<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


激闘!暴走ゴーレム〜破壊による救済

盛大に響き渡る破壊音。飛び交う怒号が当たり前の日常を打ち壊していく。
瓦礫と化した街を我が物顔で歩く巨大なゴーレム。
恐怖に怯えて逃げ出す人々に子どもの泣き声が混じる。
「…あァ?何であんなモンが暴れてんだよ!」
あまりに無残な光景にリルド・ハーケンは唖然と立ち尽くす。
つい数時間前まで、いつもと変わらぬ穏やかな昼下がり。
崩れ去るのは一瞬のことなのか、と妙な納得が支配しかけた。
が、そんな彼を現実に引き戻したのは耳障りな起動音を立てて闊歩するゴーレム。
時折歩みを止めると、無機質な破裂音を立てて赤紫色の光線が放ちながら頭部を旋回させる。
崩壊する建物から蜘蛛の子を散らすように逃げ出す住人達。
その波に飲まれて小さな少女が転んだ。
大声を上げて泣き叫ぶ少女に目もくれず、他の者達は逃げ惑う。
盛大に舌を打ち、リルドは人波とは逆に駆け出す。
いくら危機的状況だとはいえ、最も幼い者を見捨てるなど腹立たしい。
途絶えた人波の向こうに少女を捕らえた瞬間、空から巨大な黒い影が地を覆い尽くす。
思わず息が止まった。
ゴーレムによって教会の壁が崩れ、泣きじゃくる少女を目掛けて倒壊してきたのだ。
とっさにリルドは雷を呼ぶが、思ったように粉砕できない。
「くっ!!」
思い切り大地を蹴り、リルドは少女の上に覆いかぶさる。
巨大な石壁が迫り、覚悟を決めた瞬間。真横から放たれた爆風によってなぎ払われた。
目を開けると頭上を金色の髪が跳び越していくのが見えた。
「な…なんだ?」
恐怖に怯えて泣き続ける少女を宥めながら、リルドは飛び越していったそれを視線で追う。
その先にいたのはいつか見た少年。
「アイツ…見た顔だな」
ぽつりとこぼしながら、記憶の糸を手繰り―程なく思い出す。
あれは確か、前に世話になった彫金師の弟子。
なんだかよく分からないが、青筋立てて破壊の元凶・ゴーレムを追いかけているところからして、何らかの事情を知っていると察しがついた。
「追っかけて聞いてみるか。」
駆け寄ってくる少女の母親らしい女性を目の端で気付きながら、リルドは乱雑に頭を掻く。
なんにしてもこの状況を見過ごすわけにはいかなかった。


「あんの暴走ゴーレム!!どこまで行くつもりだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
怒りの臨界点はとうに消し飛んだ少年の絶叫。
無作為に放たれる高圧縮レーザーやら背から発射されるロケット弾。
すばやく展開させた防御結界で防ぎ切ると、少年は逃げ残った人々に避難を促して追いかける。
先ほどからこの繰り返しだが、根本的な解決にならない。
いくら防ぎきっても、こちらは生身の人間であちらは体力無尽蔵のゴーレム。
長期持久・消耗戦にされたら、圧倒的にこちらが不利だ。
被害を最小に防ぐためにも街の外に誘導したいが、少年が攻撃に入ろうとすると無差別攻撃してくるからたまらない。
無視して攻撃してもいいが、すでに甚大な被害が出ている街にさらなる被害を与えることが出来ず、防御を強いられてしまう。
「妙なところで頭使って!!あの性悪根性のリーディスが作っただけあるな!!」
思うとおりの展開に持ち込めない苛立ちが募っていくばかり。
手を貸して欲しいところだが、師匠たるレディ・レムの助力は望めない。
普段は冷静な師は自分以上に怒りの臨界点が突破していた。
ここで助けてくれと言っても、たぶんあっさりと却下されるのは目に見えていた。
「随分と派手な追いかけっこしてんじゃねーか。」
ふいに届いた声に駆けながら少年は顔だけそちらに向ける。
瓦礫を身軽に飛び越して近づいてくる青年―リルドに思わず足を止めた。
「久しぶりだな、一体何があった?」
軽口を叩いて尋ねてくるその瞳は真剣で偽りを許さないことを見て取り、少年は大きく肩を落とす。
どちらにしても協力は必要。
放っておけば被害が拡大するのは目に見えていた。
忌々しい天災彫金師の高笑いが脳裏に浮かび、怒りが沸いて来るのをどうにか押さえ込み、少年はリルドと向き合った。
「手、貸してもらえるか?あれを完全粉砕したい。」
粉砕という言葉を妙に力説しているのは気のせいじゃないな、と思いつつもリルドは黙ったまま頷いた。

