<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


星を仰いで

 精霊の森。
 その森には、8人の精霊がいる。
 普段は森の結界により――もしくは体質により、森から出られない彼らを、人に体を貸してもらうことで森の外へ出られるようにしたのが、森の守護者クルス・クロスエアだった。
 大抵の精霊は、体を貸してくれるという人間が現れると喜んで彼らの体を借りる。しかし――
 例外も、いた。
 1人だけ。
 クルスが森の中にかまえている小屋。その中に、一年中火の絶えない暖炉。
 暖炉の精霊――グラッガ。
 彼だけが、唯一『外の世界は見たくない』と言い張っていた。

 そのグラッガが――
 今回、珍しいことを言い出した。
『クルス……前に『ほし』とか見てきたって言ったろ……。俺も、光るもん見てみたい』
 彼は、彼自身が輝く炎であるせいで、輝く物を見たことがない。
 クルスは思案した。外嫌いのグラッガが、珍しく外へ出たいと言っている。当然外へ連れて行ってやるべきだ。
 しかし今は体を貸してくれる人材がいない。クルスではその役を担えない。
 仕方なくクルスは、グラッガの『感覚』の部分だけを取り出して、両手に大切に持った。
 これでいつもよりも怒りっぽくはなるだろうが――いつもよりも感受性が高くなるはずだ。
「よし。グラッガ、行くぞ」
『………』
 抵抗の意思は感じられない。クルスは嬉しくなって、森の外へ出る。
 時刻は夜。綺麗な星が見られるはずだった。

 しかしその時。
 大きなコウモリが、彼らを襲ったのだ。

 それは翼を広げて全長2mはあろうかと言う巨大コウモリ――
 クルスは魔術師だ。だが今は両手に大切なグラッガの『感覚』の部分を抱えていて、応戦できない。
 森に戻ろうとすると、血の気の多いグラッガが早速怒気を爆発させた。
『クルス! てめえ逃げる気かよ!』
「グラッガ、仕方ないだろう……!」
『あんな野郎に俺様の炎が負けるか……っ!』
 とグラッガは自らの力で炎を生み出そうとするが、今の彼にそんな力はない。
 それに気づいて唖然とするグラッガ。
 グラッガの灯りが好みなのか、どうやらグラッガを狙って体当たりをしかけてくるコウモリ。
「グラッガ、今は諦めろ!」
 クルスはやはり森に戻ろうと身を翻したが――
 ふと、気づいた。
 2人の少女が、森に向かって歩いてきているのを。

