<PCクエストノベル(3人)>


〜清き水の歌声を聴きに〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【2315 / クレシュ・ラダ (くれしゅ・らだ) / 医者】
【3428 / レナ・スウォンプ (れな・すうぉんぷ) / 異界職】
【3570 / エル・クローク (える・くろーく) / 異界職】

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クレシュ:「いやーいい天気だね〜♪」
クローク:「本当だね」
クレシュ:「これだけいい天気だと、幸先いいよね!」
レナ:「ホントよね!まあ、『清らかな心の乙女』もいるんだし、会えるんじゃない?」
クレシュ:「そ、そうだねー」


 とても暖かいうららかなある日。
 クレシュ・ラダ(くれしゅ・らだ)は、ずり落ちそうになった背中の大きな布袋を、すんでのところで引き上げながら、片頬だけの微妙な笑みを浮かべた。
 彼が一角獣に関する噂を耳にしたのは、ずいぶん前のことで、ずっと心のどこかでは気にしていたのだが、その居所の詳細がつかめなくて保留になっていたのだった。
 だが、最近立ち寄るようになった、こぢんまりした酒場で、一角獣が棲むという伝説のある、自然窟が発見されたと、声高に話している戦士を見つけた。
 その男の自慢げな態度と口調からすると、少々信憑性に欠けるような気がして、彼は自分で少し調べてみることにした。
 すると、その噂は、まんざら嘘ではなさそうだということが判明した。
 自然窟も存在していたし、それどころか、かなりの年月、森の奥に眠っていたようなのだ。
 その近くには、銀の鏡のような輝く水面を持つ、小さな湖もあるという。
 その噂を話していた男の知人は、その水を一口飲んだだけで、たちまち傷が治ってしまったそうなのだ。
 そこで彼は、天使の広場に静かに立っている掲示板に、同行者を募集する旨を書き込んだ。
 そして、それを見て、声をかけてきたのが、エル・クローク(える・くろーく)とレナ・スウォンプ(れな・すうぉんぷ)のふたりだった。


クレシュ:「まあ、あれだよね、一角獣、すっごく見たいけど、見られないこともあるから、せめて水だけでも採取して来ようね〜」
クローク:「質の良い水は、それだけで奇跡の力を秘めているものだしね」
レナ:「特殊な薬がいっぱい作れちゃうわね!」
クレシュ:「特殊な薬って、ものすごく怪しげな響きなんだけど…」
レナ:「あら?試してみる?」
クレシュ:「うーんと…遠慮しときまーす…」
クローク:「特殊、といえば、クレシュ氏、今日お香を使うと言っていたけど…」
クレシュ:「ああ、うん、これこれ。結構においがきついから、蜜蝋で封をしてきたんだ。基本的に、ある一定以上の嗅覚を持つ動物なら、何でも寄って来ちゃうからねー。こうでもしないと、動物たちがぞろぞろついてきちゃって、大変なことになるんだ」
レナ:「ずいぶん小さい壷なのね」
クレシュ:「うん、中身もかなり少なめだね。それでも効果絶大だよ☆」


 クレシュは袋の中に、特殊香の壷をしまった。
 彼の今日の第一目標は、「一角獣に会って、毛や血などを採取すること」だが、果たして一角獣は「清らかな心の乙女」以外にも見えるものなのか、少々疑問だった。
 いなければいないで、その湖の水が採取できればいい。
 他のふたりも、湖の水は欲しいようだし、多めに持ち帰れれば、いろいろな用途に使えること請け合いだった。
 行程はそれほど大変なものではなく、道も街道に沿って行くことが出来たので、比較的早くその近辺に到着した。
 大きな森の手前まで来ると、さすがにその陰影が手伝って、奥は暗く見えた。
 クレシュは、その男が書いてくれた、非常に大雑把な地図を片手に、一度森を見上げ、それから足を踏み入れた。


レナ:「深い森ねぇ」
クローク:「一角獣だけではなくて、他の幻獣たちも潜んでいそうだね」
レナ:「この森が出来て、どれくらい経つのかしら?結構昔からあるなら、あなたの言うとおり、妖精や精霊たちも普通に住んでいそうよね」
クローク:「うん。一歩入った瞬間、空気が変わったもの」
クレシュ:「もしかしたら、自然窟以外にも、棲み家はあるのかも知れないなぁ…」