唸り声を立てて、廃墟と化した大通りを爆走するゴーレム。
その凄まじい速度に辟易しながら、リルドは後を追いかけながら足元を狙う。
通常よりも圧縮された雷撃を何度も喰らい、ゴーレムの巨体は安定性を失い、前後に揺れながら耳障りな金属音を上げて動いている。
が、ゴーレムとて一方的に攻撃を受けているわけではない。
単眼のついた頭部を旋回させ、背後を走るリルドに向かってエネルギー弾を無数に打ち込んできた。
しかも器用なことにその軌道は変幻自在で寸前でかわしても、空中で修正し、リルドを追い立てる。
―やっかいなもの作ってくれるんじゃねーよ!!
身を翻してかわしつつも、無意味につけられた能力に心の内で怒鳴り散らしながらもリルドはゴーレムへの攻撃を緩めない。
とっとと足を止めてしまえば、どうにでもなる。
この手のゴーレムは案外腹の下が脆いものだ。
実際、締め上げた製作者のリーディスとかいう彫金師よると最も装甲が薄いところはそこらしい。
にしても、とリルドは大地に足を突きたてながら爆走するゴーレムを見上げ、つくづく思う。
上手く利用すれば果てしなく役に立つだろうが、能力が高いがゆえに暴走するとは全く持って無意味だ。
しかも元々は子守り用だったというのだから笑えない―というよりも、高性能な攻撃機能など不要じゃないか、と叫びたい。
事情を説明し、協力を求めた少年も全く同意見だった。
仔細は聞かなかったが、どこぞの酔狂な豪商が初孫のためにゴーレム製作を依頼した。
金に糸目はつけなかったので依頼を引き受けたリーディスは張り切って戦闘機能を搭載したゴーレムを製作し―自己防衛を向上させたら、暴走。
手がつけられなくなったので同業者のレディ・レムに後始末を押し付けたら、弟子の彼に押し付けてきた。
なんとも弟子の少年には災難な話である。
押し付けられたレディ・レムも災難だが、押し付けてしまうところは似たり寄ったりだと思えるのはリルドだけではないはず。
どちらにしてもリーディスとかいう彫金師が全て悪い。
「全く…ろくでもない奴だな。」
「当たり前だ。リーディスが作るものはこういうのばっかりだ。」
ぼそりと零れたリルドの呟きを聞きつけ、駆け寄ってきた少年が思いっきり舌を打つ。
その力の入れ具合からして、相当な目にあっている事が容易に察しがつくが口にはしない。
暴走ゴーレムに対し、攻撃のみに専念できたのは隣を走る少年のお陰。
無作為に放たれるゴーレムの攻撃を防御魔法で防ぎ、逃げ遅れた住民がいないかを確認しつつ、市外へと誘導してくれたのだ。
文句を言う割りには案外冷静だ、とリルドは思う。
だが、一方でそうでなくては生き残れるはずがないとも思う。
自分よりもわずかばかり年下な少年がここまで計算していけるのはそれなりの経験に裏打ちされてることを感じ取れた。
あるいは師匠のレディ・レムが教え込んだのかもしれない。
「ま、こっからは全開で生かせて貰うか。」
やりたい放題に攻撃されて、リルドとて面白くはない。
街の外までようやく追い込んだ迷惑なデカブツを完全無比に壊さなくては気がすまなかった。


