<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


『探索に出よう〜従業員育成〜』

 緑が生い茂っている。
 まだ背は低いが、数年後には立派な木に。数十年後には大木に育っているだろう。
 まるで緑の絨毯のような大地。
 遠くに見える池は、太陽の光を弾き、キラキラと輝いていた。
 2人の少年はそんな大地にしばし見とれた。
「……って、雑草だらけじゃねぇか!!」
 我に返り、霊獣人の虎王丸が叫んだ。
「まるで未開の地だ〜」
 ダラン・ローデスは、幼子のように池に向い駆けていった。
 数週間前より、空気が澄んでいるように思えた。
 鳥の泣き声や、小動物たちの姿も見られ、本当に美しい場所に戻っていた。
 ここは、かつて邂逅の池と呼ばれていた場所。
 虎王丸がこの場所の使用権を与えられて既に数ヶ月が過ぎていた。
 自由にこの土地を使用、改造できる期間は1年間。
 その1年のうちに、欲望溢れる……いやいや、美しい緑溢れる憩いの場所に変えなければならない。
「あいつら、整備サボってやがったなー」
「おお、魚がいるっ」
「行くぞ、ダラン」
 はしゃぐダランの首根っこを掴んで、虎王丸は周辺住民の住処へと向うのであった。

    *    *    *    *

「さて……」
 集会場に呼び寄せて、全員正座させる。
 男性ばかり、そして亜人が多い。その殆どがロリコン親父だ。
「修行の成果を見せてもらおうか」
「修行?」
 虎王丸の言葉に、男性達は困惑する。
「忘れたのかー! 客をもて成すための修行だ!」
「あ、ああ仰ることは分かりますが、あっしら自分の食い扶持稼ぐだけで精一杯で……」
 そう言った男のの腕をグイッと掴んで引き寄せると、虎王丸は頭をボカッと殴った。
「嘘をつくな、嘘を! 以前はこの池を整備してただろ? 現れる女の子達を四六時中ウオッチしてただろ? その時間はどうした!!」
「いえ、観光客が多かった頃は、客が金を落としてくれたので」
「その時よりもっと観光客を増やそうっていう、壮大な計画なんだぞ、これは!」
「そうだそうだ」
 虎王丸の言葉に、ダランは腕を組んでうんうん頷く。
「とりあえず、今日からは実践訓練だ。まずは草刈。それから挨拶の練習だ」
 そうして、壮大な計画を成すための、厳しい特訓が始まった。

 虎王丸は竹刀片手に、数日居座っていた。
 夜は無論、集落で一番裕福な家に泊めてもらていた。食事はもちろん、集落で一番料理の上手なヤツに作らせている。
「いいか、お前達の趣味はよぉぉぉく分かってる。だがな、家族連れとかに手ぇ出しやがったら、池に沈めっぞ、おめーら分かってンだろーなっ!?」
「沈めた後、俺の大魔術で、池に氷を張って蓋をするぞー」
 虎王丸の言葉に、ダランが続く。もちろんダランには現在そんな大規模な魔術を使える力量はないのだが。
「それと、俺の女(20歳くらいのセクシーなお姉さん)に手を出したヤツは、大岩くくりつけて、埋めっからな」
「そうだぞ、俺の女(15〜18歳くらいのあどけなさの残る少女)に手を出したヤツも同じだぞ」
 虎王丸とダランの言葉に、ロリコン親父達はこくこく頷く。
「では、今日の成果を見せてもらう」
 虎王丸は竹刀で地面を叩きながら、ロリコン親父達を一列に並べる。
 そして、一人一人に特技を披露させる。
 最初の男は、助走をつけたかと思うと、側転をしてみせた。
「おおーすげー」
 ダランが感心して声を上げた。
「ふむ。デブなのに意外に身軽っていうのは、なかなかおもしれぇな」
 虎王丸はダランとも相談しつつ、一人一人を採点していく。
 そして、点数の高い者から順に、良い役割を与えていく。
 最高点をマークした、実はロリコンだけど見かけは結構ナイスガイの男は、受付を担当することになった。
 最低点であった、べたべた感漂うテカテカ男には、宴会芸マニュアルをプレゼントする。……もちろん、本の代金は後日請求予定だ。
「建築はやっぱプロに任せるか〜?」
「うん、間取とかは大体決まってるし、あとは頼むだけだけど……。一番悩んでるのはさ」
 ダランは真剣な顔で虎王丸を見た。
 そして、2人は同時にこう言った。
「「風呂だな」」
「やっぱ、露天風呂は必要だと思うんだ!!」
「それはそうだが、コイツラが幼女を覗いたら問題になるだろ」
「だけど、俺達が覗けない風呂なんて、風呂じゃないと思うんだ!!」
「それは、同感だが、ここはぐっと我慢をだな……っ」
「私は出来れば風呂の受付がいいんですがっ」
 ナイスガイな男が割り込んでくる。
「今の発言により、−99点! てめぇは玄関の踏み台決定!!」
「そ、それはあまりにも……光栄すぎます!」
 ……見かけによらず、かなりのマゾらしい。

