<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『白山羊亭クイズバトル!』

 日頃のご愛顧を感謝し、白山羊亭でクイズ大会が行なわれることになりました。
 優勝者には、賞金10Gと、副賞として全メニュー1日食べ放題券が贈られるそうです。
 更に今回は、看板娘ルディア・カナーズからの特別賞もあるそうです。

「ねえねえねえねえ、靴下見せてよー」
 大会当日になっても、キャトルはルディアに付き纏っていた。
「キャトルさん、その他の答えは書けたのですか? もうすぐ時間ですけれど」
「やっぱり、全然わかんない」
 ちらりと見れば、酒場には既に多くの参加者が集まっている。常連客には簡単な問題なのかもしれない。
 キャトルはルディアから離れて、知り合いの男の側に寄る。
「ねえ、答え教えてよ」
「単刀直入だな」
 男……ファムル・ディートはキャトルの言葉に苦笑する。
「いいじゃん、どうせ薬でルディアを思いのままに操って、あんなこととかこんなことまで聞き出したんだろ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃないっ」
「いいじゃーん、減るもんじゃないし」
「こら!」
 キャトルがファムルの解答用紙に手を伸ばしたその時。
「こんにちはあ」
 酒場に、綺麗な声が響いた。
 現れたのは、酒場や街中で良く見かける少女――歌姫のミルカであった。
 ミルカは店内を見回して、皆に会釈をした後、解答用紙を奪い合うキャトルとファムルに近付いたのだった。
「お兄さん達も、クイズ参加者よねえ?」
「うんそう! あんたも参加すんのー? 答えなら教えないよ」
 ミルカの問いに返事をしたのはキャトルだった。
「ううん、答えなら、さっきあちらの人に聞いたから」
「ええっ、ホント!? おっじさーん、あたしにも教えてくれよー!」
 故意か無意識にかキャトルを追い払い、ミルカはファムルに微笑みかけた。
「隣、座ってもいいですかあ?」
「どうぞどうぞどうぞー! 汚い席ですが」
 ルディアが聞いたら怒りそうな台詞だ。
「答え書いたんだけどお、答え合わせさせてほしいなあと思って。お兄さん頭よさそうだし」
「答えあわせ答えあわせ答え〜合わせ……うーむ。したいところではあるが、当座の生活費がかかってるんでな。答えを教えるようなことは……」
「教えて欲しいんじゃなくてえ、見せ合いっこしましょうってことで。お兄さんちょっと好みだし、一緒に優勝したいなあ」
 ミルカは椅子をファムルに近づけ、甘えるような仕草で上目遣いをする。
「こ、こここ、好み!?」
 十何年ぶりかの言葉に、ファムルは思わずミルカの両手を掴んだ。
「では、賞金は二人の結婚資金にしよう!」
「それは、ちょっと気が早いかもお? あたしまだ17だし。でも、将来のということでえ」
「若いと思ったら、まだ17か……。では、二人の将来の為に!」
 言ってファムルは、最後の問題の答えを書くと、解答用紙をミルカに手渡した。
 ミルカも持って来た用紙をファムルに手渡す。
「……」
「……」
(あ、なるほどお、ルディアちゃんはそう呼ばれてるわよねえ。最後の答えは3? もっと参加者いるのに。なんでだろう?)
(……ほぼ完璧じゃないか。しかし、最後の問題は今の時点では彼女にはわからんか)
「ここ、どうして3なの?」
 ミルカは小声でファムルに聞いた。
「この問題はな、自分で人数を定め、それ以外の参加者は排除しろという問題なのだよ。これはクイズ「バトル」だからね」
「ええ!? そうなのお? でも、脅迫や暴力は禁止でしょう」
「ふふふ、脅迫や暴力だけではなくとも、参加者を減らす手段はあるのだよ」
 ファムルが不気味に笑った直後、ルディアの軽快な声が響いた。
「では、解答用紙を回収します。参加者の方はペンを置いてください」
 ミルカは急いで解答用紙の答えを直してペンをしまうと、ルディアの立つカウンターに体を向けた。
 ルディアが参加者を回り、用紙を集める……。
「あれえ??」
 ルディアの元に集まったのは、3枚だけであった。
「他に参加者はいませんか?」
 ルディアの声に反応する者はいない。
 ……よく見ると、幾人かの客が机につっぷして眠っている。解答用紙を抱えたままの者もいる。
(薬で眠らせたのかしら?)
 ミルカは遅く来たため、ファムルの策略にはまらずにすんだようだ。
「では、発表しまーす」

第1問(10点満点)
ルディアちゃんといえば、白山羊亭の看板娘です。
街中では〜娘と評判のルディアちゃん。
さて、何娘と評判なのでしょう?

ミルカの答え
『元気で明るい娘』
と書いたようだが、「で明るい」に二重線が引かれている。

ファムルの答え
『元気娘』

キャトルの答え
『看板娘』

「……キャトルさん、答えそのまんまじゃないですか。これは引っ掛け問題じゃないですよー」
「えー、〜娘にちゃんと当てはまってるじゃん。間違いってわけじゃないだろー!」
「いいえ、間違いです。答えは「元気娘」です。皆さん、ありがとうございます。今日も元気に頑張りまーす!」
 ルディアが礼をすると、酒場内に拍手が起こる。

第2問(20点満点)
冒険者の皆様と、冒険に出ることもあるルディアちゃん。
酒場では靴下を履いていませんが、冒険に出る時にはきちんと履いて出かけます。
さて、冒険中のルディアちゃんの靴下は何色でしょうか?

