<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜廃鉱深部(前編)〜』

 久しぶりに顔を合わせた蒼柳・凪、虎王丸、ダラン・ローデスは、その晩のうちに、3人で探索にでも出かけようと決めたのだった。
 数日後、3人はファムル・ディートの診療所で待ち合わせ、診療所で必要とされている素材やお勧めの探索地の紹介を受けることにした。
「レイル湖は行ったし、ミラヌ山には近付きたくねーし……」
 虎王丸はリストを見ながら考え込む。
 今回はダランが一緒ということもあり、危険な場所は避けたい。
「廃鉱スラスの、鉱石ビスタリとはどういったものですか?」
 凪がファムルに訊ねた。
 ファムルはあくびをしながら、本棚から図鑑を取り出した。
「この鉱石だ。市販もされてるんだが、高価でなー。魔力を封印する効果がある。魔法薬の他、魔法具の作成にも使われる便利な鉱石だ」
 暗い色の鉱石だが、岩や土とはあきらかな違いがあり、見分けはつきそうだ。
「そっか。じゃ、ここに行ってみっか!」
 そう言ったのは虎王丸だ。
「さんせー!」
 ダランは図鑑を見もせず、元気に手を上げた。
「廃鉱か……」
 凪は無邪気に笑うダランを見ながら少し迷うが、リストの中では一番楽しめそうな場所ということで、その廃鉱スラスに決定することにした。
「しかし、注意点がいくつもあるぞ。まず、中は火気厳禁だ。ちょっとした火花で粉塵爆発が起こることがある。酸素が薄い場合は、貧血状態に陥る。また、ガスが充満している可能性がある。少しでもガス臭いと思ったら、近付かんことだ。無臭の場合もあるから、とにかく注意が必要だ。酸素濃度が低いだけ場合は多少の余裕があるかもしれんが、有毒ガスを吸い込んだ場合は瞬間的に意識を失う可能性がある。濃度が高ければ即死だ。故に、廃鉱に子供は近付いてはいかん」
「なんだよ、結局行くなってことかよ」
 虎王丸が疑問の声を上げた。
「いやしかし、その廃鉱には魔物が住みついているらしいからな。動物系の魔物がいる場所については、入り込んでも命の危険はないということだ。ただ、その魔物がお前達に対処できる相手であれば、だが。……ということで、魔物用の毒薬買っていかないか、ダラン」
 ……薬の売りつけが目的だったらしい。
「へ?」
 ダランはわくわく荷物準備を進めており、ファムルの話など聞いてはいなかった。
「お前は、確実に足手まといになるからな。薬類を持って、サポートすべきだ」
「なんだよ、足手まといになるとは限らねーだろっ」
 そう言いながらも、ダランは財布を取り出した。
「でも、持ってた方が役立ちそうだから、持っていくことにする。ええっと、人間には無効の毒薬と、回復薬と、魔力の回復薬なんかもあったらほしいんだけど」
「結構距離あるみたいだから、沢山持っていくと途中でへばるぞ」
 虎王丸と凪も加わり、持っていく薬の選別を始める。
 結局、ダランは魔物用の毒を少々と、回復薬を1回分だけ持って出発することになった。