「む? クルス殿と、グラッガ、殿……?」
 銀灰色の長い髪に、刃を幾重にも重ねたような槍を持つアレスディア・ヴォルフリートは、森に帰る途中の千獣[せんじゅ]に付き合ってここまで来た。
「グラッ、ガ……」
 長い黒髪の千獣は、赤い瞳にクルスの手の中の赤い炎を見て不思議そうな顔をする。
 千獣は街からの買い物の帰り道で、荷物が多かったためにアレスディアが荷物を持つ手伝いをしてくれていたのだ。
「2人共!」
 クルスがほっとしたような声を出した。
「頼む、このコウモリを――ちょっと、よそにどけてくれ。グラッガが珍しく外を見たいと言っているんだ」
「コウモリ、追い、払えば、いい、の……?」
 千獣がコウモリの動きをかいくぐって一度森に入ると、荷物をどさっと置いてからクルスの前に移動した。
「やって、みる……クルス、グラッガを、よろしく、ね……?」
「千獣……」
「事情は良くわからぬが、コウモリに襲われているのだな」
 アレスディアも素早く森に入って荷物を置いてから、
「了解した。コウモリは任されよ。クルス殿はグラッガ殿を護ることに専念を」
「助かるよ、二人共」
 クルスが安堵のため息をつく。「グラッガは外に出たいだけなんだ。コウモリを殺したいわけじゃない」
「ふむ」
「外……」
 千獣は森に住んでいるため、グラッガの外嫌いを知っている。クルスの言葉を聞いて、何としても叶えなければいけないことだと察した。
 構える。コウモリに向かって。
「……ここ、は、あなた、の、縄張り、かも、しれない、けど……ごめん……少しの、間……どこか、行ってて、くれる……?」
 語りかける。できるだけ温和に済ませるために。
 肩越しに少しグラッガを振り返り、
「……とも、だち、が……見たい、もの、が、あるん、だって……だから、少し、他所に、行ってて、ね……」
 案の定、コウモリには届かなかった。暗闇にグラッガの灯りのみでぼんやり浮かぶ巨大なコウモリが、彼らに向かって体当たりをしかけてくる。
 かわしながらその動きを見たアレスディアが、
「ふむ……こやつはグラッガ殿の灯りを狙ってきているようだ」
 つぶやいて、「狙いが分かっていれば、迎え撃つ」と手早くルーンアームを戦いの装束にするためにコマンドを唱えた。
 『我が身盾として、牙持たぬ全てを護る』
 しゅるんと灰銀色の鎧『難攻不落』となったルーンアームが、アレスディアの体をまとう。手には剣が残った。
「追いかけまわすのは難しいが拠点防衛ならこちらの方が適している……」
 コウモリが襲ってきた。
 ばっと、翼を大きくはばたかせる。
「―――!」
 突風が起き、クルスはグラッガをかばい、2人の少女に隙ができる。その合間にコウモリは肉薄してきた。
 翼を前に伸ばし、爪がクルスの白衣を裂いてグラッガの炎に――
「だ、め……っ!」
 とっさに腕を獣化させた千獣が、叩くようにしてコウモリを押し戻す。そこにアレスディアの盾での押しも加わり、コウモリは押し戻された。
「ふむ……どんな攻撃をしてくるか分からぬか」
 アレスディアが眉の間にしわを寄せる。
 その時、
 コウモリがぶるぶるっと震えた。
 まるで後ろから何かのダメージを受けたかのようにのけぞり、ばっさばっさと一時的にその場を退く。
「………?」
 千獣とアレスディアはきょとんとした。
 随分久しぶりの少年の顔が、そこにはあった。
「虎王丸[こおうまる]……? どうしてここに」
 クルスまでもがきょとんとする。
「よ、グラッガ」
 首にじゃらじゃらと鎖をつけた少年虎王丸は、グラッガの炎に向かって「久々だな」と手を挙げて挨拶する。
『虎王丸……』
 グラッガが少しだけ、嬉しそうな声を出した。
「どうしてここにいらっしゃるのだ?」
 コウモリの体当たりを盾で防いで、アレスディアが問う。
「通りがかり」
 言いながら、虎王丸は剣でコウモリを追い払おうとしていた。
「何かよく分からねーが、外から見てたらこのデカいの、グラッガを狙ってるように見えたからよ。放っておくのもなんだか――よっ」
「虎王丸はグラッガに体を貸してくれたことがあるんだよ」
 クルスが少女たちに説明した。
「説明してる場合かよっ! てめーも怪我しちまってるくせによ」
 虎王丸がコウモリをつんつんつつきながらクルスを指差す。
 千獣は怒りを抑えるのに苦労していた。
 ――先ほど、白衣を裂くついでに、コウモリの爪はクルスの腕になまなましい傷を作っていたのだ。
「……千獣殿、落ち着かれよ」
「分かっ、て、る……」
 アレスディアの心配そうな声に、千獣は低い声で答えた。
「あー、面倒くせー!」
 短気な虎王丸は、すぐにその手に大きな白焔を生み出した。
「もういっそ、これで燃やしちまえ!」
「―――! 待て虎王丸殿、今回は殺すことが目的ではない……!」
「なになまっちょろいこと言ってんだ! 始末しちまえば簡単だろーがっ!」
『俺は……お前の白焔で、何かが死ぬところ、見たくねえな……』
 グラッガがぽつりとつぶやいた。
 虎王丸がぐっと動きを止める。
 その間にもコウモリが襲ってくる。
 千獣は両手を獣化させ、まるごとつかまえようとしていた。
 アレスディアは盾で叩き落そうとしていた。
 そこへ再び――
「あんたら何やってんだ?」
 新しい声が割り込んできた。
 青い髪の青年が、腰に両手を当ててそこにいた。

