<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


私を食事に連れてって


 黒山羊亭は“濃い”。
 歓楽街ベルファ通りきっての酒場であり、世話好きで姉御肌な美貌の踊り子エスメラルダがおり、一癖も二癖もある連中が集う。
 ゆえに、解決・決着を求めて持ち込まれる案件もあれば、愚痴をこぼしているうちに依頼同然になるネタもある。

 今回の場合は――

「それは……大変ねえ」
「最悪です」
 美女の隣という特等席にいながら、カウンターに両肘をついて頭を抱えているのは、がりがりに痩せた青年。身形こそ立派なものだが、青白い細おもてに薄い眉、尖った顎がいかにも貧相、もとい、薄幸そうだ。
「いくらなんでもあんまりです。相続した屋敷が悪霊どもの溜り場に――」
 言葉半ばで青年は、ひい、と悲鳴と共に飛び上がった。
 彼の肘あたりで、なにやら細長い物体が複数うごめいていたのだ。次いで足元から陰陰とした声が、
「うふふふふ……ご馳走の予感んん〜〜」
 スツールから転げ落ちかけた青年をとっさに抱き寄せ――居合わせた客連中から口笛とヤジが飛ぶ――、エスメラルダは床にわだかまる闇を軽く睨んだ。
「いつの間に湧いたの、ズィーグ」
「やだなあエメダちゃんたら、さっきからいましたよう」
 へらへら笑って立ち上がったのは顔馴染みの“あやしいあめ売りの乙女”ズィーグである。全身黒ずくめなところをみると、今日の仕事は終わったらしい。
「ちゃんと音を立てて扉を開けて気配を消さずに歩いてらっしゃいって、いつも言ってるでしょ? それと、変な略し方で呼ばないで」
 だがズィーグは聞いちゃいなかった。
「悪霊の館!――なんて美味しそうな響きでしょうか。そちらの若旦那、このゴーストイーター・ズィーグめにお任せあれ、衰え知らずの吸引力はどこぞの誰かのお墨付き、どんな幽霊も片っ端から鵜呑み丸呑みウッハウハ♪」
 先程カウンターの縁で怪しくくねっていた指を“わきわき”させ、舌なめずりしながら売り込みにかかるズィーグに、相変わらずエスメラルダに抱えられたままの青年が慌てて叫ぶ。
「待ってください、中にはご先祖様もいらっしゃる筈なんです!」
「まあ細かいことはお気になさらず」
「だ、駄目ですよ!」
「冗談ですって。横で指示していただければ、きっちり悪霊だけ狙います」
「でも僕、怖いの苦手で……」
「ああ、それなら大丈夫」
 エスメラルダは嫌な予感がした。案の定、ズィーグの視線が彼女に移動する。手を合わせて拝むようなかっこうをし、にかっと笑う。
「お願いします、スラダちゃん」
「だから変な略し方……もう、しょうがないわね」
 溜息を吐き、エスメラルダは店内を見回した。
「ねえ、誰か手伝ってあげてくれない?」


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「その話、乗った!」
 勢いよく名乗りを上げたのは虎王丸(こおうまる)であった。勇んでカウンターに突進する。
「悪霊退治なら得意だ。それより兄ちゃん」
 青年の肩をがしっと掴んでエスメラルダから引き離し――正直、いつまで抱っこされてんだよ羨ましい、という気持ちもあったりする――声をひそめた。
「お屋敷に隠し部屋とかってないか? 面白ぇお宝が眠っていそうな」
「はあ……宝というのは聞いたことないですが、隠し部屋はどこかにあるとかなんとか」
「それだ! よし、俺の“白焔”に任せな。よく効くぜぇ」
 上機嫌で青年の背中をどやしつけ、同じく協力を申し出た独特な雰囲気をまとった黒髪の娘――千獣(せんじゅ)――と、巌のごとき体躯の男――鬼眼・幻路(おにめ・げんじ)――ともども、虎王丸は黒山羊亭を後にした。


