<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『知への探求〜創造主〜』

「私達の神は、私達の世界の創造主よ。私達人間を作ったのも神。だから、街の人々の殆どは万物の創造主である神を信仰しているわ」
 レストランで昼食をとりながら、ウィノナ・ライプニッツは、自分より年上の女性達の話に聞き入っていた。
「でも、あなたはこの世界の人なんでしょ? だったら、私達の神を信じることを強制はしないわ。でも、異世界の人であっても、神を信じ、救いを求めるのなら、肉体が滅びた後天へ行けるかもしれないわよ」
「天?」
 それは、魔女の館でよく聞く話であった。魔女達は死後天へ行き、天で暮らすのだという。
「ええそうよ。私達は天で再び生きることができるの。天には病気も怪我も、争いもないの。そこで、永遠に生きることができるのよ」
 彼女達は普通の人間だ。
 生物には、誕生があり死がある。人間も例外ではない。
 だけれど、彼女達は……そして、魔女達も、新たな世界で永遠に生きるのだという。
 それを約束する「神」という存在は一体何だろう?
 魔女達に約束をしたのは――魔女クラリスではないのか?
「ね、ウィノナの住んでいる国についても聞かせて。ウィノナは毎日何をして過ごしているの?」
「ん? ボクは郵便屋で働いているんだ。あとは……」
 一瞬、魔女の屋敷での勉強について話すべきか迷う。
「ええっと、友達の身体を治すために、魔術や魔法具について学んでるところ」
 ……今日のところは、当たり障りのない程度に話しておこうか。

**********

 その日はウィノナよりも、ディセットの方が早く帰っていた。
 ダランの姿はまだない。……どこで暇を潰しているのやら。
「こっちの教会だけれど」
 先に、状況を語り始めたのはディセットの方だった。
「候補は何人かいたんだけれどね、どうも悩みが大したことないんだよなぁ」
 ディセットは腕組みをして続ける。
「病気の家族や恋人っていうのが大半だったんだけれど……実は」
「実は?」
「私が治せちゃんだ。その程度のレベルの悩み」
 言って、ディセットは苦笑した。
「治してあげたの?」
「うーん、どうしたものかなって思ってる。彼女達も救いを求めて神に祈っているわけだし、その程度のことなら、私の判断でやってもいいと思うんだけどねー」
 しかし、ディセットが治せるレベルとはどの程度なのだろう。そのレベル内であれば、ウィノナが見つけた候補も候補になり得ないのかもしれない。そう思い、ウィノナは聞いてみることにする。
「実際、ディセットはどんなことができるの? 魔術、殆ど見たことないんだけれど、体内の情報を読むとかは、お手の物なんだよね?」
「どんなことって言っても、細かく上げたらキリがないかも」
「じゃあさ、骨折のような重傷は治せる? 片腕切断のような怪我の場合は?」
「骨折は簡単に治せるわ。肉体の一部の切断は、直後であって切断された部分があるのなら、可能。時間が経って細胞が死んでいたり、失ってしまった場合は不可能よ」
 なるほど。と感心をしながら、どんどん興味が湧き、続けてウィノナは質問をすることにする。
「じゃあ、防御系は? この街全体に、巨大な雹が降ってきたら、全部防げる?」
「勿論。届く前に水に変えればいいだけのこと。……というか、ユニコーン地域全体だって防げるわよ?」
「えっ!?」
 一瞬、ウィノナは言葉を失う。
 それは一体どれだけの力だろうか……。
 聞くのが怖い気もするが……最後にもう1つ聞いてみることにする。
「攻撃系は? 例えば爆発系だとしたら……ユニコーン地域全体を爆破できちゃったりするの?」
「いや、それは無理」
 その言葉に、ちょっと安心する。
「せいぜい半分くらい」
 しかし続くその言葉に、ウィノナは恐怖さえ感じる。
「でも、この世界には神族や魔族も降りてきているし、本気でやろうとしても、対抗魔術で阻まれるでしょうけどね」
「そ、そっか……」
「ウィノナだって、修行を積めば、そのうち大きなことができるようになるわよ。……私、あなたの身体の仕組み、ちょっと興味があるのよね」
 ウィノナを見ながら、ディセットは怪しい笑みを浮かべた。
「ははははは……」
 苦笑するウィノナを見ていたディセットが、突如表情を変えた。
「ウィノナ!」
 突然の口調の変化に、ウィノナは軽く驚いた。
「な、なに?」
「あんた、悩みあるわよね?」
「な、悩み??」
「そうよ、あなたがクラリス様の新しい体になればいいじゃない。変わりにダランをよろしくって言えば、クラリス様が最大限ダランの面倒を見てくれるわよ〜。そーよ、そうしましょう〜♪」
 ディセットはウィノナの手をとって、小躍り状態だ。
「そ、それはちょっと勘弁っ!」
 ウィノナは慌ててディセットの手を振り解く。
「冗談よー。でももったいないわね、この魔力。そして、魔力に耐えられる肉体」
 ディセットがにこっと笑った。
「たっだいまー!」
 元気な声と共に、ドアが勢いよく開かれる。ダラン・ローデスだった。
「こらダラン、甘い匂いがするぞ。一人で何食べてきたんだー!」
 ディセットがダランの頬をぎゅっとつねる。
「いて、ててててっ」
 話が逸れたことに、ウィノナはほっと胸を撫で下ろし、微笑するのだった。

