<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『月の紋章―第三話―』

●仄かな明りの下
 隙間から、月の光が流れ込む。
 冷たさを感じる、鋭い光だった。
 岩をずらし、外を覗き見る。
 空には、幾多の星と、丸い月が浮かんでいる。
 いや、月は少しだけ欠けている、か。
 満月まで、あと数日――。

 ワグネル、ケヴィン・フォレスト、ウィノナ・ライプニッツ、キャビィ・エグゼインの四人は、洞窟を抜け出した後、更に山奥へと進んだ。ほとぼりが冷めるまで、山の中にいた方がいいだろう。
 ワグネルはこのままカンザエラに出て、エルザードへ帰還することを提案し、キャビィは下山して騎士団と交渉をすることを提案している。両者の意見は正反対であった。
 ウィノナは鋭い目で警戒をしながら、今は何も言わなかった。
 ケヴィンは皆に従いながら、時折気のない顔で聖殿の方角を見ている。
「明日こそ、下りよう。リミナが心配だしね!」
 アセシナートの兵と戦闘になると厄介だと説き伏せ、キャビィをここまで連れてはきたが、何度説得してもキャビィの意思は変わらないようだった。
 ワグネルはため息を一つついて、立ち止まった。
 ここからは、聖殿の明りは見えない。
 自分達以外の気配もなく、人の声も一切聞こえない。
「何度も言ったが、依頼は既に達成した」
「そ、そんなことないよ、もう少し詳しい調査が必要なんだよ!」
 ワグネルの言葉に、慌てるキャビィ。ウィノナとケヴィンは静かに見守っていた。
「お前がそう言うんなら、お前の仕事はまだ終わってねぇんだろうが、俺が受けた依頼は既に終了だ。……俺は、抜ける」
「えっ!?」
「こっちの方向に進めば、カンザエラに出れそうだ。まあ、そういうわけで、これ以上あんた等が何をしようと俺には関係ない。じゃあな!」
 ワグネルは皆に背を向けると、軽く手を上げて、一人足早に木々の間に入っていった。
「ま、待ってよ!」
 追おうとするキャビィの肩を、ウィノナが掴んだ。
「動くな。動いたらキミが誰であろうと容赦しない。魔法も使わないでよ。キミの手を掴んでいるからキミが魔法を使おうとしたらすぐに分かるから」
「な、何……?」
 キャビィがゆっくりと振り向いた。
「ボクはキャビィのことよく知らなかったから、さっきまでは性格なのかと思ってたんだけどさ――キミ、冒険者にしては隙がありすぎる。荒事とは無縁の人みたいにね。それに、前からキャビィと知り合いだったワグネルのあの行動」
 月明かりに照らされたキャビィの顔は、青白かった。
「言いたい事は分かるよね……さあ、キミは誰? 目的は?」
 初めから、この仕事の内容は曖昧であった。
 ウィノナは自身の目的があったので、あまり気にはしなかったが――自分達に求められていたのは結果ではなく、聖殿を調査するという行動そのものであったとしたら。
 最初にキャビィが言っていた方針を思い出し、ウィノナもケヴィンも、本当のキャビィはこの事態が起こりうる可能性を考え、あのような発言をしたのだろうと、もう気付いていた。
 キャビィが足を引く、ケヴィンはその足に自身の足を軽くぶつける。ウィノナを振り切ったとしても、逃げることは適わない。
 更にウィノナは、キャビィの両肩を掴んで押し、彼女の背を大木に押し当てた。
「話せないと言うなら、ここに縛り付けて置いていくことにするから」
 ウィノナの真剣な顔に、キャビィは小さく吐息をついた。
 そして、表情を変える。 
「私は……キャビィだよ。あんた達は、何をみて私を判断するわけ? 私の身体はキャビィ、記憶も持ってる。ただし、彼女の意思はここにはないけどね」
 不敵に笑って、その女は言った。
 ウィノナは女を睨みながら問う。
「それなら、本当のキャビィの意思はどこにある?」
「私の身体の中だよ。カンザエラのね」
「……なるほどね」
 ウィノナとケヴィンは顔を合わせる。
 つまり、あの時だ。
 キャビィとリミナの姉が衝突した時、だ。
 衝突時、リミナの姉は気を失った。その姉の意識が戻った姿を自分達は見ていない。
「で、目的は?」
「他国からやってきた、馬鹿な冒険者を聖殿に連れていくこと。まあ、あんた達は、冒険者じゃないみたいだけど」
「ボク達はキミが誘導しなくても、来るつもりだったけど?」
「目的達成して帰っちゃったら意味ないじゃん。捕まってもらわないと。それも、私の誘導でさ」
 怪しまれないように皆の意見を聞き、取りまとめながら、上手く騎士団に捕まるよう導いていたようだ。
 そして、千獣は捕まった。
 ケヴィンは目の前の女性を見ながら、思考をめぐらせる。
 目の前の女はともかく、リミナからは悪意といったものが感じられなかった。時折怯えた様子だったのは、自分達を騙していたからか? まあ、捕まったといっても、千獣はリミナを護る為に一緒に行ったというところだ。
 ケヴィンは2人の心配はしていなかった。
 千獣の強さは、共に戦った際に肌で感じていた。彼女のリミナへの想いも。
 多分、互いが互いを守るだろう。
「リミナが捕まったのは、キミにとって予想外だったの?」
「一緒に捕まる予定だったんだよ。リミナは自分の身体で行ってるから、万が一ってこともありえるし」
 そう言った後、その女は悔しげに唇を噛んだ。
 リミナのことは、本当に案じているようだ。
「見たところ、アセシナートの兵士ってカンジじゃなさそうだけれど、キミ達は何者なんだ? 連れていかれた冒険者はどうなる?」
「私達は、聖都に見捨てられたカンザエラの民だよ。アセシナートと、取引して生きている。貿易のようなものさ。渡した冒険者達がどうなるかは知らないし、知りたくもない」
 言って女は顔を背け、口を噤んだ。
 ……さて、どうする。
 ウィノナとケヴィンはそれぞれ考える。
 ウィノナはまだ目的を達していない。
 そして、千獣やリミナを見捨てる気にはなれなかった。
 ケヴィンは帰りたい――気分ではあった。なんだかとても面倒なことになってきており、千獣の実力を認めている為、自分が行く必要は特に感じられない、のだが……。
 一つ、気がかりなことがある。
 聖殿で聞いた兵士達の言葉によると、どうも知り合いの薬売りの少女があの聖殿に連れてこられるようなのだ。
 行方不明になって久しい彼女。自分が絡んだ事件に関係しており、彼女はアセシナートに渡してはならない存在だったはずだ。……多分。確か、きっと……。
 放っておけば、更に面倒なことになる可能性もある。
 となると、やはりケヴィンももう少し、この件に付き合わざるを得ないようだ。
「名前、なんていうの? もうキャビィとは呼びたくないから」
 ウィノナの言葉に、ふて腐れ気味に女はこう答えた。
「ルニナ」
「じゃあ、ルニナ。3日、キミをここに拘束しておく。聖殿の様子を見て、リミナが解放されていないようなら、リミナは奴らの手に落ちたと考えられる。その場合は、キミも腹を括ってボク達に協力し、リミナ達の救出に動くこと。実験かなにかの決行の日が狙い目かな。
 もし、3日以内にリミナだけが解放された場合は、キミをここに拘束したままで、ボク達は聖殿に戻り、千獣の救出に動くよ。それでいい?」
 ウィノナの言葉に、ルニナはしぶしぶといった風に、頷いた。

