<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜廃鉱深部(後編)〜』

「早速役立たずじゃねえか」
 虎王丸の言葉に、ダランは唸り声を上げる。返す言葉はないようだ。
「うーん……折角覚えた魔術が使えないってのはなぁ」
 蒼柳・凪は、軽く苦笑いをする。
 暗い道が続いている。魔の力が及ばない空間。
 それは、人間にとって幸いなのか。それとも、過酷な道となるのか。
「でも、さ」
 ダランがぽつりと声を出した。
「本とかで見る冒険地もさ、魔法が使えない場所とか、物理攻撃が全然ダメな場所とかあるじゃん。そういう時に役に立てない仲間も、役立てる場所では役に立てるわけで。だから、役立てない場所があるからといって、役立たずってわけじゃ……あー、俺は魔法使える場所でも、役に立ってるとはいえねーけどさーーーー」
 声をじょじょに大きくしながら、ダランは頭を抱え込んで膝をついた。
「けどまー、使えなくなるかもしんねーってだけで、確定なわけじゃないだろ。廃鉱になるくらいだから、あんまり鉱石ないんだろうし」
 虎王丸が壁にランタンを近付けながら、そう言った。
 この辺りには目的の鉱石はない。
 四方八方鉱石に包まれれば、魔術はまるで使えなくなるだろうが、多少の鉱石に近付いたくらいで全く使えなくなることはないだろう。
「そうだな……」
 凪は頭を抱えてるダランを見て眉根を寄せる。
 以前、確かに別行動をしていたから助かったこともある。
 しかし、それは単独行動をしていたのが虎王丸だったからであり、ダランを置いていくことには、やはり抵抗があった。
 しばらく会えなかったダランと離れることの不安感もある。
「状況を確認しながら、3人で進もう」
「だな」
 凪の言葉に虎王丸が頷き、ダランはのっそりと立ち上がった。
「ファムルの話だと、ガスが吹き出てる可能性あるんだよな? じゃ、まだほんのちょっとは役立てる場所にいるわけだし、風を奥に向って起こせよ、ダラン」
「う、うん。だけど、この中って、風の精霊力利用しにくいんだよ。土に覆われてるから」
 虎王丸の言葉にそう答えながらも、ダランは呪文を唱え、僅かな風を起こした。
「それじゃ、俺が先行するぜ。臭いにも敏感だしな。ま、もし俺がガスを吸い込んじまって倒れても、2人がかりなら引き摺れるだろ」
「そうだけど、その場所まで行ったら、全員吸い込んで倒れちゃうだろ……って、そうか!」
 ダランは持って来た荷物の中から、紐を取り出した。
「これを、虎王丸に結んでおけばいっか」
 ダランは紐を虎王丸の身体に回した。
「……って、それは仕方ねぇとして、何故首に巻きつける!? 絞殺する気かてめぇは!」
「だって、ペットを繋ぐのは、首って決まってるだろ!」
 言いながら、尚首に巻きつけようとするダラン。虎王丸はむしり取るかのように、抵抗する。
「誰がペットだ!」
「虎は猫の一種だろ? 虎王丸は凪のペットじゃんかー!」
「猫の一種じゃねぇ。大体俺は虎じゃねぇ。虎の霊獣人だ!」
「はいはいはいはい」
 凪は2人のやりとりに苦笑しながら、ダランの鞄からもう1本紐を取り出して、虎王丸に結びつけた。……足に。
「足ぃ? 普通命綱は腹じゃねぇか?」
「いや、この場合腹だと上手く引き摺れないだろ。ダランも虎王丸のもう片方の足に結んで」
 凪に言われたとおり、ダランは首を諦め、虎王丸の足に紐を結びつけた。そして、もう片端を自分の身体に縛り付ける。
「……なんかこれ、俺と凪が別方向に逃げたら、面白いことになるな」
 笑うダランに、虎王丸は拳骨を一発食らわせる。
「痛ぇ……っ」
 頭をさするダランを尻目に、虎王丸は一人、先に進み始める。
「虎王丸、定期的に声で合図してくれよ。声が聞こえなくなったら、引っ張るから」
「分かってるって」
 凪にそう答えて、虎王丸は闇の中に消えた。