**********

 そしてまた数日が過ぎる。
 教会に通っていないダランが、無事ディセットの指導を受けられているのは……実は、ウィノナのお陰であった。
 時間を見つけては、ウィノナはダランが通うはずだった教会にも顔を出し、状況を書きとめ、ダランに手渡していたのだ。
 だけれど、ダランはその件に関して、いい顔をしなかった。
「俺の代りに、ウィノナがやったら意味が無いんだ。これは勇気ある抵抗だ!」
 なんだかよくわからないが、自分なりに色々考えているらしい。
 だけれど、コントロールを習えなくなっては元も子もないので、結局ダランはウィノナのメモをありがたく受け取っている。
 そういえば、最近ファムル・ディートから手紙が届いたようなのだが、見るなりダランは「無理ッ!」と言い切って、仕舞いこんでしまった。
 ディセットの修行は結構厳しいのだが、日中暇をしているため、ダランはさほど疲れてはいないようだ。
 ウィノナとの魔術の実践も毎日のように行い、互いに少しずつ成長をしていた。

「あーなんか、本当に医者になった気分」
 夕方。戻ってくるなり、ディセットはベッドに倒れこんだ。
 ディセットは自分が担当している教会に訪れている人々を、医者だと偽り治すことにしたらしい。
 誰にでも親切にしていたら、目的も果たせないし、本当に大切な人を助けられないことだってある。
 だけれど、親身に悩みを聞き、結局皆を助けたディセットに、ウィノナは素直に「お疲れ様」と言葉をかけた。
「友達夕食に呼んだんだけど、会ってくれる?」
 ウィノナの言葉に、ディセットは軽く手を上げて答える。
「了解ー。それまでちょっと休むわ」
 そのまま、ディセットは眠りについた。
 ……きっと難しい病気も治したのだろう。

 夕食時、ダランは一人で修行をすると言い、同席はしなかった。
 ウィノナとディセット……そしてウィノナが招いた人物の3人で食事を食べることにする。
 茶色の長い髪、黒い瞳、白い肌――年齢は20歳と聞いている。
 彼女の願いは、病気の母親を助けることであった。母親の年齢はまだ38歳だという。
 ディセットが失った肉体を元通りにすることができないのなら、ディセットには彼女の母親を救うことが出来ないだろう。
 ウィノナはそう判断して、彼女を連れてきた。
「私の母の内臓は、腐ってしまったのです。それが周りの内臓も腐らせていって……」
「早急に切除すべき……だけど、切れないほど進行してしまったのね?」
「はい」
 死んだ細胞は元には戻せない。
 腐ったものも元には戻せないはずだ。
 だけれど、魔女クラリスにはその力があるというのだろうか……。
 ディセットは、その女性と交渉に入った。
 母親の身体を治すことが出来る。
 その代り――あなたが信仰する神の一族に、あなたの時間を捧げろと。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
ディセット

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ライターの川岸です。
お世話になっております。
特別何事もなければ、次回の最後頃、クラリスと面会という流れになりそうですね。
引き続きご参加いただければ幸いです。