「せっかくの夜だってぇのに、うるせえから見にきちまったけどよ……」
 右目に眼帯をしている青年は、コウモリと戦っているらしき面々を見ても、いまいち状況を理解していないようだった。
「キミは誰だい?」
 クルスが尋ねる。
「あー? リルド」
 適当に下の名前だけ名乗って、リルド――リルド・ラーケンはコウモリを見やる。
「妙なもん抱えてんな」
 クルスが抱えている炎を見て、リルドは首をひねる。
「邪魔するんじゃねーぞ新顔!」
 虎王丸はすでにけんか腰だ。
 しかしアレスディアはうまくすれば助けに入ってくれるかと考え、
「申し訳ないのだが、通りがかったのも縁だ。この巨大コウモリを追い払うのを手伝ってもらえぬだろうか」
「あん? 追い払う?」
「そうだ」
「殺さなくていーのか?」
「殺すことが目的ではない」
 その間にも虎王丸が剣でコウモリを徐々に傷つけ、千獣は怒りを抑えるのに必死で戦いあぐねていた。
 ――このままではコウモリが死んでしまう。それはクルスの思うところではないだろう。千獣も、やってしまってから必ず後悔するはずだ。
「仕方ねえなあ」
 リルドはちょいと手を上から下へと振り下ろした。
 瞬間、コウモリに雷撃が落ちた。
 コウモリが地面に落ちる。虎王丸が、にやりと笑ってコウモリを踏みつけ、
「懲りたらもうグラッガに近づくなよ!」
 ――しかし、
 コウモリは強烈な生命力で虎王丸の足を跳ね飛ばし飛びあがった。
 虎王丸が足を引っかけられて転がる。
 コウモリはその間に執拗にグラッガの炎を狙う。必死で千獣とアレスディアが止める。
 コウモリは奇妙な奇声をあげながら、顔をどこまでもグラッガに近づけようとしていた。
「……あれ、何を狙ってんだ?」
 立ち上がった虎王丸に、リルドが尋ねる。
「あの炎だよ。グラッガってんだ。見りゃ分かるだろ!」
「コウモリが火に集まる習性なんか持ってたか?」
「グラッガは特別なんだよ!」
 虎王丸はもう一度、コウモリを背後から攻撃した。
 ――殺すところは見たくない。そんなグラッガの言葉が、いつも遠慮のない虎王丸の手を引きとめている。
「………」
 リルドは首筋をかいていたが、
「……じゃあ、目標を変えればいいんじゃねえのか」
 と己の体に雷をまとった。
 リルドの体が明るく発光する。
 コウモリがぴくりと反応する。
 あ、と千獣が声を上げた。コウモリが、向きを変えた。
「触ると感電するぜ」
 ぱちぱちと体から光を放つリルドは無表情に言った。
「ていうか、うざったいからいっそ――」
「殺、し、ちゃ、ダメ!」
 千獣がリルドに向かうコウモリの翼を払った。
 コウモリが一瞬こちらを向く。それを獣化させた両腕で抱きすくめ、
 そして――
 コウモリだけに見えるように、その口から鋭い人外の牙を生やし、言外で『他所へ行かねば喰う』と無言の圧力をかけた。
 もちろん本気ではないが、本気に近い雰囲気を今の千獣ならばかもしだすことができた。
 ゆるりと手をコウモリから離すと、そこは獣の弱肉強食の理、コウモリは怯えて去っていった。
「……なんだ、あっけね」
 虎王丸とリルドが揃ってつまらなそうに言った。
 アレスディアはすぐに、クルスの怪我の応急処置に向かった。