**********

 尋問には素直に答えた。
 リミナの存在は、アセシナート側も知ってはいるため、手を出されることはなかった。
 しかし、捕らえられた彼女達が解放されることはなかった。
 リミナはずっと、泣き続けていた。
 千獣はずっと、リミナに寄り添っていた。
 光が全く射し込まない部屋で。
 蝋燭の明りに照らされながら、何時間、そうしていただろうか。
「……リミナ、アセ、シナート、と、何、か、取、引、した……?」
 嗚咽を漏らしながら泣き続けるリミナの頭を、千獣はそっと撫でた。
 責める気持ちは無かった。
 たとえ、どんな取引であっても。彼女が何をしようとしていたのであっても。
「アセ、シナート、約、束、守ら、ない。……リミナ、フェニ、ックス、手に、入、れられ、ない……いいの……?」
 その言葉に、リミナは首を強く振った。
「……分かる、から。リミナ、大、切な、もの、守、りたい、思っ、てるの……分かる、から。知、ってる、こと、話し、て……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 リミナの口から出る言葉は、謝罪の言葉ばかりであった。
「……いい、よ。私、は、アセシ、ナート、には、協、力、しない、けど、リミナ、の、力、に、なり、たい、から……」
「ごめん、なさい。でも、一人で行こうと思ったの。だけど、あなたに甘えてしまった……っ」
 リミナは激しく泣いた。
 その間中、千獣はリミナの傍で、彼女の頭を撫でていた。

 数分後、リミナはゆっくりと語りだした。
「アセシナートが、私達カンザエラの弱者に手を出してこないというのは、嘘です。彼等は、カンザエラ全てを制圧し、私達に強制労働や、実験体となることを強いてきました」
 震えるリミナの手を、千獣は握ってあげていた。
 時折大きく息を付きながら、リミナは話し続ける。
「エルザードに助けを求めましたが、エルザードから派遣されてきたのは、異界人中心の冒険者ばかりでした。だけれど、アセシナートは私達より、エルザードの冒険者達の方を欲しました。だから、私達は、エルザードでフェニックスの聖殿の噂を流し、冒険者を集めることにしました。そうしてアセシナートに協力することで、貧民街の人々は彼等に手を出されなくなったのです」
「……フェニ、ックス、欲しい、理由、は……?」
 千獣の言葉に頷いて、リミナは続きを語った。
「姉を救いたいから……というのも、嘘ではありません。でも、姉だけではなくて、姉と街の人々も助けたかったから……。多くの人々は、アセシナートの実験により、身体が蝕まれ、長くは生きられない状態なのです。だから、フェニックスの力が欲しかった……」
「……その、代り、として、アセ、シナート、何、求め、た……?」
「強靭な身体や、絶大な魔力の持ち主。です。あなた達のような」
 千獣達が立ち寄った空家は、冒険者が立ち寄り易い場所にわざと建てたのだという。入ってきた冒険者の能力を見定め、リミナの姉――ルニナが、身体を支配し、聖殿へ導いていたのだという。
「ごめんなさい……誰かの為に、誰かを犠牲にしていいなんてこと、あるわけがないのに……」
 リミナの眼から、また涙が落ちる。
「……悪い、のは、アセ、シナート、だから……」
 千獣の言葉に、リミナは首を左右に振った。
「誰かを犠牲にして何かを得ようとせず、自分を犠牲にして、求めるべきだったのよ。でも、怖くてできなかった……」
 リミナが泣き腫らした目で真直ぐに、千獣を見つめた。
「アセシナートが約束を守ってくれなかったとしても、あなただけは、犠牲にさせないから」
 リミナの言葉に、今度は千獣が首を左右に振った。
「……私、は、自分、の、意、思、で、ここ、に、いる……リミナ、と、一緒、に……!」
 たどたどしくとも、強く、強い意志をこめて、千獣は言った。

●痩せた少女
 トントン
 ドアが叩かれる音で、目が覚めた。
 返事をする必要はないだろう。
 用があれば、勝手に入ってくるはずだ。
 フィリオ・ラフスハウシェは、身体を起こし、相手が現れるのを待った。
 足は未だ拘束されている。
 部屋自体に魔法封じの術かなにかが施されているらしく、魔法も封じられたままであった。
「フィリオ……」
 小さな声と共に、ドアが開いた。
「キャ……っ」
 姿を現した少女を見、フィリオは思わず立ち上がろうとして、体勢を崩す。
「フィリオ!」
 少女……キャトル・ヴァン・ディズヌフが部屋に駆け込み、フィリオを支えた。
「今外すからね」
 フィリオの足を拘束している枷に手を伸ばし、キャトルは鍵穴に、鍵を差し入れて回した。
 小さな音と共に枷がはずれ、フィリオの足が自由になる。
「キャトル、大丈夫ですか? また少し、痩せたようですが……」
 腰まである金髪に、身体全てが覆われてしまうほどに、彼女はまた一回り小さくなっていた。
「あたしは大丈夫だよ。それより、フィリオ……傷、手当てしないと」
 悲しげに、キャトルは笑った。鍵の他、彼女は薬箱も持っていた。
「大丈夫です。自分で手当てしましたから」
「傷だらけの天使なんて……やだよ」
 女天使の姿のままのフィリオに、キャトルは小さな声で言った。小さくとも、想いの込められた胸を打つ声であった。
「すみません」
「何で謝るのっ。あたしのせいで、こんなことになったのに」
「違います。迎えにくる方法を、少し間違えてしまった私のミスです」
 安心させようと、フィリオはキャトルに微笑んでみせた。
 ……そして、異変に気付いた。
 手を伸ばして、キャトルの額に触れ、彼女の前髪を上げた。
「これは……」
 痣のような、不思議な印であった。
 目にしたことがある模様だ。
 まるで、この騎士団の紋章のような――。
「あ、あたしね」
 キャトルはフィリオの手を振り解いて、少し後ろに下がった。
「月の騎士団に入ったんだ。うん、だからフィリオもうあたしのことは、心配しなくていいんだよ」
「キャトル、なにをッ」
 立ち上がったフィリオを、小さな痛が襲った。
「動いたらダメだよフィリオ! 傷が治ったら、ここから出られるようにするからね。国境まで送るよ。多分、それくらいなら許してもらえると思うからさ」
「何を言ってるんですか、キャトル」
 フィリオはキャトルを睨みつけた。
 キャトルは変わらず――悲しげな瞳で、それでも精一杯の笑顔を浮かべながら、自分を見ていた。
 ああ、そうか。
 フィリオは気付いた。
 彼女と再会し、手が触れたあの時。あの時はまだ、額にこの印はなかった。
「私のため……ですね?」
 フィリオの言葉に、キャトルはビクリと身体を振るわせた。
「すみません」
 キャトルは首を左右に大きく振った。
「だから、何で謝るの! あたしのせいで、こんなことになったのに」
「だから、キャトルのせいではありません」
「違う、全部私のせいだ。あたしが、捕まったから。あたしが、狙われたから、あたしが、山から下りて、フィリオと出会ったから――ッ」
 途端、フィリオは右手を振り上げた。
 キャトルは反射的に、目を閉じる。
 フィリオは振り上げた手を、キャトルに伸ばし、頬に触れた。
 暖かい手の感触に、キャトルは目を開けた。
 後頭部へと手を滑らせて、フィリオはキャトルを引き寄せ、自分の隣に座らせた。
 肩を抱いて、身を寄せる。
「私達は友達でしょう? あなたと長く楽しい時間を過ごしたいと、お話ししたはずです」
 その言葉に、キャトルはゆっくりと頷いた。
「不安な思いをさせて、すみません。でも、大丈夫です。一緒にいましょう、キャトル」
 それはキャトルも望んでいたことだ。
 だから、キャトルは再び、頷いた。
 頷いて、フィリオの黒い目を見た。
「じゃあ……あと少しだけ、傍にいてね、フィリオ」
「少しではなくて、出来るだけ長くです」
 微笑んだだけで、その言葉にはキャトルは頷かなかった。
 多分、この額の紋章に縛られているのだろう。
 何を意味するものだかはわからないが――フィリオは、キャトルの頭を撫でながら、黒い瞳を鋭く光らせていた。

