<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


雪景色の中で

 吐く息が白くなるようになって、もう大分経った。
 今年、森から出てみると――

「大分積もったな……」
 精霊の森の守護者クルス・クロスエアは、手に炎を生み出して暖を取りながら、周囲の景色を見渡していた。
 常緑樹の森から一歩出た外。
 一面の――銀世界。
 白い息は、そのまま雪に溶け込んでいきそうだ。
「わあ……っ」
 一番深いところでは膝上まで埋まりそうになりながら、セレネーがずぼずぼと雪の上を歩く。
「セレネー、危ないからこっち来なさい」
「だって、楽しい、よ?」
 ずぼずぼ。長靴を鳴らしながら、セレネーは楽しそうに笑った。
 クルスは苦笑して見守る。と――
 街の方向から、猛然と駆けて来る気配を見つけた。
「………」
 クルスはおもむろにセレネーを抱き上げて、「さあ帰ろう」
「え、なんで、なんで」
 暴れるセレネーを無理やり抱き込み、森へと逃げ態勢に入る。
 しかし。
「クールースー!」
 ……久しぶりの声が銀世界に響く。
 何で彼はこんなにも元気なんだろうかと、クルスは頭を抱える。
「おいクルス!」
 おそらく風の魔術で自分の速度を速めていたのだろう――青年の声が、背後から聞こえた。
「振り向けクルス! せっかくだクルス! こんな冬の日がいいクルス!」
「キミのそのしゃべり方が意味不明だよ……」
 クルスはしぶしぶ、セレネーを下ろし肩ごしに振り返る。
 そこに、太陽の光を反射して明るい金髪と負けんばかりに明るく輝く青い瞳の青年がいた。
 トール・スノーフォール。……クルスの「自称」ライバル。
「何だいトール。名前の通り、キミがこの雪を降らせたのか」
「ふっ。あいにくだが俺様の魔力ではそこまでできない!」
「……胸を張って言えるのが不思議だ。で、何の用だい?」
 勝負なら辞退するよ――と、クルスは嫌気がさしたように手をひらひらさせた。
「勝負じゃない」
 トールはにっと笑った。「ライバルは大切にするもんだ」
「……うん?」
「今日は、お前の誕生日だろう」
 それを聞いて、セレネーがクルスを見上げる。
「お誕生日?」
「ああ……いや、正確な日付はない。ただ、冬の雪が積もっている日に僕は森に転がり込んできたらしいから」
「そうだ! だからそれが誕生日でいいんだ!」
 トールは無茶苦茶な理論で片付け、びしっとクルスに指をつきつけた。
「だから、俺様は今日だけ、ちょびっと優しくしてやろうと思う。クルス! さあしてほしいことはあるか!」
 帰ってほしい、という言葉を口にしかけたクルスは、閃いてそれを言うのをやめた。そして、
「ちょっと失礼」
 トールの胸元に手を触れた。
 瞬間、ばんっとトールは弾かれた。
「うおっ!?」
 ずぼっと雪に埋もれたトール。それを完全無視して、クルスは手から体へと伝ってきたものを目を閉じて感じる。
「……ふむ。さすがトールだな。魔力の練成度が高い……」
「なに、したの?」
 セレネーの素朴な疑問に、あっけらかんと返答する。
「トールの魔力を奪った」
「魔力?」
「さあこれで今日一日くらいはインパスネイトも精霊宿りもやり放題かな。誰か、森に来て精霊と雪で遊んだりしてくれないものだろうか――」
 雪に埋もれているトールはあくまで無視して、クルスは楽しげにつぶやいた。

 ■□■ ■□■

 トールの大声が聞こえたらしい。
 精霊の森の住人である少女――千獣[せんじゅ]が、森の入り口まで出てきていた。
「ああ千獣。キミも雪で遊ぶかい」
 クルスは軽く声をかける。だが、
「……クルス……誕、生、日……今日、一日……精霊……みんな……遊ぶ……」
 つぶやきつぶやき、千獣は何事かを考え始めた。
「………」
 さらに考えている。
「……………」
 さらにはどうやら悩んでいる。
「千獣?」
 クルスは苦笑しながら再び呼ぶ。
 千獣はようやく、考えこむのをやめた。
「……うん……わかった……じゃあ、みんなで、遊ぼう、か……?」
「それじゃあ千獣、悪いんだが街まで人を呼びに行ってくれないか」
「うん……」
 千獣は歩き出そうとし、雪が相当邪魔だということに気がついた。
 翼というのはこういう時のためにあるものだ。
 ばっと翼を広げた千獣に、
「おねえちゃん、気をつけてぇ!」
 セレネーがぱたぱたと手を振った。
 それに手を振り返し、千獣は街の方向へと旅立った。

 さて……

 話を聞いて、この雪の中を歩いてきてくれた人々――
「――へぇ〜……魔力吸い取ることもできるんだ」
 道中、空を飛んでいる千獣の話を聞きながら、煙草をくわえたままディーザ・カプリオーレが楽しそうに話していた。
「トールも魔力タンクとしてなら、使えるのかもね。まぁ、普通なら抵抗されてそう簡単には吸えないか」
 そこで煙草の煙を吐き、
「いつでも好きに吸い取れたら、便利なんだろうけど」
 軽く前髪をかきあげる。
 その時、トールはまだ雪の中にうずもれていた。
 森に近づくにつれそれが見えて、一行が足を止める。
 トールの姿を見て、思わず考え込んだ少女が一人。
「……う、む……まぁ、普段の行いを考えれば、魔力を吸い取るぐらいしても構わぬとは思うが……」
 トールがそこにぶっ倒れている理由を察して、アレスディア・ヴォルフリートはためらいがちにつぶやいた。
「しかし、如何に頑健な種族とはいえ、雪の中に埋もれたままでは風邪の一つぐらい引くかも知れぬ」
「引くかなあ。何とかは風邪を引かないとか何とか」
 ディーザがからかうと、アレスディアは苦笑した。そして軽く視線を動かし、
「クルス殿、久しいな」
「やあ、みんな」
 クルスはセレネーの手を握ったまま、彼らに手を振った。
「久しぶりだね」
 とディーザ。
「本当、久しぶりね」
 と言ったのはなめらかな絹糸のような金髪を持った、美しい女性――に見えるが実際には性別は不明、というより、ないらしい。蟠一号[わだかまいちごう]である。
「来てやったぜ!」
 と偉そうに胸を張るのは虎王丸[こおうまる]。
 クルスがそれぞれに挨拶している間に、セレネーがぴょんと跳びあがって、
「クローク、クローク!」
 と一人の人物のところへずぼずぼ雪に足を埋めながら走っていこうとする。
「危ないよ、セレネー嬢」
 と、エル・クロークは言った。「大丈夫、僕は逃げないよ。……久しぶりだねセレネー嬢」
「うん!」
 クロークが歩みよった。セレネーはクロークに抱きついた。
 それを見ていたディーザが、
「いつの間にあの子、あんなにクロークになつくようになったのかな」
 と興味深そうに言った。
 最後に千獣が降り立ち、翼をしまう。クルスは彼女に目を向けた。
「千獣。ありがとう」
「ううん……」
 千獣はそっとクルスに歩み寄り、
「……でも……みんなが、遊び、終わった、ら……私、少し……街に、出かけて、来る、ね……?」
「ん? 用事が出来たのかい?」
「うん……」
 千獣は柔らかく微笑する。
「そうか。気をつけて行くんだよ――さて」
 その場に集まった人々を見て、クルスは腰に手を当てた。
「何をしようか」
「その前にクルス殿」
 アレスディアがトールの傍らにかがんだ。「彼に小屋を貸してやってくれぬか? 運ぶのは私が運ぶ故」
「ああ、そうだね」
 クルスは少女の優しさに微笑する。
「待て待て。小屋っつったらグラッガの居場所じゃねーか」
 虎王丸が口を出した。「俺様、今日はグラッガを身に宿してやろーと思ってきたんだぜ。つーわけで小屋の中は寒くなる」
「あら、グラッガくん……お友達いたのね」
 蟠が白い頬に手を当てる。「ボクもグラッガくんに会いたかったのだけれど……」
 もちろん、他の精霊にもね、と蟠が艶やかに微笑む。
 虎王丸はそれを見て、蟠に見とれた。彼は元々妙齢の女性が好きなのだ。蟠は見かけ二十代半ばではあるが、その美しさが年齢を感じさせない。
 ただ、問題は蟠は女性ではないということで……
 しかしそんなことは知らない虎王丸。
「お、おう」
 胸を張った。「俺は心が広いからなっ。先にグラッガとしゃべらせてやってもいいぜ」
「あら、ありがとう」
 蟠はますます華やかな笑みを浮かべた。
「……なんか、傍にいづらいね」
 ディーザが苦笑する。
「まあとりあえずグラッガのことはそれとして――」
 クルスはアレスディアに言った。「暖なら僕の魔力で取れる。大丈夫だろう」
「有難い」
 アレスディアはトールの体を軽くかつぎあげた。さすがナチュラル怪力少女。
 というわけで、トールをかついだアレスディアを連れて、一行はいったん森の中へと戻ることにした。