「星が見たい、だあ?」
 話を聞いて、虎王丸は呆れた声を出した。「ガキっぽい願いだな、お前」
『う、うるさい』
 グラッガの炎がぼうと一瞬膨れる。
「仕方ねえなあ……」
 ちょっと待ってろよ、と虎王丸はどこかへ行ってしまった。
「……よく考えたら俺は水属性だな」
 何となく一緒にいるリルドが前髪をかきあげた。「炎とは最悪じゃねえか」
 アレスディアがクルスの応急処置をしているのを熱心に見ていた千獣が顔を上げる。
「触っ、ちゃ、だめ、だよ……」
「分かってら」
 リルドは肩をすくめて、グラッガから離れた。
「しっかし炎がしゃべるなんて……どんな手品だよ、これ」
「手品じゃないよ。精霊だ」
「せいれい〜?」
 リルドは思いっきり信じられないというような声を出す。
「まあこのソーンにはどんな種族がいてもおかしくねえけどよ……」
 ぶつぶつと。眼帯の青年は腕を組んでむっつりする。
 やがて虎王丸が戻ってきた。両手に何かを抱えている。
「ほらほらほらよ〜。花火だぜ〜」
「うん?」
 クルスが不思議そうな顔をした。
 それは確かに、大量の花火だった。しかし……
「よくこれだけお買いになることができたな、虎王丸殿」
 アレスディアが目をぱちくりさせる。
「ふっふっふ。店からかっぱらってきた!」
「って虎王丸殿ーーーーー!」
「夏も終わって、在庫が処分された方が店もありがたいだろ」
 虎王丸的理論である。
「ちょっと小高い丘に行くと星ももっと見えるんじゃねえか?」
「星がたくさん見える場所ねえ……あー。どっかの崖とかでいいんじゃねえの?」
 リルドが無責任なことを言う。
「崖……私、なら、連れて、行け、る?」
 千獣が健気にちょこんと首をかしげる。
「ちょっと人数が多すぎるなあ」
 クルスは苦笑した。
 リルドが沈黙する。
「……おい」
 虎王丸が、察知してリルドを剣の鞘でつつく。
「何だよ」
「お前、何か隠してるだろ」
「知らねえよ」
「嘘つくな。何ならその髪の毛白焔で燃やしてやろーか?」
「てんめ……」
「虎王丸、刺激するな」
 クルスが困ったような顔をする。「それじゃ余計に、彼はやってくれなくなるじゃないか」
「やるって何をだよ」
「――キミ、普通の人間じゃあないだろう?」
 うぐっとリルドはつまった。
「何と同化してるのかも分かるけど……まあキミが隠したいなら別にいい。今は星が見たいだけだからね」
「そ、そうだ! 俺には関係ねえ!」
 内心なんでバレてんだなんでバレてんだと焦りながら、リルドはそっぽを向く。
 すると千獣がリルドの顔の前にくるっと回ってきて、
「ねえ……グラッガ、の、ため、に……手伝っ、て……くれ、る……?」
 あどけない赤い瞳でリルドの顔をのぞきこむ。
 ぐうう、とリルドは歯をぎりぎり言わせた。
「む、無理だろーが! 俺は水だ、炎なんぞ乗せられん!」
「それなら心配はいらないよ。――虎王丸、ちょっとグラッガを受け取って」
「あん? いいけどよ」
 同じ炎属性の虎王丸ならば、グラッガを受け取るのは簡単だった。
 クルスは軽く指先を何かを描くように振り、
「『属性無視』――はい、これでグラッガの炎属性が一時的に封印された」
「早っ! てかそんなことできたのかよお前!」
「最近身につけた。まああんまり使いたくはない。精霊にとっては属性は大切だから」
 だから急ぎたいんだ――とクルスはリルドに微笑みを向ける。
 逃げ場所がなくなったリルドは、仕方なく――折れた。

 リルドが変化したのは、竜――

『背中に乗れよ。適当に高そうな場所まで連れて行ってやらぁ』
 リルドはふてくされた声でそう言った。
 千獣、アレスディア、花火を抱えた虎王丸、グラッガを抱えたクルスを乗せて、リルドが飛びあがった。

 涼しい風が頬に当たる。
「もう夏も終わったんだなあ……」
 クルスが感慨深そうにつぶやいた。
「森にいると感覚がないのではないだろうか?」
 アレスディアがおかしそうに言うと、そうだね、とクルスは笑った。
「季、節……」
 千獣にとっても、それはあまり意識を向けたことのない言葉だったが、これからは少しずつ知っていけそうだ。