ミルカの答え
『茶色っぽい黒』

ファムルの答え
『黒』

キャトルの答え
『白』

「うわー、ミルカさん、よくご存知ですね! 黒でも正解なのですが、素敵な答えを頂きましたので、ミルカさんの答えを満点として、ファムルさんは8点にいたします。……キャトルさんは残念!」
「うーーん、冒険に誘えばよかったっ」
 キャトルは頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

第3問(20点満点)
ルディアちゃんは、白山羊亭新メニューの丼物の材料を買いに出かけました。
鶏肉、玉葱、椎茸を買い、銀貨1枚を支払いました。
さて、新メニューはいくらでしょうか? 理由も書いてね!

ミルカの答え
『違う』
理由:イクラは買ってないもの。そうねえ、材料から察するに、多分親子丼だと思うんだけど、どうかしら?

ファムルの答え
『×』
理由:いくら→イクラ。材料が違うので、イクラ丼ではない。

キャトルの答え
『銀貨2枚』
理由:1人前の材料として、儲けを得るため、倍の値段で販売する。

「ミルカさんの答え、完璧です。そう、その材料に卵を加えると親子丼ができます。ファムルさんも正解ですね」
「えーえーえーえーえーえー! 何その答え!? いくら?って聞いたら、普通値段だと思うじゃん!」
「だから引っ掛け問題だって、注釈に書いたじゃありませんか……」
「えーえーえーえーえーえーえーーーーー!!」
 キャトルがじたばたわめいているが、次の問題へと進む。

第4問(20点満点)
ある晩、白山羊亭は大混雑していました。
お客様に、餡蜜を頼まれたルディアちゃんは、急いで厨房に行き、冷蔵庫を開けました。
しかし、冷蔵庫に餡蜜はありませんでした。
変わりに一枚の紙切れが入っています。
そこには、こう書かれていました。
「さありをきれらしてしまったので、かんみれはありぶんだれせません。てんちょー」
メモを見たルディアちゃんは、こう叫びながら、お客様のところに駆けていきました。
「ありがとう! レトルト!!」
さて、店長のメモは、どう読むのでしょうか? 理由も書いてね!

ミルカの答え
『砂糖を切らしてしまったので、甘味は当分出せません。店長』
理由:ルディアちゃんの台詞から考えてみたのよ。「あり」が「とう」に変わって、後は「れ」を取るのう。

ファムルの答え
『さとうをきらしてしまったので、かんみはとうぶんだせません。てんちょー』
理由:ありがとう→あり「が」とうに変わり、レトルト→「れ」をとると、砂糖を切らしてしまったので、甘味は当分出せません。てんちょー。となる。

キャトルの答え
『砂蟻をキレらせたので、カンミレハ・アリブンって誰? 知りません、店長』
理由:砂蟻を怒らせたら、カンミレハって人が店に乗り込んできた。でも誰だかわかんない、店長もわかんない。とりあえずレトルトだしとけ。そんな会話。

「……キャトルさん、無理があります。ミルカさんとファムルさんはご名答ー。さすがですね」
「うぐっ、なんかあたし、馬鹿って言われてる気がする……」
 諦めたのか、キャトルはテーブルにつっぷした。

「さて、次は最後の問題ですね」

第5問(30点満点)
このクイズの解答者は何人でしょう?

ミルカの答え
『3』
5と書いてあったが、3に書き直してある。

ファムルの答え
『3』

キャトルの答え
『9』

「答えは、ご覧のとおり、3名ですー」
「なんでー! そこのおじさん達も、参加するって言ってたのにぃぃぃぃぃー!」
 キャトルが最後の叫びを上げた。
「優勝は、満点のミルカさんですー!」
「うわあ、やったあ!」
 まさか満点とは思わず、ミルカは立ち上がって手を打った。特に最後の問題は勘でしか答えられないはずなのに。
(やっぱり睡眠薬で眠らせたのねえ。時間ぴったりにみんな眠ちゃうなんて、凄い薬ねえ)
 眠った客が起きる気配はない。
 白山羊亭クイズバトルは、ファムルを手玉にとったミルカの完勝であった。
「皆様の答えは、当分の間、掲示板に張り出しておきます。優勝者のミルカさんは後ほど写真を撮らせてくださいね」
「はあい」
 賞金を受け取りながら、ミルカは笑顔で答えた。
「張り出されたら……自分の解答用紙やぶってやるやぶってやるやぶってやるんだ……」
 つっぷしたままの少女から呪言のような呟き声が聞こえる。
「おめでとう! 挙式までにもっと金を貯めねばなぁ」
 ファムルもご機嫌である。ミルカの手を上下にぶんぶん振る。
「だねえ」
 もっとも、ミルカの結婚相手は違う男性だろうが。
 ちなみに、特別賞は該当者ナシであった。

 さて! 問題です。
 この後、目を覚ました客達がファムル・ディートにした仕置きはどれでしょう〜?

1)袋叩きの上、簀巻きにして川に流した。
2)身包み剥いで、街路樹に括りつけた。
3)無理矢理酒を飲ませ泥酔させた後、女風呂に放り込んだ。

 答えは、白山羊亭を訪れればわかります。
 おっとりした可愛らしい歌姫が、今日も酒場で詠っていますから!

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3457 / ミルカ / 女性 / 17歳 / 歌姫/吟遊詩人】
【NPC / ルディア・カナーズ / 女性 / 18歳 / ウェイトレス】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 無職】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

初めまして、ライターの川岸です。
クイズバトルにご参加いただきありがとうございました。
今回のイベントは、ファムルをその気にさせたミルカさんの完勝ですー。
また何かお目にとまりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。