 数時間後、部屋に戻されたキャトルと入れ替わりで、フィリオの元にやってきた女がいた。
 ドアの前に、兵士を留まらせると、女は一人で部屋へ入ってくる。
 ザリス・ディルダだ。
 フィリオは鋭い視線で迎え入れる。
 ザリスは部屋に入ると、硬いベッドの上に腰かけた。
 微笑ながら、フィリオを見ている。
「私に話があるんでしょ?」
 食事を届けにきた兵士にザリスへの伝言を頼んでいたのだが――本人が直接この部屋に現れるとは思ってもみなかった。
 魔法が使えないこの部屋からフィリオを出すつもりはない、という意味だろうか。
「キャトルから話を聞きました。あなたがキャトルに何をさせようとしているのかも」
 一呼吸置いて、フィリオは言葉を続ける。
「私達の情報は把握しているんですよね? では、私自身が今もこの姿のままでいる理由もご存知ですよね」
「聖獣装具の暴走だっけ? それがどうしたの」
 興味なさそうに、ザリスは答えた。
「暴走とは限りません。その原因の仮説に、今の姿は化身変化ではなく体の入れ替え。今の私の体は聖獣そのもので、聖獣は私の元の体を使ってこの世界のどこかで活動している、というものがあります」
「……だから?」
「万が一それが真実ならば、私がフェニックスの張った結界の影響を受ける可能性は低いと思います」
 その言葉に、ザリスは満足気な笑みを浮かべた。
「どうかしらね? フェニックスの身体ならともかく、フェニックスとエンジェルは違う聖獣よ? 火の聖獣フェニックスが張った結界の影響を、水の聖獣のマーメイドが受けないと思う? 逆だと思うんだけど。まあ、フェニックスとエンジェルの相性については、私にはわからないけれど」
「……損はないのですから、試してみる価値はあるのではないですか?」
「そうね。是非試してみたいわ」
 傷ついた女天使の姿を眺めながら、ザリスは目を細めて言った。
「力が勝れば結界を通れるでしょうし。あの子と同じように」
「キャトル……のことですね?」
 フィリオの言葉に、ザリスは頷く。
「あの子は強大な力を持っているわ。その力は日々成長をしている。肉体が持たないほどにね。魔法を受け付けないのは、内在している力が、勝っているからよ。つまり、聖獣フェニックスの張った結界以上の力をあの子が有していれば、通れるわ」
「有していなければ?」
「それは、あなたの想像に任せるわ」
 声を発して笑い、ザリスは立ち上がった。
「最後まで一緒にいてあげてね。友達なんでしょ?」
「ええ、彼女は大切な友達です」
 その先は、フィリオは言葉に出さなかった。
 最後まで一緒にいるとは言わない。
 最後は、まだずっと先のことだ。
 自分が共にいると決めたのは、最後を見るためではない。

●草原
 風が吹き抜ける音も、遠くで鳴く、鳥の声も。
 何も、聞こえはしなかった。
 ただ一つ、目の前の女の呼吸音だけを、山本健一は感じ取っていた。
 剣に手をかけた女――レザル・ガレアラから目を離さずに、健一は腕の中の女性、アルメリア・ザテッドにこう囁いた。
「余計なことをすれば、あなたを始末します」
 そのまま、アルメリアを放り出す。
 それを合図とし、レザルと健一は、同時に跳んだ。互いに、後方へと。
 魔術を得意とする者同士、間合いを取りたいのは相手も同じだ。
「始末されるのは、あなたの方よ!」
 鋭い声を発したのは、レザルではなかった。アルメリアだ。呪文を唱える姿が、目の端に映る。
 詠唱に入る前に言葉を吐くあたり、戦い慣れしていない。
 しかし、例え彼女が非戦闘員であったとしても、躊躇している余裕はない。
 健一はアルメリアより早く、高速で呪文を唱える。
 レザルはレイピアを抜くと、空に紋様を描いた。
 術の発動は、健一の方が僅かに早かった。直後、レザルの魔術が炸裂する。
「きゃああああーーーっ」
 叫び声を上げたのは、アルメリアだ。
 レザルもまた、彼女を庇う気はないらしい。
 健一が発動した魔法は、加速。レザルが発動した魔術、空間爆破の範囲外に瞬時に跳んだ。
 続いて、レザルが詠唱に入ると当時に、健一は飛翔の魔法を発動させる。
 レザル・ガレアラ――。以前対峙した際に、彼女の癖は見抜いている。
 この女は、魔力に頼りすぎている。
 予め、肉体を強化しておけば、十分避けられる攻撃であっても、咄嗟にこの女が取る手段は、魔力に頼った攻防が多い。
 空に向かって放たれた無数の光の弾を躱しながら、健一は次の魔法詠唱に入る。
 幾つかの光弾が、健一の身体を掠めるが、小さな衝撃を気にしている余裕はない。
 地上に足をつけた直後、発動させた魔法は大地の魔法であった。
 大地が激しくゆれ、隆起する。
 レザルは飛び退き、空間術で空中に止まった。
「草原では、戦い難いか?」
 嘲るような声が響く。
「それは、私よりあなたの方だと思いますけれど」
 隆起した土壁の裏に身を隠しながら、健一は詠唱を始める。続くレザルの攻撃は9割方広範囲の落雷等、落下系魔法だろう。
 それに備えたガードを……。
 しかし、健一の予想は外れ、レザルが発動した魔術は、空間切除術であった。空間が削り取られ、健一の前の土壁が巻き込まれるように、消え去った。健一の目の前に、レザルの掌が在った。
 魔力の衝撃派が放たれ、健一は後方へと吹き飛んだ。
 ――だが、健一の身体は地に打ち付けられることはなく、受け止められた。2人以外の人間に。
「俺も混ぜてもらえんかな」
 自分より、年上の男性の声だった。
 立て続けざまに放たれる魔法を、発動した魔法防御壁で防ぎながら、健一は軽く振り向いて、男の姿を見た。
 腕に、意識を失ったアルメリアを抱えている。知り合いではないが、見たことのある男だ。どうやら味方のようだ。
「では、その女性を連れて、離れた場所で待機していてください。彼女は重要な交渉材料です。あの魔術師は――私が倒します。因縁がありましてね」
 健一の言葉に「了解」と答えると、男はアルメリアを抱え上げ、カンザエラの方角へと走っていった。同時に、健一もシールドを展開したまま、レザルの方へと走る。
 繰り出される強力な爆破魔法に、シールドが消滅する。しかし、大技は軌道が分かり易く躱しやすい。身体能力を上げている健一は、爆破地点を避けながら、レザルへと接近した。
 レザルがレイピアを真横に滑らせた。
 先ほどと同じ動きだ。
 健一は、魔法を唱えながら、走る。
 レザルが空間を切り裂く。瞬間、レザルと健一の距離が一気に縮まった。
「ハッ!」
 自分に向けられた手を、踵で打ち落とす。
 健一の魔法詠唱はフェイントだった。そのまま身体を捻り、もう一方の足で、レザルの側頭部を蹴る。
 よろめく女の後ろに着地し、背骨に肘を叩き込む。武器を持っていれば、貫けたのだが――。
 続く攻撃を仕掛ける前に、レザルが周囲に放った魔力の衝撃派により、健一は後方へと飛ばされていた。
 振り向き、健一を睨んだ顔――数ヶ月前の、あの時と同じ形相だった。しかし、もう一つの武器、宝玉の嵌められた杖を、手に取ることはなかった。
 レザルがレイピアを振るう。健一は身構えるが、今度は逆だった。空間が広がり、二人の距離が広がった。

