<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『命運〜団欒〜』

 初日は雑談をしながら、歩いていた。
 天気もよく、気温も丁度いい。
 ごつごつとした道を歩いているだけで、足腰が鍛えられる。
 楽しい会話をしていれば、ダラン・ローデスも気が紛れるようで、最初のうちは比較的穏やかな顔をしていた。
 しかし郵便屋のウィノナ・ライプニッツは、1日中歩き続けても平気であったが、ダランはほんの数時間で息を切らせてしまう。
「頼む、少し休ませてくれー」
 ダランの言葉に、嫌そうな顔をする魔女ディセット。
「魔力の修行どころじゃないじゃん。体力なさすぎだよ」
「いや、これでもマシになったんだぜー」
 そういいながら、ダランは木陰に腰かけた。
 仕方なく、ウィノナもダランの隣に座り、自分の汗を拭いた。
 続いて二人の側に近付いたディセットが、コツンとダランの頭を叩いた。
「言葉使いが悪い。以後、私には敬語を使うように」
「えー、なんでだ……いてっ」
 意義の声を上げたダランの頭を、再びディセットが殴った。
「何故って聞くこと自体おかしいんだよ。……まあ、母親がいないってことで、多少は大目に見るけれど」
 言って、ディセットはダランの隣に腰掛けた。
 陽射しは強いが、木陰は少し寒い。
 見れば木々が赤く燃えていた。山の方では、美しい紅葉が見れそうである。
「ところでさー、ウィノナは何故ダランの身体を治そうとしてるの? こんななーんも出来ない子、好きってわけじゃないだろうし」
 ディセットの問いに、ウィノナは少し考える。
「なんでだろう」
 そう答えた途端、「ウィノナ〜っ」とダランが情けない声を上げた。
「冗談冗談。それは、友達だから。魔女の屋敷での勉強は、ボク自身のためにもなるし。それに、ダランに体力がないのは、仕方のないことでもあるんだ。今は魔女の魔力が封じられている状態だけれど、以前はダランの中で悪影響を及ぼしてたみたいで、普通の人より身体能力が劣っていたみたいなんだ。そのせいで、あらゆる面で成長が遅れてる……ってところかな」
 それでも、本人が真面目な性格であれば、人並み程度の知識や体力を得られていただろうが。
「なるほどねー。私達魔女も人間をベースに作られているから、人間が本来持っている魔力というのも生まれた当時は持ってはいたと思うんだけれどね。まあ、そういう仕組みについては専門外だけど」
 ディセットは魔女クラリスに作られた魔女だ。身体の造りもダランとは違うのだろう。
「ね、ボクも聞いていい? ディセットさんとダランのお母さんは、仲良かったんだよね? 魔女達ってどんなことをして遊ぶの?」
「少し年が離れてたからね。あまり遊んだ覚えはないかなー。お姉ちゃんは、よく街に出ては、街での体験を話してくれたわ。んー、その頃から、家庭に興味があったみたいね。私もその影響受けちゃったわけだけど」
「そうなんだ……。で、旦那さんやユラルとはどこでどんな風に出会ったの?」
「旦那とは職場恋愛。事情ちゃんと話したんだけれど、結婚してくれたわ。ユラルの両親は、彼が物心つく前に蒸発してしまったの。見殺しにするか、皆で金を出し合って、エルザードの施設に入れるかと村の総会で相談したわ。その時に旦那と十分相談をして自分達の子として育てようって決めたの。……私、長く生きられないから、本当は引き取るべきじゃなかったのかもしれないけれどね」
 浅く笑って言いながら、こう続ける。
「でも、長く一緒にいられない分の愛情をユラルには注いでいるつもりよ」
 その言葉は嘘ではない。
 ディセットの家族は、皆幸せそうであった。
「ウィノナは? 両親や兄弟はいるの?」
「あ、それ俺もよく知らないや」
 へばって足を抱えていたダランが、顔を上げた。
「ボク? ボクはずっとエルザードのスラムで仲間達と過ごしてたよ。最初は黒薔薇団……今は白薔薇だっけ? あいつらと同じような事して、他人からお金を奪ってた」
 ウィノナに両親はいない。血のつながった兄弟もいない。
 だけれど、彼女は笑顔であった。過去の話は、彼女にとって決して辛いものではない。
「でも、郵便配達にやってきたボクの師匠1人に皆でコテンパンにやられて、ボクが『こうするしか生きていくことができないんだ!』って言葉をぶつけたらさ、『じゃあ他の生き方を見せてやる』って皆に仕事を回してくれたんだ。そのおかげで、今のボクがある、ってわけ」
「ウィノナって……意外と苦労してんだなー」
 ダランの言葉にウィノナはにやりと笑う。
「そういえば、ダランは苦労とは無縁だったんだよねえ。好き放題暴れまわっていたもんね。街ではトラブルメーカーとして有名で、近付けばシャッター下ろす店まであったとか」
「あーっ、そういうこと言うなー」
「あははは、案外シスお姉ちゃん似かもね、そういうところ」
「そうなんだ?」
 ディセットの言葉に、ウィノナは意外そうに声を上げる。
「うん、シスお姉ちゃんにも数々の伝説があった。街に出てはひと暴れして帰ってくる人だった」
「そっか、母ちゃん似じゃしゃーねーな。うん」
 一人納得するダランの頭を、ウィノナとディセットがそれぞれ小突いた。
「お母さんとダランじゃ、暴れる内容が違う」
「そうそう、お姉ちゃんはトラブルメーカーではあったけれど、人気者だったわよ」
「俺だって人気あるぜー」
「はいはい、あんたの父親が持つ金が、でしょ」
 言って、ウィノナとディセットは笑い合った。

