囲っただけのものであったが、それなりの出来だ。
「それじゃ、凪!」
 振り向いた相棒の顔は、一仕事を終え晴れやかだった。
「メシ行くぞ!!」
 そう言って、座っていた凪の手を掴み引っ張り上げた。
「虎王丸、まだ解ってないことが……」
「いいから、メシだメシ!」
 虎王丸に引っ張られ、凪は慌しく診療所を出ることとなった。
 ダランは戻った途端倒れこみ、眠ったままだ。よほど疲れたのだろう。
 食事を摂ったら、また戻ってこようと思いつつ、凪は虎王丸と共に近くの食堂に向ったのだった。

※本日の成果
シシュウ草/3株(およそ1回分)
サクサ草/1株
トナル草/3株
マジックアイテム/3種類
家具
雑貨
その他
薬の使用/なし

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】

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■         ライター通信          ■
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前後編お疲れさまです!
今回登場した魔女ですが、今後のソーンでのノベルに多々登場する予定です。
それとは別に面会を希望される場合は、ゲームノベル「ファムルの診療所」から発注いただければ幸いです。
ご参加ありがとうございました。