 アルメリアを抱えた男は、カンザエラの建物の屋上から、2人の様子を見ていた。
「つ……ううっ」
 小さく声を上げて、アルメリアが目を覚ます。怪我は殆どない。
「さて」
 男――クロック・ランベリーは、アルメリアを下ろすと、彼女の細い首を片手で掴んだ。
「事情を聞かせてもらえるか?」
「あ、あの男にさらわれたのよ! 私は被害者よ」
 慄きながら叫ぶアルメリアの首を、クロックはゆっくりと締めた。
「あの青年は、自分の依頼主の友人だ。意味もなくそのようなことはしない」
「あ、う……わ、たしの……お腹の中には……子供が……た、すけて……」
「命乞いか? いや、違うな。貴様もアセシナートの一味だろう? その手には乗らん」
 クロックの言葉に、アルメリアは一変悔しげに唇をみ締めて、クロックを睨んだ。

●聖域
 その後、聖殿に変化はなかった。
 関係者以外の人物が訪れることも、侵入者騒ぎが起こることもない。
 騎士の見習いに志願したリルド・ラーケンは、退屈な日々を送っていた。
 しかし、彼の思いは騎士団の任務にはない。
 自分の失点にのみある。
「本部から、女が2人、送られてきたぜ。なんでも片方は天使だってよ」
 兵士の雑談が耳に入る。
 ようやく、退屈から抜け出せそうだ。
 リルドは軽く笑みを浮かべると、ヒデル・ガゼットに近付いた。
「キャトル、来てんだろ。会うくらい構わねぇよな?」
「休憩時間なら構わんが、同行させてもらおう」
 やはり、まだ自由な行動な許されない。

 交渉の上、リルドは本部から訪れた者達と、昼食を共にすることを許される。 
 普段、立ち入ることが許されない中央に近い部屋に、リルドは足を踏み入れた。
 石造りの冷たさを感じる部屋の中にいたのは……紛れもなく、キャトル・ヴァン・ディズヌフであった。
「リルド!?」
 リルドの姿を見た途端、キャトルは立ち上がる。一緒に、隣の女性も立ち上がった。フィリオ・ラフスハウシェだ。女天使の姿をしている。怪我をしているようだが、無事、キャトルの元にたどり着けたようだ。
「よお、キャトル、おもしれぇことに参加するだってな」
「面白くなんかないよ……。リルドは、なんでこんな所にいるんだよ!」
「あんたと同じさ。ここにいると、色々楽しめそうだろ?」
 にやりと笑って見せる。
 キャトルは笑い返さず、フィリオと共に椅子に腰掛けた。
 座って数秒後……キャトルは思い直したかのように、こう言った。
「そうだね、面白そうだ! それじゃ、ご飯食べて力つけて、頑張ってみよっかなー」
 キャトルは、パンを手にとって、食べ始めた。
 そんな3人の様子を、微笑みながら無言で見ている人物がいる。――ザリス・ディルダだ。
 リルドとフィリオは軽く目を合わせるが、直ぐに逸らし、互いに食事を始める。自分達の行動、仕草の一つ一つは監視されている。 

 食事後、別れ際に、リルドは呟くようにこう言った。
「雨、降らねぇかなー」
「雨?」
 キャトルが反応を示した。
「そう、雨だ。最近晴天続きで、空気が乾燥してるだろ? 火の聖獣フェニックスの結界っつーんだから、雨を降らせれば弱まるんじゃねぇ? そこのオネェサンの肌にも潤いが必要だしよぉ」
 リルドの言葉に、ザリスの眉間が僅かに動いた。
「魔力とかが優れた奴らが集まるんだろ? 魔法使いに会ったら、頼んどいてくれ」
「……うん、わかった!」
 言った後、キャトルは右手を差し出して、ゆっくりと微笑んだ。
「じゃあね、リルド」
 なんとなく、それは別れの握手のような感じがして、リルドはキャトルの手を握らなかった。
「またな、キャトル」
 頭上で手を振って、持ち場へと戻っていった。

**********

 手に枷を嵌められた状態で、千獣とリミナ――そして、同じように捕らえられていた人々だろう、多くの若者が門の前にいた。
 自分の背丈の2倍ほどある門を千獣は無表情で見上げた。
「進め」
 兵士が千獣の首に、剣を当てながら言った。
 平然と、千獣は進む。リミナとは、腕を触れ合わせたままで、開かれた門の先に共に進んだ。
「うっ」
「あっ」
「きゃっ」
 周囲から、声が上がる。
 千獣も思わず身震いした。
 リミナは顔をゆがめ、歯を食いしばっている。
 部屋に入った途端に感じた違和感。
 身体に何かが押し寄せ、消滅していくような感覚。千獣が感じていたのは、そんな感覚であった。
 しかし、リミナは違うようである。
 拳を握り締め、身を縮めている。
「……リミナ、痛い、の……?」
「……平気、よ」
 そう言った彼女の声は、弱弱しかった。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
 倒れてしまう人が多い中、自分達の他に会話をしている人物がいた。
 千獣はリミナをいたわりながら、そちらへと目を向ける。
 痩せた少女と、女天使だ。エルザードの酒場で見たことが、ある。
「あなた達も、大丈夫なんだ」
 痩せた少女が、千獣達に気付いた。
「大丈夫じゃないふりして、倒れた方がいいよ」
 少女が囁くが、リミナは首を横に振った。
「不要なら、実験体として使われるだけですから」
 リミナの言葉に、少女は悲しげに「そうだね……」と答えた。その後、こう訊ねてきた。
「ね、ここ通れるってことは、あなた達も変わった能力持ってるんだよね? 雨、降らせられる?」
「雨、ですか? でも何故?」
「わかんない。でも、きっと何かあると思うんだ、うん」
 曖昧な言葉であったが、自分達と同じ状況にある少女の言葉だ。リミナは、少女の言葉に頷いて、少し身体が楽になったら、雨を降らると約束をした。
「お前達は、ここで待機だ」
 騎士と思われる男が、痩せた少女と女天使を、下がらせた。
 男は、千獣とリミナ、そして辛うじて立っている若者達に、剣を突きつける。
「歩け」
 言われた通り、前へと歩きだす。
 その、先に――。
 巨大な鉄格子の向こうに、リミナが求めていたものが、居た。
「フェニ……クス」
 それは紛れもなく、炎の鳥、フェニックスである。
 近寄ろうとするリミナの前に、剣が突き出される。千獣が彼女の前に躍り出て庇う。
「進め」
「成功したら、フェニックスの力をお貸しいただけますか?」
 リミナの言葉に、男は答えない。
「……約、束、しても、守っ、て……くれ、ない、から……」
「そう、よね……」
 リミナは目を伏せて、先へと進んだ。
 この先の地下には、フェニックスの卵が置かれているという。
 それを手にいれることができれば――自分がそれだけの力を有していれば、彼等と対等に交渉できはしないか。
 リミナにとって、最後の賭けであった。
 千獣はギリギリまで、彼女に付き添うつもりであった。そして、彼女に限界がきたのなら、なんとしても止めなければならない。