**********

「結局……全く修行できなかったじゃない」
 ディセットがため息交じりに言った。
 街を目にするなり、ダランは、座り込んでしまった。
 かなり疲れたらしい。
 女性の足で1週間の距離だったが、到着まで10日近くかかってしまった。
「まあいいか、ここにはしばらく滞在することになるし。毎日みっちりしごいてあげるわ」
「いや、しばらく休ませてくれ〜」
「ほら、行くよ!」
 ウィノナとディセットがへたり込むダランの腕を、それぞれ引っ張り上げる。
「メシー、風呂ー!」
 女性に引っ張られるという情けない姿のまま、ダランは叫んでいる。
 道中、出来る限り人里に立ち寄り宿をとってきたため、風呂も食事も並にとってはいるのだが、ダランの満足のいく内容ではなかったらしい。
「やめやめ」
 ディセットがダランの手を離す。
「こういうタイプは甘えられる相手がいるから、甘えるのよね。放っておこう」
 そう言って、ディセットはすたすた先に行ってしまう。
「待ってー! ね、この街に目的の人、いるんだよね?」
 ウィノナもダランの手を離すと、ディセットの後を追った。
「う、うううううう……っ」
 ダランは半泣き状態で立ち上がり、よろめきながら二人の後を追った。
「同情誘おうったってダメよ」
 首だけ回して、ディセットはにやりと笑った。

 街の入り口近くの宿屋に3人はしばらく泊まることになった。
 疲れて眠ってしまったダランを即座にたたき起こし、ディセットはダランに魔力コントロールについて教え始める。
 ウィノナは持って来た新しいノートに、ディセットの話しや、ダランの修行について役立ちそうなことをまとめていく。
 それを終えてしまうと、一人、暇になってしまう。
 街へ繰り出してもいいのだが、少しディセットに質問してみることにする。
「ねえ、ダランに教えているのは、魔女の魔力調整だよね? 人間のボクの場合と違うの?」
「うん。ウィノナは自分の魔力一つでしょ」
「じゃあ、ボクも一つの魔力を上手くコントロールする手段、知りたいな」
「精神統一して自分の中の魔力を日々調整するといいわ。時に実戦を交えながらね」
 コントロールには魔女の屋敷での修行が一番かもしれない。
 もっとも、本当の実戦となると、強敵の出現する冒険地へと出かけた方がよりためになりそうではあるが。

 食事を済ませた後、ディセットはこの街に来た目的を語りだした。
「この街の民は全て異世界人よ。一つの世界からやってきた人々が築いた街なの。明日から協会に通い、信心深い女性を探す。肉体のバランスをも考慮し、最適に思える人物に声を掛け、交渉をする。同意が得られたら、屋敷に連れて行く。それで任務完了、よ」
「交渉ってどんな?」
 ダランの問いに、少し間をおいてディセットが答える。
「身体を貸して欲しいってね。10年から20年――一番美しい時間を、クラリス様に捧げることになるの。その代り、その女性の望みをクラリス様が叶えてくださるわ」
 無理矢理拉致するわけではないらしい。
「とりあえず、この街には3箇所教会があるから、一人一箇所担当ってことで、信仰心が厚く悩みのありそうな女性と仲良くなって、ここに連れてくること」
 そう言った後、ディセットはダランの襟首を引っ張って、続きの指導を始めたのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
ディセット

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸です。
いつもありがとうございます。
次回は教会に通いながら、会話や修行に勤しむことになると思います。
ダランは相変わらず弱音を吐いたり、駄々をこねたりしそうです……。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたしますーっ。