<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『ファムルの診療所β〜制御する手段〜』

 魔法薬。
 一部の薬師が取り扱っている、魔法的効果のある薬だ。
 単純に魔力に働きかけ、薬の効果を上げるだけのものもあれば、薬師ごとのオリジナル薬も存在している。
 その効果は様々であり、人々は望みの薬を得るために、オリジナル薬を扱っている薬師を訪ねる。

 その日、ファムル・ディートの診療所を訪れたのは、痩身の青年であった。
 治療ではなく商談ということで、ファムルは青年を診療室のソファーに招いた。
 青年――リルド・ラーケンはソファーに身体を投げるように腰かけると、軽装に白衣姿の冴えない錬金術師を軽く睨んだ。
 この小屋のような建物といい、室内といい、男の身なりといい、有能な錬金術師には見えないのだが……。
 しかし、このファムルという錬金術師は、知り合いの少女や、仕事で組んだ者達が時折世話になっている男だという。
「で、どんな薬が欲しい?」
 向いに腰かけて、ファムルがリルドに訊ねてきた。
 リルドは小さく息をついて、思考を巡らせる。どう説明すべきか……。
「ここにもう一個武器があるとする。ただ、そいつは壊れてんのか、一本の木を切ろうとして森を切っちまうような代物でな、正直扱い難い。……で、こっからが相談でな? その武器を一時的で構わねえから制御したい。そういうもんはできるか?」
 リルドの言葉に、ファムルは腕を組んで唸った。
「抽象的過ぎるが……不可能ではないと思うぞ。それがどんな武器なのかが私に理解ができ、使用者が薬に耐えられる肉体を有していれば、だが」
 ファムルの言葉に、リルドは考え込む。
 どう説明すべきか。
 リルド・ラーケンは竜と同化した人間である。
 異世界で死に掛かっていたリルドと、同じく致命傷を負っていた竜が、生に執着した結果、一つになったのだ。
 そうして生き長らえたリルドは、竜の力をも操ることが出来る。
 しかし、人間の肉体で全ての力を引き出すことは出来ない。
 また、竜の特質に振り回されることもある。
 自身の切り札ともいえる武器を使おうとすると、どうしても竜化せざるを得ない。
 その竜化を制御すること。制御するための薬を得ること。それがこの診療所を訪れた目的だった。
 だが、出来ることなら、竜化のことは話さずにおきたい。
 リルドは考えた末、こう話してみることにした。
「制御できない魔力だ。そういった力を制御する薬が欲しい」
「なるほど……。魔力を抑える薬なら、材料さえあれば作れるが、それがどの程度の魔力なのかわからなければ、どの程度の効果の薬を調合したらいいのかわからん。それはお前のことか?」
「そうだ」
 そう答えると、ファムルは薬棚から、薬瓶を数本取り出し、テーブルの上に置いた。
「右から順に効果が高い試薬だ。腕を出してくれるか?」
 言われたとおり、リルドは腕を出した。
 ファムルは試薬をガーゼに含ませると、リルドの腕に当てた。
「その魔力をここに集中してみてくれ」
 リルドは腕に力を集中させる。
「なんともないか?」
「ああ、特に何も感じないが」
 リルドの言葉に頷いて、ファムルはガーゼを外した。
 同じようにして、他の薬も試してみる。
 若干痒みを感じる薬もあったが、ほぼ何も感じず、肌が荒れることもなかった。
「痩せてるくせに、大した体だな。人間じゃないのか、君は」
 その言葉に、リルドは苦笑する。しかし、答えはしない。
「それじゃ、自分自身で試してみるかい? 但し、試薬の料金も高いぞ」
「高い? 例えば、オーダーメイドで俺に合った薬を作ってもらったとしたら、大体幾らくらいになる?」
「そうだな……」
 ファムルは料金表を取り出す。更に紙にペンを走らせ、材料や市場価格などを書き、計算していく。
「効果は一瞬で20G、一日で30Gってところだな」
「30G!?」
 思わず大きな声を上げてしまう。
「……まて、料金表には素材持込も可能だと書いてあるが、何が必要だ? 素材を持ち込んだ場合は幾らになる?」
「持ち込みの場合は、調合料金だけだから、数Gってところだな。必要な素材は、魔力を抑える魔法草か、鉱石、または両方。それから、身体に馴染ませるため、シシュウ草もあった方がいいな」
「それは、どこに行けば手に入る?」
 リルドが問うと、ファムルは探索地のリストを取り出した。
「魔族とコネがあるんなら、グライアス鉱山の鉱石スラギアル。これが一番だ。一番危険がないのは、パナッキオ浜に落ちている鉱石ラスガエリ。ただ、根気がいるぞ1週間探して1粒見つけられればいいところだ。まあ魔法薬の材料としてはそれで十分だ」
 図鑑と照らし合わせながら、ファムルは説明を続ける。
「続いて、市販もされているビスタリ。これは廃鉱で採れるかもしれんが、一人で行くのは危険だ。いずれの場合も、ほんの一欠けらで十分だ。沢山採掘してきた場合には、街で売って金にできるだろうし、うちに提供してくれるのなら、調合料や薬をサービスしよう」
「なるほどな……で、魔法草は?」
「魔法草の採取は、ミラヌ山が一番だが、案内人がいないと困難だ。キャトルがいれば一番なんだがな」
 キャトル――キャトル・ヴァン・ディズヌフ。よく街の酒場に顔を出していた少女だ。
 この診療所にも度々顔を出していたらしい。そう、彼女はここで仕入れた薬を、酒場で売っていたことがあった……気がする。興味がなかったので、あまり記憶にないが。
「ああそうか、日帰りなら私が一緒に行ってやってもいいぞ。魔物の類いは全部倒してくれるんだろ?」
「…………」
 この不精な男と2人で?
 つい、心底嫌そうな顔をしてしまう。
 とりあえず、大枚はたいて依頼するか、素材を採りにいくかすれば、目的の薬は手に入るようだ。
 尤も、効果の程は分からないが。完全に望みどおりの効果を求めるのなら、竜型を見せる必要があるかもしれない。
「とりあえず、その魔法薬の傷薬を試してみたいんだが」
 リルドがそういうと、ファムルは嬉しそうに薬棚から様々な薬を取り出した。
「今あるのはこれだけだが、魔法草が手に入れば重傷を一瞬で治す薬なんかも作れるぞ。ただし、体力までは戻らんがな」
 重傷を一瞬で……。それは職業柄、携帯しておきたい薬である。
 つい最近まで、リルドはまともに動けないほどの傷を負っていた。その数日間を冒険や依頼に費やせば、薬の代金くらい払えたのではないか?
 そう思いながら価格表を見るが、魔法薬はどれも、驚くほど高価だった。
 吐息をつきながら、リルドは一番安い1Gの傷薬を一つ購入した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3544 / リルド・ラーケン / 男性 / 19歳 / 冒険者】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

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■         ライター通信          ■
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診療所へようこそ〜!
ライターの川岸です。発注ありがとうございました!
もし、探索に出る場合は、パナッキオ浜とミラヌ山の場合は、探索シナリオ「探索に出よう」をご選択の上、その後の調合についてのプレイングもご記入いただいても構いません。
その他の探索地をご選択いただいた場合は、多分前後編になると思います。
無論、どこかの依頼で稼いだお金でどかーんと調合をご依頼いただいても構いません。
ちなみに、通貨ですが1G=1万くらいとお考えください。
それではまたどうぞよろしくお願いいたします。