 その真上。
 屋上を這うように進む者達がいた。
「結界が張られているのは、部屋、だけのはずなのに、なんかここにいても痛い」
 そう小声で言ったのは、ルニナという女性だ。外見はキャビィのままであったが。
「図面では、このあたりがフェニックスの間なんだよね。さすがに入り込める場所はないか……」
 ウィノナが周囲を見回す。しかし、僅かな隙間も見あたらない。
 ケヴィンは相変わらず無言、無表情で黙々と周囲を探っている。
 ルニナはリミナの魔力を。ウィノナは結界の状況を、ケヴィンは耳を澄ませ、室内の状況を探った。
「で、どこからか入り込んで、リミナと千獣を救出して、逃げる。それでいいんだよね?」
 ウィノナの言葉に、ルニナが頷いた。ケヴィンは皆の意見に従うといったように、軽く頷く。
「あっちに移動している。人数が減った」
 そう言って、ルニナは移動を始める。ウィノナとケヴィンも後に続いた。
「ここって、聖獣による結界が張ってあるんだよね? で、アセシナートは結界を通れる人物を探してるってところ? ってことは、アセシナート側も、このあたりには耐性のある人しか入れないはず」
 ウィノナの言葉に頷いた後、ルニナはこう話す。
「だけど、逆にいえば、アセシナートの騎士クラスの強者が配置されてるってこと。私やウィノナより魔法に優れていて、ケヴィンより武術に優れた奴らがいるんだろうね」
「でも、行くんだよね?」
 ウィノナの言葉に、ルニナは真剣な目で頷いた。
「リミナにもしものことがあったら、何も意味がないからね。いいよ、あんた達は来なくても。ウィノナはフェニックスに興味があるんだろ? 私が騒ぎを起こしてる隙に、接触すればいい。ケヴィンは……なんでついてきてるんだっけ?」
 ……。
 さあ、何でだろう。
 ケヴィンは思わず首をかしげる。
「ケヴィンもリミナが心配なんだよ。キミと違って、ずっと悩んでたようだしね、彼女」
 ウィノナの言葉に、ケヴィンは一応頷いておく。
 本当は漠然とした理由がいくつもあるのだが、面倒なので、理由なんてどうでもいい。
 今、ここに自分は必要だと思う。多分、それが一番の理由だろう。
「あ、このあたり……痛くない。リミナは今、この下辺りにいる」
 ルニナの隣に移動し、ウィノナは周囲を探る。
 確かに、ここで結界が途切れているようだ。しかし……もっと深い部分に、強い力を感じる。
 この先には、地下に続く道があるのだろう。

 フェニックスの部屋を通過し、廊下に出た途端、身体が楽になった。
 その場所で、千獣達の手枷は外された。
 頭上から射し込む光に見上げれば、空が見えた。天井に穴が開いている。アセシナートの兵が、この場所に降り立つために開けたのだろうか。
 全員が揃うまでの間、少しだけ時間があった。
 リミナは手を組んで、目を閉じる。
 まるで、祈りを捧げるかのように。
 空を薄雲が覆い、小雨が降ってくる。
「フェニックスの熱い怒りが、冷やされるように、って思って……」
 リミナは千獣に力なく微笑んだ。
 あの痩せた少女が雨を降らして欲しいといったのは、そういう思いがあったためだろうか。
 リミナ達に続き現れたのは、青年が2人……のみであった。
 騎士と思われる男に挟まれながら、千獣、リミナ、青年達の順で進み、扉の前に立つ。
「この扉の先に、地下道がある。最深部まで進めた者は存在しない。最深部に安置されている卵を持って、ここに戻ってこい」
「そうしたら、国へ帰れるの、ですね?」
 青年の言葉に、騎士は無言で頷いた。
 リミナと千獣は何も言わない。だけれど、そのような有能な人材をアセシナートが手放すわけがないと、二人にはわかっていた。
 騎士が扉を開ける。
 その先は――赤く染まっていた。
 色のついた結界だ。
 まずは、千獣が手を伸ばしてみる。
 しかし、触れる瞬間、千獣は手を引いた。
 ダメだ。
 この力には、敵わない。
 千獣の中で、恐怖の感情が浮かび上がる。それは、千獣ではなく、千獣と一体になった負の獣達の感情だ。
 聖獣フェニックスの神聖なる力が、この先に強く張り巡らされている。
「行け」
 容赦なく、剣が向けられる。
 リミナが手を伸ばした。
 パチッ
 という、小さな放電のような音に、リミナが手を引くと……彼女の手は薄っすらと赤く爛れていた。
 リミナにも無理だ。
 千獣は目だけで周囲を見回した。
 あの穴から、リミナを抱えて出られるか!? いや、破壊してからでなければ、無理だろう。
「うわあっ」
 突如、青年達の悲鳴が上がった。
 途端、リミナの身体がぐらりと揺れた。
 騎士に押された青年達の身体は、リミナを押し、結界の中へ――階段へと転げ落ちていった。
「リミナ……!」
 浮いたリミナの身体に手を伸ばし、千獣は跳んだ。
 結界の、中へと。

 小雨が振り出した中、ケヴィンは人が一人通り抜けられる穴を発見した。ウィノナの肩を叩いて、穴を指差す。途端、それに気付いたルニナが起き上がって駆け寄る。
 音を立てるなといいたくとも、声を出せば返って状況が悪くなる。
 ウィノナとケヴィンは音を立てずに、ルニナに近付いた。
「ボク達の幻影を送って、撹乱しよう」
 小声でウィノナが言い、頷きあった後、ウィノナは小声で呪文の詠唱を始める。
 ケヴィンは棒を構えると準備を整えた。
 ウィノナが印を結び、魔術を発動すると同時に、ケヴィンは屋根を思い切り打った。
 物音に振り向いた騎士達の前に、ルニナ、ウィノナ、ケヴィンの幻影が在った。
 しかし、相手はアセシナートの騎士である。冷静に剣を繰り出し、幻影だと見破る。
 短剣が、中から空に放たれる。
 男が穴から飛び出し、身を退いたウィノナ達の前に現れた。
 ウィノナ、ルニナは初対面だが……ケヴィンは見たことがあった。
 確か、あの山で。
 子供ばかりの集落の近く。
 あの山の中で、子供達を戦わせていた男、だ。
 後に聞いた話では、彼自身もあの集落出身とのことだが……。
 ケヴィンは、剣を抜いた。
 手加減はできない相手だ。
 男が注意をケヴィンに向けたチャンスに、ルニナは穴へと飛び込んだ。ウィノナもその後に続く。
 ケヴィンは目で2人を追った。
 無鉄砲なところのある2人だ。放ってはおけない。
 男は、2人のことは気にしていないようだ。剣をケヴィンに向ける。
「お前のことは、覚えている。お前も、消さねばならない過去の一つだ」
 男が剣を振り上げ、ケヴィンに飛びかかる――!

