<PCクエストノベル(1人)>


〜真の闇の迷宮へようこそ〜


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【3573/フガク (ふがく) / 冒険者】

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フガク:「ここか…」



 鬱蒼と茂る下生えをかき分け、フガクは険峻な岩山を見上げた。
 この地下に、目的の場所はある。
 薄いが丈夫な生地で作られた藍色のマントを肩から羽織り、その長身をすっぽりと包み込んでいる。
 その下に愛用のショートソードを携えた姿が、真っ赤な太陽の下、大きな黒い影を地面に焼き付けていた。
 やや腰のあたりが膨らんでいるのは、比較的大きめの皮袋を提げているからだ。
 準備が必要な相手だけに、少々邪魔になるのは仕方ない。いざとなったら、捨てられるものしか入ってはいないので、戦うことになっても支障はなかった。



フガク:「まあ、今回は偵察だけだけどね…」



 フガクは少し肩をすくめてつぶやいた。
 先日、宿屋で路銀が尽きそうになり、慌ててギルドに駆け込んだのだ。
 聖都での常宿と決めている「海鴨亭」の女将は気のいい女性で、あちこちを旅して戻って来るフガクを、いつも温かく迎えてくれる。
 だから、路銀が尽きかけて、そのことを正直に打ち明けた時も、「気にしないでいいよ」と笑顔で言ってくれた。
 だが、それに甘えることは、情に厚いフガクとしては出来ない。
 さっそくギルドに飛び込んで、壁に貼られているギルドからの依頼の数々を検分し始めたのだった。
 その中に、かなりくたびれた一枚があった。



フガク:「これ、ずいぶん昔から貼られてるよなー…」



 ぼそりとひとりごちて、フガクはしげしげとその内容を検めた。
 探索場所は、「強王の迷宮」。
 聖都エルザードから北西へ向かい、山岳地帯に埋もれるように存在する迷宮だという。
 その昔、ヴァンパイヤが封じられた場所の上に、ガルフレッドという名のドワーフが強制的に建設した迷宮で、彼は自らを「強王」と名乗るようになった。
 ガルフレッド自体は、かなり前に倒されたと聞く。
 残った居城は、今では廃墟と成り果て、さまざまな恐ろしい怪物や化け物が棲み着いて、探索さえも厳しい有様らしい。
 いくつかのギルドが共同で、内部の探索に賞金を出し、腕に覚えのある冒険者が挑戦しているが、未だ3階付近までの地図しか作成できていないようである。
 その地図は各ギルドで売っているが、それなりに高値で、もしかしたら数人の人間の命が対価に支払われたのかも知れない。



店番の男:「その依頼に興味があるのかい?」
フガク:「ああ。賞金、結構いいよな?」
店番の男:「それだけ危険ってことさ」
フガク:「だよな…」
店番の男:「以前、ここのギルドに所属してるヤツが行って、戻って来たんだけどな、ひどくボロボロだったぜ。怪我は重傷、身ぐるみ剥がされて、命からがらって感じでな…俺はあまりお勧めしないね」
フガク:「…」
店番の男:「だがな、そいつが持って帰って来た情報は貴重なものだったぞ。大半が怪物の情報だったけどな」
フガク:「もちろん、内部の地図はあるんだよな?」
店番の男:「ああ、地図や情報は、各ギルドで共有することになってるしな。今のところ、3階までの地図は粗方出来てる。もっとも、これも正確なものって訳じゃねぇみたいだけどさ」
フガク:「どういうことなんだ?」
店番の男:「よく分からねぇんだが、どうも同じ階が複数存在するらしくてな、行くたびに城の中身が入れ替わっちまうって話もあるんだ。だから、ここで売ってる地図も、あくまで一例でな、これどおりに行けるかどうかは運次第みたいだな」
フガク:「それじゃ探索の意味がないんじゃ…」
店番の男:「いや、そういう訳でもないんだ。特に1階から3階については、これまでたくさんの人間が行ってるせいもあってな、ほぼ正確な地図がある。まあ、一枚じゃないけどな。入ってから、地図と周りを見比べりゃ、そのうちのどれかには当たるって話だぜ」
フガク:「結構気の遠くなるような話だなー…」
店番の男:「そうじゃなかったら、こんなに黄ばむまで壁に貼られちゃいねぇよ。その前に誰かが攻略しちまってるだろう」
フガク:「確かにね…」



 フガクは一瞬考えたが、皮袋の中からなけなしの銀貨を一枚取り出して、カウンターに置いた。
 店番の男は、にやりと笑って丸められた羊皮紙の束をカウンターの下から取り出す。



店番の男:「ギルドはどんな情報でも買うぜ?新しい情報なら何でもな。まあ、最初の冒険で何か見つけられるとは思えねぇけどよ」
フガク:「頑張るよ」



 路銀稼ぎのつもりで立ち寄ったのに、とフガクは心の中でため息をついた。
 逆に情報料に銀貨一枚使うことになってしまった。これは何か別の仕事をしなければ、必要なものを買い揃えることも出来なさそうだ。
 そろそろ無償で依頼を受けるのは良くないなー、とフガクはため息ついでに思った。
 だが、そればかりは性分というもので、早々簡単には治らないことを、フガクは身にしみて知っていたのではあったが…。