「折角、精霊達と触れ合うことが出来るのだから、どうせなら皆で協力して何か作ってみたいところだね」
 セレネーの頭を撫でながら、クロークが小屋の中で提案した。「談笑しながらやれば、きっと楽しいと思うんだ」
 トールは普段セレネーが寝ているベッドの上に寝かされている。
「うむ。興味深い」
 アレスディアが腕を伸ばしながら言った。
「今日はその魔力で擬人化も宿らせることも自由自在、と」
「ああ」
 クルスは手首を回す。
 クロークは微笑みながら、
「作るものは定番の雪だるまか、かまくらか、或いはスケートリンクか……」
 と、ふと考えて、「ああ、スノーキャンドルを作るのも良いかもしれない」
「スノーキャンドル?」
 ディーザが不思議そうに尋ねる。「アイスキャンドルじゃなくて?」
「そう。あれならアイスキャンドルと違って一晩置く必要は無いし――まぁ、あれより手間は掛かるけれど――人数がいれば出来上がりも早いと思うな」
「ふうん?」
「多分これなら火の精霊も含めて、全員が何らかの役割を負うことが出来ると思うよ。沢山作れば、誕生日の贈り物としても良いんじゃないかな」
「誕生日……」
 千獣がぽつりとその言葉を反芻した。「贈り、もの……」
「夜になればきっと綺麗だろうね」
 彼が穏やかに微笑めば、「悪くないね」とディーザが言い、アレスディアがうなずいた。
「クルス。いっぱい祝われる!」
 セレネーがクルスの服の裾を引っ張る。
 クルスは「ははっ……さすがに照れるかもしれない」と髪をかきあげた。
 クロークがスノーキャンドルの作り方を面々に説明していく。その間に、蟠がクルスに声をかけた。
「クロスエアくん。グラッガくんを擬人化させて頂けないかしら?」
「ん? ああ」
 途端に暖炉の炎がごうごうと燃えて、小屋の中の人間がびくっと反応する。
「ははーん」
 虎王丸がにやりとして、暖炉に近づいた。「また嫌がってやがるな? お前」
 そしてはははは! と高笑いをすると、
「クルス! 早く擬人化させてやれ!」
 炎が暴れる。クルスは笑いながら、指をパチンと弾いた。
 光の粒子が暖炉の中で弾ける。
 それと入れ替わるように――
 二十歳を少しすぎたくらいの姿をした青年が、
『蟠っ! 虎王丸っ! クールースーーーーー!』
 と開口一番怒声を上げた。
 千獣がぱちぱち跳ねる火花から、ミニドラゴンのルゥをかばいながら、
「ダメ、だよ……グラッガ……素直に、楽し、も……?」
『楽しめるかーーー!』
「おやおや。さすが火の精霊だけに気性が激しいね」
 クロークが笑った。「グラッガは、いつも、怒ってるの」とセレネーが言った。
「うーん、キミの傍にいると、私は危なそうだねえ」
 重火器をその身に隠し持っているディーザがカラカラ笑いながら、わずかにグラッガとは距離を置く。
「グラッガくんはとても優しいのよ? 以前はこのボクがそれを証明してみせたんだから」
 蟠が「久しぶりね、グラッガくん」と暖炉に近づく。
 グラッガは威嚇した。
『おーまーえー』
「いいじゃない。今日も、キミの一番好きなもの、たくさん見られそうよ?」
『うるさいうるさいうるさい!』
「一番好きなもの?」
 虎王丸が聞きとがめる。「そんなもん白状したのか、お前」
『白状してねえ!』
「あらあら。嘘はいけないわねえ」
「グラッガーはねー、グラッガの好きなものはねー」
 無邪気なセレネーがぴょんぴょん跳ねながらクルスを見る。クルスがはてなマークを浮かべた。
「ダメよお嬢ちゃん」
 と蟠がセレネーを優しく制した。「言ってはダメ。無粋と言うものよ?」
『てめえらー!』
「なーんか憎たらしいな……」
 虎王丸がグラッガをにらむ。「この俺に隠し事だとぉ?」
「まあまあ」
 とクロークが間に割って入った。
「今日はクルス氏の誕生日。喧嘩や争いごとはそれこそ無粋だよ。さあ、どうやって過ごすか考えようじゃないか」
 悠然とした青年の姿に、虎王丸も調子を崩されてぼりぼりと首の後ろをかいて黙った。
「思うにね、スノーキャンドルを作るのはもう少し日が落ちてからでもいいと思うんだ」
 とディーザが煙草を消しながら言った。
 アレスディアが懐中時計で時間を見て、まだ午前中であることを確かめ、
「確かに。スノーキャンドルは夜完成させた方がよさそうだと思う」
「そうだね」
 クロークは反対しなかった。ディーザはぐるっと小屋の中にいる人間――人間ではない者が多いが――を見回し、
「せっかくの雪なんだし、みんなで雪合戦でもやってみる?」
「それはもちろん、精霊殿を宿らせて……」
 アレスディアがディーザを見ると、ディーザはこくんとうなずいた。
「ゆき、ゆき、ゆきがっせーん!」
 意味も知らずにセレネーがはしゃぐ。
 アレスディアが考え込んだ。
「ふむ……雪合戦はよいのだが、ファード殿とザボン殿は動きが……」
「ん? 誰それ」
「樹の精霊殿と岩の精霊殿だ、ディーザ殿。彼らは大地に足をつける方々故、動くにはあまり適していらっしゃらぬ」
「ファード……」
 千獣が一番親しい精霊を想い、うつむいた。
「申し訳ないんだけれど、ボクは精霊を宿せないわ」
 蟠が小首をかしげて謝った。「その代わり、皆さんが戻ってくるまでにデザートを用意しておくわね」
 と手にしていた荷物を示す。
「クルス氏。この森には合計何人の精霊がいるのだったかな」
 クロークがクルスの方を振り返る。
「ん……。今言った樹のファードに岩のザボン、暖炉のグラッガに焚き火のウェルリ、泉のマームに川のセイー、あとは風のラファルとフェーだな」
「8人……全員宿すには少し人数が足りないかな」
「グラッガは俺がもらったからな!」
 虎王丸が宣言した。
 グラッガはむっつりとしたまま、それでも反抗しない。――どうやら虎王丸にはなついているらしい。
「クルス氏。僕は精霊を宿せるのかい?」
 とクロークは微苦笑して尋ねる。
 ああ、とクルスは思い出したように「無理かもしれないね」と言った。
「ん? 何で?」
 ディーザやアレスディアが首をかしげる。クロークとクルスは笑って流した。――クロークは自身が精霊なのだ。精霊に精霊を宿すのは少々無理がある。
「ちなみにディーザは大丈夫だよ。サイボーグとは言えキミは『生命』を持っている。僕のわざは『生命力』に精霊の心を移すものだから」
「それはいいね。精霊を宿すってのは始めてだけど、どんな心地かな」
 ディーザは楽しそうに言った。
「他の精霊を宿せるのはディーザと千獣とアレスディアだけか……3人でかわるがわる他の7人を宿してもらっていいかな」
「承知」
 アレスディアは真顔でうなずいた。「特にファード殿とザボン殿は、雪合戦はおそらく無理であろうから、せめて観戦して楽しんで頂こう」
「ザボンはアレスディアと一番相性がいいだろうな。……普通の人間じゃザボンを宿してまともに歩くことは困難だから。あーと、千獣はどうする?」
 クルスに問われ、千獣は唇に指を当てて、
「え、と……まだ、会った、こと、ない……マーム……」
 マーム、嫌がる……? と見上げてくる少女に、クルスは「いや」と首を横に振った。
「マームは喜ぶだろう。そうなると、ディーザにはウェルリかセイーか風の2人か……」
「火の精霊、挑戦してもいいけど私に宿すと危ないかもよ」
 とディーザは笑う。「とりあえず、雪合戦は手袋でもはめていれば出来ると思うけど」
 クルスは考え込んだ。これは宿す順番が肝要だ。
 そして、まあ――


「じゃあ、クロークとセレネー、グラッガ虎王丸対、マーム千獣とフェーディーザと僕。………?」
 クルスは言いかけて、様子のおかしい1人を見る。
「あー!」
 その“1人”、虎王丸が叫んだ。
 グラッガを宿している彼は、ディーザのすすめ通り手袋をして参戦しようとしたのだが――
「無理だっつの! 火の精霊は手だけじゃなくて全身熱いんだぜ!」
 ……彼の周りの雪がことごとく溶けていく。
「んー、困ったねえ」
 と言うディーザの頭の中では、きゃはきゃはと明るすぎる女の子の声が響いている。
『でぃーざ、でぃーざ! ね、これなあになあになあに』
「これ? 雪のこと?」
『ゆき? ゆき、ゆき、きゃはっ! ねえねえ水みたいに浴びられる?』
「は? う、わっ、っと!?」
 急に体をのっとられて、ディーザの体は跳ねた。そしてどさっと雪の中に落ちてしまう。
「こら、フェー!」
 クルスがひゅっと魔力を飛ばして、ディーザの体を完全にのっとろうとするフェーを戒めた。
『あーん、踊れないよう』
「人の体を勝手に支配するなと何度言ったら分かるんだお前は。迷惑をかけるんじゃない」
 ディーザがあははと苦笑しながら立ち上がった。雪を払い、ふうと息を吐く。
「さすが風だね。自由奔放だ」
『踊れないよう。踊れないよう。踊れないよう』
 頭の中でフェーが――風の精霊の女の子が泣きそうな声を出している。
「踊るのが好きなの?」
 この精霊を宿してから、ずっと冬の空気とは違う爽やかな風を感じていたディーザは、声の主の姿も一度見せてもらっている。
 10歳ほどの、かわいらしい少女だった。
 らんらんと踊るように空中に浮かんでいた。常に体が揺れていて、動きが止まるとまるで死んでしまうかのような。
「………」
 ディーザはふふ、と唇の端に微苦笑を浮かべる。
「待ってなよフェー。これからやることは、思いっきり体を動かせることだから」
『ふぇ。ほんと? ほんと?』
「ほんと」
 さて――
 仲間はどうかな? ディーザは、同じチームの黒髪の少女を見やる――