「あった、階段。リミナはあっち?」
「そう、だけど……」
 通路に降り立ったルニナは身体を強張らせていた。
 扉の前に、騎士が一人立っているからではない。
 その先の空間の異質さに、身体が硬直していた。
「だめ、だ……あの先にいったら、この身体はもたない」
 キャビィの身体だ。無理はさせられない。
「魔法使いか。下りる資格があるか、試させてもらうか」
 扉の前の騎士が、剣を2人に向けた。同時に、左手に炎を集めている。魔法剣士のようだ。
 ウィノナとルニナは、後ろへと下がる。
 後方にも扉がある。その先は――中央の大部屋だ。おそらく、フェニックスのいる部屋。
 ルニナは戦い慣れはしていないようだが、魔法能力にはかなり秀でていると思われる。
 どちらへ、進むべきか。

**********

「フィリオ……大丈夫?」
 名を呼ぶ声が、次第に弱弱しくなる。
 笑顔を向けているが、相当辛いらしい。
 自分の腕を掴む手にも力が感じられない。
 それは、フィリオも同じであった。
 この場所に入り、まだ数分しか経っていないはずだ。
 しかし、身体に強い圧力を受け、息苦しさを感じる。
「お待たせ」
 2人の前に、ザリスが現れた。ヒデル・ガゼットを従え、底の見えない笑みを浮かべながら。
「お分かりの通り、この先に、最深部へと下りる階段があるわ。だけれど、あなた達は、そこからではなく――」
 ザリスは、床を指差した。
「この下に、直接下りてもらうわ」
 下は石が敷き詰められた床である。入り口などはない。
「調査を重ねた結果、卵が安置されている場所はこの真下のようだという結論に達したの」
 ザリスは歩いて、フェニックスの檻の方へと向う。
「魔法陣を利用し、このフェニックスの力を借りて、直接穴を開けるわ。そこから飛び降りてちょうだい」
 模様と思っていたのだが……床には、複雑な魔法文字が描かれている。
「この結果内では魔法は上手く使えないし、入れる作業員もいなくてね、手間取ってしまったの。でも、ようやく魔法陣が完成した」
「階段に向った人達は?」
「結界の力を分散させる為に、向わせたの。勿論彼等がたどり着いて、持ち帰ってくれてもいいのだけれどね」
 キャトルの言葉に笑いながら答え、ザリスは、一箇所――文字がかけている部分に立った。
「今から、私が魔法陣を発動するわ。魔法陣をコントロールしている最中、私はここから動けなくなるけれど、下手なことは考えないでね。彼はなかなかの使い手よ」
 言って、ヒデルに微笑みかける。
 ヒデルは目を伏せてザリスに礼をする。
「無論、私自身にも幾重にも防御策を施してあるわ。……さあ、中央に立って」
 言われたとおり、フィリオとキャトルは魔法陣の中央に立つ。
「意識を失っても構わないわ。あなたの身体が消滅するまで、私があなたを操って、卵を手にしてみせる」
 この女は、カンザエラの研究所の所長だという。
 そして、キャトルを捕らえ、彼女の身体を調べ上げた人物。
 この女が卵を手にするということは……何を意味するのか。
 しかし、今は手を繋いだ少女のことを、一番に考えねばならない。
 フィリオがキャトルを見ると、キャトルは苦しげな顔を一瞬で笑顔に変えて、フィリオを見上げた。
「辛くなったら、戻ってね。あたし、一人で大丈夫だよ。無理してフィリオが足で纏いになっても、あたしの力じゃ運べないし、ねっ!」
「……そうですね」
 微笑んで答えた後、フィリオは目を鋭く光らせる。
 ここの結界でこれほどまで消耗しているということは、キャトルにも無理だ。
 恐らく、魔力の問題ではない。
 キャトルの人間の身体がもたない。
 逆に自分の、天使の身体は現時点は大丈夫だ。
 しかし、魔力の面で結界の力に押され、圧力を受けている。
 ザリスが呪文を唱え始める。
 フィリオとキャトルは互いの手を強く握り締めた。

********** 

 小雨が降っていた。
「ははは、本当に降るとはな」
 笑みを浮かべながら、リルドは聖殿内を走る。
 結界を抑える準備の為、騎士は全て中心部へと向った。
 リルドは正式に配属されたわけではないため、引き続き聖殿周辺警備を命じられていたのだが……。
 雨が降り出すと同時に、共に警備していた兵士達を振り切り、ある場所へ向かっていた。
 聖殿中心部の側。
 制御室と呼ばれている部屋だ。
「待て!」
「貴様、どういうつもりだ!」
 リルドを追う兵士の姿に、聖殿内の兵士達、制御室を守る兵士が色めき立つ。
 リルドは懐から、小瓶を一つ取り出すと、周囲に振りまいた。
「はぁっ!」
 声を発し印を結んだ途端――周囲に静寂が訪れた。
 冷たい、静寂であった。
「斬られる痛みや焼かれる苦痛に比べりゃ、氷の眠りは悪くねぇだろ?」
 悠々と、リルドは兵士達の間を通り抜ける。氷結した兵士達の間を。
 氷で固まったドアをこじ開ける。
 男は、鋭い視線でリルドを迎え入れた。
 今まで見せていたような、余裕は見られない。
 男――グラン・ザテッドを前にリルドは剣を抜き放つ。
 グランは小さく吐息をついた。
「やはり、そういうことか」
「分かっていた割りには、随分と手薄なんじゃねぇか?」
 グランは剣を手にすると、リルドを視線で射抜いた。
 押し寄せる威圧感に、リルドの身体が震えた。血が熱くなり、心が高揚していく。
「以前……山で対峙した時と、身体能力が違って見えるが?」
「さあな、手の内を明かす気はねぇよ」
 水の違いである。
 リルドと同化した竜は水竜系の種族である。ゆえに、リルドは水辺では力も攻撃パターンも飛躍的に高まる。
 ここは水辺ではないが、澄んだ水を水筒に入れ、持ってきてあり……外では小雨が降り、水滴が時折聖殿内に流れ落ちている。
「先に、言っておく」
 グランは低い声で語りだす。
「俺は今、空間術で、フェニックスが張った結界に対抗している。貴様にとって、俺を倒すチャンスではある。しかし……俺を倒すと同時に、貴様は貴様と縁のある者達を殺すことになる」
 剣を抜き、グランは言葉を続けた。
「まあ、魔術が使えんでも、貴様一人倒すのは容易い、か」
 隊長、グラン・ザテッドは剣を抜き放った。
 男達は再び対峙した。
 以前はリルドが不利な状況下で。
 そして今は、グランが不利な状況下にある。
 しかし、それはほんの些細なことで、変わるだろう。
 長期戦はリルドにとって不利である。