 リルドは本当に高い丘まで連れてきてくれた。
 星が綺麗だ。空気が澄んでいるのだろう。
 天が近くに思える。
 全員を背から下ろすと、
「疲れた……」
 竜化すると消耗の激しいリルドが、ばったりと倒れた。
 クルスは千獣に頼み、自分の白衣に入っている薬をリルドに飲ませるように言った。
「グラッガ殿、あれが星だ」
『どれだ?』
 空に向けて指を指すアレスディアに、グラッガがきょとんとした返事をする。
 アレスディアは笑って、
「空が、きらきら光っているだろう?」
『ああ』
「――あの光ひとつひとつ、全部が星だ」
『―――!』
 グラッガは仰天したような気配を見せた。
『ほ、星ってひとつきりじゃないのか!?』
「あほだなーお前って」
 虎王丸ががははと笑う。「夜空の中でひとつっきりなのは月だけだぜ。ほらあっちに見える。――今日は半月か」
『ど、どれだよ……』
「ほらあれ。それともこっちかな? あ、あれかもしんね」
「虎王丸殿、からかって遊ばれるな。……月はあれだグラッガ殿。丸が半分になったようなものがひとつ、大きくあるだろう?」
『あれ……が、月……?』
 グラッガに視線はないが、見ているのがどこなのか、何となく分かる気がした。
 千獣は星に詳しくない。クルスに引っ付いて、皆が話しているのを聞いているだけだ。
 アレスディアは積極的に話していた。
「星座、というものをご存知か? グラッガ殿」
『なんだ、それ』
「星を点として――点と点を結んで線として――その線を、物に見立てるのだ」
 丘に実際に木の枝を使ってやってみせながら、アレスディアは話す。
「それで行くと――あの辺り、あの星たちを線でつなぐと――サギッタリウスと呼ばれる星座になる」
『………?』
 グラッガにはなかなか見立てられないらしい。アレスディアはぽんを手を叩いて、
「ああ、そうか。グラッガ殿はケンタウロスなど知らぬな。サギッタリウスはケンタウロスが弓矢を持っている姿だから――」
『なんだそれ』
「ケンタウロスとは、下半身が馬で上半身が人間――」
『うまってなんだ?』
「………」
 常々森から出ない精霊には常識が通用しない。アレスディアは痛感した。
「カプリコヌルス……も無理だな。足が魚で上半身山羊……」
『魚はよく俺の炎で焼いてるけど、やぎは知らねえ』
「アクアリウス……ならどうだろうか……ゼウスという神が、地上で殺し合いをしている人間たちを滅ぼそうとしている時に、心正しく神を敬っていたものが息子を救うために箱舟に入れて流し……」
『よく分からねえよ』
「………」
 アレスディアは困った顔をして、腕を組んでしまった。
「そーんな小難しい話よりさ」
 虎王丸が花火を取り出した。「やっぱこれだぜ、これ!」
 そして虎王丸は自分が生み出した白焔で花火を点火し、ぱちぱちと弾けさせた。
『―――!』
 グラッガが反応する。『なんだ、それ』
「花火。花みたいな火」
『は、花みたいな火?』
「花のように美しいだろう?」
 アレスディアがほっとしたように言った。
 クルスが千獣に、「キミももらってやっといで」と言う。
 虎王丸は渋々、「グラッガに見せるためにやれよー」と一言言った。
 グラッガはぼうっとしていた。そのグラッガに虎王丸は鼠花火をつっこんで脅かした。
『うわわわわわ! なんだこれ!』
「というか僕が危ないんだけどね!?」
 グラッガを手に乗せたままだったクルスが鼠花火から逃げる。
 虎王丸は平気な顔で大笑いした。
 千獣が線香花火をする。
 ぱち、ぱちぱちぱち……
 ばちばちばちばち!
 しゅううう……ぽろっ
「美しいな、千獣殿」
 アレスディアが傍らに寄って微笑む。
「うん……」
 虎王丸はまた鼠花火をグラッガに向かって放り入れようとした。
 クルスが逃げた。
 すると鼠花火は、体を起こしたばかりだったリルドの元で弾けた。
「うわ……っ!?」
 リルドが混乱する。ぎゃはは、と虎王丸が笑う。
 そして虎王丸は、今度は花火の先端をグラッガの炎に突っ込んだ。