「……俺の思い込みかも知れねぇけどよ」
 砂利道を歩きながら、虎王丸が溜息混じりに言った。
「ユーレイ屋敷つったらこう、山ん中とか丘の上とか、せめて町外れにないか?」
「さよう、近場とは伺っており申したが……」
 幻路もつられて苦笑する。
「そうですか? お城も見えるし市場も近いし、暮らすにはいい場所じゃないですか。ねえ千獣さん?」
「……うん……?」
 中途半端に頷く千獣をよそに、一人陽気なズィーグである。
 問題の館は、閑静な高級住宅地のど真ん中にあったのだ。一行は錬鉄製の門から伸びる並木道を進み、時代がかった様式の正面玄関へと向かっていた。
「僕、遠縁というよりほとんど他人だし結構貧乏だったし、こんなお屋敷が貰えると知って家族中で大喜びだったんです。『ご先祖様を大切に』っていう条件つきでしたが、それって普通のことですし。でもいざ来てみたら二階の窓の外で血まみれの男が絶叫したり風に乗ってすすり泣きが響いたり……」
 依頼人の青年はがっくりと肩を落とした。薄幸そうな風貌は伊達ではないようだ。幻路が励ますようにその肩を叩く。
「安心されよ、我らがついているでござる」
「そうそう、いざとなったら俺がまとめて浄化してやるって」
「そんな勿体ないことしないでくださいよう」
 ぐうぐうと腹を鳴らしながらズィーグが虎王丸に抗議した。やけに口が大きく見える。芝居がかった所作で間近に迫った悪霊の館を指差し、
「味で勝負は基本ですが、素敵な器に盛るとなおいっそう美味しいですよね? その点、あの器はいいです。素晴らしい」
 言うや、いきなり駆け出した。
「さあ行きましょう私のご馳走のために!」
「あ、おい、待て!」
 虎王丸はやや慌てて後を追った。まさかとは思うが無差別に食べ始めでもした日には、ご先祖様と交渉してお宝の確認どころではない。


 しかし、暴走したかに見えたゴーストイーターは、ちゃんと玄関前で待っていた。
「これ、いっちゃってもいいですよね?」
 追いついた虎王丸と幻路を振り返って指さしたのは、牡山羊の頭をかたどった大きな真鍮のノッカーである――が、横長の瞳をぎょろつかせ、歯を剥き出している。
「うわ、気っ色悪ぃ」
「ふむ。ご先祖様とも思えぬでござるな」
「いただきまぁす」
 突きつけられた指先に山羊が食いついた。その指を静かに引くと、細長い煙のようなものが伸びる。そのまま口もとに運んで、すっと一息に吸い込む。
「あっさりとした中にもぴりっとした味わい……スナックとしては、なかなか結構ですな」
 にこにこと感想を述べるズィーグである。ノッカーはもう、ただの物体でしかなくなっていた。
「ほんとに“食う”んだな。しかもうまそうに」
「面白い一族でござるなあ」
 呆れるやら感心するやらしているところへ、千獣と依頼人の青年が合流した。
「さあ、では行きますよう!」
 化け山羊が消えたせいか、重厚な外見に反し扉は軽々と開いた。途端、
「げ」
 虎王丸が呻き、
「ぬう、これは――」
 幻路が唸り、
「なにか……たく、さん……いる……」
 千獣が締めたところで、
「あはぁ、美味しそうな気配が!」
 ズィーグが妙なステップを踏んで喜びをあらわした。
 まだ日も高く、明り取りの窓からは青空が覗いているというのに、広い玄関ホールはやけに暗い。背後の扉を閉めると、青黒い水底に似た薄闇に満たされた。なぜか揺らめいているシャンデリアなどはさしずめ藻の塊、ホールクロックと呼ばれる大きな置時計は沈んだ棺といったところか。互いの身動き、話し声もやや籠って聞こえる。明らかに尋常ならざる状態であった。
「些か寒いでござるな」
 幻路が呟くと、ズィーグがにやっと笑った。先刻よりも犬歯が長く見える。
「そりゃあ“出て”ますからねえ」
「ほほう、すると肝試しで涼をとるというのも存外、理にかなっているのでござるなあ」
「このお屋敷くらいなら私の“口が届く”範囲なので、そのうち軒並み顕在化しますよ。形を保てないほど弱い奴か、姿を隠せるほど強い奴は見えづらいかもしれませんが、いずれ程度の問題です」
「それは楽しみでござる」
「私も楽しみですよう〜では皆さん、私、ここで若旦那と待機してますんで、ばんっばん追い出してくださいね」
「よし、じゃあ上階は俺に任せてくれ」
「お、抜け駆けでござるか、虎王丸殿」
 幻路が冗談めかして口を挟む。
「人聞きの悪ぃこと言うなよ。この手には慣れてるんだ」
「でしたら奥の端をお願いできません? ちょっと気になるので」
 虎王丸に否やはない。すると、
「では、これを」
 幻路が懐からなにやら取り出した。
「効率的に探索が行えるよう、先刻間取りを伺って、大まかではござるが屋敷内の地図を作っておき申した。矢立も人数分あるので調査済みの部屋は印をつけるとよろしかろう。それから灯りと、連絡用の呼子と閃光弾と爆竹と鉤縄と――おやつも要るでござるか?」
「どんだけ収納してんだ……いや、俺は“白焔”があるから灯り要らずだ。地図だけくれ」
「承知した」
 幻路から地図を受け取ると、虎王丸はホールの両端からゆるやかなカーブを描いている階段を上り、二階の廊下へと向かった。


