<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ クロウさんと黒狗さん +


 君はふわり。
 僕はどすん。
 輝いた瞳で僕を見る君は、何故こんなにも愛らしいのか。



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 上を見上げればそこには薄く雲の張った空があった。
 そのせいか月の輪郭がぼやけて見えていて、身体を進ませる度に何故か少女は首を傾げていた。曰くつきのある場所を好んでふよふよと漂っている姿を見れば誰しも奇妙に思うけれど、彼女自身はそれが心地よい。
 足が悪いため常に背に生えた羽で飛んでいるため段差などに足を取られて転ぶこともない。薄紫のワンピースに鍔の広い帽子を身に着けた彼女は、夜の散歩もまた趣があるとくすりと笑みを浮かべ一層視界を開く。
 ひらりひらり、ワンピースの裾が空気を含んでひらめく様子が可愛らしい。


 闇と相性のいい少女――鴉(くろう)はその暗闇でもよく見える金の瞳で辺りを眺め見た。
 どうやら此処は何かの「儀式場」らしい。ところどころ奇妙なまでに磨かれた石造りの「何か」が月光を少しだけ反射していた。


「ん、確かにここでは何かを呼び出したりしていたようですね」


 彼女はやがて一つの奇妙な石盤を見つけ、その幼い指先で撫でる。
 土埃を被っていたそれに指を走らせればぱらぱらと欠片が零れ落ちていく。そこに何か文字のようなものを刻まれていることに気付くと更に用心深く埃を払った。ぼこぼこの表面は長い間外気に晒されていたのか文字すらもろく消えてしまいそう。


「これは、一体なんでしょう? え、っと何々、く、くろ……『黒狗(くろく)』――きゃぁ、っ!」


 瞬間、風が下から上へとぶわっと舞い上がる。
 砂埃が彼女の足を叩き、反射的に顔の前で交差させた腕を叩く。砂自体は小さいのでそれほど痛くはないが、目に入ると厄介だ。
 そして黒い何かの影が彼女を覆い尽くす。
 はっと気付いた瞬間にはそれは空気を裂くようにして空から落ちてきた。
 流石の彼女も吃驚し、驚きの表情のまま身体をさっと横に移動させる。ドンッ……! と地響きをさせて落ちてきたそれは更に砂埃を舞い上がらせ彼女の視界を塞いだ。


「な、何が落ちてきたの……?」


 やがて風が埃を消すように吹き、落ちてきたものの正体を明かす。
 片膝を付いてしゃがんでいたそれはゆらりと身体を揺らしながら起こし、少女の方を眺め見た。黒い髪、その下から覗く瞳は澄んだ赤。背には黒い翼を生やし、その耳は獣の形をしていた。良く見れば腰付近からはちらちらと動物の尻尾のようなものが覗いている。
 外見は十五、六程度の少年であるそれは地面からふわふわと浮いている鴉を真っ直ぐ見つめ、やがて首を少しだけ傾げた。彼が静かに周囲を見渡しても少女以外他に誰もいない。少年はこく、と頷くと未だ不思議そうにしている鴉へと一歩歩み寄った


「貴方の名は?」
「え、あ……クロウさんは「鴉」って言いますよ。クロウさんって呼んでくださいね。そっちは?」
「未完成の儀式を完成させ、僕を『呼』んだのは貴方ですね。――ならば僕は貴方に仕えましょう」
「え? 未完成? 仕えるってなぁに?」
「我が主、鴉。そして僕の名は「黒狗」(くろく)。黒い狗と書いて黒狗と。――さて、儀式を完成させた貴方は僕を使役する権利があります。これからどうぞ宜しくお願いいたします」


 そう言いながら黒狗は再び片膝を折ろうと身を引いた。
 だが鴉は黒狗が何を言っているのか良く分からずただきょとんっと目を丸めるだけ。やがて目の前に立っている少年が膝を付くのを見て少しだけ笑った。


「えっと、クロウさんにはあまり難しいことは分かりません。でも使役ってずっと一緒ってことでしょう? だったら何ていうかなんだか兄が出来たみたいです」
「……え、兄?」
「クロウさんも黒狗さんも同じような羽を生やしてて、同じような黒い髪でしょう? だから黒狗さんはお兄さんみたい」
「いえ、僕は一応悪魔ですよ。貴方は違うでしょう?」
「? あくま?」
「そう、人からはケルベロスと呼ばれていることもあります。……不本意ですが」


 黒狗が困ったように眉間に皺を寄せ笑う。
 けれど鴉はそれでもただひたすらきょとんとするだけ。突然現れた黒狗がどんな種族かなんて彼女には関係ないようだ。
 少女は羽をぱさっと動かし少年の前に立つ。そして黒狗が膝に乗せていた手に手を重ねてくいくい引っ張った。


「でも今日から一緒にいてくれる、そうでしょう?」
「ええ、我が主が望むなら」


 それはなんとも奇妙な出会い方。
 突如現れた少年と少女の運命が絡み合った一瞬のこと。
 少年は彼女を主と呼び、けれど少女は彼のことを兄のようだと言う。


「しえきとかあくまとかそんなものより、クロウさんはクロウさん。黒狗さんは黒狗さん。今はこの二つだけで充分でしょう?」


 少女は金色の瞳で少年に微笑みかける。
 少年はそんな少女に戸惑いを覚えつつ、それでも主に対して苦笑を返していた。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3682 / 鴉 (くろう) / 女性 / 7歳(実年齢999歳) / 異界職】
【3693 / 黒狗 (くろく) / 男性 / 16歳(実年齢999歳) / 異界職】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は出会い編ということでこんな感じに仕上げさせて頂きました。
 可愛い少女と不思議な少年、そしてちょっと不気味でけれどほのぼのする感じなプレイング有難う御座いましたv
 タイトルはいくつか思案した結果、こうなりました。割とお気に入りなので、ぜひ気に入っていただけることを祈りつつ……!