 ばしゅーーーーーっ
「危ないって!」
 クルスが逃げ回る。「よい子は真似しちゃいけないよーな感じの行為はやめろ!」
「俺よい子じゃねーもーん」
「自覚があるのは分かったから、人が真似しちゃいかんことはやめろ!」
 ぎゃはぎゃはぎゃははと虎王丸は大笑いする。
 千獣は線香花火が気に入ったらしく、ずっとしゃがんでそればかりをやっていた。
 アレスディアは空を見上げる。
「星、か……」
 グラッガ殿、とアレスディアは言った。
「……星は季節によって見えるものが変わる。今日だけではなく、良ければ私と季節ごとの星を楽しまぬか?」
 それを聞いた千獣が、線香花火が終わったのをきっかけに、グラッガに近づいた。
「……グラッガ……今度、一緒、に、外……行こう、か……?」
 2人の少女に誘われて。
『お、俺は外は嫌いだって』
「もう言えねえよなあ、だって自分から外来ちまったんだし」
 にやにやと虎王丸が言う。
「何だ? 外嫌い?――どういう意味だ?」
 リルドが鼠花火の脅威から逃げて、ようやく一息つきながらつぶやく。
「普段グラッガは、森の小屋の暖炉の中に閉じこもっているからね」
 クルスがリルドに言う。
「外に行くのは嫌だと、言い張っていたんだ。……今までは」
「全然そうは見えねえな」
 リルドはきっぱりそう言った。
「ほれ、新顔にまで言われてるぜ」
 虎王丸がきししと笑う。
『星……』
 グラッガはつぶやいた。
『外……』
 目の前に、微笑む少女が2人いる。彼を外へ連れて行ってくれると言っている。
『季節、ごと、の、星……』
「それ、以外、にも……外、たくさ、ん、ある……」
 千獣が膝を抱える。
「行けばいい。グラッガ」
『―――』
 グラッガは、ぷいっとそっぽを向いたように炎を揺らした。
『か、考えといてやらあ!』
 虎王丸が腹を抱えて笑い出す。
 それから、彼らは星見学と花火を存分に楽しんだ。
 帰りはリルドがまた竜となって、森まで運んでくれた。
 人の姿に戻ったリルドが再びばったり倒れたので、クルスがもう一度「薬を飲ませてあげてくれ」と千獣に頼む。
 そしてグラッガを虎王丸に持たせ、指先ですいっと何かを描き、
「『属性復活』――よし」
「んー。グラッガ。さっきより熱いぞ」
 虎王丸がクルスに返しながら言う。
「楽しかったんだろうな」
 クルスは微笑んだ。

 アレスディアと虎王丸、リルドが街に戻っていく。
 クルスと共に森に帰ってきた千獣は、放っておいたままの街での買い物袋を持ち上げて、クルスの傍に寄り添った。
 青年の手には、こうこうと燃える小さなグラッガがいる……
「……一緒、に、色々、知る、の……面白、い、よ……」
 千獣は微笑んだ。
 グラッガは何も言わず、ただこうっと炎を揺らした。


  ―FIN―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1070/虎王丸/男/16歳/火炎剣士】
【2919/アレスディア・ヴォルフリート/女/18歳/ルーンアームナイト】
【3087/千獣/女/17歳(実年齢999歳)/獣使い】
【3544/リルド・ラーケン/男/19歳/冒険者】

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■         ライター通信          ■
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リルド・ラーケン様
初めまして、こんにちは、笠城夢斗と申します。
このたびはゲームノベルへのご参加、ありがとうございました。
リルドさんのようにかっこいい系のキャラクターを書くのはなかなか難しくて(笑)ちょっとギャグに走ってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
よろしければまた精霊の森にいらしてくださいね。