<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜薬の材料〜』

 聖都からおよそ半日かけて、ミラヌ山の麓に到着した。
 図や資料を借りて一人で出かけることも出来たのだが、ついでに他の薬草も採っておいた方がいいだろうと、冒険者リルド・ラーケンは、錬金術師のファムル・ディートを伴い、ここまでやってきた。
 麓の集落で休憩を取ると、早速山の中に足を踏み入れる。
 相方の錬金術師は体力がなさそうではあるが、こういった探索には若い頃頻繁に出かけていたらしく、意外にしっかりした足取りであった。
 獣道のような細い道を進み、山の中腹へと向う。
「なあ、リルド君。君にはお姉さんか妹さんはいるかい?」
「それが薬と何の関係がある?」
「大有りなんだよ私には、やる気に関わってくる! 未亡人の若いお母さんでもいいんだが」
「だから、それが何の関係がある?」
 リルドがファムルを睨むと、ファムルは大きく吐息をついた。
「……笑い薬、作ろうか?」
「は?」
「いや、君をふんわり微笑ませる薬なんか、作ったら面白そうだなーと」
 だから何だというんだ。笑うことくらい、自分だって普通に……普通、に……。
 リルドは自分が“ふんわり”笑っている姿を思い浮かべ、思わず眉を寄せた。
 とかく科学者というものは、自分の興味がある分野に精魂を尽くし、実験を楽しむものである。
 とりあえず、ファムルが出す飲食物にはしばらく気をつけた方がよさそうだ。

 数時間ほど歩いた先に、美しい池があった。
「この池にも薬草が生えてるんだが、魔法草の繁殖地はもっと奥だ」
 池より先は、更に道といえるものがない。
 斜面を木に掴まりながら登っていく。
 時折獣に遭遇したが、リルドの敵ではなかった。
「ハックション」
 遅れてついてくるファムルがくしゃみをした。
 この辺りは麓よりも寒い。
 2人は雪が積もっている場所へと出た。
「ああそうか、季節柄入手できる魔法草も限られていそうだ」
「ここまで来て、収穫なしってのは勘弁してくれよ」
 呟きながら、リルドは先に進む。
「いや、雪の合間に出てるだろ。あれなんかは魔法草だ」
 そう言って、ファムルは木の根元に生えていた細い草に手を伸ばした。
「お、ここにも生えてるぞ。これが目的の魔法草か?」
「君の薬に使う魔法草ではない。というか、君の力がイマイチ分からんのだが、人間用魔法薬で構わんのだな?」
 人間用魔法薬で、リルド自身の力は抑えることができるだろう。
 しかし、リルドが本当に抑えたいのは、竜の力だ。しかも、抑えるだけではなく、コントロールできるようになることが望ましい。
 薬でどこまで出来るようになるのかは分からないが……。
 他の魔法草に手を伸ばすファムルの姿を見ながら、リルドはしばらく思案する。
 知り合い達が世話になっている人物であることからも、信頼のおける人物ではあるのだろう。
 しかし、竜化は自分の弱点でもある。安易にその姿を晒すことはできない。
 力を抑える薬を作れるというのなら、完全に力を奪う薬をもこの男は作れるのだろう。
「で、俺の薬を作るのに必要な魔法草はどこに?」
 リルドの問いに、ファムルは石を退かしながら答える。
「こういう石の隙間に生えてることがあるんだが……。手っ取り早いのは、崖なんだが、君は風の魔法使えるか?」
「使えることは使えるが……」
 遠目で薬草を識別して、風の刃で切り取り自分の手元に飛ばす。非効率的だし、根まで抜くことは不可能だ。
「それじゃ、行ってみるか」
 ファムルが岩場の方へと歩を進める。
 リルドも続くことにした。

「あの緑の草なんか、それっぽいんだがなー」
 ファムルの言葉に、リルドは目を細めて崖を見る。岩の壁の隙間に、細い草が見える……ような気がする。
 遠すぎてよくは分からない。
 吐息をついて、リルドはこう言った。
「相談した武器の話だが、気が変わった。俺に合った薬が欲しい。だから……その武器を見せる。血や鱗が欲しいとは言うなよ」
「ほほう、それは楽しみだ」
 ファムルが笑顔を向ける。リルドのこの言葉を待っていたかのような反応だった。
 それが狙いでわざと取りにくそうな場所や、山奥へ案内した……というのは考えすぎだろうか。
 まあ、どちらでもいい。
 リルドはこの男を信用することにした。
 ファムルを離れさせると、上着を脱ぎ、身体に力を籠め意識を集中する。
 体内の竜を呼び起こし、肉体を――竜のものへと変える。
 大きな翼を持つ、青い竜だ。
 目も、両目とも黄金の竜の眼に変わっていた。
 振り向けば、ファムルが必要以上に離れている。
「……驚いたな……君は竜族か?」
 首を横に振った後、リルドは崖へと飛んだ。
 ファムルが指していた草を引き抜いた後、同じような草を探す。
 竜の手で、細かい作業をするのは難しい。
 こんな時には逆に、手だけ人間の手に変えたくなる。
 それも、コントロールが出来るようになれば、可能なのかもしれない。
 いくつか草を引き抜き、ファムルの元に戻って、放り投げた。
「ん、まあこれだけあれば十分だろ」
 ファムルのその言葉を聞き、リルドは姿を人間へと戻す。
「うーん」
 人間に戻ったリルドを身ながら、ファムルはしばらく唸っていた。
「なんだ?」
 服を纏いながら、リルドが問うと、ファムルは真剣な目でこう言った。
「血も鱗も、牙も爪も欲しいんだが!」
「言うなと言ったはずだ」
 不機嫌そうに言って、リルドはさっさと歩き出す。
「しかし、竜族といえば、生命力が強いんだろ? その生き血を浴びるだけで生命力が上がるという伝説だってあるぞ! 私の知り合いに身体の弱い子がいてな。その子の治療薬の研究に使わせてもらいたいんだがー!」
「俺は竜族じゃねぇ。他をあたれ」
 下りは楽だ。
 軽快にリルドは山を下りる。
「リルド君、それなら薬代の変わりに君の身体を研究させてくれー。そして、場合によっては血液等を提供してもらいたい」
 必死にリルドについてきながら、ファムルは同じ台詞を何度も繰り返していた。
 煩わしそうにリルドは断るが、ファムルはかなりしつこく、診療所に着くまでの間、リルドは散々血や肉体の一部の提供を求められるのだった。

 さて、診療所に戻った頃には、既に日は暮れていた。
 リルドは薬草を全てファムルに提供すると、その日は宿に戻ることにした。
 確かに身体を研究させれば、更に自分向けの薬を作ってもらうことも可能だろうが。
 同時にそれは、更に弱点を知られてしまうということであり。
 ……なんだか、深みに嵌ってしまいそうな気がしてならない。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3544 / リルド・ラーケン / 男性 / 19歳 / 冒険者】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

ライターの川岸です。発注ありがとうございました。
探索お疲れさまでした。
必要分の薬草は採れましたー。
さて、どんな薬を作りましょうか?
身体の研究OKでしたら、かなり細かな注文をつけてくださって構いません。ただし、麻酔をかけられたり、血を採られたり、ファムルに色々データをとられてしまいます。また、血の提供に了承いただけたら、診察料、薬代は無料になります。
探索で見せてもらった情報のみでの作成でしたら、普通に竜の力を抑える薬を作成することになると思います。
それではお話が続いてしまいましたが、どうぞよろしくお願いいたしますっ。