拓けた平原に追い立てられたゴーレムは身体を反転させ、街に戻ろうと試みるが突如唸りだした風の轟音が渦巻き、半円球形状に覆いつくす。
猛烈な風の障壁に阻まれ、不快だとばかりにゴーレムはそれをぶち壊そうとレーザーを打ち出そうとし―叶わなかった。
前足2本の関節部、そして攻撃の要たる頭部に鋭い短刀が突き立てられ、狙い済ました雷撃が貫いたのだ。
体勢を崩され、前のめりに崩れるゴーレムにリルドはわが意を得たりとばかりに笑う。
「うまくいったか。さて、どうやるか。」
「こういう奴は腹の下に潜り込んでヤるんだよ」
結界を張り巡らせて、横に立った少年の呟きにリルドは両手を鳴らしてなおもしつこく抵抗するゴーレムの攻撃をかわし、その腹部へを走りこんでいく。
「ま、常套手段だな。」
口元に楽しげな笑みをつくり、少年は結界の魔力をゴーレムへと解放する。
風の魔力を身に纏い、腹部へと滑り込んだリルドに向けようとしたゴーレムのエネルギー弾が寸前で打ち消され、その巨体に返される。
凄まじい爆音と共に左前足が砕け散ったのを目の当たりにし、リルドは背に冷たいものが流れるのを感じながらも電撃を纏わせた短刀を装甲の薄い腹部へと突き立てる。
頭に響く金属がひしゃげる音。
ゴーレムの巨体が激しく震えた瞬間、圧縮した空気が解放された音がした。
「ふざっけんな!!馬鹿ゴーレム!!」
少年の怒号が轟くと同時にゴーレムの背から無数のミサイル弾が降り注ぐ。
ゴーレムの真下にいたリルドはその衝撃を防げたが、高速に抉り取られていく大地に思わず息を飲む。
つくづくろくでもない、と痛感させられる。
嵐のような猛撃が止むとリルドはウィィィ…ンというポンプ音を立てて歩き出したゴーレムから離れる。
同時につい今しがたまでリルドがいたところが足を一本失い安定性を失ったゴーレムの腹がめり込んだのを見て、冷や汗を掻いた。
「ったくシャレにならないな。」
額に張り付いた前髪を掻き揚げ、リルドは口の中で素早く言葉を紡ぎだす。
先ほど攻撃して気付いたが、これは機械系ゴーレムで電撃に脆い。
砕けた左前足同様に右前足には短刀が突き立ったままだ。
―こいつを壊せば、動きは止まる!
すでにセンサーである単眼は破壊済みだ。あとは動きを封じてしまえば、どうにでもなる。
ただ先ほどのゴーレムの攻撃で少年の姿が見えないのが気になるところだが、周囲を取り囲む風の結界が健在。
術者がいなくなれば、即座に消えてしまうものだ。
それがあるということは無事と判断していい、と結論付け、リルドは魔力を解放する。
リルドを守るようにいくつもの雷と水の球が浮かんだと思うと、まるで意思があるか如くゴーレムに襲い掛かっていく。
動きの良い後ろ足を器用に動かして、放たれた水の球を払いのける。
が、砕けた水を装甲に張り付き、それを媒介にして電撃が青白い光を発してゴーレムの全身を駆け抜けていく。
無数に駆け抜ける青白い電撃は残っていた前足に突き立てられた短刀に集中し、乾いた大地が雨水を吸い込むように電撃がゴーレムの体内に飲み込まれ、縦横無尽に暴れ回る。
鈍い爆発音と共にゴーレムの巨体から次々と黒い煙が立ち昇っていくのを見届けるとリルドは風を纏い、その背へと駆け上がる。
開閉式の発射口は機能を失い、リルドの眼前に脆い内部を晒す。
「これで終わりだ!!」
一瞬にして巨大な電撃を創り上げ、リルドは迷うことなく打ち込んだ。
むき出しの内部が竜の鋭い爪に切り裂かれ、小規模な爆発を立て続けに起こす。
すでに機能を失っていた頭部が派手な金属音を立てて背後に回転すると、最後の悪あがきとばかりに壊れかけた単眼から極限にまで高められた超圧縮レーザーをリルドに向けて撃つ。
わずかに遅れて気付いたリルドはとっさに剣を抜き放った。