「こいつは……当たりだな」
 ひと足ごとに増す冷気にぶるりと体を震わせ、虎王丸は苦笑した。
「どけよ、おっさん」
 廊下の真ん中に突っ立っていた、時代遅れのお仕着せの男に“白焔”をかざす。半ば腐った男はあまり深く考えたくないものを眼窩から覗かせたまま、ふらふらと階下に降りていった。
「ちょっと気になる、どころじゃねえだろうが、あの黒ずくめのカラスねーちゃん」
 いかな年上好みとはいえ、守備範囲外には評価の厳しい彼である。
 そのねーちゃんの能力と“当たり”とが相俟って、二階をうろつく幽霊どもはやたら姿がはっきりしており、ある程度会話の成立する奴さえいた。灯り代わりに弱めた片手の“白焔”にあからさまに怯えるあたり、いずれも悪霊なのだろうが。
 行き止まりの壁の前で、さてどうしたものかと虎王丸は地図を広げた。面倒なので印はつけない。俺の通った後に幽霊はいない、そういうことだ。
「どう考えてもこの壁が怪し……あ、いけね」
 さっきから並んで歩いたあげくご禁制の品がどうのこうのとしつこく言っていた血まみれの男がナイフを振りかぶったので、うっかり力を込めて払いのけてしまった。男は半ば壁にめり込んだ状態で蒸発し、水っぽい染みが残る。
「ま、一匹くらいいいか……ん?」
 染みのできた壁と周囲の壁は、素材が違うようだ。これは、と試しに刀の柄で叩いてみると果たしてぼろぼろと崩れ落ち、狭い廊下の先に扉が見えた。幽霊屋敷の隠し部屋、とくれば。
 虎王丸は勇躍した。だが慎重に廊下を進み、気配を読もうと身を寄せた瞬間、扉が勢いよく内側に引かれた。たたらを踏む爪先が毛足の長い絨毯に埋まる。甘く、きつい花の香りが嗅覚を刺激した。そして――
『あら……可愛い子だこと。わたくしの館にようこそ』
 気怠げな声に顔を上げると、豪奢な刺繍を施した部屋着姿の美女が絹張りの寝椅子に横たわり、彼を眺めていた。
 いきなり虎王丸の心拍数が上がる。年上・ゴージャス・グラマラス。ど真ん中である。であるが。
「わたくしの、ってことは……おまえがご先祖様か?」
 婉然と頷く相手に、いくらなんでも幽霊じゃあな、と密かに肩を落とす。同時に、鳶色の髪をかき上げ、妖しく微笑む姿の生々しさが気にかかった。
『それで……? あの女の末裔の息の根は止めたのでしょうね』
「なんだって?」
 物騒な質問に、虎王丸は面食らって聞き返した。
『報酬を受け取りに来たのでしょう?』
「あ、ああ、つまりおまえの子孫に頼まれて、っていうかお宝を拝ませてもらおうかと――」
『まあ厚かましい……ならば、もう望みは達せられたわね』
 俺は今情けない顔をしている、と虎王丸は思った。
 つまり、隠し部屋のお宝というのは。
 認めたくない予想に沈黙する彼に構いつけず、美女はつんと顎を上げ、気取ったポーズをとった。
『わたくし、一族の華とも宝とも呼ばれていたのですから』
「……正直俺としては妖精ヤマブキーの山吹色二段底クーヘンみたいな、限りなく貴金属系の方が嬉しかったんだが」
 思わず先日観た芝居に逃避する虎王丸である。
 突然、美女が息をのんだ。両の目がぎらりと光る。
『あなた……嘘をついたわね。あの女の末裔はまだ館の中をうろついているじゃないか』
「あの兄ちゃんのことか? あれがおまえの子孫じゃ――」
『お黙り!』
 激高した美女の叫びとともに部屋全体が激しく揺れはじめた。とっさに腰を落として持ちこたえた虎王丸の前に美女が――否、目も口も裂け上がった悪霊が立ちはだかる。
『裏切り者、裏切り者め!』
 しゃにむに突き出される鉤爪を右に左にかわしつつ、もとより気の短い虎王丸は猛烈に腹が立ってきた。
「悪いがおまえとは初対面だ。なんだかいろいろと勘違いしてくれてるようだが、生者を恨んで悪さをしかけるようなご先祖様様なんざ、この“白焔”で浄化してやらぁ!」
 拳に乗せた虎の霊獣人の焔が、庇おうとした腕もろとも顔面を一撃する。悪霊は弾け散ったが、虎王丸は手応えのなさに舌打ちした。
『おのれ小僧!』
 耳障り唸りつつ、空中で悪霊の粒子がうごめく。天井からも、周囲の壁からも、虎王丸の足元からも黒い粒子が際限もなく湧き上がり、ひと塊に固まって、遂には巨大な女の顔を形成した。
『この館の主はわたくしよ! あんな下賤の女、認めない、認めるものかぁぁ!』
 真っ赤な皿のような目を見開き、燃え盛る竃のような口で女怪が咆哮したとき、みしり、と床が不吉な音をたてた。


 あっと思う間もなく虎王丸の体は落下していた。
 それでも持ち前の身体能力でどうにか耐える。もうもうたる埃がおさまると、瓦礫と化した建材の中に潰れたテーブルやら椅子やらが見て取れた。
「虎王、丸……!」
「虎王丸殿!」
 部屋の戸口に千獣と幻路がいた。
 虎王丸は再び拳に“白焔”を乗せると、もはや美しさの欠片もない大頭に突きつけ、挑発した。
「おら、ちゃんとついて来な、おばちゃん!」
 そして、仲間のもとへ全力で突進する。
「おっしゃ! 逃げるぜぇ!」
 三人は玄関ホールに向けて走り出した。背後で割れ鐘のごとき怒声が響く。
『小僧、待てぇぇ!』
「いったい何事でござる!?」
「よくわかんねえけど、ご先祖様でお宝様だとよ!」
 馬鹿にしてやがらぁ、と虎王丸は吐き捨てる。
「で、も……」
 千獣がちら、と背後を見、絨毯もろとも床をばりばりと噛み砕き、壁を削りながら進んでくる大頭に眉をひそめた。
「よく、ない……感じ」
「確かに、あれを敬うのはちと難しゅうござるなぁ」
 苦笑まじりの幻路は明らかに面白がっているようだ。
「そういうこった、あの兄ちゃんには悪いが、邪気たっぷりのご先祖様なんざカラスねーちゃん直行だ!」
 角を曲がると、黒衣のゴーストイーターは既にホール中央で待ち構えていた。
「ズィーグ、メシ連れてきたぞ!」
「シェフのおすすめでござるよ!」
「どうぞ……召し、上がれ……!」
 三人はそれぞれ三方に散り、いまやおどろ髪の大頭とズィーグを遮る物はない。
「いっただき――」
 振り返った虎王丸は、ズィーグの口がホール一杯に広がったような錯覚に目を細めた。
「――まぁっす!」
 ほんの一瞬、長くて数秒といったところであろうか。
 大頭の怪異は消え失せていた。掘り起こされた床も、齧られた壁も元通りだ。
 ただズィーグだけが両手で頬を押さえて小躍りしている。
「ああもうこの熟成された豊かな味わいにちょっとクセのあるとろみ、なによりガツンとした食べごたえ、腹もちばっちり確かな満足ぅ〜!」
 手放しの喜びっぷりが“あれ”を食ったせいかと思うと、なんだか胃がもたれてくるようだ。
 気がつけば、明り取りからの日差しがホール内を照らしていた。災いの大本が絶たれたせいだろう。嫌な冷気も感じられない。
 もう大丈夫だ。
 と、虎王丸は傍らで腰を抜かしている青年に気がついた。しゃがみこんで、薄い肩をぽんと叩く。
「まあなんだ、兄ちゃん。悪霊騒動の元凶がご先祖様だったんで、こんなわけだ」
「はあ……」
 青年は虚ろなまなざしで彼を見返した。怖がりを自認していただけに刺激が強すぎたのか、はたまた相続の条件がフイになってしまったと呆然自失なのか。憶測の域を出ない以上悪霊美女の暴言を伝える気にはなれなかったが、どうにか力づけなきゃいかんだろうと思案していると、青年がぼそりと呟いた。
「あれが……ご先祖様ということは、僕……人間じゃないんでしょうか?」
「え、そっちに行っちゃう?」
 そこへ、ひょいと顔を出したズィーグが舌なめずりしながら混ざるので話がややこしくなる。
「人間とそうでないものの垣って案外低いですよ? いざってときに踏ん張りがきかないと、簡単に越えちゃいますから」
 ますます落ち込む青年をみかね、幻路が助け舟を出した。
「つまり、お主のご先祖様は正真正銘人間でござったが、なにかが起こって、儚くなった後に不幸にもあのような姿になってしまわれたと、ズィーグ殿は言っているのでござるよ」
「そうなんですよ、味もね、あんまり変わらない――」
「おまえは口を挟むなよ……」
 苛々と遮った虎王丸は、こちらにやって来る千獣を認め、次いで彼女が一人ではないことに気がつき、更にはやたら大時代な服装もろとも透けている男の子に目を丸くした。
「なあ、そいつ、幽霊か?」
 千獣が頷いた。
「この、子も……ご先祖様、だよ……」