 吐息すら吸い込まれそうな深緑の闇の中で、三人の声と足音だけが小さく響いていく。
 緑のむせ返る香りが、濃厚に嗅覚を襲い、彼らはこの森と一体化してしまったかのような錯覚を覚えていた。
 それくらい、森は深かったのである。
 濡れた草の上を歩きながら、何度か地図を確かめて、クレシュはどんどんその森の奥へと入って行った。
 その後ろから、闇に同化しそうな黒衣をまとったクロークと、周囲の色に溶け込んだ緑の髪のレナがついていく。
 やがて、大仰に垂れ下がったツタの向こうに、ぽっかりと口を開けている穴が見えてきた。
 その崩れ具合といい、苔生した姿といい、明らかに自然が造形したものだとわかる洞窟である。


クローク:「あれみたいだね」 
クレシュ:「うん」
レナ:「湖はもっと奥なの?」
クレシュ:「あの後ろの方みたいだよ」


 クレシュは、先ほどしまった特殊香の壷を取り出した。
 短剣の刃先で、慎重に封蝋を解き、中に火種をぽとりと落とした。
 その瞬間、異臭だと思っていたにおいが、とろけるような甘い香りに変化した。
 それを見て、クロークが静かに近付き、香炉代わりのその壷に、その手をかざす。
 すると、手の下でわだかまった香りが、パーッとはじけるように周囲に広がっていった。
 辺りは一瞬にして、甘く、ふわふわとした香りに包まれていく。


レナ:「あたし、ちょっと中を覗いてみるわ」
クローク:「気をつけて」
クレシュ:「おかしいと思ったら、すぐ戻って来るんだよ?」


 レナはうなずき、洞窟の方へと足音を忍ばせて向かって行った。
 薄暗い奥を見やると、ぼんやりと白い光の玉が見えた。
 音をたてないようにゆっくりとそちらの方へ歩いて行き、レナは光に近付いた。


光:『誰だ』
レナ:「あ、あのー」
光:『娘、ここに入る許可を誰にもらったのか』
レナ:「い、いえ、誰にも…」
光:『それなら、早々に立ち去るが良い。ここは我の住処ゆえ』
レナ:「ごめんなさい…」


 レナは素直に頭を下げた。
 すると、周囲のとげとげした空気が、ふわりと和らいだような気がした。


光:『何をしにここへ?』
レナ:「…一角獣が見られるって聞いて」
光:『一角獣?』
レナ:「噂なんです。このあたりで見られるって」
光:『ほう…』
レナ:「あなたが…一角獣、なんですか?」
光:『否』
レナ:「そうですか…」
光:『一角獣は、満月の晩に、清らかな心の乙女の目の前にだけ、同じく清らかな水のあるところに現れるのだ。出直すが良い』
レナ:「ありがとうございます」


 レナはもう一度丁寧に頭を下げた。
 頭を上げた時、もう光はいなかった。
 仕方なく、レナはその自然窟を出た。


クレシュ:「どうだった〜?」
レナ:「一角獣は、ここにはいないみたいね」
クローク:「そうか…少し残念だね」
レナ:「大丈夫、ヒントはもらったのよ」


 レナはクレシュとクロークに、事の次第を説明した。
 クレシュは苦笑いして、腕を組んだ。


クレシュ:「じゃ、また来ればいいよねっ♪」
レナ:「そうね!」


 クレシュとクロークは、レナが自然窟に入っている間、周囲を散策して、ここから北へかなり歩いたところに、湖があるのを見つけていた。
 そこは動物たちの水場になっているようで、リスやうさぎや鹿などが、人を恐れずに近くで水を飲んでいた。


クレシュ:「いい水だったよ」
クローク:「甘みのある、透明度の高い水だったね。とても良い香水が出来そうな水だよ」
レナ:「それはうれしいわね!水の質がいいと、効果は倍増するし!さっそく行きましょ!」