●交渉
 山本健一とレザル・ガレアラの戦いは、数時間に及んだ。
 互いに、無数の傷を負い、荒い呼吸を繰り返す。
 一度、武術による攻撃を入れて以来、ずっと魔法戦を繰り広げている。
 強大な魔力を持つ二人とはいえ、そろそろ力も尽きようとしていた。
 だが、健一には大きな懸念事項がある。
 目の前の魔術師は、不死身な可能性がある。
 さらわれた少女達の救出に向った際に仲間が倒した相手――レザル・ガレアラの倍くらいの年齢の女魔術師は、確かに死亡した。その場で生き返ることはなかった。
 しかし、親戚か、娘か――このレザルという女魔術師は、一度絶命したにも関わらず、こうして自分の前に存在しているのだ。
 あの日見た、フェニックスのような炎。あれは一体なんだというのだ。
 自分が勝利するのは、絶対条件。ただし、勝利したとして、彼女が再び蘇ったのなら。瞬時に倒したとして、また蘇ったのなら。
 自分の魔力はいずれ、尽きるだろう。
「っ……」
 肩で息をするレザルが、雷雲を呼んだ。
 広範囲に雷を降らせる気か?
 ……いや、違う。
 体勢健一は魔法壁の呪文を唱えながら、体勢を整えていた。
 空が光る。レザルは片手で印を結ぶと、もう片手でレイピアを振った。
 空間を斜めに切ることにより、雷を横から降らせる。
 暗雲を呼び、強力な雷攻撃と警戒させ、真上のガードに集中させて、側面から攻める――こんな状況下で、よくもまあ冷静に考えられたものだ。
 健一は雷の一撃を背に受けて倒れこむ。
 レザルは再びレイピアを大きく振り、紋様を描く。途端、健一は地を蹴った。レザルが魔術を完成させる前に、彼女の懐へと。
 自分が倒れれば、止めを刺すべく大技を使う。そう予測し、わざと雷の攻撃を受けたのだ。無論、多少肉体に魔法防御の障壁を施してある。
 レザルは、咄嗟に魔法を発動する。不完全な魔法は、2人の頭上で爆発を起こす。もつれ合うように、倒れる。直前、健一はレザルの腹に、拳を叩き込んだ。レザルはレイピアを突き出し、刀身が健一の肩を貫いていた。
 健一はレザルのレイピアを掴む手を握り、関節技に魔力も籠めてその手首を折った。
「くっ……」
 剣を伝った健一の血が、レザルの腕に流れ落ちる。
 折れた手を、レザルは腕の力で下ろそうとする。健一は肩を抉る痛みに耐えながら、レザルの手首を更に強く、締める。
 空いている方の手を、互いに向けた。
 近距離で魔法を発動すれば、自分も同様のダメージを受ける。
 分かってはいる。だけれど、互いに躊躇はしない。
 爆風が、2人の身体を飛ばした。
 先に動いたのは、空へ飛ばされた健一だった。地を背にしていたレザルは肉体が受けた衝撃の強さに、一瞬昏倒し、行動が遅れた。
 身体を起こす寸前に、健一は体当たりを食らわし、レザルを組み敷き、レザルの腹に手を当てて魔法を発動した。
「っ、あ……」
 レザルが左手を払った。健一の胸が大きく切裂かれる。空間術で切り取られたのだ。しかし、健一は術を続けた。
 全ての魔力を籠めて、今ここに。
「封・印ッ!」
 空気中の水分が集まり、レザルの腹から身体全体へと広がり、氷へと化した。
 氷の、棺であった。
 その棺は透明ではない。健一の流した血の色が、混ざっている。
「まだ、です」
 健一は地に手を突きながら、最後の力で、地割れを起こす。
 地中に、女魔術師を落とすと――そのまま意識を失った。

**********

 数日後。
「はあ……やっぱ盗んだらダメだろうな、ここの人達貧しいし」
 ため息を繰り返しながら、女性はカンザエラの街をとぼとぼと歩いていた。
 そんな彼女の肩が突如、軽く叩かれる。
「よお」
 陽気な声に振り向けば、見知った顔があった。
 不良っぽいこの青年は……。
「わ、ワグネルー」
 女性は泣き出しそうになりながら、両手を差し出した。
「食べ物ちょうだい!」
「はあ?」
「食料ないし、でも帰れないし……って、あんた、あたしがわかるの?」
 その言葉に、ワグネルはにやりと笑みを浮かべた。
「まあな。スタイル良くなったじゃないか、得したなキャビィ」
「得してなーーーーいっ!」
 叫ぶキャビィを笑いながら宥め、共に歩き出す。
 太陽は真南にある。しかし、そんな時間だというのに、キャビィは昨晩から何も食べていないとのことだった。
 歩きながら、情報を交換する。
 ワグネルは聖殿へ向う道、到着後の結界、そして迂回し後方から潜入し千獣とリミナが捕らえられた件について等、詳細をリミナの姉の姿をしたキャビィに話した。
「で、今の心境は?」
 ワグネルの問いに、キャビィは眉間に皺を寄せた。
「サイテー。ああ、でも捕まるよりマシかなあ」
「けどさ、お前の身体に入ってるその女性が死んだら、お前、死ぬんじゃねぇの?」
「げっ」
 ワグネルの言葉にキャビィは青くなった。
「で、そろそろそっちの事情も聞かせろよ」
「ああうーん、それは家に戻ってからね。ワグネルの話、他のみんなにも聞かせたいし」
「他の皆?」
「うん、王女の知り合いが集まってるんだ」