「魔力を封じる効果のあるアイテムってあるけどさ。装備している人以外の人には普通影響ないじゃん? なのに、ここでは、どうして魔力が使えなくなる可能性があるんだ?」
 ダランの問いに、凪は周辺を見回しながらこう答える。
「見える範囲ではビスタリは無いみたいだけれど、この辺りには沢山眠っているんだと思う。この先だけじゃなく、頭上にも、左右の壁の向こうにも。ビスタリに包まれた空間だから、魔力が押さえつけられてるんじゃないかな」
「そっかー」
 ダランはため息をつきながら歩く。時折、風の魔術で風を発生させながら。
「一匹いったぞー」
 前方から届いた声に、ダランは飛び上がった。直後、モグラのような魔物が2人の前に現れる。
「穴を掘るタイプか。逃がさない方がいい。地盤に影響が出たら困るし」
「えええっとえええっと」
 凪は舞術で魔物を拘束し、ダランに目配せをする。
 ダランは頷いて、念動で、魔物に圧力を加える。
 凪は術を解くと、神機で魔物を倒す。
「確実に倒すには、やっぱこうして拘束して倒すのが一番なんだよな?」
 ダランの言葉に、凪は大きく頷いた。
 戦闘に慣れれば、凪の舞術より、ダランの念動の方が素早く発動できるはずだ。きっと彼は頼もしい仲間になってくれる。
「でさ、その神機の力も少し弱まってない?」
 ダランの言葉どおり、威力が多少弱くなっている。
「霊力の力事態、弱める効果があるみたいだなぁ。ということは、発動した魔術も、種類によっては消えてしまうってことか」
「種類によっては?」
「んー、例えば……」
 ダランの問いに、少し考えながら、凪は答えていく。
「魔術をコントロールする。もしくは魔術エネルギーそのもで作り出した魔法的効果の場合は、影響を受ける。だけど、魔術で作り出した物、作り出した結果は影響を受けない」
「ああ、うん、そうか……?」
 首を傾げて、ダランは眉を寄せている。よくわかってないようだ。
「エネルギー弾なんかは、最悪消滅すると思う。だけど、魔法で空気中の水分を集め、氷を作り出したとしたら、その氷をビスタリの中に投げ込んでも消えないってこと」
「ううーん、わかったような、わかんないような……」
 ダランの言葉に苦笑をしながら、凪はダランの背を押して、先に進ませる。虎王丸とあまり離れすぎて紐にたるみがなくなったら、虎王丸が転んでしまうだろう。
「のわっ、うわあああああーーっ!」
 突如、ダランが走り出し、転倒したかと思うと、そのままずるずると引き摺られた。
「あー、わりぃ。すんげー敵に遭遇したもんでさー」
 前方から軽快な声が響く。
 ダランの方だけ引っ張られるのは不自然だ。
(わざとだな、虎王丸)
 さーて、どんな仕置きをしようかと考えながら、凪は倒れたダランに手を差し伸べた。