 千獣の体は、ひんやりとしていた。
 元々熱さ寒さには強いとは言え、元からこの寒さの中、水の精霊を宿すのはまあ、度胸がいることである。
『あの……大丈夫ですか……?』
 千獣の大好きなファードと同じようで、また違う透き通るような優しい声がする。
 泉の精霊マーム。体に宿してもらう前に一度顔を合わせた。
 やはりファードのような存在感はなく、逆に透き通った体を持つ儚げな女性だった。
 千獣は脳裏にその姿を思い浮かべながら、こくんとうなずいた。
「大丈夫……気に、しない、で」
 言いながら近くの雪をすくってみると、なぜかひどく手になじんだ。冷たさなど感じない。むしろ一体化したかのようだ。
「雪、合、戦……」
 教えてもらったとおりに、すくった雪を玉の形に握る。きゅっきゅっ。やっているうちになんだか綺麗に丸くすることにこだわりを持ってしまった。
 むうと眉間に力を入れて玉を握っていた千獣に、
『雪……きれい、ですね』
 マームが囁いた。
 精霊の森では木々が邪魔をして、雪が中にまで入ってくることはない。泉は川から注がれてできているという、世間とは反対の理屈で出来ている精霊の森の泉は、だから雨も滅多に経験しないし雪はもっと縁がない。
 千獣は辺りを見渡す。
 きらきらと太陽光を反射して、雪の結晶がきらめいていた。
「マーム、も……」
 千獣は精霊の森の泉を思い出し、つぶやく。
「きれい、だよ……」
 森を生かしている以上プランクトンが発生しているのは間違いないだろうが、それでもマームの水は美しい。透き通りなめらかで、さらさらとしている。
「きれい……」
 嬉しそうに、頭の中で微笑む気配がした。
『あの、ゆきがっせん……でしたか? 体を動かすもののようなのですが、わたくしはあまり体を動かすことに慣れていなくて……』
 波間のように揺れる声は、すまなそうに告げる。
『ご迷惑をおかけしたら……申し訳ございません……』
 泉の水は……土に染みて森の中に浸透していくけれど、泉の水自体が激しく動くことは滅多にないわけで。
 そう思い至って、
「いい、よ……」
 千獣は微笑んだ。「大丈、夫……一緒に、遊ぼう……?」
『………』
 マームが安堵するのを感じる。ああ、優しい精霊だなと千獣はふと思ってから首を振った。
 違う。精霊はみんな“優しい”んだ。
 気がつくと、ディーザがこちらを見ていた。
 千獣はうなずいて返した。マームとの連携は、きっとうまく行く――

「問題は虎王丸か……」
 クルスが困ったようにあごに手をかける。
「あー、もういい」
 虎王丸は適当に手を振った。「俺、こいつと一緒にちょっくら街に行ってくらあ」
「うん?」
「ちぃと思いついたことがある」
 言うだけ言って、承諾も得ずにざくざくと虎王丸は歩いて行ってしまった。――彼の周りは雪が溶けてしまうので、歩くのに不自由しないらしい。泥と化した足元には要注意だが。
 それを見送ったクロークが苦笑して、
「ではクルス氏、予定を変更してこちらのチームについてくれないかい? こちらはセレネー嬢のハンデがあるからね」
「そうかな? むしろセレネーちゃんを狙えない私たちの方が不利だと思うけど」
 ディーザが笑う。
「セレネー嬢をゲームから疎外しないでやってほしいディーザ嬢。というわけでクルス氏」
「分かった」
 クルスは区切られた線を越して、クロークとセレネーのチームに移った。
「それじゃあ、始めるか。――アレスディア!」
「うむ」
 その身にザボンを宿し、腕にミニドラゴンのルゥを抱えているアレスディアが、少し離れたところでうなずいた。
「それでは――スタート!」
 5人一斉に、雪玉を作り始める――

『面白い遊びじゃな』
 岩の精霊ザボンが、アレスディアの体を借りて雪合戦を見ながら楽しそうに言った。
 ザボンは、擬人化した時の外見年齢だけなら一番高齢に見える――らしい。アレスディアはまだ全員に会っていないから分からないが。
『しかし、“ゆき”と言うのだったかな? 不思議なものじゃ』
「……そうだな、ザボン殿」
 腕にルゥを抱えながら、アレスディアは輝く雪景色を見つめた。
 ――彼女は本好きだ。故に知識として知っている――雪は、美しい結晶の集まりだ。
「その結晶を見せてさしあげられればよいのだが……」
『む?』
「いや、何でもない」
 腕の中では、ルゥが凍えて震えている。ドラゴンの皮膚とは言えまだ子供、寒さには耐えられないのだろうか。
 アレスディアは片手に甘酒を持っていた。
「ザボン殿は、飲み物は飲むことができるのだろうか」
 ふと思ってつぶやいてみると、
『む。……試したことがないな、考えてみると』
「では試しに」
 アレスディアは自分の口に、暖かい甘酒を流し込んだ。
『むむむむっ!』
 ザボンはそれを感じ取り、何とも奇妙な声を出した。
『な、なんだろうかこれは……っ。不思議だ、まこと不思議だ!』
 アレスディアは微笑んで、
「おいしい、飲み物だ。ザボン殿」
『おいしい……』
「お嫌ではないだろう?」
『う、うむ』
 そうか、とザボンはしきりに納得したような気配を見せた。
『これが、世に言う“おいしい”という感覚なのか』
 ――本当にそうなのかどうかは、アレスディアには分からなかったが――
「ザボン殿ならきっと気に入ってくださると思っていた。もっと飲もう」
 明るく言うと、
『おお、有難い』
 あの硬い顔が破顔するのが分かる。
 甘酒は優しい香り……
 2人の心を満たす。
『おお。セレネーが頑張っておる』
 いつの間にか雪合戦を見ていたらしい、ザボンが言った。
 セレネーは千獣とディーザを相手に、雪玉を「えいっ。えいっ」と投げつけていた。
「危ないよセレネー嬢。前に出ては」
 ――確かに危険だった。特に千獣の玉は。
 千獣は馬鹿力なのだ。その玉がひゅんっと飛んでくる。セレネーにぶつかりそうになると、とっさにクルスがセレネーを抱き寄せた。
 その隙に、風の精霊を宿しているためにいつもより身軽なディーザがクルスを狙って雪玉を放つ。
 クルスは「うわっと」と半身を傾けて避けた。
「意外と素早いね、クルス」
 ディーザがにっと笑う。両手に雪玉。
 ほらほらほらー! と、彼女は楽しそうにクルスを狙っていた。
「ディーザ! 僕ばかり狙うのは何かひどくないかい!」
「んー? 何となく狙いたい。というかフェーが『クルスー』って呼んでるし」
「それは別の意味で呼んでるんだ――わっ、わっ、わっ!」
 はっはっは、と見ているザボンが笑った。
『クルスも楽しそうではないか』
「まったくだ、ザボン殿」
 アレスディアは目元を和ませた。
 さて、一方でクロークはと言うと――
「水の精霊が宿っているあなたに雪玉をぶつけたらどうなるのかな、興味深い」
「私……?」
 千獣がきょとんとしながら、丁寧に作ったまんまるい雪玉を投げる体勢になった。
「おねーちゃん、えいっ」
 セレネーが千獣に向かって雪玉を投げる。ひょいと避けて、
「お返し……」
 ひゅんっ
 スピードをのせて飛んだ雪玉を、クロークが投げた雪玉が相殺した。
 クロークは続けてもう1個雪玉を放つ。
 千獣は避ける。
「あなたに当てるのは難しいな、さすがに」
「そう……?」
 きょとんと首をかしげながら、さらに千獣は両手に雪玉を持って一度に投げた。
「!」
 クロークは自分が避けながら、何とかセレネーの腕をつかみ避けさせた。
「むー。おねーちゃん、当たって、なの!」
 セレネーが無茶なことを言う。
 千獣はちょこんと小首をかしげてから、
「今……マーム、に、変わる、ね……」
 ――体の支配権をマームに渡した。
 マームは驚いたようだった。
「わ、わたくし……ですか?」
『うん……思う、存分、動い、て、いい、よ……』
「動く……」
 千獣の体を動かし、マームはおそるおそる雪をその手にすくった。
 無防備この上ない姿だったが、そこを狙うような無粋な真似は、クロークもしなかった。セレネーはここぞとばかりに雪玉を投げようとしていたが、制した。
『丸く、して……』
「丸く、して……」
 マームは雪を冷たい手でそっと丸める。
 少し水分が雪に伝わり、固めの雪玉となった。
『……投げる』
「投げる……」
 ――投げる、などという動作自体が初めてなのだろう。
 マームは、先ほどまで千獣が体を動かしていた時の記憶を思い出しながら一生懸命雪玉を「投げた」。
 高く弧を描いて、ぽてっとクロークの前に落ちる。
 クロークは拍手をした。
「見事じゃないかマーム嬢。初めて投げて、ここまで届くなんて」
 マームは千獣の顔で、ぽっと頬を染めた。
「えーい!」
 セレネーが雪玉を投げる。
 思わずマームが身を固める。雪玉がぽこっと当たった。
「当たった、当たった!」
 喜ぶセレネーに、クロークは微笑みを見せて、
「頑張ったねセレネー嬢。だけどね、もう少しだけ――マーム嬢に雪玉を投げさせてあげたいと思わないかい?」
 セレネーはきょとんとクロークを見上げる。
「投げさせて、あげる?」
「そう」
 みんなにもっと楽しんでほしいだろう? とクロークは言葉を紡いだ。
 少女はぱあっと顔を輝かせた。
「うん!」
「よし。マーム嬢、もっと雪玉を投げてごらん」
「え……よいのでしょうか」
『いいん、だ、よ……』
 千獣がマームに優しく囁いた。
 マームは微笑んで、再び大切そうに雪をすくった。