 三人は連れ立って、さらにその奥の湖へと歩を進めた。
 風景は相変わらずの緑一色で、変わり映えしなかったが、湖が視界に入るにつれて、一気に別世界の様相を呈し始める。
 やがて、視界いっぱいに水の穏やかさが広がると、レナが思わず歓声をあげた。


レナ:「綺麗なところね!」
クレシュ:「そうだね♪動物たちが気に入るのも当然って感じ?」


 三人は、思い思いに好きなだけ、自分の持って来た水袋やビンに、湖の水を汲んだ。
 ついでに喉をうるおし、疲れも癒す。
 そうして、持って来たものすべてに、湖の水を満たすと、彼らは近くの大きな木の根元に腰かけた。


クローク:「この場所を覚えておいて、必要な時に採取しに来るといいかも知れないね」
クレシュ:「うん。純度の高い水って、あんまり見つからないしね。ま、基本的に、ここの森の動物たちの水場だから、荒らされないようにしてあげないと」
レナ:「人には黙っておきましょ。たくさんの人間が押しかけたら、あっという間に水が濁っちゃうわ。そんなことになったら、さっきの光の主にも怒られそうだもの」
光:『そのとおりだ、娘』
レナ:「えっ?!」


 レナたちは、びっくりして声のした方へ視線を向けた。
 湖の中央に、白い光に包まれた、老齢の男性が浮かんでいた。
 手には大きな木の杖を持ち、額には黄金の金環がはまっている。
 真っ白な、たっぷりしたローブは、その細い全身を覆い、男性の神々しさを更に高めていた。


レナ:「あなたは、さっきの…!」
光:『そうだ。我はこの湖と、この森一帯を守る守護者だ。娘、おまえの心遣いに免じて、一角獣を呼び寄せてやろう』
レナ:「本当に?!」
光:『我は嘘は言わぬ』


 湖の守護者は、少し笑ったようだった。
 守護者が杖を天に向けてかざすと、あたりはゆっくりと闇の中に沈み始めた。
 先ほどまでの薄暗闇が、真の暗闇へと変じていく。
 そうして、真の闇が訪れた時、彼らの目の前に、銀色に輝く毛並みと真珠色の角を持った、真っ赤な瞳の一角獣が現れた。
 三人は、恐る恐る一角獣に近付いた。
 そして、ゆっくりとその輝くたてがみに触れた。
 触れられる瞬間だけ、一角獣は身じろぎしたが、その後はおとなしく彼らに触れさせていた。
 クレシュは、自然に抜け落ちた一本のたてがみを手に入れることができた。
 やがて、一角獣はそっと彼らの手を払い、一度小さくいななくと、森の奥へと駆けて行った。


光:『闇を払って、道を示そう。おまえたちが無事に、この森の外へ戻れるように』
クローク:「ありがとうございます」
光:『この森を汚さぬと約するなら、また遊びに来るがよい。騒がしいのは好かぬがな』


 守護者が杖でまっすぐに森の外を指し示すと、不思議なことに、そこに一本の道が出来ていた。
 木と木の間を縫うような自然な道ではあったが、歩くのにまったく不都合は感じない、そんな道だった。
 三人は守護者に礼を言って、湖を後にした。
 守護者は、手を振る三人を、いつまでもいつまでも、見送ってくれていた。


クレシュ:「また来ようね、お許しももらえたことだし♪」
クローク;「そうだね、この水のなくなる頃に」
レナ:「今度はお弁当でも持って来ましょ♪」


 三人は、ぽっと心が温かくなったような気持ちで、森の小道を歩いていく。
 また近い将来、この森の主に会いに来ることを誓いながら――
 


 〜END〜




 〜ライターより〜

 初めまして、ライターの藤沢麗です。
 このたびは、3人での冒険譚をご依頼くださいまして、
 本当にありがとうございます!
 
 みなさまのご希望通り、一角獣に会えたようで何よりでした!
 一角獣は、人の醜い心を見抜くと言います。
 現れても逃げなかったのは、
 ただただ「会いたい!」という純粋な思いが通じたのかも知れませんね。

 また近い将来、
 みなさまの冒険を綴る機会がありましたらとても光栄です!

 このたびは本当に、ありがとうございました!