**********

「つまんねー」
 虎王丸は報復に注意しながら歩いていた。
 ダランをすっ転ばせてみたはいいが、反応が見れないため、面白くもない。
 ガスが出るんなら、温泉があるんじゃないかと思ったが、廃鉱内にあるわけもなく――ああでも、近くに温泉宿なんかあればいいんだけどなああと妄想を膨らませて楽しむことにももう飽きた。
「とりあえず、鉱石を一欠けら持って帰ればいいわけだが、多けりゃ多いほどいいよなー」
「虎王丸ー」
 後方からの声に振り向く。
「これより先は何も見えない。そのあたりにあるんじゃないか?」
 どうやら、視界の野の力が及ばない場所にいるらしい。分かれ道になっている。両方、人がやっと通れるくらいの狭い道だ。
 においを嗅いでみるが……これといって強いにおいはしない。しかし、なんだかむず痒くもある。
「そんじゃ、ちょっと行ってみっから、なんかあったら引っ張ってくれよなー!」
 そう言って、虎王丸は適当に右側に入り込んでみた。
 暗くてよくわからない。
 まあ、大丈夫だろうとランタンを前に翳す。
 先は行き止まりになっていた。狭い穴だ。
「掘ったけど鉱石が出なかった穴か?」
 右手だけ獣化して、壁を削ってみる。ごろごろ岩は崩れ落ちるが、鉱石らしきものは……。
 ん?
 その崩れた岩の中に、僅かに違う色の石が混じっている。
「これか!」
 虎王丸は崩した岩を抱え込んだ。その時。
 ドガッ
 激しい音に、振り向く。
「……おいおい……」
 入ってきた穴に、魔物が一匹嵌っていた。

 虎王丸を前衛とし、少し距離を置いてその後にダランが続き、最後に凪が警戒をしながら、進む。
 虎王丸が視界の野の力の及ばない場所に入り込んで数分。……反応がない。
 ダランが不安気に振り返って凪を見た。
「あ、あのさ。すげえ怖いことに気づいたんだけど」
 青ざめているダランの様子に、凪の身体にも緊張が走る。
「何?」
「もし、虎王丸がガスで倒れたら……」
「うん」
 ダランは真剣な目でこう続けた。
「誰が人工呼吸するんだ!?」
 その言葉に、凪は思わずコケそうになる。
「いや、まあ、その……」
 とりあえず目を逸らし、答えを濁しておく。
「あ、何か声が聞こえる。行っても大丈夫かな?」
 ダランの言葉に頷いて、凪はダランと間を開けずに、虎王丸の方へと向った。
「武器ってあんまり使ったことねぇんだけど」
 ダランが鞄の中から、ナイフを取り出した。サバイバルナイフだ。
 ファムルから購入した薬を武器に塗る。凪も予備の小太刀を取り出すと、ダランから薬を譲り受け、刀身に塗った。
 頷きあって、駆け出そうとしたその時、突如、魔物が現れる。
 ――甲殻類の化け物だ。凪は服として纏っている布を外すと小太刀の柄に結びつける。その間、ダランは闇雲にナイフを振り回していた。それだけでも、この狭い空間では威嚇になった。
 こういった化け物は、体液に毒が含まれていることがある。虎王丸のように体力があれば、少しくらい食らっても平気だろうが、ダランには浴びせたくはない。
「ダラン、壁に張り付いて!」
 そう指示をすると、凪は布を操り小太刀を飛ばした。
 魔物の顔面に小太刀が突き刺さり、ぬるりとした液体が、溢れ出た。
 刃に塗った毒の効果だろう。その一撃で、魔物は動かなくなった。
「な、凪、右側、右側の通路にも……」
 見れば、虎王丸が入ったと思われる右側の通路にも、同じ怪物がいた。
 ただし、身体を丸めた姿で、嵌っている。団子虫のような状態だ。外敵を見つけると、丸くなって突進するタイプの魔物なのだろう。
 すっぽり嵌っており、倒しても、抜けなそうだ。
 魔法で消滅させることもできない。
「虎王丸、無事かー!」
 ダランが声をかけるが、反応がない。
 ……となると。
 凪は自分の胴に結んである紐に手をかけた。

