<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


のどかな休日!? - 初めての会話 -



 ウィノナは魔導士であるサーディスが何者か、レナに聞いてみた。
「私もよくは知らないんだけど……一つ言えることがあるわ」
 耳をすませる。
「師匠はエルフの血を引いてる」
「え!?」
 素早くレナの瞳を凝視した。
「本当なの。エルフって不老ではないけど寿命がすっごく長いでしょ? だからあの若さでも……」
「実年齢は違うってこと?」
 声をひそめながら二人はささやきあう。
「その可能性は高いわ。いつかどこかで師匠の知り合いと会ったの。もちろん師匠もそばにいたんだけど」

 偶然出会った、サーディスとその知人。知人は開口一番驚いた。十数年振りに再会したのに全く変わってない、と。成長が止まっているかのように。
 サーディスは曖昧に微笑んだだけで自然に話をすりかえていった。
 あとでレナは師匠の目を盗み知人に会いに行った、サーディスの不自然さが気になっていたから。
 知人はこう言った。
『十年もすりゃ少しは老けるがあいつは何も変わっちゃいない。外見はあの小奇麗なままさ。年を取るのも忘れたようにな』
 こうも続ける。
『ありゃあ、もしかしたら今生きてる老人よりも年くってるかもしれねーな』

「でも、このソーンでは不思議ではないかもしれないわ。他にも長生きされてる人はいるし」
「うん、そうだね……」
「他にも秘密はありそうだけど」と最後にレナは付け加えた。

   *

 修業一日目の夜。村には数えられる光だけとなった深夜。まだウィノナは宿で起きていた。
 部屋の光源はランプに点った火だけ。微かに揺れながらウィノナの影が壁に描かれる。机と向かいあっていた少女は基礎と初歩で固められた本を数冊置き、ノートをじっと見続けた。その間にも指でペンがくるくると回されている。
(精霊の姿をはっきり視る方法……)
「ん〜」
 サーディスから出された宿題にずっと唸っていた。いくら考えても分からない。サーディスから教わったことを一つ一つ思い描いてもピンと閃くものがない。何かが足りない。
 ジジッと火がけぶり、月の光が窓から差し込む。深く部屋に入り込んで睡魔が襲う。

 闇が最も濃くなる頃、机に突っ伏してウィノナは寝てしまった。修業初日で疲れてしまっていた。どうしても眠気を取り払うことが出来ず、そのまま夢の世界へと誘われていく。


 鳥たちが元気よく挨拶を交わして歌を謳う。
 大合唱に起こされ、ウィノナは眠気まなこでふわっとあくびをした。宿題の答えを考えながら眠ってしまったらしい。椅子から立ち上がり、硬くなった体をんっと伸ばす。
 窓の外を覗くと静まった秋の気配が村を覆っていた。そろそろ人が動き出す時間帯だ。

 今日も修業があるため、お腹いっぱい美味しい朝食を食べた。ここの宿はパンとスープが絶品だ。しっかり宣伝すれば各国から人が集まってくるほどの腕前。でも今は穴場の食事をゆっくり味わいたい。
 ノートと本を抱えてフィアノの家に向かいながらも、まだ出された宿題を考えていた。頭から離れないのだ。
 村から百五十歩行った先にフィアノの家がある。その小道は森に囲まれ木漏れ日に満ちていた。半分ほど行ったところで立ち止まり、迷いの森へと方向転換する。奥まで行かず、獣道に差しかかったところで足を止めた。
 少しでも慣れたい。その想いがウィノナを突き動かす。
 昨日教えてもらった精霊の光を視る方法。深く息を吸って森の息遣いを体に取り込む。しばらくすると、少女の周囲に色とりどりの光が点り飛び回っていく。
 サーディスは無意識に、日常的に行えばいずれ光はいつも視えると言っていた。そう、指を鳴らすように一瞬で。
 紅、青、深緑、琥珀など様々な光が飛び交う。精霊同士が一緒にいたり、喧嘩していたりもした。ウィノナの周りを飽きもせず、ぐるぐる旋回している者もいる。何か伝えているのだろうか。
(はっきりと姿が視えたら話せるのかな……)
 そう思うとわくわくしてきた。精霊という神秘的な存在と言葉を交わせるのだから。
 でも……。
(色んな色の光が飛び回ってて、どれが何の精霊かさっぱり分からないよ〜)
 頭を抱え込む。
 精霊の一人がそっとウィノナの手に触れた時、ふっと思いつく。
(……ん? もしかして、どの光が何の精霊かを認識できたらはっきり視えるようになるのかな?)
 そこで自身の頭上にふよふよと浮かんでいた一番大きい深緑の光を選んだ。
 神経を集中し、体中にめぐる魔力を送り続ける。はっきり視えるかどうか、それ一点に集め、微動だにしなかった。
 気の高まりを感じて精霊たちも動きを止め、少女を見守る。