 キャビィに連れられて行った先は、カンザエラ到着後、最初に入り込んだ空家だった。
 入った途端、目に入ったのは、ベッドに横たわる男性の姿だった。
 知った顔だ。――山本健一。一連の事件に関わっている人物の一人だ。
「戻ったか。……その男性は?」
 付き添っているのは、30代半ばの男性だ。こちらもエルザードで見たことはある。
「ええっと、冒険者のワグネル。あたしの知り合いだよ」
 答えた後、キャビィはその男性を指差し、ワグネルを見上げた。
「で、彼はクロック・ランベリー、寝ているのは山本健一。王女の知り合いだよ。それから……」
 もう一人、この部屋に人物がいる。
 クロックの側、彼に支えられ、意識を失っている女性。
「あの人は……アセシナート公国の女性」
「月の騎士団のアルメリア・ザテッドだ。なかなか強情な女でな、聞き出せたのはそれくらいだ」
 キャビィの言葉に、クロックが続けた。
「ザテッド……隊長が確かそんな名だ。グラン・ザテッドだったか」
 言いながら、ワグネルは手近な椅子に腰掛ける。
 ザテッドという名については、黒山羊亭で情報交換をした際に、聞いたことがあった。
「とすると、隊長の血縁者、妻か妹か――いや、妊娠しているとなると、妹の線は薄いか。腹の子は隊長の子、か……?」
 クロックはこれまでの経緯をワグネルに話して聞かせる。
 クロックは王女エルファリアの依頼により、このカンザエラを訪れた。王女は詳しい事情を知らないようだが、健一やキャビィから相談を受けていたこともあり、気になって父親である聖獣王やその側近達に訊ねたところ、健一やキャビィがこの地を訪れていることを察したらしい。
 王女は皆の身を案じ、密かに調査の依頼を出していた、とのことだ。
 カンザエラに訪れたクロックは、健一と黒髪の魔術師の戦闘に出くわし、健一が捕らえていた女性、アルメリアを預かることになった。
「黒髪の魔術師――あいつか」
 心当たりがあった。かなりの使い手と聞いている。あの女が相手ならば、健一のこの状態にも納得できる。
「すごかったんだよ、ここからちょっと離れた場所で戦ってたんだけどね、古い建物は地震で壊れるし、近くに雷が物凄い数落ちたし、竜巻は起きるし、空が真っ赤になったりね。世界が終わるかと思ったよ」
 何も知らなかったキャビィは、その間怯えてこの家に閉じこもっていたらしい。
 そこに、クロックが気絶させたアルメリアを抱えて訪れた。
 キャビィを見かけたからではなく、この空家の造りがしっかりしており、街の外が見える場所に位置していたからだ。
「入りやすい場所にあるもんな」
 ワグネルは苦笑する。自分達も、この家に誘われて、姉妹の罠にかかってしまったわけだ。
 また、キャビィは聖獣王から直々に、聖殿調査の目的で人を集めカンザエラに向うように命じられ、皆を集めてこの地にやってきた。彼女はそれ以上の詳しい話を聞かされていないらしい。
 その際、危険な調査であることと、他の皆にも自分の身を一番に考えるよう伝えるように、きつく言われていたとのことだ。
「今思えば、あのオヤジ、あたし達が身体交換されるかもしれないってわかってたんだろうね。記憶読まれたらマズイと思って、詳しい事情聞かせてくれなかったんだ」
 そしてこの家でキャビィとクロックは顔を合わせ、クロックを見知っていたキャビィが事情を話して、今に至る。大体そんなところだった。
「っ……」
 健一がうめき声を上げながら、目を覚ます。
「健一!」
 キャビィが即座に駆け寄った。
「あたし、キャビィだよ。訳あって、こんな姿してるけど……って、健一だったら元の姿に戻せる?」
「いや、出来たとしても今はマズイ。突然お前達の意識が交換されたら、向こうが混乱する」
「そ、そっかあ」
 ワグネルの言葉に、キャビィはため息をついた。
 薄っすらと目を開けた健一は、途端顔を歪める。
「命は取り留めたが、傷は深い。動かん方がいい」
 クロックは魔術での治療を試みたのだが、深い傷は治せなかった。
「大丈夫です。休んで多少は魔力が回復しましたから、ある程度は自分で……」
 言いながら、健一はアルメリアに目を留めた。
「ああ、この女だが、アセシナートの騎士団に所属しているだけはある。なかなか口を割らんのでな。とりあえず、眠らせている」
「起こしていただけますか?」
 キャビィに支えられながら、健一は身を起こした。
 クロックは、アルメリアの両手を片手で後ろに捻り上げながら、肘で肩を突いた。
「うっ……」
 小さな声を上げて、アルメリアが目を覚ます。
「あ……なた」
 負傷した健一の姿を見ながら、アルメリアは目を見開いた。
「レザル、は?」
「答える必要はありません。しかし、こちらの問いには答えていただきます」
 健一は呪文を唱え、顔を背けるアルメリアの顎を掴み、自分に向けるともう片方の手で印を結ぶ。
「……何から聞きましょうか?」
「そうだな、腹の子について。それから、騎士団について、だ」
 健一の魅了の魔法で、アルメリアは放心状態になっていた。
 クロックの言葉に頷いて、健一はアルメリアに質問を浴びせた。
「あなたのお腹の中には『彼』がいると仰っていましたね? それはどういう意味ですか?」
 その問いに、アルメリアはこう答えたのだった。
「グラン・ザテッド。私の旦那のクローン」

 数十分の尋問の後、健一は再び意識を失ってしまった。
 数日休めば、自分の怪我をある程度治療できるまで魔力は回復すると思うが――治療に魔力を使えば、有事の際に他の魔法を使うことが出来なくなるだろう。
 意識を失う前の健一の話では、月の騎士団本部からここカンザエラまではおよそ半日の距離があるということだ。
 また、アルメリアを捕らえた際の魔術師レザル・ガレアラの対応からして、アルメリアは騎士団との交渉材料にはならない。ただし、研究所に捕らえられた人々を解放させるくらいの力はあるとのことだ。
「それじゃ、俺は行くぜ」
「あたしも一緒に行こうかな」
 ワグネルから貰った非常食の乾パンを食べながら、キャビィが呟いた。
「いや、その身体じゃ、足手まといだ」
「だよねー、なんか身体だるくてすぐ息切れするんだよね」
 ため息をつくキャビィと別れ、ワグネルは一人カンザエラの研究所へと向う。
 手紙を研究所に投げ込む役目を引き受けたためだ。その後は――。

 クロックは、カンザエラの中心部近く、昔はにぎわっていたと思われる大通りにアルメリアを縛りつけ、自分は建物の影に身を潜めていた。
 捕らえられた人々が解放されたら、キャビィから合図が送られるはずだ。その後、クロックが発煙筒を投げ、アセシナートの兵にこの場所を知らせるという手はずだった。
 健一が言うには、交渉は迅速に、相手に本部に連絡をする時間ととらせるべきではないとのことだ。
 クロックとしては、もう少しアルメリアを手元においておきたいところだが……確かに、時間が経ち、幹部が研究所を訪れたのなら、人質としての価値はなくなってしまうだろう。
 ――数分後、キャビィからの合図が上がった。
 クロックは、発煙筒を投げ、急ぎその場から離れる。
 じきにアセシナートの兵が集まり、アルメリアの縄を解き、犯人の姿を探す。
 クロックは身を隠しながら迷った。このまま、彼女を帰していいものか――。
 彼女には顔も知られている。
「奴らを殺して。街ごと消して構わない。寧ろ全て消してしまいたい。何もかも、一欠けらも残さずに」
 アルメリアの激しい憎しみの込められた声が、クロックの耳にも届いていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2787 / ワグネル / 男性 / 23歳 / 冒険者】
状態:普通

【3425 / ケヴィン・フォレスト / 男性 / 23歳 / 賞金稼ぎ】
状態:臨戦状態(ディラ・ビラジス)

【0929 / 山本建一 / 男性 / 19歳 / アトランティス帰り(天界、芸能)】
状態:重傷/魔力枯渇

【3601 / クロック・ランベリー / 男性 / 35歳 / 異界職】
状態:普通

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
状態:普通

【3510 / フィリオ・ラフスハウシェ / 両性 / 22歳 / 異界職】
状態:監禁/軽傷

【3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職】
状態:重傷
(危険な状態。現状の結界内に長居は出来ない)

【3544 / リルド・ラーケン / 男性 / 19歳 / 冒険者】
状態:交戦前(グラン・ザデッド)

【NPC】
グラン・ザテッド
状態:空間術発動中/交戦前(リルド・ラーケン)

ザリス・ディルダ
状態:魔法陣制御中

ヒデル・ガゼット
状態:普通

ディラ・ビラジス
状態:臨戦状態(ケヴィン)

キャトル・ヴァン・ディズヌフ
状態:衰弱

アルメリア・ザテッド
状態:軽傷/妊娠中

キャビィ・エグゼイン
状態:身体交換(ルニナ)

ルニナ
状態:身体交換(キャビィ)/臨戦状態

リミナ
状態:負傷/朦朧

レザル・ガレアラ
状態:地中に封印

※PCの年齢は外見年齢です。

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸です。
月の紋章第3話にご参加ありがとうございます。
ノベル内では、時間が前後している箇所があります。分かり難いようでしたら申し訳ありません。
カンザエラ側の事件解決後、フェニックスの聖殿へ向っても、魔法陣発動前に到着することは不可能です。
ワグネルさんは、手紙を投げ入れた直後に聖殿に向かっていれば、魔法陣発動前に到着できているとお考えください。
次回は最終回です。
それぞれの選択で、結末が決まります。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。