**********

「……あれ?」
 虎王丸が目を覚ますと、凪とダランが傍にいた。
 先ほどまで、狭い行き止まりにいたはずなのに。
「くそ、これっぽっちか」
 ダランが傍で、石で岩を砕いている。
「あ、虎王丸気づいたか」
 凪がほっとしたような笑みを見せた。
 身体を起こすと、あちこち痛い。
「おお、目を覚ましたか、お荷物!」
 ダランが仁王立ちして、胸を張っている。ダランの身体も擦傷だらけだが、これには心当たりがある……。
「ここ、来た道だよな?」
 訳がわからず、虎王丸が凪に訊ねた。なんだかムカツクので、ダランのことを小突いた後に。
「虎王丸が入った道、魔物が塞いでただろ?」
 その言葉に、こくりと頷く。
「それ倒した後、無理矢理押し出そうとしたんだろ? そのまま酸欠になって倒れてた。僅かな時間だけど」
 なるほど、そういえば、そうだった。
「で、俺達と紐で繋いであったから、引っ張ってすぽーんと、引き抜いてここまで引き摺ってきたってわけ」
「引き抜いてて、引き摺ったぁ?」
 どうりで身体が痛いわけだ。
「あ、いや、引き摺ったのは少しだけだよ、うん」
 そう言って、ダランは笑った。
「で、ビスタリだけど」
 凪が虎王丸が掘り出した岩を、指した。
「この中に幾分含まれてるんだよな? このまま持ち帰るか?」
「そうだな、ちょっと荷物になるけどよ」
「荷物は虎王丸だろ。すんげー重かった。俺が倒れても全然荷物じゃねーけどよー。あてっ」
 ぽかりとダランを殴った後、石をかき集めて、虎王丸は抱え上げた。自分の荷物はダランに渡す。
「ここは魔法使える場所なんだろ? しっかり働いてくれよ、ダランちゃんよぉ」
「うっ、当たり前だっ」
 言って、荷物を引き摺るようにしながらも、ダランは前――出口の方へと進んでいく。
 虎王丸と凪は顔を合わせて軽く笑い合った後、凪はダランの後を追い、並んで歩いた。

 その後は大した魔物にも会わず、スムーズに外に戻ることが出来た。
 外に出てからは、荷物を等分に分けて、帰路を急いだ。
 無論、ダランは途中でへばったが、それも考えにいれて、回復薬を購入してあったため、薬の力でどうにか凪と虎王丸についていけたのだった。

**********

「つーかさー、結局掘ったの俺だけだろー。薬の材料には一欠けらでいいっていうし、分け前くれよー」
 ビスタリは高価な鉱石だ。
 しかも、魔力を封じるとなれば、色々と使い道がありそうだ。相棒に邪魔されそうな時に使うとかとか!
 そんな考えで、診療所についてからも、虎王丸はなかなか鉱石を離そうとはしなかった。
「確かに一欠けらで十分だが、他にも使い道はあるからな。それに、腐るもんじゃないから、イザという時の為に予備があった方が助かるんだが」
 ファムルがそう言うと、凪は問答無用で虎王丸の手から鉱石を取り上げて、ファムルに渡した。
「次はさ、次はさ、魔術師がすんげー役立つところに行こうぜ!」
 ダランは今回の戦利品にはあまり興味がないようだった。色々あったが、道中がとても楽しかったらしく、次の冒険について早くも思いを巡らせているらしい。
 そんなダランや虎王丸の姿に、凪の顔にも笑みが浮かぶ。
「てかさ、やっぱ温泉だろ温泉」
「そうだよな、温泉宿があるところにしようぜ」
「観光地からもそう離れてない場所でさ、(女の子が多くて)賑わってるところがいいよな」
「そうそう、冒険談なんかも聞かせる相手(女の子)がいるとより楽しいよな」
 2人の会話に凪の笑みが苦笑に変わる。
 なんだか、2人に行き先を任せたら、目的が大きくずれそうだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2303 / 蒼柳・凪 / 男性 / 15歳 / 舞術師】
【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸です。
廃鉱探索お疲れさまでしたー。
鉱石は全部提供でよろしかったですか?
発掘量は500gくらいとお考えください。魔力を抑える薬などの開発に使わせていただくと思います。
楽しい冒険をありがとうございました。
また機会がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。