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「その節は、ありがとうございました」
 後日、黒山羊亭を訪れた青年が深々と頭を下げた。 
 報酬は既に支払われていたのだが、たっての頼みで、エスメラルダが一席設けたのである。
「あの、子、元気……?」
 ずっと少年の幽霊を気にかけていたらしい千獣が尋ねた。
「ご先祖様ですか? はい、それはもう。あの置時計がお気に入りのようで、しょっちゅう時間を変えては家人を煙に巻いてらっしゃいます」
「いや、それは喜ぶところなのか?」
 普通に超常現象だろ、と虎王丸は首をひねる。
「なんの、微笑ましくてよいではござらんか」
 幻路がにこやかに応じた。
「ああ、あの化けちゃった人、美味しかったなあ……」
 ズィーグの意識は明後日の方向だ。
「あの方がああなってしまった理由は僕にはわかりませんが、ズィーグさんに“食べ”られると転生するのだと、エスメラルダさんに伺いました。きっとどこかで生まれ変わって、楽しく暮らしてくれると信じています」
 あいかわらず痩せ細ってはいるが、青年の言葉には力がこもっていた。以前ほど薄幸な印象は受けない。
 美女が美女のまま終わらなかったのは残念だったが、対価も得たし、おまけに人助けもできたし、まあいいか、と虎王丸は機嫌良く料理の皿を手に取った。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1070 / 虎王丸(こおうまる) / 男 / 16 / 火炎剣士 】
【 3087 / 千獣(せんじゅ) / 女 / 17(実年齢999) / 獣使い 】
【 3492 / 鬼眼・幻路(おにめ・げんじ) / 男 / 24 / 忍者 】

【 NPC / ズィーグ / 女 / 222 / ゴーストイーター 】


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■         ライター通信          ■
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虎王丸様
はじめまして、ライターの三芭です。
この度はご参加ありがとうございました。
納品が遅れまして申し訳ございませんでした。
おかげさまでズィーグも美味しく食事をすることができました。
虎王丸様は単独行動ということで、親玉と接触していただきました。
なお文中の「先日観た芝居」は鬼眼・幻路様のノベルをお読みいただくと、
なんとなくご理解いただける……かもしれません。
それでは、またご縁がありましたら宜しくお願い申し上げます。