 ぼわっとおぼろげながら精霊の形が視えてきた。ひとがたで衣服を着ている。
 だがそこまでいっても、それ以上は視えなかった。息をつき、はあっと体の力を抜く。
 魔力を送り込んでも、ただ失っていくばかりだ。でも、惜しいところまでいっているのかもしれない。僅かにぼやけているのだから。

「ウィノナさん」
 びくっと肩が震える。振り向くとサーディスが気配も無く立っていた。
(あれ?)
 不思議に思い口を開こうとすると、遮られる。
「遅いので迎えに来ました。何をされていたんですか?」
「あ……すみません」
 とっくに約束の時間が過ぎていたことに今更ながら気づく。
「昨日の……精霊の姿をはっきりと視るためにどうしたらいいのか、試していたんです」
「ほぅ、感心ですね。精霊たちも早くウィノナさんとお話したくて待ち遠しいようですよ」
 そう言ったとたん、少女の周りをたくさんの光が飛び回った。
「それで答えは出ましたか?」
 頭を左右に振って銀の髪がなびく。さっき行ったことを説明した。
「そこまで近づいているのに導く答えが出てこないのですね」
「そこまで?」
「惜しいところまで来ていますよ。ただ決定的な要素が足りないのです。着眼点はいいです」
 ふむ、と顎に手を添えて「そうですね……」と呟く。
「手がかりを教えましょう。精霊の光は自然そのものが持つ光。各属性に分かれています。そして何か呪文のようなものを唱えれば視えるようになるでしょう」
 ちらっとウィノナが持つ本を一瞥して。また数刻後に来ると残してサーディスは去った。

 そばにあった木の切り株に腰を下ろして考えてみた。サーディスの言った全てがヒントだ。すでに答えを言っているのかもしれない。
『精霊の光は自然そのものが持つ光。各属性に分かれています』
 自然そのもの、各属性――

「あ! そっか」
 深緑は森、紅は炎、青は水、金は太陽、琥珀は土、薄緑は風、純白は誕生、黒は闇なのだ。
 でも周りの精霊を見渡せば、他にも桃色と紫がある。これはどういうことなのか。
 ――はっとした。
 どこか本で色と属性について図に示されていた。精霊に関しての記述ではなかったので気づけなかった。
 パラパラとめくり、前の方に小さな図を見つけた。全て書かれてある。桃は花、紫は宇宙を表す。
 これで一つの謎が解けた。

 最後は呪文――
 これは予想外だった。確かに何かで媒介しなければ最初は視えないかもしれない。でも何の呪文なのか、それが分からない。きっとそんなに難しいものではないのだ。まだウィノナはサーディス流の魔法に足を踏み込んだばかりなのだから。
(そういえば……サーディスさん)
「!」
 手元にある本を一ページずつめくり、見落とさないよう指で追っていく。「視えるようになる」とサーディスが言った時、本を見ていた。

 必ず最後の答えはこの中にある!


 そして。
 ウィノナは見つけた。

 【全てにおいて意思は何よりも大切なもの。語りかける、語りかけられる言葉は次に繋がり、一つの絆となる】

 この記述しか今のウィノナには該当するものはない。厳密に言えば呪文ではなかったのだ。「呪文のようなもの」……。
(そっか、そうだったんだ)
 今までウィノナは一方的にただ精霊の姿を視ようとしていた。そこに精霊の意志などない。あれほどサーディスは口を酸っぱくして言っていたのに、最後に気づくなんて。

「やってみよう」
 気を引き締め、二つの点を考えた通りに魔力を織っていく。
 近くにいた一番大きな光は深緑。森の精だ。
 編み込んだ魔力を送り込み、充分に精霊と自身を繋げたところで言葉を投げた。
「キミは森の精霊だよね。ボクに姿を視せてくれないかな?」
 優しく問いかけると、おぼろげだった姿が次第にその姿を視せ始めた。光はひとがたに、輪郭を縁取って輝く。薄布を何枚も纏った小人が現れた。上は四枚、下は二枚の羽根から鱗粉のように小さな粉が舞う。
 他の精霊にも同じようにやってみた。すると不思議なことに手軽に素早く出来るようになった。これも精霊が手を借してくれてるのだろうか。
「わあ……」
 精霊たちは皆同じ衣服を着て、けれどそれぞれ自分の属性である色が中心。顔立ちも人間と一緒で十人十色だ。決して同じ顔は一つもない。
「みんな……。やっと会えたね」
≪あたしたち、みんなウィノナと話をしたかった≫
≪うん≫と隣の風の精霊が同意する。

「成功したようですね」
 突然の凛とした声。
≪導師さま!≫
 一斉に辺りの精霊たちが声を揃えた。
(……導師? どういうことだろう。レナはエルフの血を引くと言っていたけど、それだけじゃない……?)

