<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『広場の薬屋〜教えたい魔法、覚えたい魔法〜』

 ファムル・ディートが行方不明になって、当然のことながら診療所を訪れる客は激減した。
 元々繁盛はしていなかったのだが、現在は全く商売になっていない。
 しかし、店番をしている少女は決して暇を持て余してはいない。
 診療所にいる時も、魔術や薬の勉強に励んでいた。

「それじゃ、リクラ草を使って、魔力を回復させる薬を作ればいいんだね? 了解っ! この薬草だと、回復を促す薬になると思う。でも、あたしは調合はできないから、実家に行った時にお姉ちゃんに作ってもらうね。仕上がりは、ええっと……5日後くらいになると思う」
「わかりました。あとそれから」
 山本健一は、キャトル・ヴァン・ディズヌフに、薬の注文をしていた。
 先日、健一は探索に出て薬草を幾つか採取したのだが、調合をしてもらう前にファムルがいなくなってしまった。
 しかし、キャトルがファムルの留守中も薬の注文を受け付けているという。
 多少不安ではあったが、健一は薬を求めてこの場所を訪れたのだった。
 彼女ではなく、薬師である姉が作るのなら、まあ大丈夫だろう。
「魔法薬の回復薬もお願いできますか?」
「あ、うーん。材料がないから、ちょっと時間かかるかも。でも頑張って用意するよ! 健一には色々お世話になってるから、ホントなら無料にしたいところだけど……ファムルが帰ってくるまでに、少しでも多く稼いでおかないと、戻ってきても食べるものなくて二人して飢え死にしちゃうかも」
 そう言って、キャトルは明細書を書いて、健一に渡した。
 健一の注文は、材料や作成期間の関係で魔力回復薬2つと、回復薬(魔法薬)1つの注文となった。
「日数かかるのなら、それまでの間、魔法でもお教えしましょうか?」
 健一の言葉に、キャトルは勢い良く顔を上げて、目を輝かせた。
「教えてっ!! あたしさ、実家に帰れば、魔術は色々習えるんだ。でも、どうしても習えない種類の魔術があってさー!」
「んー、そうですか……」
 予想以上の反応に、健一は少し戸惑った。
 健一が彼女に教えたいのは、補助魔法である。
 健一としては、彼女は攻撃系より補助魔法や、回復系を優先して覚えるべきと考えている。
 だけれど、彼女の興味はどうやら、攻撃系に向いているようで……そういった魔法の教示をせがまれても、困ってしまう。
「先に言っておきますが、キャトルさんに教えてあげられるのは、補助魔法の基礎です。何事にも順序というものがありますからね」
「うーん」
 健一の言葉に、キャトルは腕を組んで考え込んだ。
「健一には話してなかったけど、あたしはさ『魔女』っていう種族なんだ。あたしは元々魔法使えるはずなんだよね。けど、ちょっと身体に異常があって、今まで使えなかったんだ」
 そう言った後、キャトルは笑みを浮かべた。
「だけど、その異常が改善されつつあるんだ! 数ヶ月後にはあたしはバンバン魔法使えるようになってると思うし……恐らく、小さな攻撃系の魔法でも、すんごい威力を発揮できるようになると思う」
 健一は、キャトルの魔力の状態を診たことがある。
 確かに、彼女の魔力は異常であった。
 そして、膨大な魔力を有していることは、健一にも分かっていた。
 それが、普通に扱えるようになったら……。
 彼女は驚異的な能力を持つことになる。
 なにせ、聖獣フェニックスの強力な結界にも耐えられたほどの魔力だ。
「でさー……補助魔法に当たるのかどうかわかんないんだけど、どうしても教えて欲しい魔法があるんだよね」
「何ですか?」
 とりあえず、健一はキャトルの話を聞いてみることにする。
「誘惑系の魔法」
「……は?」
 キャトルの言葉に、思わず訝しげな声を上げてしまう。
「カンザエラでの件の報告書で知ったんだけどさ、健一そういう魔法でアセシナートの騎士から、情報得たんでしょ? でも、あのヒデルとかいうおじさんには、使いたくないでしょ!?」
「…………」
 健一は思わず苦笑する。
「だから、あたしが覚えて、あたしがあの男から情報を聞き出そうってわけ」
 健一はしばし考える。
 魅了の魔法を使うということは、接触をするということだ。
 彼は城に監禁されているはずだが……。
「危険です。あなたが近付くことを目論んだ、罠の可能性だってあります。あの男を……ザリス・ディルダが切り捨てたのは、用済みであったからと考えられますが、聖都に捕らえられる可能性を考えていないはずがありません。とするならば、捕らえられても自らは不利にならないよう画策してあるはずです」
「そうかなあ……。王様は何も教えてくれないし……でも、あたしにそういう能力があったら、自分で聞き出せると思ったんだけどな」
 キャトルは大きくため息をつく。
「それじゃまあ、危険とか言われなくなるほどに、強くなることにする」
 そう言うキャトルの目には頑なな決意が表れていた。
 そして。
「補助魔法、教えて。肉体を強化する魔法が知りたい。あたし、前線に立って戦うつもりだから。武術も習って、誰よりも早く敵に駆けつけて、剣と魔法で攻撃するんだ!」
 吐息をついて、健一はこう答える。
「教えますよ。味方全体の能力を上げる補助魔法をね」
「それでもいい。教えて! ……でもさ、健一そういう魔法知ってんだから、健一がサポートに回って、あたしを使えばよくない? 皆の後方から指揮する人物も必要だと思うし」
「ですが、キャトルさんに前線は任せられませんよ。たとえ、どんなに膨大な魔力を持っていても、どんなに強力な魔法が使えても、です」
 その言葉に、キャトルは不服そうな顔をする。
「あたりまえです。あなたには、“経験”がありませんから。戦闘では臨機応変に瞬時の判断で動かねばなりません。どんなに実戦訓練を積んでも、実戦経験に勝りはしません」
 健一がそう強く言い切ると、キャトルは視線を落として黙り込んだ。
 それでも、その目の決意は変わらない。
 皆の前に立ち、そして自らファムルを助けるのだという、強い意志が溢れている。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0929 / 山本建一 / 男性 / 19歳 / アトランティス帰り(天界、芸能)】
【NPC / キャトル・ヴァン・ディズヌフ / 女性 / 15歳 / 無職】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
薬のご注文ありがとうございます。
キャトルのご指導もどうぞよろしくお願いいたします。
次、なんらかのノベルを発注時には、もう所持しているとして行動をお書きくださって構いません。
発注ありがとうございました!