**********

 草が生い茂っている。
 奇妙な声が時々響くが、そんなことは気にならないほど、賑やかに話しながら、進んでいた。
 今は使われていない山道を歩きながら、虎王丸がダランに訊ねることといえば……。
「風呂はどうだった? 混浴あったか? それとも子供のフリして女湯入ったのか?」
 旅先でのお風呂情報であった。
「大浴場あったんだけどさ、混浴じゃなかった。俺くらいの年だと、女湯入ることは認められねーっていうか、別に女湯入りたくねーし!」
「あー? 出発時、風呂が別々なこと、嘆いてたじゃねーか!?」
「それは、ディセット達と一緒に入りたかったんじゃなくて、一緒に風呂とか部屋とかで騒ぐ相手がいないことが残念だったんだよー。大体女湯は、入るもんじゃねぇ、覗くもんだっ!」
 パンッ
 パン!
 乾いた音が、二つ響いた。
 凪が後ろから虎王丸とダランの頭を叩いたのだ。
「ってー」
 と言いつつ、虎王丸は凪の腕を掴みながら、ダランに質問を続ける。
「で、覗いたのか!?」
「いや、露天風呂がなくてさー、頑張って霧の魔術のイメージトレーニング積んだってゆーのに」
「てか、霧を発生させたら、近付いてもバレないかもしんねーけど、こっちも見えねーじゃんかよ、覚える魔法間違ってるぜ!」
「そ、そうかっ!!」
 2人の友人の会話に、凪は頭を抱えたくなる。覗かれた人の身になってみろ、と。
 しかし、2人のこんなに楽しそうな顔を見るのは久しぶりだ。
 これ以上話がエスカレートしないようなら、まあいいか。
 そう思いながら、凪はつかまれた腕を捻り、虎王丸を振りほどいた。
「見えてきたぞ」
 凪は2人の背を叩いて言った。
 草薮の先に、小屋がある。
 昔、作業員が休憩に使っていた小屋だろう。
 その先にあるのは、坑口だ。
 木とロープで塞がれている。
 近付いてみれば、ロープはたるんでおり、人が出入りした様子が窺えた。
「人、じゃねぇかもな」
 坑口の周囲には爪痕のような跡が残っている。
 動物か……動物系の魔物か。
「ファムル先生の助言の他、こういうところでは気をつけなければいけないことがある」
 凪は、街を出る前に廃鉱についての資料を閲覧してきた。ダランが一緒ということもあり、若干慎重になっている。
「中の様子を見なければわからないけれど、相当古いものならば、落盤による生き埋めなんかにも注意しなきゃらならないし、構造によっては、道に穴が開いていたり、道が腐って、落下する可能性もある」
 そう言って、凪は足下を照らすため、銃型神機に取り付けライトをつける。
 虎王丸はランタンを用意し、中を照らすと、おもむろにロープを跨いだ。
 凪はダランと眼を合わせ、頷くと虎王丸に続いた。
 ダランもすぐ2人の後を追う。
 ――中は意外と広く、しっかりとした造りになっているようだった。
 中にも、人が休めるような場所が存在している。しかし、当然だが人の姿はない。
「すげー、地下都市みたいだ」
 ダランが感嘆の声を上げた。
「なんか、楽な探索っぽいよなー。魔術なんか使う必要なさそうだ」
 虎王丸の言葉に、ダランは小さく唸り声を上げた。
「それはそれでいいのかもしんねーけど、なんか残念なような。けど、派手に戦って、落盤起きたりしたら、生き埋めになっちまうんだろうしっ」
「まあまあ」
 虎王丸はダランに近付くと、肩をパンパンと叩いて、そのままダランを引き寄せ、耳元でこう囁いた。
「その場合は、魔女の魔力でなんとかしてくれよ。んで、お前が魔女の魔力に取り付かれて、女になった時には……俺と付き合おうぜ?」
「うっ……」
 固まりながら、ダランは虎王丸の顔を見た。虎王丸はダランに微笑んで見せる。普段ダランに向けることのない、甘い微笑みだ。
「う、ぎゃあああああああーっ。ヘンタイヘンタイヘンタイ! 俺そういう趣味ねぇぇぇぇぇーっ」
 慌てて虎王丸を振りほどき、ダランは凪の後ろへと隠れた。
「あっ、ははははははっ」
 途端、虎王丸は腹を抱えて大爆笑だ。
「俺も、お前なんか、お断り、だっての」
 笑いながら言って、膨れるダランを見ながら、笑みを悪戯気な笑みに変える。
「まあ、あの雪像可愛かったしな。場合によっちゃー、本気で考えてやってもいいぜ」
 ゆっくりと、凪に捕まり顔だけ出しているダランに手を伸ばす。
「う、わああああっ」
 駆け出そうとしたダランを凪が止める。虎王丸には、拳骨を叩き込んでおく。
「ダラン暴れるなって。崩れるぞ」
「だって虎王丸が!」
「冗談だよ。虎王丸は年上好きだし。ダランをからかってるだけだ」
「そ、そうか。そうだよな。け、けど、マジ怖ぇ……。いつもナンパしてるあのテンションで迫られたらと思うと」
 ガクガク震えだすダランの様子に、凪も思わず笑みを漏らす。
 冗談だから、笑っていられるが、本当に虎王丸がそんな行動に走ったら――確かに恐ろしいかもしれない。