 翌日、西方へ行く隊商の用心棒をしながら、フガクは目指す「強王の迷宮」へと向かった。
 隊商はさらに西へ行くというので、途中で降ろしてもらう契約にし、その分割安で請け負うことにした。
 途中、大きなサンドワーム(砂蟲)などに出くわし、得意の剣技で切り伏せて、金額分の働きをすることが出来た。
 隊商にはその腕を惜しまれたが、フガクは予定通り目的地目前の村で降ろしてもらい、宿を定めて腰を落ち着けた。
 そこで初めて、ギルドで購入した地図を開き、中身をじっくり見ることが出来た。
 どうやらすべての地図に共通しているのは、建物の面積だけのようだ。
 中身は、廊下、部屋、階段など、すべての位置がバラバラである。
 だが、どの地図にも例外なく、階段は存在するようで、必ず別の階に行けるようにはなっているらしかった。
 それでも、4階の地図になると、それすらあいまいになり、いろいろなところに空白が存在した。
 敵も強くなり、それ以上探索が続けられない状態になったのだろう。
 特に、今回の強敵はヴァンパイヤだ。
 さすがにその迷宮のお膝元だけあって、小さな教会が建てられ、司祭がひとり住んでいた。
 フガクは司祭を訪ね、ヴァンパイヤに対抗する手段を相談することにした。



司祭:「あなたもあそこに行くのですね…」
フガク:「はい、そのつもりです」
司祭:「そうですか…あまり気は進みませんが、それならこれをお使いなさい」
フガク:「これは…」
司祭:「この小瓶は聖水が入っています。そして、こちらはこの教会で清められた十字架です。あの迷宮には、複数の魔物が棲むと言います。まだ招待の知れないモノも大勢いることでしょう。逃げられる時は、戦わずして引きなさい。そのために、人影を見たら、こちらの姿は見せないよう注意して、相手が何者か確認することです。この鏡をお使いなさい」
フガク:「最初にこの鏡で敵を映せってことですね?」
司祭:「そうです。その敵がもしもヴァンパイヤであれば、この聖水を振りまいて後ろを見ずに、来た道を走って戻りなさい」
フガク:「…わかりました!ありがとうございます!」



 そのまた翌日、フガクは司祭からもらったものをそれぞれしまった。
 十字架はきちんと首にかけ、聖水の小瓶は瓶の口のところを紐で縛ってベルトに吊るした。鏡は腰の皮袋の中だ。
 出立の準備を整えて、宿を出ようとしたフガクに、その宿の女将が何かを差し出した。



女将:「あんた、あの迷宮へ行くんだろ?」
フガク:「ああ」
女将:「これを水に混ぜておきなよ」
フガク:「…っと、うわっ、これは!!」



 フガクはその強烈なにおいに、危うく渡された小袋を取り落としそうになった。
 それは間違えようがない、あのにおいだった。



女将:「ヴァンパイヤにはそれが効くって言うからね!ちゃんと入れておくんだよ!」
フガク:「わ、わかったよ…ありがとな」



 フガクは手早く聖水の小瓶にその中身を落とし込んだ。
 途端に、自分がそのにおいの発信源になる。
 その中身とは――あまりに新鮮なニンニクのにおいだった…。
 
 