 ディーザは爪先でリズムを取っていた。
「要するに、音楽が好きなんだねキミは」
『うんっ!』
 ようやくフェーとの意思疎通がしっかりできてきた。ディーザは少女精霊の扱いが分かりかけてきて、わざと鼻歌を歌ってみる。
『やんやん、音楽聴こえてくると踊っちゃうよっ。クルスに怒られちゃうよっ』
「怒らせてやろうか、2人で」
『でぃーざー』
 嬉しそうにフェーは弾んだ。拍子にディーザの体も弾んだ。
 と、足元をクルスが投げた雪玉が通り過ぎた。
「あ、こら逃げるな」
「甘いねクルス」
 にっと笑ったディーザはささっと近場の雪をすくい、手早く丸めてクルスに投げつける。
「男なら潔く当たんなよっ!」
「どういう無茶な理論だい!」
 あははと笑いながらディーザはクルスと勝負していた。
『でぃーざー。やっちゃえー』
 フェーが楽しそうにはしゃいでいた。

 ■□■ ■□■

 グラッガを宿らせた虎王丸は街へやってきていた。
『何すんだよ、虎王丸』
「黙ってろ」
 虎王丸は街を見渡す。
 一面雪だ。埋まっている。30cmは積もっているかもしれない。
 虎王丸の進む場所は、例によってじゅうじゅうと雪が溶けていくのだが。
 虎王丸は上を見上げた。
 家屋の屋根。――たっぷりと雪が積もっている。
 虎王丸はずんずんと歩いた。商店街に向かって。
 いつもならとっくの昔に動き出している商店が、除雪作業でほとんど機能していない。
 まずまっさきにたどりついた道具屋。その前を必死に雪かきしている店主と従業員に向かって、
「おい」
 と虎王丸は声をかけた。
 振り向いた店主たちはぎょっとしたようだった。虎王丸の周りだけ雪が溶けているのだから当然だ。
「おい。除雪してやるから、何か報酬に物よこせ」
「は、はあ?」
「意味分かんねえのか?」
 ぎろっとにらむと、「い、いや」と店主は慌てたようにスコップを持っていない方の手を振った。
「よ、要するに除雪の手伝いをしてくれるのかな。分かった、こんな大雪では人手も欲しいことだし、報酬もそれなりに出そう」
「忘れんなよその言葉」
 言うなり――
 虎王丸は炎を生み出した。刀に伝わらせ、赤く刀身が光る。
『おわっ!?』
 グラッガが驚いて声を上げる。
 それは虎王丸が普段扱う白焔ではなく、グラッガの赤い炎だ。
 虎王丸はそれを振るった。衝撃波が広がった。
 うまい具合に屋根自体には燃え移らず、雪だけがあっという間に溶けていく。水になって降り注ぎ、店主たちはびしょぬれになった。
「あー。避けろっつの」
「い、言うのが遅いよ君ぃ」
 はくしゅん! とくしゃみをしながら、店主たちが水のかからない場所へと避難する。
 今度こそ遠慮はない。次々と炎の衝撃波を生み出し、虎王丸は屋根の上の雪を完全に溶かし終わった。
 その後に店の前を歩き回る。そうすれば、勝手に雪は溶けていく。
 やがて道具屋の前と屋根の上の除雪は完全に終わった。
 あまりにも短時間の仕事だった。
「おらよ。報酬よこせ」
 虎王丸は手を出す。店主は唖然としていたが、慌てて「ちょ、ちょっと待っててくれ」と店に引っ込んだ。
 やがて――どうやら体を拭いてから来たらしい――にこにことしながら店主が戻ってきた。
「ありがとう。おかげで開店できそうだ――これはお礼。これで足りるかな」
 渡されたのは、手に乗るサイズの見事な女神像の水晶細工だ。
 遠方の高名な水晶細工師が作ったんだよ、と店長は説明する。
 虎王丸は小さな女神像の、体のラインを見てにやにやした。
「ま、合格点だな」
 道具袋にしまい、「じゃーな」と虎王丸は道具屋を通り過ぎる。
 道具屋の店主、従業員のぽかんとした視線を背中に感じる。
 雪を溶かして道を作りながら、虎王丸は気にせずずんずん進んだ。

 次は武器屋。
「おいこら。除雪してやっからいい武器よこせ」
 まるで脅しているかのような口調で言うものだから店の者たちには不審がられるのだが、道具屋の時のように綺麗にしてやれば、結局武器屋の者たちも笑顔になった。
「ありがとな。武器なら好きなのを持っていけよ」
「あん? 選べってか。しゃーねーなー……」
 面倒くさそうに言いながら、その実楽しそうに虎王丸は店内に物色に入る。
『……何やってんだ? さっきから』
 グラッガはぶっきらぼうに、と同時に不思議そうに尋ねてくる。
「“人の手伝い”ってやつだ」
 と虎王丸は答えた。

 なかなかよさげな刀を見つけて鼻歌を歌いながら、虎王丸は店を出る。
「ありがとーなー!」
 店主から再び声をかけられた。
 次に防具屋。
 同じような調子で、
「おい。除雪してやっからこの防具新調させろ」
「あん?」
 いかつい防具屋の主人は物凄く不審そうに虎王丸を見たが、がははと笑って、
「よっしゃガキ、1人でどこまでやれるか見てやろうじゃねえか」
「けっ」
 舌打ちしながらも虎王丸は例によってグラッガの炎であっという間に除雪を終わらせた。
 ぽかんとしている防具屋の主人の前、ふふんと鼻を鳴らし、
「おら。約束だ、防具を新調させやがれ」
 反論は返ってこなかった。

 ■□■ ■□■

「火をありがとうね、ウェルリさん」
 蟠は桶にいっぱいになった水を持ち上げながら、目の前にいるかっぷくのいい女性に言った。
『いいともさ! これくらいいつでも言いなよ!』
 気のいい近所のおばさん風な焚き火の精霊ウェルリは、擬人化した状態でそこにいた。
 蟠は微笑む。――桶いっぱいに雪を集めてきて、そしてウェルリに火をもらい、溶かしてもらった。これを、みんなに出すお茶に使うつもりだ。
『みんなは、楽しんでいるかねえ』
 ウェルリがふと森の出入り口を見やる。
 蟠はふふっと笑って、
「今見てきたけれどね、とっても楽しそうだったわよ」
『そりゃいいね。うーん、“ゆき”ってやつはあたしも初めて見たけど……』
 蟠が桶いっぱいに持ってきた白い不思議なものを、ウェルリは物珍しげにしげしげと見たものだ。
 ……彼女が顔を寄せるだけで、儚く雪は溶けていってしまったけれど。
『ううん。森の外ってのは、まだまだいっぱい不思議があるんだねえ』
「キミはまだ外には出たことがないの?」
『ほとんどね。火の精霊を選んでくれる人間はなかなかいないよ』
 蟠の表情がわずかにかげる。しかしウェルリは笑い飛ばした。
『いいんだよあたしゃ、クルスが幸せそうならそれで。あたしたち精霊はみんなそうさ』
 その言葉に蟠は微笑み、その柔らかな微笑はウェルリの燃え上がる熱気で照らされた。
 蟠はふうと息をつき、「それじゃあ」とにこりとする。
「ボクはこれから小屋の中に行くから……」
『もうかい? 寂しいねえ。何をしに行くんだい?』
「みんなを楽しませるために。美しいボクらしく美しい行事を」
 ウインクして、蟠は軽く手を振ると、桶を持って小屋へと戻っていった。

 ■□■ ■□■

 雪合戦観戦役のアレスディアは、その身に宿す精霊をザボンから樹の精霊ファードに変えていた。
『森の木々から雪は感じていたのだけど……』
 とファードは感慨深げにつぶやいた。
『本体として、人間の目を通してみるとなおいっそう、不思議な感覚ですね』
 アレスディアはくすっと笑った。
「やはりご本人がその目でご覧になるのが一番だと思う。……しかし木々の葉や枝として感じるのもどんなものなのだろう」
 言われてみれば、ファードは森全体を司っているから、木々に雪が降ってくればそれを感じられるのだ。雪は初めてではないのだろう。
 目の前では。
 明るい声が飛び交っている。
 精霊替え、チーム変えした5人が、
「セレネーちゃんいくよー!」
「きゃっ。私、当たるの、きらいー!」
「クルス氏、ちょっと覚悟してくれるかな?」
「クローク何気に目つきが怖いよ?」
「え……と……クルス? 当たって……?」
「キミまでかい千獣――って、どわあっ!」
 ――アレスディアの頭の中では、ファードがくすくす笑っている。
『森の中で……木々を通してほとんどの精霊たちを知っているのだけど。ああして動いているなんて……』
「今はディーザ殿の中にラファル殿、千獣殿の中にセイー殿が入ってらっしゃるのだったかな」
 自分には見えない精霊たちが、友人たちに宿っている。
 それは不思議な様子だった。
 あとで全員に精霊たちの姿を擬人化して披露すると言っていたクルス。
「クルス殿、いくら魔力供給したとて無理していなければよいが……」
 トールは小屋から出てくる気配はない。――もし目覚めたら小屋の中でじっとしているタイプではないだろう。
「トール殿には精霊殿を宿らせることができるのだろうか」
『出来るはずですよ。トールはちゃんと生命を持っています』
「なるほど……」
 精霊宿りが、『生命力』を利用しているとは初めて知ったことだが。
「ならばトール殿にもぜひ、精霊殿に体を貸して差し上げてほしいものだ」
 ファードがふふと微笑んだ。
「ファード殿?」
『優しいですね……アレスディア』
 まともに言われて、アレスディアは顔をほんのり染めた。
 ――戦いの中に身をおいてきた自分。
 優しいなどと言われるのはどれくらいぶりだろうか……
「そ、そうだ。ファード殿は、お飲み物がお好きだと聞いたことがある」
『え? ええ、好きですよ』
 こほん、と気を取り直して、アレスディアは甘酒を口にした。
『まあ……不思議な味』
「私の好きな飲み物だ。ぜひファード殿にも気に入って頂けたらと」
『先ほど交替する際にザボンが嬉しそうに“おいしい飲み物をもらった”と言っていました。これのことですか?』
 アレスディアはうなずく。
 ファードがますます嬉しそうに、頭の中で微笑んだのが分かった。
『ではもっと私も味わってみたいものです。よいですか? アレスディア』
「無論」
 アレスディアは甘酒を一口一口、じっくりと飲んだ。
 一口一口ごとに、ファードが喜ぶのを感じながら。


