<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜備え〜』

「なになに、健一探索に行くのー!?」
 診療所でファムル・ディートと話をしていたところに、キャトル・ヴァン・ディズヌフが飛び込んできた。
 今日も少年の格好で出歩いていたらしい。
 狙われる可能性のある少女なので、できれば自宅で大人しくしていて欲しいところが……。
 まあ、それは健一とて同じことだ。変装もせずに出歩いている分、自分の方が無防備かもしれない。
「ええ、まだ必要になるかどうかはわからないのですが、魔力増強剤の在庫があると助かりますので」
「ふーんじゃ、シシュウ草採りに行くの? どこにどこにー?」
 ソファーで資料を見ている健一の隣に、キャトルは勢い良く腰かけた。
「そうですね、ミラヌ山という山に行ってみようと思っています」
「ミラヌ山にはね、あた……僕が暮していた家があるんだ! だから一緒に行くー!」
 キャトルが健一の腕をぐいっと掴んだ。
「コラコラ」
 即座に、向いに座っていたファムルがキャトルの腕を掴む。
 キャトルはファムルに引っ張れて立ち上がり、ファムルの隣に座りなおした。
「探索に付き合える身体じゃないだろ」
「えー、それじゃ、体力回復する薬くれよっ! 一緒に行った方が魔法草沢山見つけられると思うんだ。入っちゃダメな場所とかもあるしさー」
「作ってやりたいところだが、金がない! というわけで、健一君には頑張ってもらわんとな」
「はい」
 健一が微笑んで頷くと、キャトルは恨めしげな目で健一を見ながら「今度は一緒に行こうね」と言ったのだった。

    *    *    *    *

 キャトルの話では、ミラヌ山はモンスターの類いは殆ど出ないのだが、所々に罠が仕掛けられているということだ。
 ただ、その罠の大半はキャトルが仕掛けたものらしく、最近多くの冒険者が入り込んだこともあり殆どが壊されてしまっているだろうとのことだった。
 しかし、今回向う方向ではなく、別方向からミラヌ山に向った場合、また違った罠に行く手を阻まれるそうだ。
 なんでも、魔術的な罠だそうだが……そちら方面には近付かないようファムルやキャトルに言われたこともあり、健一はファムルから受け取った地図に記されているルートで、ミラヌ山までやってきた。
 シシュウ草の絵や繁殖場所などもファムルやキャトルから詳しく聞き、紙に記してきた。シシュウ草やその他ミラヌ山に繁殖している薬草についても書き込んである。
 今回健一は、じっくり長時間に渡り、探索を行なうつもりであった。
 ミラヌ山から聖都は離れていることもあり、あまり沢山採っても持ち帰れない可能性もあるが、適当に転移の魔法などを使い、体力と魔力を織り交ぜて探索と移動を行なっていけば、成果を得られるだろうと考えていた。
 魔法で明りを点けることも出来るが、普通にランタンも用意し、食料や水も持った。
 大抵のことは魔法で対処できる健一だが、一般的な登山準備は決して怠らなかった。
 幸い、その日は晴れており、山の中の土も、乾いていた。
 健一は、リュックサックを背に山奥へと足を進めていく。
 薬草もそうだが、今の時期は山菜も多く見られ、つい採りたくなってしまう。
 しかし薬草以外の植物を持ち帰る余裕はないだろう。
「さて、そろそろ薬草が生えていそうな場所ですね」
 地図に描かれた湖が見えた頃、健一はそっと目を閉じて、周囲の精霊達に呼びかける。
 魔力のある植物の場所に、自分を導いて欲しいと。
 この自然を壊すつもりはない。
 少しだけ、自然の力を借りたいだけだと。
 精霊は、健一の心に答えてくれる。
 言葉ではない思いを健一は感じ取る。
 導かれるまま、健一は歩き、山を登っていく。
 小動物の通り道と思われる細い道を、木の枝に注意しながら、登っていき。
 広い空間へと出た。
 精霊達が示す場所は、それよりも先。
「なるほど、これは結構大変ですね……」
 シシュウ草が生えていたのは、崖下であった。
 普通ならばロープで木と身体を結び、下りていくところだが……健一には魔法がある。
 シシュウ草の選別にも微量の魔力を使う必要がありそうだ。
 崖下にはシシュウ草と似た草が大量に生えているとはいえ、全てがシシュウ草なわけではない。その中のごく一部がシシュウ草だ。
 雑草と見分けがつきにくいため、魔法使いは草の魔力を探ってシシュウ草を選別するのだという。
 良くは見えないのだが、繁殖している場所もまちまちで、何度か上り下りが必要なようだ。
「この辺りにも多少は生えているようですが、やっぱり沢山持ち帰るためには、下りる必要があるようですね」
 健一はリュックサックを置いて、1度目の挑戦を行なう。
 最初は風をコントロールして下りる。
 幾つか草を抜いて、すぐに崖上へと戻る。
 足場となる場所が不安定だ。なかなか根気のいる作業になりそうだった。

 夜は火を焚かず、結界を張った。
 就寝前には、竪琴で癒しのメロディーを奏でた。
 精霊達へのお礼を込めて。
 響き渡る音楽が、山に生きる生命達に、溶け込んでいく。
 そして、眠りへと誘う。
 静かな夜が訪れていた。

    *     *    *    *

 早朝、健一は下山した。
 体力や魔力には余裕があったが、十分な量を確保できたため、これ以上の採取は山の生物や精霊達に申し訳がないと感じた。
 昇って行く太陽の光が、とても眩しい。目を細めて、微笑んだ。
 その日も快晴であった。

 診療所についてすぐ、薬草をファムルに渡す。
 シシュウ草のほかにも、魔力を感じる草をいくつか引き抜いてはきた。
「ほほう、初めてミラヌ山に行ったにしては、大した成果だな」
 机に並べられた薬草を見て、ファムルはとても感心していた。
 全てをファムルに預けて、健一は宿に戻ることにする。
 これでしばらくの間、欲しい時に魔力増強剤を購入することが出来そうだ。

※本日の成果
シシュウ草/12株(およそ4回分)
リクラ草/2株
サクサ草/1株

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0929 / 山本建一 / 男性 / 19歳 / アトランティス帰り(天界、芸能)】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 無職】
【NPC / ファムル・ディート / 男性 / 38歳 / 錬金術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
お疲れ様でした。魔力回復薬などもあるとよさそうですよね。
発注ありがとうございました!