<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜パナッキオ浜にて〜』

 作成資金を得たウィノナ・ライプニッツは、休みの日を利用して、パナッキオ浜にやってきた。
 まだ海水浴には早い時期であり、浜辺にはあまり人の姿はなかった。
 岸に小船がつながれているくらいで、漁船なども見当たらない。

 浜辺を歩き、転がっている石を見てみるが……。どれが目的のラスガエリなのかはウィノナには判断できそうもない。
 様々な色の石が散らばっており、見つけ出すのはとても大変そうだ。
 とりあえずその場を離れ、辺りを見回すと、民家の方へと歩き出す。

「すみません」 そして一旦、岸に戻る。
 民家のドアを叩いて数秒後、顔を出したのは老人だった。
「突然すみません。ボク、ラスガエリを探してるんです」
「ほほう、その石を求めてここにやってくる者は多いんじゃが、なかなか目的の量を採るのは難しいと聞くぞ?」
 やっぱりそうか……と、ウィノナは小さく唸る。
「でも、頑張ってみます。同じ目的で訪れた人達ってどの辺りを探してるんでしょうか?」
 老人は家の外に出て、ウィノナと共に海を見ると、すっと手を伸ばした。
「ここいら一帯じゃな。わしも暇なときは探しとる。金になる石だからなあ。特にあの辺りなんかいいんじゃないか?」
 老人が入り江になっている場所を指した。
「あ、確かに溜まっていそうですよね」
「採ったら選別してやるから、もっておいで」
 そう老人はウィノナに微笑みかける。
「はい、よろしくお願いします」
 ウィノナは頭を下げて礼をいい、その場を後にした。

 浜に戻ると、情報探索の魔術を軽く発動し、付近の魔力の状態を探る。
 その石がある場所ならば、多少魔力の流れに影響が出るはずだ。
 それは本当に根気のいる作業だった。
 小さな変化も見逃すわけにはいかない。
「ん?」
 妙な感覚を受けた場所にしゃがみこみ、石を掬い上げる。
 再び、情報探索の魔術を発動するが、魔術は普通に発動できる。
「この中にはないかー」
 ラスガエリだけではなく、魔力を秘めた石というのも、世界には多く存在する。この場所にも、微量であっても様々な力を秘めた石が、数多く転がっているのだろう。
 老人に教えてもらった入り江へと近付くが、石を救うために足を置けるような場所がない。
 そして、肝心の石は海の中。つまり、もぐらなければ採れそうもなかった。
 この周辺にはゴミも溜まっている。
 ここは諦めようか……と一瞬思いもしたが、気を取り直して、ウィノナは上着を脱いだ。
 冷たい海の中に足を入れて、入り江へと近付く。
 波により岩が削られており、入り江付近はウィノナの身長よりも深くなっていた。
 石より先にまず、ウィノナは入り江に溜まっていたゴミを集めた。
 運ばれてくるのは、石だけではないようだ。
 ゴミを抱えて一旦、岸に戻る。
 ゴミを浜に置くと、再びウィノナは海へ入り、海中へもぐった。
 海の中で選別をする余裕はない。
 仕方なく、息が続く限り石を広い、籠に入れて浮かび上がる。
 それを何度も繰り返し、籠いっぱいに石を溜めた。
 幸い、今日は快晴だった。
 浜に戻ると、服を乾かしながら、石の選別を始める。
 籠の上から手を翳して魔術を発動してみる。……違和感があった。まともに魔力を探れない。
 小さな石を手にとって確かめながら、図鑑で見たラスガエリに似た石を選び出し、魔術で探ってみる。
「あった……?」
 それは本当に米粒サイズほどの石だった。
 他の石に紛れて見逃してしまうほどの石。拾い上げられたのが奇跡というほどのサイズだ。
 しかし、効果は絶大だった。その米粒サイズの石を持っているだけで、ウィノナはまともに魔術を発動することができない。
 喜び勇みながら、ウィノナは石の選別を続ける。
 もう一つ。……更にもう一つ、ラスガエリは見つかった。
「クシュン」
 くしゃみが出た途端、寒さに気づく。
 日が落ちかけていた。
 ウィノナは手に入れたラスガエリを大切にしまい、持って来た籠にはゴミを入れて、パナッキオ浜を後にした。

「おじいちゃーん」
 ドアを叩いて、老人を呼ぶ。
「お疲れさま。採れたかい?」
 ドアを開けた老人は、ウィノナが濡れていることに気づく。
「海に落ちたのか? あ、いやもぐったんじゃな。そうか、あの場所の石を掬うには潜らんとダメじゃからなあ」
「うん、でもお陰様で拾えました。自分で選別もできました。あと、これ」
 ウィノナはゴミを老人に見せる。
「ゴミ捨て場ってありますか?」
「いや、ゴミは各自燃やしてるからのう。わしが預かっておくよ」
「お願いします」
「いやいや、ありがとなー、本当はわしがやるべきことだからなあ。ちょっと上がっていかんかね。なんなら、泊まっていってもいいぞ」
 嬉しそうに言って、老人はウィノナを家に招く。
「すみません、明日仕事があるので、もう帰らないと……」
「そうか、残念じゃのう。それじゃ、少し待っておれ」
 そう言って、老人は家の中に入っていき、戻ってきた時には手に箱を持っていた。
「これはわしからのプレゼントじゃ! ゴミを拾ってくれたお礼じゃよ」
「え? でも……」
「大した物じゃないから、持っていってくれ」
 老人はウィノナに、強引に箱を持たせる。
「それじゃあ、いただきます」
 ウィノナはありがたく箱を受け取ると、もう一度お礼を言い、老人の家を後にした。

 聖都に戻ったら、また忙しい毎日が始まる。
「クシュン」
 風邪を引いている暇はない。
「親切なおじいさんだったなー。今度は泊めてもらって何日か探せば、結構手にはいるかも」
 そんな事を思いながら、頂いた箱を開けてみる。
「あ……」
 箱の中にはウィノナが採った石が入っていた。
 ウィノナが採った石と同じ色の石。量も同じくらい。
 ウィノナは摘み上げて、魔法を発動してみる。しかし、魔法を使うことはできなかった。
 本物のラスガエリだ。
「素敵なプレゼント、ありがとうございます!」
 老人の家の方向に向って、ウィノナは再び礼の言葉を発したのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
パナッキオ浜での探索、お疲れ様でした。
今回ウィノナさんが見つけた量は、ウィノナさんの目的のアイテムを作るために必要な量くらいとお考えください。
さらに、老人から同じくらいの分量を頂いているので、目的分得られたかな、と思います。
発注ありがとうございました。またどうぞよろしくお願いいたします。