 風の精霊の片割れ、ラファルはディーザと体の取り合いをしていた。
『このっ。このっ。俺にもやらせろよっ!』
「だーめ。クルスに風の精霊には体をのっとられないよう気をつけろって言われているからね」
『このっ。このっ。このっ!』
 同じ風精のフェーと比べて、ラファルはもっと自分勝手――もとい自由奔放らしい。
 幸いフェーのおかげで大分風精霊との付き合いは慣れた。ディーザはラファルに体をのっとられずに済んでいる。
 その分、思い切り体を動かしてやろうと考えていた。
「ほらクローク! 千獣! あーぶなーいよー!」
 笑いながら手にたくさん積んだ雪玉を次々と投げつける。
「ディーザ嬢、やるじゃないか」
 クロークが重たそうな服に似合わない素早い動きを見せる。
 風の精霊の力が宿った雪玉は速い。それを避けるのはなかなかに至難のわざだ。
 千獣は川の精霊セイーを宿している。動きは川の流れのようになめらかに雪玉を避けていた。
「セイー……動き、やすい、ね……」
『……川は流れに任せるだけだ』
「そう、かな……? セイー、少し、動きた、そう……」
『………』
 沈黙したセイーは、やがてぽつりと、
『……“外”の川には、洪水、とかってやつもあるんだってな』
「こう、ずい……」
 千獣は考えた。聞いたことはある。だが……
 ちょこんと首をかしげ、相手方のチームにいるクルスに、
「ねえ……こう、ずいって……な、に?」
「川の水が雨とかで多すぎて、溢れて流れ出ることだ、よっ――セレネー! もう10個もまとめて投げてくるのは勘弁してくれ」
「やだよー」
 セレネーはすでに玉とは呼べない、手にわしづかんだだけの塊を次々とクルスに投げつける。
「川の、水が……溢れて、出る……」
 千獣はディーザの玉を無意識に避けながら、そう言えば「川の増水で田んぼがことごとくダメになり、困窮した村」というのを見たことがあると思い出した。
 セイーの川の水は、とても静かだ。彼の言う通り、“流れに身を任せて”いる。
 けれど、川の水とは時に――荒れ狂うものらしい。
「じゃ、セイー……」
 千獣はすっと動きをとめた。「体、貸して、あげる……暴れて、いい、よ……」
『………』
 セイーは何も言わなかったが、それでもすすんで千獣の体を借りた。
『……ありがとう』
 朴訥につぶやく川の精霊は雪をすくって、ろくに丸めもせずにクルスに向かって投げつける。
「少しは固めて投げろ、セイー!」
 体の支配権が移っていることにちゃんと気づいている森の守護者は、悲鳴を上げて逃げた。
 セイーは微笑んだ。彼にしては珍しい表情だった。
 そして再び手にすくった雪を、やっぱりろくに丸めずに次々と守護者に投げつけた。
「僕に恨みでもあるのか……」
「精霊たち、何気にクルスに文句あるのかもよ。色々とね」
 現在クルスと同チームのディーザが明るく笑った。
 実際には――こんなじゃれごとで雪玉など、クロークやセレネーにはとても投げられない。
 クルスになついているという証拠だったのだが。

 ■□■ ■□■

 酒場の除雪を手伝ったところ、礼金と酒を手に入れることが出来た。
「うらっ!」
 虎王丸は酒を頭から浴びた。
『うわっ!』
 じゅわっとあっという間に蒸発し、虎王丸の体から湯気がじゅうじゅうと立つ。
『なな、なんだ今の水!』
「あんだ、酒知らねーのか」
『さけ?』
「ふーむ」
 瓶にわずかに残っていた酒を口に含んでぶっと噴きだすと、思った通り大道芸人のようにぼうっと炎となって散る。
『なんだ……!?』
 自分のせいだとは言え訳が分からず、グラッガが呆然とする。
「ところでよ、お前物食べれんの?」
 無視して、虎王丸は次の課題に入った。
 途端にグラッガは沈黙した。
「んん? 食べられねーのか」
『……や、焼くことなら、できる!』
「焼いてどーすんだよ。あ、なんだ? ひょっとしてもうお前の炎で料理してもらったことがあんのか?」
 ためらいがちの気配に肯定を汲み取って、「なんでえ」と虎王丸はつまらなそうに言った。
「俺様が色々試してやろうと思ったのによ。ああでもなあ、食べたことはねえっつんなら、それ試してみっか」
『お、俺がいる状態で物なんか口に入れたら、燃えるだけだ……!』
「へえ、面白いじゃねえか」
 足音高く虎王丸はレストラン街に向かう。
 そこでもまだまだ除雪作業には苦労していた。
 刀にのせた炎の衝撃波で、一気に除雪してみせた虎王丸は、一番近場にあった料理屋に「ただで食わせろ」とずかずかと入り込んだ。

 ――料理が出てきた時、『あ』とグラッガが声を上げた。
「ん?」
『……いや』
 口をつぐんでしまった火の精霊に、虎王丸は不審そうに、
「このピザがどうかしたか?」
 と尋ねた。
『……その。ピザ……』
「ピザが?」
『………』
「はっきりしねえやつだな」
 いらだって、ぼこんと頭を殴ってみる。自分が痛いだけだったが。
 店員がきょとんとその動作を見ているが、虎王丸はそんな視線を気にするタイプではなかった。ただ、他人には独り言にしか聞こえない声をグラッガに届けようとする。
「火ってのははっきりしてるもんだろがよ。ゆらゆらしてるとでも言いたいのかよ。炎の存在感はそりゃすごいもんなんだよ。堂々としろよ」
『虎王丸……』
 グラッガはまたしばらく沈黙した後、
『……俺の火で、ピザ、焼いてもらった』
 と言った。
「あん? ピザ?」
『クルスが作ってくれた……』
「はあ、あれがねえ」
 クルスが料理しているところは正直想像できなかったが、よく考えればあの森に他に料理が出来そうな存在はいない。
「そん時のピザ、お前食わせてもらったのか」
 頭の中、グラッガが首を横に振るような気配がした。
「っかー。クルスの阿呆が。もったいねえ」
『だって俺は物を食べられない。無理だ』
「分かんねえだろそんなこと」
 いいか、今から挑戦すっからな――と虎王丸は念を押した。
「しっかり感じろよ。食事ってのはいいもんなんだからな」
『………』
「んじゃ」
 すでに食べやすく切られているピザを、虎王丸は一切れわしづかんで、一口でばくんと口に含んだ。
 彼には算段があった。――酒を口に含んでも、酒は口の中で蒸発しなかった。
『あ、う』
 グラッガがうろたえている。不安が伝わってきた。物を燃やしてしまう不安――
 火の精霊のくせによ、と虎王丸はおかしくなる。
 そして案の定――
 口の中から、ピザが消えることはなかったのだ。
「あー、少しあっちぃ」
 焼きたてをさらに焼いたような熱さは感じるものの、食べられる。虎王丸はくちゃくちゃと音を立てて食べる。
 ――噛みしめて、食べる。
 味を感じた。チーズとケチャップの上、ベーコンやらトウモロコシやらピーマンやら。一般的なピザを隠し味でスパイシーに仕上げている。
 虎王丸はごくりと飲み込んだ。
「うんめえ」
 声を上げた時――
 泣きそうな気配が、頭の中で、した。
「あんだあ? お前、らしくねえな」
『うるせえ!』
 グラッガは涙声で怒鳴った。
「心配しなくてももっと食べてやるからよ」
 と虎王丸は次の一切れに手を伸ばす――