    *    *    *    *

 そして、工事が始まって数週間が過ぎた。
 無論、虎王丸とダランは、しょっちゅう顔を出しては、従業員の育成に励んでいる。
「よーし、お前等宿題の成果を見せてもらうぞ〜」
 気付けば、ロリコン男達は、かなり筋肉質になってきている。少なくても、ダランよりずっと身体つきがいい。
 役割もほぼ決まった。
「こっちは、お世話になった人とか、偉い人とかに使ってもらうんだろ?」
「あとは、特別な客にだな〜」
 ダランの問いに答えながら、虎王丸はエスメラルダの姿を思い浮かべる。
 美しい池が見えるような場所。その他、人工的なものは何も存在せず、自然を満喫できて……内装は落ち着いた色合いで、それでいて豪華な調度品。ベッドは天蓋つきがいいだろう!
 そう、本館の他に離れの特別室も設計してあるのだ。こちらにはなるべく普通の従業員を雇い入れるつもりだった。
「さーて、お前等。来月には観光地として大々的なアピールを行い、客を呼び込むつもりだ。気合入れていけよ」
 パシッと虎王丸が竹刀で地面を叩くと「おおー」という歓声が上がった。
「感激っす。また幼子達が戻ってくるっすね」
 泣き出す男までいた。
 虎王丸は竹刀で男の頭をベシッと叩く。
「子供好きだってバレたら、即刻クビだ。クビになったヤツは、敷地に入ることも許さねぇぜ。女性はあくまで丁寧に扱えよ。そこ、おどおどすんな!」
 猫背の男の背を竹刀で強く叩く。
「いいか、清潔感を出すんだ。チビでもデブでも、ハゲでもいい。身体を磨け、肉体を輝かせろ、そして紳士的な振る舞いだ。ほら、挨拶!」
「いらっしゃいませ」
 男達が一斉ににこやかな顔で挨拶をする。
「……やっぱキモイ」
 ダランはげんなりしている。爽やかを目指しているが、やっぱりどことなく気持ち悪さを感じる面々だ。
「まだまだ修行が足りねぇようだな。んじゃ、今日の修行は、鏡の前で紳士的なポーズ1時間。爽やかな笑顔1時間。笑顔を崩さず腹筋背筋100回。スクワットしながら、面白い顔1時間!」
「あ、あの、面白い顔とは……?」
「バカヤロウ! 顔芸はたとえ言葉が通じなくても、種族も関係なく万人にウケル芸だということが、まだ分かってないのかッ! お前達何年この道にいる!? 芸の勉強が足らねぇぞッ!!」
 バシバシッと虎王丸は地面を叩いた。
 いや、無理矢理勉強させられて、まだ半年未満ですが……。そう思いもしたが、誰も反論はしなかった。
「特にだ、普段の顔とのギャップがあった方がより笑いをとれる。つーわけで、てめぇらみんなマスターしとけよ」
「しとけよ!」
 子分の如く、ダランが虎王丸の言葉に続き、ロリコン親父達をビシッ指差した。

 さて、旅館完成まであと少し!
 真夏にはオープンできそうだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1070 / 虎王丸 / 男性 / 16歳 / 火炎剣士】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
従業員の育成お疲れさまでした。かなりの不安が残る人物達ではありますが、楽しい観光場所になりそうですーっ。
発注ありがとうございました!