軽いガラスが砕ける音に空気を震わす爆音が重なる。
が、それは一瞬のこと。
鋭い刃がつきたてられた頭部は白い煙を残し爆発。やがてその巨体のあちこちからより強い爆発が起こり、まるで波のように連なるとともに強大な破壊力を生み出した。
真っ白な閃光が辺りを包み、リルドは思わず左腕で顔をかばう。
やがて―それが消え、無残にえぐれた大地の傷跡を晒していた。
「終わったな。」
「ああ、なんとかな。」
脱力し、ひっくり返るリルドに少年は乱雑に頭をかき、へたり込む。
ゴーレムが最後に足掻きをみせたあの一瞬、風の魔法で上空にいた少年は最大限のスピードでリルドを引っ張り上げ、リルドは剣をゴーレムの単眼に突き刺した。
それが最後。
寸前に響いたゴーレムの言葉に二人は素晴らしい速さで逃げ出した。
―ジ…バク…起…動、テキ…ヲ…ハイジョ…ハイジョォォォッ!!
危ない科学者の如く奇声を上げてゴーレムは自爆。
あと数秒遅かったら、巻き込まれていたに違いなかった。
「最後までふざけた真似してくれるじゃねーか、リーディスの奴。」
「同感だ。この落とし前、きっちりつけてさせてやる!!」
地を這うような声で毒づく少年にリルドは諸手を上げて賛同した。
大事な短刀を失っただけでなく危うく死に掛けたのだ。
当然といえば当然。
何はともあれ、今回の元凶を叩きのめさなくては気が済むはずがなかった。

「どう?出来は。」
気に入ったと言外に尋ねるレディ・レムにリルドは満足げにうなずき、真新しい短刀2本をカウンターに置いた。
繊細な彫金が施されているが、どちらも雷と水の属性魔法を付与された強力な魔法剣だ。
不満なはずがない。
「迷惑料にしては安すぎたかしらね。」
別に依頼料は払わせるからいいかしら、と物騒なことを口にするレムに苦笑するリルドの後ろでは涙を濁流のように流しながら街の住人にこき使われるリーディスの姿。
レディ・レムから逃げ回っていたリーディスは爆煙と共に砕けたゴーレムと恐ろしいまでに笑みを浮かべて戻ってきたリルドと少年に追い立てられ、街の住人達の前に引き出された。
皆からリーディスが締め上げられたのは言うまでもなく、街の損害に慰謝料。ついでに巻き込まれたリルドへの慰謝料を全て返済を言い渡され―休むことなく修復に勤しんでいた。
「魔道彫金師で助かったよね〜リーディス。」
壊れた建物は魔法で修復することができるから、と少年は笑うがその目は冷徹で笑っていない。
その怒りの深さに師であるレディ・レムは肩を竦めた。
無関係な者を巻き込むことを嫌う弟子にしてみれば、今回は不本意極まりないところだろう。
行きがかりとはいえ全く無関係だったリルドを危険にさらしたのだから怒るのも当然と言える。
「まぁ、あれくらいでも安いもんだけどな。」
わずかに怒りを滲ませ、リーディスを睨みながらもリルドは修復し始めた街に心からの笑みを浮かべた。
FIN


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■   登場人物
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【3544/リルド・ラーケン/男/19歳/冒険者】

【NPC:レディ・レム】
【NPC:リーディス】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、緒方智です。
ご依頼頂きありがとうございます。お待たせして申し訳ありません。
今回のお話、いかがでしたでしょうか?
暴走ゴーレムは見事に粉砕され、街は平和に。
むやみやたらな彫金を作る彼女もこれで懲りた…かは不明。
なにせよくトラブルを撒き散らすものだから、信用薄いです。
しかし、今回は充分に懲りた模様ので一安心です。
また機会がありましたらよろしくお願いします。