 ■□■ ■□■

「さて、素敵なケーキを作らなきゃね」
 蟠は自前のエプロンを着けながら、小屋の台所に立った。
「美しいボクのセンスで、美しいケーキ。用意はいいわね、雪に見合ったものを」
 可憐なリズムで鼻歌を歌いながら、蟠は料理を始める。
 あらかじめ、丸いスポンジケーキを持ってきていた。ワンホールある。
「今日の人数……精霊たちに、物は食べられるのかしら? そう言えば聞いていなかったけれど」
 ちょっと動きをとめて考え、それから「大丈夫よね」とつぶやいた。
「みんなの体を借りることが出来るんだもの。それにかこつけて味も感じられるかもしれないわ」
 にっこりと微笑みながら、生クリームをホイップする。
「んん。甘さの味見をしてくれる人はいないかしらねえ……」
 今日会う人間は滅多に会わない人々ばかりで、蟠としては甘さの好みが分からない。
 妥当なところで、甘すぎないほどがいいだろうとは思うのだが……
 少し考えて、蟠は作ったクリームをフライパンに入れた。手袋をしてフライパンの柄を持ち、小屋の外へ出る。
 そして、小屋の裏手にある焚き火のところに行った。
 実際には、現在そこには焚き火はない。代わりに――かっぷくのいい女性がひとり、ぽつんといる。
 一人ぼっちではあるのだが、彼女は気にしていないようだ。あまり上手ではない鼻歌を歌っている。
 蟠は微笑んだ。
「まあ……ウェルリさん、歌うことが出来るのね」
『おや蟠。歌なら風精のフェーがよく歌っているからね――ん、何だいその、手に持っているものは』
「クリームと言ってね、食べ物なんだけれど」
 蟠はフライパンに載せたクリームをウェルリに差し出した。「ウェルリさん、味見してみてくださらない?」
『……何だって?』
 ウェルリは目を丸くした。
『そんな。無理だよ、あたしたち火の精霊は――』
「分からないじゃない。さ、フライパンは少々の火では焼けないわ。ちょっとつまんで口に入れてみて」
『―――』
 ウェルリはほんの少し戸惑ったような顔をした後、次には瞳をきらきらさせて手を伸ばした。
 クリームに触れる。じゅわっとクリームが溶ける。しかし雪の後にも水が残るように、溶け残りが指についた。
 ウェルリはそれを『舐めた』。
 そして、
『あじ、っていうのは、こういうのを言うのかい?』
 興味津々、といった顔で蟠を見た。
 蟠は微笑する。これでいい。最初から味見をしてもらおうなんて思っていなかった。
 ただ、蟠は――一人で外にいるウェルリが気にかかっただけなのだ。
『ヘンな感じだね。でも、なんだろうね、もっと食べて、みたいね』
「お気に召したようね」
 それならいい。
 味見はこれで充分だ。
「それじゃ、ボクはお料理続けてくるから」
 蟠は手を振った。「順番で必ずウェルリさんを宿してくれる人がいるだろうから、その時完成品をご馳走するわ。じゃあ、またね」
『いいモン作りなよ!』
 ウェルリは大きく手を振り返した。

 ■□■ ■□■

 午後2時。
「一度、みんなで小屋に戻ろうか」
 雪合戦組みはへとへとになっていた。
「……陽射しが強いのに、溶けないねえこの雪」
 ディーザはぼやくように言った。
「まあ、有難いね。スノーキャンドルが無事作れそうだ」
 クロークは精霊だけに疲れというものがない。一人元気に額に手をかざして太陽を見ている。
「小屋に戻れば蟠が何か――用意しておいてくれているかもしれないから」
 体力なしのクルスは自分が一番小屋に戻りたそうだった。
 反対する者もいなかったので、一同森の中へと戻り始める。
「クルス氏、桶はいくつある?」
「2個かな」
「ひょっとしたらスノーキャンドルを作る際に壊れるかもしれないけれど」
「できれば壊さないように作ってほしい……」
 困ったように言うクルスに、クロークはくすくすと笑った。
 小屋にたどりつくと、クルスは全員を小屋に入れる前に、裏にある焚き火の場所へ連れて行った。
 そこには火の精霊のウェルリがいて、クルスの連れている人数を見て仰天した。
『わお! 擬人化している状態でこんな大人数に会うと恥ずかしいね!』
「女性の恥じらいだ」
 クロークが微笑む。三十代半ばの見かけを持つウェルリにも、いやいやをさせるような甘い言葉だった。
「彼女が焚き火の精霊のウェルリ。みんな、よろしく」
 とクルスが紹介する。
「よろしく、ウェルリ」
 ディーザが一歩退きながら明るく笑った。「ごめんねー、私火器を持ってるから火には近づけないんだ」
『うんうん。相性ってモンがあるよねえ』
「さすが分かってる」
「ウェル……リ……?」
 千獣が近づこうとして、ふいに立ち止まった。自分の頭の中で制止の声――
「ああ、駄目だ千獣。今キミの中にはセイーがいるから……」
「……ごめん、ね、ウェルリ……ここか、ら。いつも、ありが、とう……」
 申し訳なさそうな顔をして、ちょこんと頭を下げると、ウェルリはからからと笑った。
『何言ってんだい。クルスの嫁さんは大歓迎だよ! いやあ、クルスにも“ハルガキタ”ってやつがあって嬉しいねえ』
「ウェルリ!」
 森の守護者は怒鳴る。後ろでは数人の冒険者たちがくすくすと笑っている。
 当の千獣は分かっていない様子で、
「………? 森の、外……いつも、春、来るよ……?」
「春、来る。来るー」
 とセレネーが跳ねる。
「純粋だね千獣」
 ディーザがくっくと笑いながら言った。千獣はこの辺り、セレネーと同レベルだ。
 わいわいやっていると、小屋が開いて、
「あら、裏が騒がしいと思ったら……」
 早く呼んでよ、と蟠が微笑んだ。「疲れているの? 紅茶を淹れるわ」
 全員がウェルリにいったんの別れを告げ、小屋に入ると、雪を溶かした水で蟠は紅茶をふるまった。
 クロークはあいにく食事が出来ないが、
「美味しいね」
「おいしー!」
「有難い、蟠殿」
 ひとり千獣は味が分からないのでちょこんと頭だけ下げた。
「ありがとう、蟠」
 クルスが礼を言う。彼らが手にいたティーカップから、ほかほかと温かい湯気が立っている。
 いえいえ、と蟠は手を振った。
「ボクもみんなの役に立ちたいからね。誕生日も祝いたいし……」
 台所には作りかけのケーキがある。
 そうだった。今日はクルスの誕生日として――集まったのだった。
 全員の視線が自然とクルスに集まる。
 それを避けるようにクルスは虚空に視線をやって、
「虎王丸とグラッガはどうしているかな……」
 とつぶやいた。

 ■□■ ■□■

 虎王丸は、街全体の除雪をして回っていた。
 そのたびに礼をせびっていたが、この記録的な大雪、除雪してもらって嫌がる者もほとんどいなかった。
 そんなわけで虎王丸の手の中にはたくさんの色んな金品……
 単純に金銭は虎王丸が自分の懐に入れた。他に冒険に役立ちそうなものも。
 売ったら金になりそうなものと、薬草やら薬の類はクルスに渡すつもりだ。
 それから――
 虎王丸は最初にもらった水晶細工の女神像を掌に載せた。
「ううむ……」
 自分も気に入っているのだが。
 だが、しかし。
「……ま、滅多にないことだしな」
 何かを決心したらしい、虎王丸はそれを大切に道具袋にしまった。
『虎王丸?』
 グラッガが不思議そうに語りかけてくる。それを無視して、
「たまには人に感謝されんのもいい気分だろ?」
『感謝……』
 グラッガはしみじみとその言葉をつぶやく。
 虎王丸はぼりぼりと首の後ろをかいて、
「それにしても、もうひとつ試してみたいことがあんだよな。それ実行するためによ、一度森に戻ろうぜ」
『???』
 グラッガの言葉も聞かず、虎王丸はずかずかと歩き出した。
 もうすっかり雪のない街道を。