 次第に、道幅が狭くなっていく。
 凪は「視界の野」を坑道の奥へと飛ばしてみる。
 普段は自分の周りを感知する能力だ。慣れない使い方だが、多少の状況は知ることができた。
「この先に、巣がある。蝙蝠のような魔物が占拠してる。そっちは避けよう」
「了解」
 凪の言葉に従い、先頭の虎王丸は分かれ道を右に進むことにした。
 途端、坑道を走る音が聞こえた。凪は瞬時に「視界の野」をそちら側へと切り替える。
「3匹、来る!」
 説明をする暇はなかった。虎王丸が刀を構える。
 凪は身を引いて、ダランと並んだ。ダランは戸惑っている。
「火は止めたほうがよくて、水は意味なさそうだし、土は落盤がこえーし、風は精霊力が殆どなさそうだし、あああああーっ」
「だったら、一番得意な念動で、虎王丸をサポートするんだ」
「う、うん」
 奥から現れたのは、鼠が巨大化した魔物であった。
「ひぃぃぃぃっ」
 姿を見るなり、ダランは尻餅をつく。
 しかし、魔術は確かに発動していた。
 ダランから放たれた力により、魔物の動きが弱まる。
 虎王丸は左手を部分獣化し、右手の刀で1匹、左手でもう1匹魔物を切裂いた。
 虎王丸を掻い潜り、飛びかかってきた魔物は、凪の舞術「白銘神手」と、ダランの念動で押さえ込んだ。
 2匹を片付けた虎王丸が、最後の一匹に刀を突き立てた。
「うーん、凪と2人でも、結果は変わんねーけど、確かに多少楽は楽か」
 そう呟きながら、虎王丸は先に進む。
「はあ……な、なんか、道に迷いそうだよな」
 ダランが不安気な声を発する。
「大丈夫、印もつけてるから! ほら、足下注意して。水が溜まってる」
 凪がダランの足下に光を当てた。
 ダランと出かけるのは久しぶりだからか、虎王丸には、普段より凪が活き活きしているように見えた。
 ダランは水溜りと魔物の死骸を避けて、虎王丸の後に続いた。
「いまさ、いまさ、虎王丸変身しただろ? なんかずりーなっ!」
 その言葉に、虎王丸はくるりと振り向く。
「……お前だって、変身できるだろ、女に」
 にやりと笑うと、ダランは慌てて凪の後ろに隠れるのだった。

「虎王丸ストップ」
 数十分歩いた頃、凪が突然足を止めた。
 ここまでの間に、動物系の魔物に何度か遭遇しており、この先にも生き物が生息しているようではある。行き止まり付近は巣になっているとも考えられる。
 しかし……。
「どうかしたのか?」
 ダランが心配そうに声をかける。
「いや、2人も感じるだろ。力が押さえつけられる感覚を」
 凪の言葉に、ダランは眉根を寄せる。
 でもそういえば、魔術の発動がスムーズに行なえなくなった気がする。疲れの所為と考えてはいたが。
「あ、そうっか、鉱石か!」
 虎王丸の言葉に、凪は頷いた。
 鉱石ビスタリ。
 魔力を封じる効果がある石だ。
 つまりこの先、徐々に魔力は封じられ、ビスタリが発掘できる場所では、おそらく魔術は一切使えないだろう。多く発掘したのなら、帰路も魔術が使えない可能性がある。
 魔法だけではない、神機の類いもおそらく使用できない。
「……足手まといってもしかして、こういうことか!? ちゃんと説明しろよなー、ファムル!」
 ダランが叫んだ。
 虎王丸には武術がある。
 凪も格闘術で戦える。
 ……しかし、ダランは。
「ここで待ってるか?」
 虎王丸の言葉にダランは首を左右に振りかけて、止めた。
「邪魔になるのやだっ。でも……」
 続く言葉はなんとなく理解できた。
 一人では、引き返せない。
 だけれど、一人でここで待つ自信もないのだろう。
 虎王丸はふと、以前3人で出かけた時のことを思い出す。
 凪とダランが小さな洞窟に落ち、閉じ込められていたことを。
 あの時は、自分が別行動をしていたから助けることができた。
 力を合わせる、また、互いを守るためには3人一緒に行動した方がいい。
 しかし、別行動故に成果を得られることもあるだろう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】
【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
発注ありがとうございました。
3人の掛け合い、とても楽しく書かせていただきました!
前後編になっていますので、引き続きご参加いただければ幸いです。