「これでウィノナさんも視えるようになります。やはり魔力が強大だけでなく、非常に飲み込みが早く二日で覚えたようですね」
「いえ、サーディスさんから手がかりを頂けたおかげです」
「いいえ、レナさんもおっしゃっていたように、ウィノナさん自身の力ですよ」
 ふんわりと微笑む。
「あとは精霊たちとずっと交流されれば、絶えず力を借してくれるでしょう。絆が深まれば、それだけ魔力も大きくなります」
「はい。……でも、なぜ大きな精霊の光が存在するんですか?」
≪あたしのことね!≫
 集団から飛び出し、二人の間でエッヘンと胸を張る。それは森の精霊。
 サーディスは精霊に優しく目を細めた。
「精霊には階級があるのです」
「……って身分のですか?」
「それとは少し違います。精霊は誰でも自分の階級を持っています。努力次第で昇格できるのですが、最も高い最上位である三つだけは大精霊のユタ様に拝命されなければなりません。最上位でも一段、二段、三段と位があり、一番下である三段の相森霊(そうしんれい)――つまり森を手で繋ぐように束ねる精霊が、この子です」
 二人の間にいる森の精霊を示した。
「その最上位の精霊は何人もいるんですか?」
「良い質問です。エルザードを中心とした地域には最低、……二十人はいるようですね」
「最低二十人……」
「そして、これは魔力にも関わりがあるのです」
「え?」
「最上位の精霊は一般の精霊と同じく、人につきます。独立した者もいるようですが」
「人につく?」
「魔力の高い人についていき、一生そばにいます。と言っても人よりも精霊の方が寿命は長いです。最上位の精霊は一般の精霊を百倍にした能力を持つと言われています」
「そ、そんなに!」
「だからこそ、ウィノナさんの魔力の強大さを見抜いた一つでもあるんですよ」
≪あたしがいたから≫
≪私も≫
 と、もう一人、風の精霊が飛び込んできた。
 ウィノナには二人の最上位の精霊がいたのだ。サーディスは一人つくだけでも凄いと言う。二人ならば珍しい。
 だがウィノナはサーディスの周りを見て首を傾げた。誰一人いないのだ。一般の精霊すらも。
 少女の思考を読んだのか、サーディスは意味ありげに笑みを広げる。
「私は、精霊には申し訳ありませんが遮断しているのです」
 サーディスの精霊を視たいと密かに思っていたウィノナは落胆した。きっと最上位が三人以上ついているに違いない。そう思わせる魔力の高さが確かにある。

「精霊が視えたところで次の段階へ入ります」
 そう、習得するには難しいと言われた部屋の魔法。
「あれは、旋転護陣(せんてんごじん)と言います」
「旋転護陣……」
 頷いて続ける。
「まず初歩から入りますが、その前に。この魔法はウィノナさんの場合、何かを媒介しなくてはいけません。第一に魔方陣、その次に魔法具です」
 魔力だけで維持できるはずはないと思っていた。でも「ウィノナの場合」と言ったサーディスは方法が違うのだろうか。
「設置したい場所に魔方陣を敷き、その上に、どこでも構いませんが魔法具を置きます。そこに長ったらしい呪文を巻きつけるのです」



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■     登場人物(この物語に登場した人物の一覧)    ■
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【整理番号 // PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 3368 // ウィノナ・ライプニッツ / 女 / 14 / 郵便屋

 NPC // サーディス・ルンオード / 男 / 28 / 魔導士
 NPC // レナ・ラリズ / 女 / 16 / 魔導士の卵(見習い)

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■             ライター通信               ■
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ウィノナ・ライプニッツ様、いつも発注ありがとうございます。

おめでとうございます! 精霊が視えるようになりました。これからはどんどん使って下さいませ。
今回途中で終わってすみません;まだ注意点が少しあるのですがそれは次の機会に;



少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
リテイクなどありましたら、ご遠慮なくどうぞ。
また、どこかでお逢いできることを祈って。


水綺浬 拝