 紅茶の優しい香りと温かさが小屋全体に広がる。
 ――ふと、くん、と鼻をひくつかせて――
「飲みもん!」
 がばっと、ベッドからトールが跳ね起きた。
 一瞬誰もが身を引いた。トールは起きるなり、
「喉渇いた! 俺にもくれ!」
 と言い出した。
 ……なんつー元気だ。と誰もが思った。
「はいはい。今淹れますからね」
 蟠が手際よくもう一杯紅茶を淹れる。
 トールはそれを受け取り、ごくごくと飲んで――あちっと噴き出しそうになった。
「……少しは落ち着いたらどうだ? トール……」
 クルスが片手で顔を覆う。
「おお我がライバル」
 トールは上機嫌でクルスを見た。「意識が沈んでいく中で感じたぞ。俺様の魔力を取っただろ? 少しは誕生日プレゼントになったか」
 クルスは詰まった。常日頃からこの青年のせいで迷惑をこうむっている。こうむっているが――
「……ああ。すごく、助かっている。いい……プレゼントだ。ありがとう……」
 周囲の優しい視線を感じた。
 トールは自分の魔力も利用して今彼らが何をやっているのかを聞くと、すかさず「俺の体も使え!」と言った。
「1人でも多い方がいいはずだなクルス! なら俺も入れるべきだクルス!」
「……そうだな。ありがたく……ああ、その言葉に甘えるよ」
 どうしても歯切れは悪くなるが、クルスは微笑んでいた。
 クルスはトールを小屋から連れ出して、そしてウェルリを宿して小屋に戻ってきた。
 蟠が「これでウェルリさんにもケーキを食べてもらえるわね」と両手を組み合わせて喜ぶ。
『おんや、グラッガがいないねえ。火の精霊同士、仲良くしようと思ったのに』
「グラッガなら――」
「帰ったぞ!」
 がん、とドアを蹴破る勢いで開け、虎王丸が姿を見せた。
「虎王丸、一体何をして――」
「クルス。一応これがプレゼントってことにしといてやる」
 虎王丸は、クルスに渡す分と決めていた道具や金品をテーブルの上に放り出した。
 クルスは目を丸くして、「それは」と不審そうにつぶやく。
 虎王丸はむっとした顔で、「別に盗んだり奪ったりカツアゲしたりはしてねえよ、ちゃんとした労働の結果だ」と胸を張った。
「労働……」
「ところでクルス。ひとつ訊きたいんだけどよ。グラッガの炎をランプかなんか、小さめのモンに移して、グラッガの本体もそっちに移したりできねえのか」
「―――?」
「それならよ、体に宿さなくても外に出られるかもしんねーだろ」
『虎王丸……』
 突然トールがからからと笑い出した。
『グラッガ! いいヤツに出会ったんだねえ』
『お前……ウェルリ?』
「あん? もう1人の火の精霊か? 悪ぃなお前にゃ何もできねえ。俺はグラッガで手一杯だからよ」
 それだけ言い放ち、虎王丸は真剣にクルスに向き直る。
「で? できんのか? できねえのか?」
「………」
 クルスは眉間にしわを寄せて、腕組みをした。少しうつむいて考えた後、
「……トール」
「何だライバル!」
「悪いんだが、もう少し魔力をくれ」
 トールはうんうんとうなずき、
「素直が一番。今日は特別だ! 取っていくがいい!」
 へえ、とディーザが感心したように声を上げた。
「トール、けっこういいヤツだったんだね。こういう時だけね」
「うむ。やはり……根っから悪い人間ではないのだな」
 アレスディアもほっとしたように言った。
 千獣がトールの前にちょこちょこと歩いて行き、
「トール……あり、がと……」
「はっはっは。お前が俺に感謝するのは珍しいな」
 クルスは苦笑しながら、ベッドのトールに近づいていく。
 そして「失礼」と言いながら青年の胸に手を当てた。
 ぱん、と破裂するような音がして、またもやトールはベッドに倒れたが、今度は不意打ちではないので気絶しなかったようだ。
「ウェルリも痛かったかな。すまない」
『これが“痛い”っていう感覚なのかい?』
 火の精霊には物珍しいらしい。
「うーむ。大量に吸い取られた気がする」
 トールはのそのそと起き上がる。
「トール、まだ魔力残ってるの?」
 ディーザが尋ねると、彼はうなずいた。本当に底なしだ。
「で、成功しそうなのか? クルス」
 とトールは魔力を渡した相手を見た。クルスは戸棚から、手さげランプを取り出しているところだった。
 そして振り向いて、
「虎王丸、グラッガと分離するよ」
「おうよ」
『お、おい……』
 戸惑っているグラッガをよそに、グラッガは虎王丸の体から暖炉へと戻された。
 全員の目の前にグラッガ擬人化形態が現れる。全員の視線を浴びてびくっとしたグラッガは、次にクルスに呼ばれてはっとそちらを向いた。
 クルスは小さな手さげランプの中央に指を置き、発光させていた。
「――ここだ。ここにお前がいつもいる暖炉と極力同じ気配の“場”を作る。……乗り移ってみるか?」
 グラッガは面食らったようだった。しかし、腕組みをしてこちらを見ている虎王丸をそっと見て、
『お、おう』
 胸を張った。
「よし」
 クルスは指を鳴らす。手さげランプの中央が一瞬まばゆく光ってから元に戻った。
「行くぞ」
 グラッガの擬人化が解け、暖炉の炎に戻った。クルスはその炎をまるで抱きかかえるような仕種をした。すると炎は小さくなって彼の腕の中に、手の中に、掌の上に、
 小さな火となって、
 クルスの指先が促すままに、ランプの中心に導かれ、ぽっと灯った。
 よっしゃ! と虎王丸が指を鳴らした。ひゅう、とディーザが口笛を吹いた。
『おやまあ、本当にグラッガが小さくなっちまった』
『本当に……こんなことも出来るようになったのですね、クルス』
『……グラッガのやつも大人しいな』
『はーん、甘ちゃんグラッガが反抗しないなんてよっぽどー』
 小屋にいるメンバーに宿っている精霊たちが、口々に感想を述べる。
「おいグラッガ、聞こえてっか?」
 虎王丸はクルスが持つランプを揺らす。
 まるで揺らされたことに怒っているかのように、小さな灯火が激しく揺れた。
「通じてんな。いつものこいつの炎の動き方そっくりだ」
 虎王丸は満足そうに、「貸せ」とクルスからランプを奪った。
「同じ要領でウェルリも小さくできそうだな……そうすればもう1人トールに宿ってもらえるし……」
 クルスはふうと息をつきながら、もうひとつランプを取り出した。
 千獣がふいにぐっと彼の服の裾をつかんで、
「無理、しない、で……」
 クルスは振り向いて、微笑した。
「こんな楽しい日に、そんな無粋なことは言わないことだ、千獣」

 ランプが2個となり。
 トールには泉のマームが宿った。
「じゃあそろそろ、スノーキャンドルを作りに行こうか、皆さん」
 ずっとセレネーとあやとりをしていたクロークが、顔を上げて言った。
「作り方は、覚えてるよね?」
「ん。けっこう力仕事になりそうだよね」
 ディーザが言う。「まあ私は力仕事はそれなりだけど」
「私も力仕事なら……」
 とアレスディア。虎王丸も千獣も言うまでもない。
「ボクはあまり向いてないかしら……」
 と蟠が白い頬に手を当てる。「セレネーちゃんも、ねえ」
「あはは。僕もだけれどね、だったら小さいスノーキャンドルも作ればいいだけのことだよ」
 クロークは笑った。


 再び外に出て、スノーキャンドル作り。
 桶を利用する方法。
 桶に雪を詰め込み、さかさまにして地面に落とす。そしてその塊の中に穴を掘った。
 ひとつきりで完成するものもあれば。
 それをピラミッド型に重ねていった大きいものも作っておく。
 ここは、千獣に宿っているセイーとトールに宿っているマームが役立った。雪を綺麗に固めるのに、少々の水気が必要だったのだ。

 桶を使わない方法。
 みんなで雪玉をきゅっきゅっと握る。できるだけ大き目のものを。小さいスノーキャンドルにするなら小さめのものを。
 数十個単位で要るので、みんなでせっせと握った。ここでもやはり、セイーとマームの出番。
 そして出来上がった雪玉を、中央に空洞が空くよう積み上げて。雪玉だけに、積み上げても隙間が微妙に空いているのが重要だ。
 体の硬いファードを宿しているアレスディアはほとんど何も出来なかった。けれど雪に触るとファードが喜ぶ。
 途中で彼女は宿す精霊をザボンに交替した。……結果は同じ。
 セレネーや蟠による小さなものの一方で、クルスの身長ほどにもある巨大なスノーキャンドルも出来た。

「火を点けるのは夜がいい」
 クロークはそう言って、ランプになった火の精霊2人に微笑みかけた。
「その時はあなたがたに活躍してもらうと思う。よろしく」


 案の定、スノーキャンドル作りは雪合戦に劣らず疲れる作業だった。
 小屋に戻って、再び紅茶タイム。ほっと一息……
 ふと、蟠がつぶやいた。
「まだ、数人の精霊さんが小屋の外にいるのよねえ」
「いるよ」
「……じゃあ外で披露しようかしらね、やっぱり」
 その方が迫力もあるでしょうしね、と蟠は1人で納得する。
「何をする気だい?」
 クルスが首をかしげると、蟠は優美にウインクした。
「ボクの特技、お忘れ?」
 クルスがはっと息を呑んだ。
 蟠はケーキ作りに戻った。


 夕方になり、トールが「腹減った!」と騒ぎだした。
 それに乗じて「おいケーキまだか!」と虎王丸が蟠に迫る。
「落ち着いて。……できたわ」
 大き目のワンホール、クリームで包み、さらにホイップクリームで飾りつけ、ビターチョコレートをアクセントに、その上からさらに粉雪のようにホワイトチョコレートを散らす。
 雪景色のようなケーキだった。
「お誕生日おめでとう」
 言いながら、蟠はテーブルにケーキを置いた。
「最初にナイフを入れるのはクロスエアくんね」
 はい、とケーキナイフをクルスに渡す。
「………」
 クルスはぼんやりとケーキナイフを見下ろした。
 それから、おそるおそる――
 ケーキに、ナイフを。

 ぱちぱちぱち、とふと拍手の音がした。
 見れば、小屋の壁にもたれたディーザが手を打ち鳴らしていた。
 それにつられて……
 ぱち、ぱち、ぱち……
 ぱちぱちぱちぱちぱち……
 拍手の大合唱――

「―――」
 クルスの手が止まった。
「どうしたの、クロスエアくん」
「すまな……僕には、切れない」
 何かを押し殺したような声で、彼はケーキからナイフを離した。
 『誕生日おめでとう』と書かれたチョコレート。
 切なそうな目で見る彼。
 それに寄り添う、千獣。
「僕が切るよ。平等にするのは得意だから」
 とクロークが微笑して手を出した。クルスからケーキナイフを借り、11人分。
「精霊が8人と……セレネー嬢とクルス氏と蟠氏、の分でいいね」
「ありがとう……」
 クルスは泣くような声で礼を言った。