 こうして準備万端で、フガクは「強王の迷宮」の入り口に立ったのだった。
 無論、地図を補完するための筆記具や羊皮紙も、腰の皮袋に入っている。
 念のため、聖獣装具である三眼兜・スリーゲイズを装着する。
 これで暗闇でも、相手に気付かれる確率は断然低くなった。
 迷宮の入り口は、地下へと続く長い階段の末にある、大きな鉄の扉で、一見して重そうな印象だ。
 だが、蝶番に錆はなく、押すと軋んだ音はするが、ちゃんと開いた。
 そこからするりと身を忍び込ませ、フガクは中へと入って行った。
 通常の屋敷であれば、入ったらすぐ玄関フロアに出るものだが、今回は真正面に長い廊下が現れた。
 そのパターンの地図は2枚しかない。
 フガクは束になった羊皮紙の中から、その2枚を探し出して、左手に持った。
 一枚は廊下の両側に部屋の扉が並ぶタイプ、もう一枚は廊下の先に広間があるタイプだった。
 今回は、広間があるタイプのようだ。
 そちらの地図を残して、片方の地図をしまい、フガクはさらに警戒しながら先に進んだ。
 スリーゲイズの三つの目のうちの二つが、暗闇を昼並みに明るく切り裂いて、彼は躊躇することなく先へと進む。
 この暗視能力は、光を発するものではないので、敵を誘い出す心配はない。
 絨毯に深く沈む足を一歩一歩、慎重に前へ進めながら、彼は広間に出た。
 そこは荒れ果てた状態で、壁からはタペストリー状のものが破れて垂れ下がっていた。
 壊れかけたソファからは綿がはみ出し、装飾も傷だらけである。
 その広間からはさらに3本の廊下が出ていたが、そのうちの一本は階段へとつながっていた。
 フガクは迷わず、階段を下がった。
 すると、そこはひとつの部屋のようになっており、扉を開けて外に出るようになっていた。
 フガクは持っていた二階の地図を引っ張り出し、そういうタイプのものはないか探した。
 ありがたいことに、そういうものが一枚あったので、フガクは一階の地図と交換して、左手に持つ。
 その地図は、南西の一部に空白があった。
 階段の位置は記されていたので、特に調べる必要もなかったのだろう。
 だが、フガクはその空白が気になった。
 行ってみるか、と口の中でつぶやいて、フガクは扉を開けた。
 そこには「光」がまったく存在しなかった。
 スリーゲイズがなければ、歩くことさえ覚束ないほどの暗闇だ。
 地図によると、ここから北に廊下が伸び、手前から4つ目の右の部屋に、下の階への階段があるらしい。
 そして、西にも廊下があるが、その部分が白紙なのである。
 フガクはスリーゲイズを通して、西側を見晴るかした。
 どうやら扉はひとつのようだ。
 扉に仕掛けがないかどうか、触らないようにしながら念入りに調べる。
 扉自体も、ノブも、特に何もなさそうだ。
 フガクはノブにそっと手をかけ、中を覗き込む。
 その瞬間、フガクは目を瞠った。
 古びてはいるが、豪奢な調度が置かれた部屋の中で、ゆらりゆらりと、何かがうごめいていたのだ。
 それも、ひとつではなく、複数である。



フガク:「…(これが噂の…)」



 フガクは静かに扉を閉めた。
 しかし、一瞬遅かったようだ。
 不意に、ガッと扉を内側からつかまれ、こじ開けられるように押し返された。
 慌てて、フガクも力をこめて扉を押し閉める。
 扉と枠の間から覗く実体のない「手」は、時折思い出したかのように形を成した。
 それは明らかに、茶色に枯れた「人間の手」だった!
 犠牲者の成れの果てか、異形のものか。
 フガクは背筋が凍ったような気がして、さらに力をこめた。
 ガタガタガタッと不穏な軋みが扉全体を襲う。
 体全体で扉が開かれるのを防ぎながら、フガクは左手を腰の瓶に伸ばした。
 やっとの思いでそれをつかみ、結わいた縄を一定方向に引っ張って瓶を外すと、彼はそのまま扉の内側にそれを投げ入れた。



魔物:「ギャァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 恐ろしい悲鳴が中からあがった。
 とっさに、フガクは扉をバタンッと閉め、一目散に元来た道を走った。
 扉に何かしらの封印がされていたのなら、それを破ったことになるし、いつまた魔物たちがあそこからあふれ出て来るとも思えない。
 いかんせん、魔法に類する物は感知が鈍る。
 あくまで体を使った戦いを得意とする以上、それはフガクにとって鍛えようのないことでもあった。
 フガクはそのまま、その迷宮を1階まで走って、玄関扉から外に躍り出た。
 外に出ると、岩山は何事もなかったかのように、そこにそびえ立っていた。
 額の汗をぬぐいながら、彼はその長い階段を見下ろした。



フガク:「…とりあえず新しい情報は手に入ったな…」



 抜けていた地図の補完がひとつ出来た。
 そして、ひとつの階が複数存在することも自分の目で確かめた。
 今まで、多くの冒険者が挑み続けている場所である、一筋縄ではいかないのは承知の上だ。
 フガクはもう一度建物を見上げてつぶやいた。



フガク:「まあ、今日はこれくらいにしておくか…」


 
 次回来ることがあれば、もう少し聖水を用意しておいてもいいかも知れない。
 それか、聖なる術が使える人間を同行者にするという選択肢もある。
 地図にも今日の情報を追加しておくべきだろう。
 初回の冒険としてはまずまずの成果だろう。
 ギルド宛ての報告の内容を考えながら、ひとまず今回、フガクは宿に戻ることにした。
 今後の対策は、それからだった。



 〜END〜




 〜ライターより〜


 いつもご依頼ありがとうございます!
 ライターの藤沢麗です。


 今回、ソーンの大きな謎「強王の迷宮」に挑まれていますが、
 ここはダンジョン系の探索には非常に適している場所ですね。

 まだまだ解明されていない部分も多いですし、
 地下4階以上はギルドでも把握しきれていないことが公に知れ渡っていますしね。

 今後、フガクさんがここを探索されるのであれば、
 多くの謎が明らかになっていくことでしょう。

 少なくとも、路銀の心配はなくなると思います!(笑)

 それではまた未来の冒険をつづる機会がありましたら、
 とても光栄です!

 このたびはご依頼、本当にありがとうございました!