 それから、かわるがわる精霊を入れ替えながら、全員ケーキを食べきった。
「おいしー♪」
 はしゃぐセレネーの手元からはケーキがぽろぽろこぼれ、それをルゥが食べている。
「よくできているね……へえ、風精もそれなりに味は分かるんだ」
 ラファルとフェーを交替させながら食べていたディーザがつぶやいた。
「蟠とか言ったか。ウェルリが『うまいってのはこういうことかい?』とか言っているぞ」
 とトールに伝えられ、
「その通りよ」
 と蟠が微笑む。
「おいグラッガ。昼に食ったピザは『辛い』っつーんだが、これは『甘い』っつーんだぞ」
『へえ……』
「マー、ム……これ、甘い……」
『これが甘いという感覚なのですか……とても不思議です』
「ザボン殿。いかがかな?」
『むむむっ。よもや岩の精霊のわしがけーきなどというものを食べられる日が来るとは』
 精霊と会話しながら進む会食は滑稽で、しかし楽しい時間だった。
 クルスは噛みしめるように、ケーキを食べていた。
「チョコレートはクロスエアくんにね」
 と蟠は言う。
「いや、みんなに分け――」
「分けづらいわよ」
「……ありがとう」
「いいなあチョコ、チョコー」
 セレネーが騒ぐので、クルスはメッセージチョコを割って、ひと欠片セレネーに、ひと欠片ルゥにやった。
 そして残りは自分で食べた。
 苦い大人の味のビターチョコ。しかし今日は何だか、みんなの優しさが詰まっているような。


「ケーキが終わったら小屋の外に出てもらってもいいかしら?」
 再び紅茶で口の中をさっぱりさせたところで、蟠が立ち上がった。
 ばらばらと全員が立ち上がり、外へと向かう。
 小屋の外には、ふたつほど樹の切り株があって、座れるようになっていた。
「申し訳ないけれど、ボクは座らせて頂くわね」
 いって清楚な仕種で座るなり、彼はするんと腕の中に楽器を生み出す。リラだ。
 そして吟遊詩人は詩いだす――


 雪の降る森に やってくる朝は
 とても冷たく けれど優しく
 いつもと変わらず彼を迎えていた

 彼は森を守る者 彼は森を守る者
 森は変わらず彼を愛していた

 雪の降る外は まるで清廉な心を
 森の清廉な心を 彼の清廉な心を表したよう

 森が愛した者は 森が愛した者は
 雪を知って そして心を深くする
 純白な心で人々を愛し ささやかな愛も深く雪に跡をつける

 雪よ 雪よ 降りつもれ
 彼らの熱を高めるために
 雪よ 雪よ 降りつもれ
 彼らの心を暖めるために
 ああ 雪よ 優しい雪よ
 お前たちは今 ここで 彼らのために


 詩人の歌声に合わせて、森の中の空気が変化した。
「………? なんだ、景色が――」
 トールが微力な魔力を感じて眉間にしわを寄せる。
 瞬間、

 雪よ雪よ雪よ
 さあ今ここに姿を現せ
 雪よ雪よ雪よ
 さあ今ここに美しき姿を

 詩人の声に呼応するように――

 空気がきらきらと輝き始めた。

「あ――」

 森の中ではあまり差すことのない太陽光がどこからか差し込んで
 空気中の氷の結晶に反射して
 まるで細かなガラスの破片のように
 否それよりも美しい輝きで

 一面が
 舞い散る光で埋まった。

 ダイヤモンドダスト――

 森の中が不思議に薄水色に染まる。
 空中で舞う結晶は小さくて、
 そして何よりも輝かしくて、
 彼らの体を飾っていく。
 彼らは自分の体を見下ろし、雪のようで雪ではない小さな光をくすぐったい思いで受け止めた。

「綺麗――だね――」
 言葉にするのももったいないけれど、やっぱり言葉にせずにはいられない。

「きらきら、きらきら」
 セレネーがくるくると舞いながら、氷の結晶を全身で受ける。
 きらきらと、少女の輪郭が輝いた。
「きらきら、きらきら」
 無邪気な子供の声は、高らかに明るく響く。
 詩人の声に合わせて、高らかに、森に響く――

 ■□■ ■□■

 陽が落ちる。
「さあ、もうひとつの幻想の始まりだ――」
 ランプに火の精霊たちを宿した要領で、クルスはいつも魔術実験に使うために小屋にある、大きめの水晶に水の精霊の2人を宿した。
 そして改めて。千獣にファード、アレスディアにザボン、ディーザにフェー、トールにラファルを預け、虎王丸にはグラッガを、クロークにはウェルリのランプを渡した。
 水晶は自分で持って、クルスは森の外に出る。
 ――トールの強大な魔力がなければ、こんな形で精霊を外に出すことなど叶いはしない。
「僕も……もっと魔力の増強をはかった方がいいのか……」
 苦笑気味にクルスが独りごちていると、千獣がその腕を取ってかぶりを振った。
「もう……無理、しない、で……」
「………」
 あらかじめたくさんのろうそくを持ってきてくれていたクロークは、午後に作ったスノーキャンドルの空洞の中に1本ずつろうそくを立てた。
「さあ、火を灯すよ――火の精霊たち、頼んだよ」
 ウェルリのランプをろうそくに近づける。ウェルリは炎を揺らし、ろうそくに火を灯した。
 ふわ、と暖かい光が広がった。
 雪の隙間から柔らかく漏れ出る炎の――
 虎王丸が真似をして、次々と大小のスノーキャンドルにグラッガの火を灯していく。
 キャンドルが柔らかく暖かい火を広げていく。
 そう、雪の隙間から。
 ふんわりと漏れる光が。
 一面の雪景色を、照らした。

「……いい眺め」
 ディーザが優しい声で言う。
「これは見事だ……」
 アレスディアは和んだ顔つきでつぶやいた。

「誕生日の締めくくりにぴったりだ――」

 それはダイヤモンドダストとは違う、光の幻想曲。
 景色が美しく色を変えていく。
 今日集まった者たちと、精霊たちのために。
 輝くキャンドルの光は、どこまでもどこまでも――……

 ■□■ ■□■

「できっかな。出来るよな」
 と虎王丸が、道具袋から取り出した何かをしげしげと見つめながら真剣につぶやいていた。
「クルス。お前も手伝え」
「何をだい?」
 まだスノーキャンドルを堪能したい、もしくは精霊たちに見せたい者たちを残して小屋に戻ってきたクルスは、その原因になった虎王丸を不思議そうに見る。
 虎王丸が手にしているのは、掌に載るサイズの水晶細工の女神像だった。
「俺の白焔をよ」
 虎王丸は女神像を指差した。「この水晶に宿らせる。お前の魔術と組合せりゃできるだろ?」
「また難しいことを……」
 出会った時から虎王丸は無理難題をふっかける少年だった。
 だが――それはいつも、優しさからくるものだ。
 だからクルスは大人しく、「出来ると思うよ」とうなずいた。
「キミの白焔を出して」
 クルスの言葉に、虎王丸は片手に白焔を生み出す。
 クルスはひゅっと指をすべらせて、その白焔の一部をすくいとった。
 そして、女神像をとんと指でつつく。
 瞬間、女神像の「中」に、白焔がぽっと灯った。
 水晶の中で揺らめく白い焔は、不思議と優しかった。
「これでいいのかい?」
「よしよし」
 虎王丸は満足げにうなずくと、女神像をクルスに預けて小屋を飛び出していった。
 ――しばらくすると、彼は戻ってきた。いったんクロークに預けていたグラッガのランプを持って。
 クルスから白焔の灯った女神像を奪うように取ると、
「ほらよグラッガ! 今日のお前へのプレゼントってやつだ、受け取れ」
『―――』
 現在のグラッガの声は虎王丸に聞こえない。クルスは指を鳴らして、グラッガを暖炉の前で擬人化させた。
『その……白い焔、お前のやつか? 虎王丸』
「おうよ。またひとつ、お前の傍からなくならないモン増やしてやったぜ」
『―――』
 虎王丸はずいと女神像をグラッガの目の前に突きつける。
 グラッガは――
 視線をそらして、口の中でぶつぶつ言った。
「あんだ? 不満あんのか?」
 不機嫌になる虎王丸に、クルスがくすくすと笑って、
「違う。……グラッガ、素直に言ってみなさい」
『う、うるせ』
「……あー」
 察したのか、虎王丸は天井を仰いだ。
「いらねいらね。そんな言葉いらね。とにかく受け取れ。いいな」
『だ、駄目だと言われてももらってやらあ!』
 妙なことを言いながら、グラッガは胸を張った。
 虎王丸がにっと笑う。
「暖炉の近くに置いておけばいいかな。一応強化魔術をかけておくか――」
 クルスは女神像の置き場所を考えている。
 やがて、どやどやと小屋に人々が戻ってくる。
 クルスは笑顔で出迎えた。

「いらっしゃい。――お帰り」

 誕生日おめでとう。ありがとう。
 精霊たちをありがとう。どういたしまして。

 いくつもの想いが、残されて……

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 精霊の森という場所がある。
 8人の精霊の住む場所。不思議に刻の止まった場所。
 そして彼は森の守護者。
 彼の刻も止まったまま。
 ――けれど人々は、彼の刻を止めたままにすることを許さずに。
 彼は今年、ひとつ歳を取った。
 楽しくて嬉しくて涙の出そうな、思い出とともに――


 ―FIN―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1070/虎王丸/男/16歳/火炎剣士】
【2919/アレスディア・ヴォルフリート/女/18歳/ルーンアームナイト】
【3087/千獣/女/17歳(実年齢999歳)/獣使い】
【3166/蟠一号/無性/26歳/吟遊詩人】
【3482/ディーザ・カプリオーレ/女/20歳/銃士】
【3570/エル・クローク/無性/18歳(実年齢182歳)/調香師】

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■         ライター通信          ■
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千獣様
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
今回もゲームノベルへのご参加、ありがとうございました。
お届けが大変遅くなりまして、まことに申し訳ございません。
千獣さんには水の精霊さんと仲良くして頂きました。いつもと違う感覚で楽しんでいただけたらと思います。ところどころでクルスに重要な一言も投げかけていただきました。ありがとうございます。
また次回、お会いできますよう……